起業・スタートアップ

エンジェル税制の仕組み|優遇措置A・B、プレシード・シード特例、起業特例をわかりやすく整理

「エンジェル投資家から『エンジェル税制は使える?』と聞かれたが、答えられなかった」「株の売却益があるので、起業するときに使える制度があると聞いた」。シードラウンドの資金調達を準備している起業家や、創業期の会社に投資を考えている個人の方から、よくいただくご相談です。

エンジェル税制は、スタートアップに投資した個人に対して、投資した年と株式を売った年の両方で税金の優遇を与える制度です。令和5年度の改正で、一定の場合には投資額の一部を非課税とする特例や、自己資金で起業した人向けの起業特例が加わり、使える場面が広がりました。

この記事では、エンジェル税制の仕組みと4つの優遇措置の違い、手続き、そして起業家側が資金調達でどう活かすかを解説します。

この記事の結論
  • エンジェル税制は、投資した年の所得税の優遇と、株式を売ったときの損失の繰越の2段構え
  • 投資時の優遇は、総所得金額から控除する「優遇措置A」と、株式譲渡益から控除する「優遇措置B」「プレシード・シード特例」「起業特例」に分かれる
  • プレシード・シード特例と起業特例は、20億円までの出資について非課税(超える分は課税の繰延べ)。令和8年1月以降の取得分から、再投資期間の延長と保有期間の設定が加わった
  • スタートアップ側が都道府県などで確認書を取る必要がある。資金調達を始める前に、対象企業に当たるかを確認しておく

エンジェル税制とは|2つのタイミングで優遇がある

エンジェル税制は、スタートアップへの個人のリスクマネーを増やすための制度です。優遇は次の2つのタイミングで受けられます。

  1. 投資した年:投資額を所得や株式譲渡益から控除できる(4種類から選択)
  2. 株式を売った年:未上場スタートアップ株式の売却で損失が出た場合、その年の他の株式譲渡益と相殺でき、相殺しきれない損失は翌年以降3年間繰り越せる

スタートアップが上場しないまま破産・解散などで株式の価値がなくなった場合も、同じように損失を繰り越せます。「投資額が戻らないリスク」を税制面で一部カバーする仕組みです。

投資時の4つの優遇措置の違い

投資した年の優遇措置は、次の中から一つを選びます(経済産業省の公表資料をもとに整理。2026年10月時点)。

措置控除の対象と控除先効果控除の上限対象企業の設立年数
優遇措置A(投資額−2,000円)を総所得金額から控除課税の繰延べ総所得金額×40%と800万円のいずれか低いほう5年未満
優遇措置B投資額を株式譲渡益から控除課税の繰延べ上限なし10年未満
プレシード・シード特例投資額を株式譲渡益から控除非課税(20億円まで)上限なし5年未満
起業特例設立時の自己資金による出資額を株式譲渡益から控除非課税(20億円まで)上限なし1年未満

このほか、対象企業には外部からの資本の比率、売上高に対する研究開発費などの割合、未上場であることなど、措置ごとに細かい要件があります。プレシード・シード特例の要件を満たす企業への投資では、優遇措置Aの外部資本の要件が緩和される「優遇措置A-2」もあります。

「課税の繰延べ」と「非課税」の違い

優遇措置A・Bは課税の繰延べです。投資した年に控除を受けた分は、その株式の取得価額から差し引かれます。将来その株式を売ったときに、取得価額が小さくなった分だけ譲渡益が大きくなり、そこで課税されます。

一方、プレシード・シード特例と起業特例は、控除した金額のうち20億円までは取得価額の調整をしない、つまり非課税です。創業間もない会社への投資ほど優遇が厚くなる設計になっています。

どれを選ぶかは「投資した年に株の売却益があるか」

  • その年に他の株式の売却益がある人:優遇措置B、プレシード・シード特例(要件を満たせば非課税になる後者が有利)
  • 株の売却益はないが給与や事業の所得が大きい人:優遇措置A(ただし上限は800万円と総所得金額×40%の低いほう)

簡単な例で考える

たとえば、その年に上場株式を売って1,000万円の譲渡益が出た個人が、設立3年目のスタートアップに500万円を投資したとします。

選ぶ措置その年の効果将来その株を売ったとき
優遇措置B譲渡益1,000万円から500万円を控除。課税される譲渡益は500万円に取得価額が500万円から0円に調整されるため、売却額の全額が譲渡益になる(課税の繰延べ)
プレシード・シード特例(要件を満たす場合)同じく500万円を控除取得価額は500万円のまま。控除した分は課税されずに終わる(非課税)

同じ「500万円の控除」でも、繰延べか非課税かで、最終的な税負担は大きく変わります。投資先の会社がプレシード・シード特例の要件を満たすかどうかは、投資家にとって重要な判断材料です。

令和7年度改正|再投資期間の延長と保有期間

令和7年度の税制改正で、エンジェル税制に次の2点の見直しが行われました。令和8年(2026年)1月1日以降に取得した株式が対象です。

  • 再投資期間の延長:株式の譲渡益が出た年の確定申告で一定の手続きをしておけば、譲渡益が出た翌年末までにスタートアップへ投資した場合も、エンジェル税制を受けられるようになりました
  • 保有期間の設定:非課税措置について、株式を取得した翌年末までの保有期間が設けられました。ただし、IPOやM&Aなど一定の場合の譲渡は除かれます

「株を売った年のうちに投資先を決めなければならない」という時間の制約がゆるみ、投資家にとって使いやすくなった改正です。一方で、非課税措置を受けた株式をすぐに売ると対象外になりうる点は、投資家に伝えておく必要があります。

有償新株予約権(J-KISSなど)の取扱い

令和6年度の改正で、2024年4月1日以降に取得した有償の新株予約権(J-KISSなど)について、行使して株式を取得した時点でエンジェル税制の要件をすべて満たす場合、新株予約権の取得に払った金額も対象に含められるようになりました。

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手続きの流れ|確認書はスタートアップ側が取る

エンジェル税制は、投資家が確定申告をすれば自動的に使える制度ではありません。スタートアップ側の手続きが前提になります。

順番誰がやること
1スタートアップ(任意)事前確認制度で、対象企業に当たるかを都道府県などに確認してもらう
2投資家株式を取得する(払込み)
3スタートアップ都道府県などに、対象企業であることと投資が行われたことの確認を申請する
4都道府県など確認のうえ、スタートアップに確認書を交付する
5スタートアップ→投資家確認書を投資家に渡す
6投資家確定申告で確認書などを添付して適用を受ける

認定を受けた投資事業有限責任組合(LPS)経由の投資や、株式投資型クラウドファンディング経由の投資では、手続きの流れが異なります。

起業家にとっての実務上のポイント

確認の申請には、株主名簿、決算書や事業計画、払込みの記録など、会社の管理資料がそろっていることが求められます。設立直後で経理が整っていない会社ほど、ここで手間取ります。

また、投資家のなかには、エンジェル税制が使えることを投資判断の材料にする方もいます。資金調達の説明資料に「エンジェル税制の対象となる見込み」と書けるかどうかは、交渉にも影響します。資金調達を始める前に事前確認を受けておくと、話がスムーズです。

起業家・投資家それぞれの使い方と注意点

起業家:エンジェル税制は「調達しやすさ」の材料

エンジェル税制そのものは投資家のための制度ですが、起業家にとっては個人から出資を集めやすくするための材料になります。ただし、出資は株式を渡すことです。一度渡した株式は取り戻せず、持株比率は戻りません。エンジェル税制が使えるからといって、必要以上に株式を渡さないことが大切です(資本政策の基本)。

創業期の資金調達は、出資だけでなく日本政策金融公庫の創業融資などと組み合わせるのが基本です。融資で伸ばせる段階は融資で伸ばし、事業の実績で株価が上がってから出資を受けたほうが、同じ金額でも渡す株式は少なくて済みます(創業期の資金調達方法を比較)。

銀行の目線:エンジェルからの出資は「自己資本」として効く

融資の審査では、出資で集めたお金は返済不要の自己資本として評価されます。借入金とは違い、純資産を厚くするお金です。私たちが銀行と折衝する際も、「創業者の自己資金に加えて、事業を理解した個人投資家が出資している」という事実は、事業の将来性を説明する材料の一つになります。

ただし、銀行は株主構成も見ます。出資者が多く、誰が何%を持っているか経営者自身が説明できない状態は、管理体制への不安につながります。株主名簿を常に最新にし、出資の条件(株価、株数、払込日)を一覧で説明できるようにしておくと、融資の面談でも、次の資金調達の場面でも話が早く進みます。

投資家:起業特例は「株の売却益がある人の起業」に効く

起業特例は、株式の売却益がある人が、その年に自己資金で会社を設立して出資した場合に、出資額をその売却益から控除できる制度です。上場企業の株式を売却した元役員や、事業を売却した経営者が次の会社を立ち上げる場面などで検討の価値があります。設立から1年未満であることなどの要件があるため、設立前の段階で要件を確認してください。

まとめ

  • エンジェル税制は、投資した年の控除と、売却損の3年間の繰越の2段構え
  • 投資時の優遇は4種類。優遇措置Aは総所得金額から、優遇措置B・プレシード・シード特例・起業特例は株式譲渡益から控除する
  • プレシード・シード特例と起業特例は20億円まで非課税。令和8年1月以降の取得分から、再投資期間の延長と保有期間の設定が加わった
  • 適用には、スタートアップ側が都道府県などで確認書を取ることが必要。資金調達の前に事前確認を
  • エンジェル税制は調達の材料にはなるが、株式を渡しすぎない資本政策が前提

エンジェル税制の対象になるかの確認や、出資と融資を組み合わせた資金調達の設計は、クレフティのスタートアップ支援でご相談いただけます。

よくある質問

エンジェル税制の優遇措置Aと優遇措置Bは併用できますか?
同じ年の同じ投資について、投資時点の優遇措置はどれか一つを選んで適用します。優遇措置Aはその年の総所得金額から控除する方法、優遇措置Bやプレシード・シード特例はその年の株式譲渡益から控除する方法です。投資した年にほかの株式の譲渡益があるかどうかで、有利な選択が変わります。
エンジェル税制を使うには、スタートアップ側で何か手続きが必要ですか?
必要です。スタートアップが都道府県などに、エンジェル税制の対象企業であることや投資が行われたことの確認を申請し、交付された確認書を投資家に渡します。投資家はその確認書を確定申告の際に提出します。事前確認制度を使えば、投資を募る前に対象企業に当たるかの確認を受けることもできます。
自分で会社を設立したときの出資にもエンジェル税制は使えますか?
令和5年度の改正で創設された「起業特例」により、一定の要件を満たす会社を自己資金で設立した場合、その出資額をその年の株式譲渡益から控除できます。対象は設立から1年未満の会社など要件があり、株式の売却益がある人が起業するときに意味のある制度です。

※本記事は2026年10月17日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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