税理士事務所から決算書が届く。パラパラとめくって「今年の利益はこれくらいか」と確認し、翌日そのまま銀行の担当者に手渡す――。
ごく普通の光景に見えますが、銀行の審査担当者の目線で考えると、実はかなり危うい行動です。銀行の担当者は決算書を受け取ると、短時間で格付けを仮計算し、「前期からこの科目が急増しているのはなぜか」といった疑問を洗い出します。そのとき社長が「よくわからないです」と答えてしまえば、それだけで評価は大きく下がります。
- 債務償還年数を自分で計算する(目安は10年以内、20年超なら説明の準備が必須)
- 純資産の金額と前期比を確認し、減っていれば理由を説明できるようにする
- 前期比で大きく動いた勘定科目の理由をすべて把握しておく
チェック1:債務償還年数を自分で計算する
債務償還年数とは、「いまの稼ぎで、借金を返し切るのに何年かかるか」を示す数字です。銀行の格付けで最も配点が大きい「返済能力」を測る、代表的な指標です。
計算例
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 借入金残高 | 2億円 |
| 現預金 | 3,000万円 |
| 経常利益 | 500万円 |
| 減価償却費 | 200万円 |
| 法人税等 | 150万円 |
(2億円 − 3,000万円)÷(500万円 + 200万円 − 150万円)= 1億7,000万円 ÷ 550万円 ≒ 30.9年
これはかなり厳しい数字です。一般に10年以内が健全、20年を超えるとプロパー融資の継続が難しいと判断されやすい水準です。
20年を超えている場合は、提出前に「なぜこの数字なのか」「今後どう改善するのか」を説明できるよう準備してください。準備なしで持っていくのは、赤点の答案をそのまま先生に渡すようなものです。
借入金残高は貸借対照表(BS)の「短期借入金+長期借入金」、現預金は「現金及び預金」。経常利益・法人税等は損益計算書(PL)、減価償却費は販管費の内訳などに載っています。電卓ひとつ、5分で計算できます。
チェック2:純資産の金額と前期比を確認する
次に、BSの右下にある「純資産の部」の合計を見てください。確認するのは、金額そのものと、前期より増えたか減ったかです。
増えていれば、ひとまず合格ライン。問題は減っているときです。純資産の減少は「会社のBSが前年より毀損した」ことを意味し、銀行は非常に注意深く見ます。
大切なのは、理由を筋道立てて説明できることです。
- 「新規事業への投資で一時的に損失が出たが、来期から回収フェーズに入る」
- 「設備更新で特別損失を計上したが、今後10年間は大規模な修繕費が不要になる」
何も言わなければ、「単に業績が悪化した会社」として処理されます。先手を打って説明する経営者は、それだけで信頼が上がります。
チェック3:「説明できない数字」をゼロにする
前期と今期の決算書を並べ、大きく変動した勘定科目をすべて拾い出します。銀行員が必ず確認するのは、たとえば次のような動きです。
| 変動 | 銀行が疑うこと |
|---|---|
| 売掛金が急増 | 回収できているか、不良債権が混じっていないか |
| 在庫(棚卸資産)が膨張 | 売れない在庫、陳腐化した在庫が残っていないか |
| 借入金が急増 | 何のための借入か、資金使途は妥当か |
| 売上が急落 | 主要顧客を失ったのではないか |
| 貸付金・仮払金が増加 | 社長や関係会社への資金流出ではないか |
理由がわからない科目があれば、提出前に顧問税理士に確認しましょう。30分で構いません。税理士はあなたの会社の数字を一番よく知っている存在です。
悪い決算こそ、自分から先に持っていく
「今期は数字が悪いから、銀行への報告は少し遅らせよう」。気持ちはよくわかりますが、これは絶対に避けてください。
決算書の提出が遅い会社は、「何か隠しているのではないか」と見られます。信頼関係という意味では、悪い決算そのものより、報告の遅れのほうがダメージが大きいことすらあります。
逆に、「今期は想定外の支出で利益が落ちました。原因はこれで、来期はこう対処します」と先に説明できる社長は、「この経営者は自社の数字をわかっている」と評価されます。
決算書は「通知表」ではなく「コミュニケーションツール」
多くの経営者は、決算書を「過去の成績を評価される通知表」だと捉えています。しかし本当は、銀行との対話を始めるための材料です。「会社はいまこういう状態で、だから次はこうしたい」という会話の入り口なのです。
私自身、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われたとき、決算書を通知表としか見ていなかったことを痛感しました。自分から説明し、信頼関係をつくるためのツールだと気づいてから、銀行との関係は大きく変わりました。その経緯は2棟目・3棟目で融資が止まる理由の記事でも触れています。
まとめ
- 債務償還年数を自分で計算し、20年超なら改善策とセットで説明する
- 純資産の前期比を確認し、減少していれば理由を言語化しておく
- 大きく動いた勘定科目は、すべて理由を答えられる状態にする
- 悪い決算ほど早く、自分から説明しに行く
クレフティでは、決算書の作成だけでなく、銀行へ提出する前の「説明資料づくり」や格付けの事前シミュレーションまでご支援しています。
