融資・資金調達

役員借入金は融資でどう見られる?自己資本とみなされる条件と、債権放棄・DES・相続の注意点

「決算書の負債に『役員借入金』が5,000万円ある。これは銀行から見て、悪いことなのか」。中小企業の社長や、資産管理法人で不動産を持つ投資家から、よくいただくご質問です。

結論から言うと、役員借入金は、銀行の融資審査では「自己資本に近いもの」として見てもらえることが多い科目です。ただし、無条件ではありません。見せ方を誤ると通常の負債として扱われますし、整理のしかた(債権放棄・DES・相続)によっては、思わぬ税金がかかります。この記事では、役員借入金の銀行での評価と、税務の注意点をまとめて整理します。

この記事の結論
  • 役員借入金(社長から会社への貸付)は、返済を求めないことが明らかなら、自己資本に近いものとして評価されうる
  • ただし判断するのは各金融機関。毎期の返済や、社長個人の借入の返済原資になっている実態があると、通常の負債として見られやすい
  • 整理の方法は「返済」「債権放棄」「DES(債務の株式化)」「そのまま持つ」の4つ。債権放棄とDESは、会社側で利益(債務免除益・債務消滅益)が出ることがある
  • 放置すると、社長の相続で額面のまま相続財産になる。融資・税金・相続の3つをそろえて方針を決める

役員借入金とは?決算書のどこに出てくるか

役員借入金は、会社が役員(多くは社長本人)からお金を借りている状態を表す勘定科目です。貸借対照表では負債の部に、「役員借入金」または「短期借入金」「長期借入金」の内訳として載ります。

発生のしかたは、だいたい次の3つです。

  • 設立直後の立替え:資本金を少なめにして設立し、足りない運転資金や設立費用を社長が個人のお金で払った
  • 資金繰りの穴埋め:業績が苦しい時期に、銀行から借りられず社長が個人資金を入れた
  • 不動産の頭金:資産管理法人で物件を買うとき、頭金や諸費用を社長個人が会社に貸した

特に不動産投資家の資産管理法人では、3つ目のパターンで、役員借入金が数千万円単位になっていることが珍しくありません。資産管理法人の基本は資産管理法人のメリット・デメリットで解説しています。

反対に、会社が社長に貸している「役員貸付金」は、銀行の評価では資産から差し引かれやすい、印象の悪い科目です。名前は似ていますが、銀行の見方はまったく逆だと覚えておいてください。

科目お金の流れ銀行の見方
役員借入金社長 → 会社条件しだいで自己資本に近いものとして加味されうる
役員貸付金会社 → 社長回収の見込みが薄いとして、資産から差し引かれやすい

銀行は役員借入金を「自己資本」とみなすことがある

旧金融検査マニュアルの考え方

金融機関が中小企業の財務を評価するときの考え方は、かつて金融庁の「金融検査マニュアル別冊(中小企業融資編)」に整理されていました。そこでは、代表者等からの借入金は、原則として企業の自己資本相当額に加味できるとされ、ただし代表者等が返済を要求することが明らかな場合はこの限りでない、とされていました。

金融検査マニュアルは2019年12月に廃止され、いまは各金融機関が自らの基準で融資先を評価しています。それでも、中小企業では会社と社長個人の財布を一体で見るという考え方は、多くの金融機関の実務に残っています。

評価が分かれるポイント

自己資本に近いものとして見てもらえるかどうかは、次のような点で分かれます。

見られる点自己資本に近いと見られやすい通常の負債と見られやすい
返済の状況返済していない、当面返済の予定がない毎期、一定額を返済している
社長個人の事情個人に大きな借入がない個人のローン返済の原資になっている
契約の形返済を当面求めない方針が説明できる返済期限が短く、利息も高い
社長の個人資産預金などの資産が十分にある個人の資産がほとんどない

金融機関によっては、「役員借入金の返済を、銀行融資より先には求めない」という趣旨の確認書(念書)の提出を求めることがあります。これを出すと、自己資本に近いものとして扱ってもらいやすくなる一方で、社長は自由に返済を受けられなくなります。出す前に、自分の生活資金や個人の借入の返済計画と矛盾しないかを確認してください。

「純資産がマイナス」でも、役員借入金で救われることがある

決算書上は債務超過でも、役員借入金を自己資本に足し戻すとプラスになる、というケースは少なくありません。債務超過の会社が融資を受けるときの考え方は債務超過でも融資は受けられる?をご覧ください。

債務償還年数と格付けへの影響

債務償還年数から外してもらえるか

銀行が融資の可否を判断するときに重視する指標のひとつが、債務償還年数です。

(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)

一般に10年以内が健全、20年を超えると厳しいとされます。ここで分子の「借入金」に役員借入金を含めるかどうかで、結果は大きく変わります。

たとえば、銀行借入1億5,000万円、役員借入金5,000万円、現預金2,000万円、キャッシュフロー(経常利益+減価償却費−法人税等)1,500万円の会社で計算してみます。

計算のしかた分子債務償還年数
役員借入金を含める2億円 − 2,000万円 = 1億8,000万円12年
役員借入金を除く1億5,000万円 − 2,000万円 = 1億3,000万円約8.7年

同じ会社でも、役員借入金をどう扱うかで「健全」と「要注意」の境目をまたぎます。役員借入金を自己資本に近いものとして見てもらえるなら、分子から外して計算してもらえる可能性があります。債務償還年数の考え方は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで詳しく解説しています。

著書の格付けモデルでの見え方

著書のモデルでは、銀行格付けを安全性(34点)・収益性(15点)・成長性(25点)・返済能力(55点)の129点満点で整理しています。役員借入金が自己資本に近いものとして見られると、自己資本比率などの安全性の項目と、債務償還年数などの返済能力の項目の両方で点数が変わりえます。配点の大きい2つの分野に効くため、格付けへの影響は小さくありません。

ただし、銀行の評価を良くするために、実態と違う説明をするのは逆効果です。「実は来年から毎月返済してもらう予定」なのに「返済は求めない」と説明すれば、あとで信頼を失います。

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役員借入金を整理する4つの方法

役員借入金は、いつまでも放置してよいものではありません。整理の方法は大きく4つです。

方法会社側の税金社長側の税金・影響銀行の見え方
① 返済する原則なし原則なし(元本の返済のため)現預金が減る。返済原資を説明できるか
② 債権放棄する債務免除益が利益になる同族会社では他の株主への贈与の問題負債が減り、純資産が増える
③ DES(株式化)債権の時価と額面の差が利益になることがある株式を取得。資本金が増える資本金・純資産が増える
④ そのまま持つなし相続で額面のまま財産になる説明しだいで自己資本に近い扱い

① 返済する

業績が回復し、手元資金に余裕が出てきたら、少しずつ返済するのがいちばん素直な方法です。ただし、銀行から借りたお金で役員借入金を返す、という使い方は嫌がられます。銀行は「事業のために貸したお金が社長個人に流れた」と見るからです。返済するなら、利益で積み上がった現預金から、銀行に一言伝えたうえで行うのが基本です。

② 債権放棄する

社長が会社への貸付金を放棄すると、会社の負債が消え、その分だけ純資産が増えます。決算書の見た目は大きく良くなります。

一方で、会社側では放棄された金額が債務免除益として利益に計上されます。繰越欠損金が十分にあれば相殺できますが、足りなければ法人税がかかります。

さらに、同族会社で社長以外にも株主(配偶者や子など)がいる場合、債権放棄で株価が上がると、その上がった分は放棄した社長からほかの株主への贈与として扱われることがあります(相続税法基本通達9-2)。相続直前の債権放棄をめぐって争われた裁決もあり、実行前に株価の試算が欠かせません。

③ DES(債務の株式化)

DES(デット・エクイティ・スワップ)は、社長の会社に対する貸付金を、会社の株式に振り替える方法です。負債が資本に変わるので、純資産と資本金が増えます。

税務上、DESで増える資本金等の額は、対象となる債権の時価とされています。会社が債務超過などで債権の時価が額面を下回る場合、その差額は債務消滅益として会社の利益になります。「株式に替えるだけだから税金はかからない」とは限りません。

また、資本金が増えると、法人住民税の均等割が上がる、資本金1億円を超えると外形標準課税などの中小法人向けの扱いから外れる可能性がある、といった副作用もあります。資本金の額は、増やしたあとで簡単には戻せません。

④ そのまま持つ

銀行から自己資本に近いものとして見てもらえているなら、無理に動かさず、そのまま持ち続けるのも選択肢です。ただし、次に説明する相続の問題があるため、「そのまま持つ」と決めた場合でも、出口の方針は決めておく必要があります。

社長の相続で起きる「現金のない相続税」

社長が亡くなると、会社への貸付金は相続財産になります。財産評価基本通達では、貸付金債権は元本と既経過利息の合計額で評価するのが原則です。

回収できない部分を差し引けるのは、会社が破産や会社更生の手続きに入った場合など、ごく限られた場面です。会社が赤字や債務超過だというだけでは、評価を下げられないと考えたほうが安全です。裁判例でも、同族会社への貸付金は額面で評価するのが原則とされています。

つまり、相続人は「会社から返ってくる見込みの薄い貸付金」に対して、額面どおりの相続税を払うことになりかねません。役員借入金が数千万円ある社長は、次のような準備を早めに検討してください。

  • 業績が良い年に、計画的に返済を受ける
  • 株価への影響を試算したうえで、債権放棄やDESを検討する
  • 後継者や相続人と、会社の株式・貸付金をどう引き継ぐか話し合っておく

相続税の準備の進め方は相続税対策は30代・40代から、自社株の評価は自社株評価の方法で解説しています。

事務所としての支援

当事務所では、持株会社の設立にあわせて役員借入金を整理し、その資金を金融機関から調達した経営者を支援した実績があります。役員借入金の整理は、税金だけでなく、銀行にどう説明するかまで含めて設計することで、融資の継続と両立できます。

銀行に役員借入金を説明するときのポイント

決算書を提出するとき、役員借入金については次の3点を説明できるようにしておきましょう。

  1. なぜ発生したか:設立時の資金、不動産の頭金、一時的な資金繰りなど、経緯を一言で
  2. 返済の予定:当面は返済を求めないのか、いつから・いくらずつ返すのか
  3. 社長個人の状況:個人の借入の有無、個人の資産の状況(求められた場合)

役員借入金の残高が毎期大きく動いていると、銀行は「会社と社長の間でお金が行ったり来たりしている」と見ます。発生と返済を繰り返すのではなく、方針を決めて、決算書の上で一貫した動きにすることが、評価を安定させるいちばんの近道です。

融資を受けるための決算書の整え方は、融資・資金調達のサポートでもご相談いただけます。

まとめ

  • 役員借入金は、返済を求めないことが明らかなら、銀行から自己資本に近いものとして見てもらえることがある。最終判断は各金融機関
  • 債務償還年数や格付けでは、役員借入金を含めるかどうかで評価が大きく変わる
  • 整理の方法は「返済」「債権放棄」「DES」「そのまま持つ」。債権放棄とDESは会社側の利益や株価への影響を試算してから
  • 放置すると、社長の相続で額面のまま相続財産になる

役員借入金は、融資・税金・相続のどれか一つだけを見て動かすと、別のところで困る科目です。決算書の見せ方と整理の方針を一度に考えたい方は、お気軽にご相談ください。

よくある質問

役員借入金は、銀行の評価で必ず自己資本として扱われますか?
必ずではありません。代表者からの借入金は、返済を求めることが明らかな場合を除き、自己資本に近いものとして見てもらえる考え方がありますが、最終的には各金融機関の判断です。毎期少しずつ返済している、社長個人に別の借入があって返済原資にしているといった事情があると、通常の負債として扱われやすくなります。
役員借入金を債権放棄すれば、決算書はきれいになりますか?
負債が消えて純資産は増えますが、会社側では放棄された金額が債務免除益として利益に計上され、繰越欠損金で吸収しきれなければ法人税がかかります。また、同族会社で株価が上がると、ほかの株主への贈与として扱われる場合があります。実行前に税額と株価への影響を試算してください。
社長が亡くなったら、役員借入金はどうなりますか?
会社に対する貸付金として、原則として額面(元本と既経過利息)で相続財産になります。会社が赤字や債務超過だからといって、それだけで評価を下げられるわけではありません。相続人は現金がないのに相続税だけがかかる、という事態になりやすいため、生前に整理の方針を決めておくことが大切です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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