起業・スタートアップ

資本政策の基本と、創業初期にやりがちな失敗

「資本政策という言葉は聞くけれど、上場を目指す会社だけの話では?」。そう思われている創業者の方は少なくありません。

資本政策とは、誰に、いつ、何株を、いくらで渡すかの計画です。上場を目指すかどうかに関係なく、共同創業者がいる、知人から出資してもらう、社員に株を持たせたい、という場面があれば、それはすべて資本政策です。そして資本政策の基本は、一度渡した株式は、基本的に取り戻せないということに尽きます。この記事では、創業初期にやりがちな失敗と、融資との組み合わせで持株比率を守る考え方を解説します。

この記事の結論
  • 資本政策は「誰に・いつ・何株を・いくらで」の計画。やり直しがきかないので設立前から考える
  • 議決権は3分の2以上・過半数・3分の1超が節目。創業者が3分の2以上を持つ状態から逆算する
  • 創業初期の典型的な失敗は、共同創業者の均等割り、初期の渡しすぎ、退任時のルール不在、安易な株の譲渡
  • 融資で伸ばせる段階は融資で伸ばし、評価額が上がってから出資を受けると持株比率を守りやすい

資本政策とは何か

会社の株式は、議決権(会社の意思決定に参加する権利)と、利益や会社の価値を受け取る権利の両方を表しています。資本政策は、この株式を誰にどれだけ持ってもらうかを、会社の成長段階と資金調達の計画にあわせて設計することです。

具体的には、次のようなことを時系列で計画します。

  • 設立時の株主構成と、創業者・共同創業者の持株比率
  • 外部からの出資を、いつ、いくらの評価額で、どれだけ受けるか
  • 役員・社員へのストックオプションをどれだけ用意するか
  • IPOやM&Aといった出口のときに、創業者がどれだけの比率を持っていたいか

資金調達の方法そのものの比較は、創業期の資金調達方法を比較で整理しています。

議決権の節目を知る|3分の2・過半数・3分の1

株式会社では、議決権の比率によって、株主ができることが変わります。資本政策を考えるうえで、まず押さえておきたい節目です。

議決権の比率できること・意味
3分の2以上株主総会の特別決議(定款変更、合併、募集株式の発行など)を単独で可決できる
過半数(50%超)普通決議(取締役の選任・解任、役員報酬の決定など)を単独で可決できる
3分の1超特別決議を単独で否決できる(拒否権)
10%以上会社の解散の訴えを起こせる
3%以上会計帳簿の閲覧を請求できる

※定款の定めや会社の機関設計によって要件が変わる場合があります。

創業者が3分の2以上を持っていれば、会社の重要事項を自分の判断で決められます。逆に、外部の株主が3分の1超を持つと、増資や組織再編などに拒否権を持たれることになります。

出資を受けるたびに創業者の比率は下がっていきます。だからこそ、最初の段階で必要以上に株式を渡さないことが重要です。

資本政策表で「評価額」の重みを確かめる

資本政策を考えるときは、ラウンドごとの株価・発行株式数・調達額・株主ごとの比率を一覧にした「資本政策表」をつくります。数字にしてみると、いつ、いくらの評価額で出資を受けるかが、持株比率にどれだけ効くかがよくわかります。

次は、説明のための仮の例です。創業者Aが8,000株、共同創業者Bが2,000株を持つ会社が、2,500万円の出資を受けるとします。

項目ケース1:評価額1億円で出資を受けるケース2:評価額2,500万円で出資を受ける
1株あたりの価格1万円2,500円
新たに発行する株式2,500株1万株
出資後の発行済株式1万2,500株2万株
創業者Aの比率64%40%
共同創業者Bの比率16%10%
投資家の比率20%50%

※評価額は出資を受ける前の会社の価値(プレマネー)。数字はすべて仮のものです。

同じ2,500万円を調達しても、評価額が4分の1なら、投資家の比率は20%から50%に跳ね上がり、創業者Aは過半数を失います。ケース1でも、この後にストックオプションの枠を設けたり、次の出資を受けたりすれば、Aの比率はさらに下がっていきます。

資本政策表は、一度つくって終わりではありません。次の出資、その次の出資、出口のときまで書き延ばして、どの時点でも創業者が必要な比率を保てるかを確認します。

創業初期にやりがちな失敗

ここからは、創業初期によく見かける失敗を紹介します。どれも「設立のときに少し考えておけば防げた」ものばかりです。

失敗1:共同創業者で均等に分ける

仲の良い友人と2人で起業し、株式を50%ずつ持つ。気持ちはよくわかりますが、意見が対立したときに株主総会で何も決められなくなります。3人で3分の1ずつの場合も、誰も単独で重要事項を決められません。

中心となる創業者を決め、その人が過半数、できれば3分の2以上を持つ形にするのが一般的です。貢献度に報いたい場合は、株式の比率ではなく、役員報酬やストックオプションで調整する方法もあります。

失敗2:辞めた人が大株主のまま残る

共同創業者が途中で会社を離れても、株式は自動的には戻ってきません。経営に関わらない人が大株主として残り続けると、その後の出資や意思決定のたびに支障が出ます。

設立時に株主間契約を結び、退任時に株式を会社や他の創業者が買い取ること、その価格の決め方などを定めておくべきです。

失敗3:初期に安い評価額で株式を渡しすぎる

事業がまだ形になっていない段階で、知人やエンジェル投資家から少額の出資を受け、その見返りに大きな比率の株式を渡してしまうケースです。評価額が低い時期に渡した株式は、比率としては非常に大きくなります。

手伝ってくれた外部の協力者に「お礼として株を」と渡すのも同じです。後から出資を検討するVCがこうした株主構成を見ると、投資を見送る理由になることもあります。

失敗4:社員や協力者に安易に株式を譲る

社員に株式を持たせてやる気を引き出したい、という発想自体は悪くありません。ただし、時価より安く株式を渡すと、受け取った側に税金がかかる場合があります。また、退職時の株式の扱いを決めていないと、失敗2と同じ問題が起きます。

社員へのインセンティブには、条件を満たせば権利行使時の課税が繰り延べられる税制適格ストックオプションなど、目的に合った制度を検討するのが一般的です。

失敗5:資本金の額を何となく決める

「信用がありそうだから資本金1,000万円で」と設立すると、設立当初から消費税の課税事業者になります(法人設立前に知るべき消費税)。また、資本金が1億円を超えると、中小法人向けの税制上の特例が使えなくなります。出資を受けるときは、払い込まれた金額を資本金と資本準備金に分けて計上する方法もあるため、資本金の額も資本政策の一部として設計します。

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融資と出資の組み合わせで、持株比率を守る

資本政策を考えるとき、多くの解説は出資の話だけで終わります。しかし私は、融資をどう使うかが、資本政策の質を大きく左右すると考えています。

融資は「株式を渡さない資金調達」

融資は返済が必要ですが、株式を渡さずに資金を調達できます。事業がまだ検証段階で評価額が低い時期に出資を受けると、少ない金額で大きな比率を渡すことになります。この時期を融資でしのぎ、売上や利益の実績で評価額が上がってから出資を受ければ、同じ金額でも渡す比率は小さくて済みます。

クレフティでご支援した事例でも、創業2年目のトレーディングカード売買の会社が、都市銀行から3,500万円、地方銀行から2,000万円の運転資金を調達しています。事業によっては、創業期でも融資で十分な成長資金を確保できます。

出資は「純資産」を厚くし、融資を受けやすくする

一方で、出資には融資にない効果もあります。出資を受けると純資産が増え、金融機関から見た財務の安全性が高まります。赤字を掘る時期でも債務超過を避けやすくなり、融資の審査で不利になりにくくなります。

つまり、融資と出資は対立するものではありません。出資で純資産を厚くし、その純資産を土台に融資を引き出す。この組み合わせを意識すると、創業者の持株比率を守りながら、使える資金の総額を増やせます。

資本政策と融資を一緒に考える
  • 事業の検証段階は、できるだけ融資と自己資金でまかなう
  • 出資は、実績で評価額が上がってから受ける
  • 出資で厚くなった純資産を、次の融資の土台にする

私は「払った税金の2倍、会社は強くなる」とお伝えしています。利益を出して税金を払い、純資産を積み上げることも、外部に株式を渡さずに自己資本を厚くする方法です。

資本政策は誰に相談すべきか

資本政策は、税務・会社法・資金調達・将来の出口がすべて絡むテーマです。クレフティには、不動産系ベンチャーのCFO・執行役員としてIPO準備・資本政策・事業計画を統括した髙橋優太、東証グロース上場企業の常勤監査役としてIPOを牽引した桃原隼一、FAS(財務アドバイザリー)で財務デューデリジェンス・バリュエーションを担当し、上場企業の投資戦略室も経験した三浦孝友が在籍しています。いずれも公認会計士・税理士です。

私自身も、米国シリコンバレー駐在、スタートアップの起業、ベンチャーM&A仲介の役員を経験してきました。出資する側・される側の両方の視点から、融資も含めた資金調達全体の中で資本政策を設計するのがクレフティの強みです。

まとめ

  • 資本政策は「誰に・いつ・何株を・いくらで」の計画。一度渡した株式は取り戻せない
  • 議決権の節目は3分の2以上・過半数・3分の1超。創業者が3分の2以上を持つ状態から逆算する
  • 共同創業者の均等割り、退任時のルール不在、初期の渡しすぎ、安易な株の譲渡は典型的な失敗
  • 資本金の額も、消費税や税制上の特例とあわせて設計する
  • 融資で伸ばせる段階は融資で、評価額が上がってから出資を。出資で厚くした純資産を融資の土台にする

会社形態の選び方は株式会社と合同会社の違いで解説しています。設立前、または最初の出資を受ける前の段階でご相談いただければ、資本政策と融資計画をセットで設計できます。スタートアップ・起業支援からご相談ください。

よくある質問

資本政策はいつから考えればいいですか?
会社を設立する前、遅くとも最初に外部から出資を受ける前です。資本政策は、一度株式を渡すと基本的にやり直しができません。設立時の株主構成や、共同創業者との持株比率は、その後のすべての資金調達の出発点になります。IPOを目指していない会社でも、共同創業者がいる場合や、知人から出資を受ける場合には早めに考えておくべきです。
共同創業者と株式を半分ずつ持つのはよくないのですか?
50%ずつの均等割りは、意見が対立したときに株主総会で何も決められなくなるリスクがあります。また、どちらかが退任しても株式が残り続け、経営に関わらない人が大株主のままになることがあります。中心となる創業者が過半数、できれば3分の2以上を持ち、退任時の株式の扱いを株主間契約で決めておくのが一般的です。
出資を受けずに融資だけで成長するのは、資本政策上よいことですか?
持株比率を守るという点では有利です。融資は返済が必要ですが、株式を渡さずに資金を調達できます。一方、大きな赤字を長く掘る事業では融資だけでは足りず、出資が必要になります。融資で伸ばせる段階は融資で伸ばし、事業の評価が上がった段階で出資を受けるなど、両者の組み合わせで考えるのが現実的です。

※本記事は2026年10月17日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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