「株式会社と合同会社の違いがよくわからない。設立費用が安いなら合同会社でいいのでは?」。起業のご相談で、最初に必ず出てくる質問です。
結論から言うと、税金はほぼ同じ、設立費用は合同会社が安い。では何で選ぶのか。私がいつもお伝えしているのは、「5年後、どこからお金を集める会社にしたいか」で決める、ということです。融資を中心に堅実に伸ばすのか、ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けて一気に伸ばすのか。この答えによって、選ぶべき形態が変わります。
- 設立費用は合同会社が約6万円〜、株式会社が約20万円〜(電子定款の場合)。差は十数万円
- 法人税・役員報酬・消費税の扱いは基本的に同じ。税金の差で選ぶ必要はない
- 融資は形態よりも事業計画と決算書の中身で決まる。合同会社でも借りられる
- VC出資・ストックオプション・IPOを考えるなら株式会社一択。後から変更もできるが手間とコストがかかる
株式会社と合同会社の基本的な違い
株式会社と合同会社は、どちらも会社法に定められた法人です。一番の違いは、「お金を出す人」と「経営する人」の関係にあります。
株式会社は、株主(出資者)と取締役(経営者)が分かれる前提の仕組みです。株主総会で取締役を選び、経営を任せます。創業期は社長が株主と取締役を兼ねることがほとんどですが、外部の出資者を迎え入れる「器」が最初から用意されている、と考えるとわかりやすいでしょう。
合同会社は、出資者(社員)がそのまま経営にあたる仕組みです。定款で自由にルールを決められる範囲が広く、意思決定もシンプルです。
| 比較項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 出資者と経営者 | 株主と取締役(分離が前提) | 社員=出資者が経営 |
| 代表者の肩書 | 代表取締役 | 代表社員 |
| 役員の任期 | 原則2年(非公開会社は最長10年まで延長可) | なし |
| 決算公告 | 必要 | 不要 |
| 利益の分け方 | 原則として持株数に比例 | 定款で自由に決められる |
| 株式による資金調達 | できる(種類株式・ストックオプションも可) | 株式は発行できない |
| 上場(IPO) | できる | できない(株式会社への変更が必要) |
| 法人税などの税金 | 同じ | 同じ |
株式会社は役員の任期が来るたびに登記(重任登記)が必要で、そのつど登録免許税がかかります。任期を最長の10年にしておけば手間は減りますが、登記を忘れると過料の対象になるので注意が必要です。合同会社には任期がないため、この管理コストはかかりません。
設立費用の比較|差は十数万円
設立時にかかる法定費用は、次のとおりです(2026年10月時点)。
| 費用項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 定款認証手数料(公証役場) | 3万〜5万円(資本金の額による) | 不要 |
| 定款の収入印紙 | 4万円(電子定款なら不要) | 4万円(電子定款なら不要) |
| 登録免許税 | 資本金×0.7%(最低15万円) | 資本金×0.7%(最低6万円) |
| 合計の目安(電子定款) | 約20万円〜 | 約6万円〜 |
株式会社の定款認証手数料は、資本金100万円未満なら3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以上は5万円です。資本金100万円未満で、発起人が個人3人以下などの要件を満たす場合は1万5,000円に下がります。
また、市区町村の「特定創業支援等事業」を受けて証明書を取得すると、登録免許税が半額になる制度があります(株式会社は最低7万5,000円、合同会社は最低3万円)。登記申請のときに証明書を添付する必要があるため、設立後に知っても間に合いません。
合同会社のほうが十数万円安いのは事実です。ただ、事業を始めれば数百万円単位のお金が動きます。「十数万円安いから」だけで決めると、後で組織変更の手間とコストのほうが大きくなることがあります。
税金と社会保険は、ほぼ同じ
意外に思われるかもしれませんが、株式会社と合同会社で税金の計算方法は基本的に変わりません。
- 法人税・法人住民税・法人事業税:同じ計算方法。中小法人の軽減税率も同じように適用される
- 役員報酬:どちらも定期同額給与などのルールに従う(合同会社の業務執行社員への報酬も同じ扱い)
- 消費税:設立時の資本金が1,000万円未満なら、どちらも原則として設立当初の免税の対象になりうる
- 社会保険:どちらも加入が義務。代表者1人の会社でも同じ
つまり、「合同会社のほうが節税になる」「株式会社のほうが税金が高い」ということはありません。消費税の免税期間をどう設計するかは形態に関係なく重要なので、法人設立前に知るべき消費税もあわせて確認してください。
融資の受けやすさに違いはあるか
ここからが、私が一番お伝えしたい部分です。
融資は「形態」より「中身」で決まる
日本政策金融公庫の創業融資でも、信用保証協会付きの制度融資でも、審査で見られるのは事業計画、自己資金、代表者の経歴、そして設立後は決算書です。株式会社か合同会社かという理由だけで融資が断られることは、まずありません。
実際、不動産投資家の資産管理会社には合同会社が多く、金融機関もその形態には慣れています。合同会社でも、決算書を整えて実績を積めば、融資は受け続けられます。
それでも差が出る場面
一方で、次のような場面では株式会社のほうが話が早いことがあります。
- 取引先や金融機関の担当者が、昔ながらの感覚で「株式会社のほうが信用できる」と考える業界
- 大手企業との取引で、与信審査の際に会社形態を見られる場合
- 将来、金融機関に「出資」で入ってもらう可能性がある場合
決定的な差ではありませんが、事業の相手が誰かによっては考慮しておくべきポイントです。
融資で本当に効くのは「純資産」
形態以上に融資を左右するのは、決算書の中身、とくに返済能力と純資産です。金融機関の格付けでは、利益で借入を返せるかに加えて、自己資本の厚さも評価されます。私がプロパー融資の目安としてお伝えしている「純資産1億円」も、形態に関係なく積み上げていくものです(詳しくは保証協会付き融資とプロパー融資の違い)。
「払った税金の2倍、会社は強くなる」。利益を出して税金を納めれば、その残りが純資産として積み上がり、次の融資の土台になります。形態選びよりも、毎期きちんと利益を出せる設計にすることのほうが、融資にはずっと効きます。
出資を受けるなら株式会社一択
融資とは違い、出資による資金調達では株式会社であることがほぼ前提になります。
VC・エンジェルは株式会社にしか投資しにくい
VCやエンジェル投資家は、株式を取得して出資し、将来のIPOやM&Aで株式を売却してリターンを得ます。合同会社は株式を発行できないため、この仕組みに乗りません。また、スタートアップで一般的な種類株式(優先株)や、社員のやる気を引き出すストックオプションも、株式会社でなければ使えません。
合同会社から株式会社への変更は可能だが…
合同会社から株式会社へは「組織変更」で移ることができます。ただし、
- 官報公告と、債権者に異議を述べる機会を与える手続き(1か月以上)が必要
- 登録免許税や公告費用などのコストがかかる
- 登記簿上の会社の履歴が変わり、取引先や金融機関への説明が必要になる
といった負担があり、実務上は1〜2か月程度を見込みます。出資の話が具体的に進んでいる最中にこの手続きが挟まると、スケジュールに影響が出かねません。
- VC出資・IPO・ストックオプションを少しでも考えている → 最初から株式会社
- 融資中心で堅実に伸ばす、資産管理会社、個人事業の法人成り → 合同会社も有力
- 迷ったら → 5年後の資金調達の姿を書き出してみる。出資の可能性が残るなら株式会社
出資を受けるかどうか、どれくらいの比率で受けるかは、会社の将来を左右する「資本政策」の問題です。詳しくは資本政策の基本と、創業初期にやりがちな失敗で解説しています。
形態より大事な、設立前に決めておくべき3つのこと
株式会社か合同会社かを選んだら、それで設立準備が終わるわけではありません。実は、次の3つのほうが、設立後の税金と融資に与える影響は大きいことがあります。
1. 資本金の額
資本金は、融資審査では「自己資金をどれだけ事業に投じたか」の目安になります。資本金1円でも設立はできますが、少なすぎると、最初の赤字ですぐに債務超過(純資産がマイナス)になり、金融機関の評価が大きく下がります。
一方で、設立時の資本金が1,000万円以上だと、設立当初から消費税の課税事業者になります。事業に必要な資金と、消費税の免税をどう扱うかの両面から決めます。
2. 事業年度(決算月)
決算月は自由に決められます。繁忙期と決算作業が重ならない月にするのが基本ですが、第1期の長さによって消費税の免税期間が変わることもあります。また、最初の決算書が出る時期は、2回目の融資を申し込める時期にも直結します。「いつ決算書を金融機関に見せたいか」から逆算する視点も持っておくと良いでしょう。
3. 誰を役員(業務執行社員)にするか
家族を役員にするか、共同創業者をどう処遇するかは、役員報酬や持株比率に関わります。合同会社では出資者がそのまま経営に関わるのが原則なので、誰に出資してもらうかが、そのまま誰が経営に関わるかになる点に注意が必要です。
株式会社の場合も、共同創業者と株式をどう分けるかは後から変えにくい論点です。役員報酬の考え方は役員報酬の決め方で解説しています。
まとめ
- 株式会社と合同会社の違いは「出資者と経営者の関係」。株式会社は外部の出資者を迎える器がある
- 設立費用は合同会社が十数万円安い。特定創業支援等事業を使えば登録免許税は半額
- 税金・社会保険・役員報酬のルールは基本的に同じ。税金で選ぶ必要はない
- 融資は形態より事業計画と決算書の中身で決まる。純資産を積み上げることが一番効く
- VC出資・ストックオプション・IPOを考えるなら、最初から株式会社
設立後の資金調達の選択肢は、創業期の資金調達方法を比較でまとめています。クレフティでは、会社形態・資本金・事業年度・消費税の判断を、5年後の資金調達まで見据えて設立前にまとめて設計しています。迷ったらスタートアップ・起業支援からご相談ください。
