相続・事業承継

相続税対策は30代・40代から|経営者と不動産投資家が今から始める準備の順番

「相続のことは、60歳を過ぎてから考えればいい」。そう思っている経営者や不動産投資家は少なくありません。けれども、ここ数年の改正で、亡くなる直前の対策はほとんど効かない仕組みに変わってきました。

相続税対策を30代・40代から始める意味は、節税のテクニックを早く使うことではありません。財産を「誰が・どの形で」持つのかを、時間をかけて設計することです。この記事では、30〜50代のうちにやっておきたい準備を、銀行融資との両立という視点から整理します。

この記事の結論
  • 相続対策の本題は税金だけではない。誰に会社を、誰に経済価値を、誰に議決権を渡すか、税金をどう払うか、自分がいなくても会社が止まらないかの5つを設計すること
  • 暦年贈与の7年加算、相続前5年以内に取得した賃貸不動産の評価見直し案など、直前の対策は効きにくくなっている
  • 法人で資産を積み上げてきた人ほど「資産はあるが、個人に現金も土地もない」状態になりやすい
  • まずは資産一覧・自社株の概算評価・株主名簿と定款・納税資金の仮計算の4点を揃える

なぜ「30〜50代から」なのか

法人で順調に成長してきた方ほど、次のような道筋をたどりがちです。

年代起きていること
40代法人で物件や事業を拡大。利益は会社に内部留保として積み上げる
50代純資産と利益が増え、自社株の評価が上がる。個人名義の財産はほとんどない
60代子どもは大人になり、後継者と議決権の設計が手つかずのまま時間がなくなる
相続自社株の評価が高く相続税が重いのに、払う現金も個人の土地もない

会社を強くすることは正しい選択です。ただ、稼ぐ設計と残す設計は別物で、後者を後回しにすると、ある日まとめて困ることになります。

直前の対策が効かなくなっている

時間が必要な理由は、制度の流れにもあります。

  • 生前贈与:2024年以後の暦年贈与は、相続前3年から7年へ段階的に加算期間が延びる(完全に7年になるのは2031年以後の相続から)
  • 賃貸不動産:相続・贈与の前5年以内に対価を払って取得した貸付用不動産を、通常の取引価額で評価する通達案が2026年9月に公表された(2027年1月1日以後の相続・贈与への適用予定。2026年10月時点で意見募集の段階)
  • 自社株:国税庁の有識者会議が、簿価純資産に収益力を加味する「残余利益方式」を軸にした見直しを議論中(施行時期・算式は未確定)

方向性ははっきりしています。「相続直前に買う・移す」対策は封じられ、長い時間をかけた準備だけが残る、ということです。

相続税がいくらになるか、一度だけ計算してみる

セミナーで使ったモデルケースで考えてみます。55歳の社長、財産は自社株8億円と現預金・不動産2億円の合計10億円。相続人は配偶者と子ども2人です。

  • 基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 課税遺産総額:10億円−4,800万円=9億5,200万円
  • 法定相続分(配偶者1/2、子各1/4)で税率を当てると、相続税の総額は約3億5,600万円

(債務、配偶者の税額軽減、各種特例を考慮しない簡略計算です)

配偶者の税額軽減を使えば家族全体の納税額は下がりますが、それでも数億円の現金が10か月以内に必要になる可能性があります。手元の現預金・不動産は2億円。自社株は「8億円の札束」ではありません。売る相手がいない株式で、どうやって税金を払うのか。ここが経営者の相続の核心です。

相続税の調査は「データで選ばれる」

国税庁が公表した令和6事務年度(2024年7月〜2025年6月)の相続税の実地調査は9,512件で、そのうち82.3%で申告漏れなどの非違が見つかり、1件あたりの追徴税額は867万円でした。申告漏れ財産の内訳で最も多いのは現金・預貯金です。家族名義の口座への資金移動や、会社への貸付金なども調査の端緒になります。

「名義を変えれば分からない」は通用しません。準備とは、説明できる形で財産を整えることでもあります。

不動産投資家の盲点:「資産はあるが、個人財産がない」

物件をすべて法人で買い続けると、相続のとき個人が持っているのは会社の株式です。土地そのものではないため、個人の土地に使える小規模宅地等の特例(自宅330㎡まで80%減額、貸付事業用200㎡まで50%減額など)は、法人の土地には直接使えません。

同じ賃貸物件でも、持ち方で相続財産は変わります。

持ち方相続財産になるもの主な検討点
土地も建物も個人貸家建付地・貸家・個人の借入小規模宅地等の特例(貸付事業用)を検討できる
土地は個人・建物は法人法人に貸している土地・自社株地代や無償返還届出など借地関係の設計で土地の評価が変わる
土地も建物も法人自社株融資・運営はシンプル。小規模宅地等の特例は使えず、自社株評価の改正の影響を受ける

法人化には、融資や所得税・法人税の面で大きなメリットがあります(資産管理法人のメリット・デメリット)。ただし、比べるべきは目先の税金だけではありません。出口の相続税まで並べて比較することが、30〜50代でやっておく価値のある作業です。自宅は個人で持つ、などの単純な選択だけでも、相続時の選択肢は広がります。

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準備に使う道具は「目的」から選ぶ

相続対策には多くの道具がありますが、先に道具を選ぶと失敗します。何を守りたいかを決めてから選んでください。

したいこと第一候補あわせて検討
子どもに経済価値を渡したい生前贈与(相続時精算課税・暦年)種類株式、持株会社
当面は自分が経営権を持ちたい種類株式(議決権を自分に集める)信託、持株会社
兄弟で株を分散させたくない遺言+株式の集中信託、一般社団法人
納税資金を用意したい生命保険、退職金、個人の現預金相続後の自己株式の買取り
税額の猶予を使いたい事業承継税制期限と要件の早期確認(資産管理会社は原則対象外)
認知症や急逝でも止めたくない遺言+遺言執行者信託

遺言は「設計図」、会社を動かす部品は別に要る

承継の土台は公正証書遺言です。ただし、遺言で直接動かせるのは個人の財産だけです。法人が持つ物件を「死んだら売ってほしい」と遺言に書いても、会社の財産は動かせません。株式・取締役・議決権の設計とセットで考えます。

また、遺言でも奪えない遺留分があります。後継者に自社株を集中させるなら、他の相続人に渡す現金をどう用意するかも一緒に考えておかないと、相続後に株式を手放すことになりかねません。

議決権と経済価値は分けられる

まだ借入をして物件や事業を拡大したい40〜50代なら、議決権は自分に残し、将来の値上がりは子どもに帰属させるという考え方があります。会社法の種類株式を使えば、議決権のない株式を子どもに持たせることも可能です。

ただし、税務上は「議決権がないから評価が安くなる」わけではありません。狙うのは評価を下げることではなく、株価が低い時点で、将来の値上がりの帰属先を決めておくことです。贈与の考え方は生前贈与と相続の新ルールで詳しく解説しています。

納税資金は「株を売らずに払える」形で用意する

相続税は10か月以内に、原則として現金で一括納付です。自社株や物件が中心の方は、次の手段を組み合わせて納税資金を用意します。

手段ポイント
生命保険(受取人を家族に)死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで相続税が非課税
死亡退職金会社から遺族に支給。生命保険金とは別枠で「500万円×法定相続人の数」まで非課税
相続後の自己株式の買取り相続した非上場株式を、申告期限の翌日から3年以内に発行会社へ売れば、一定の要件のもと、みなし配当ではなく譲渡所得として課税される特例がある
延納・物納一定の要件を満たせば分割払いや現物での納付も可能。ただし利子税や手続きの負担がある

会社が相続人から株式を買い取るには、会社に現金や借入余力が必要です。会社の手元資金を厚くしておくこと自体が、相続への備えになります。納税資金を会社から捻出する計画は、銀行から見ても「資金流出の見通しがある会社」として説明しやすくなります。

銀行から見た「承継の準備」

承継の準備は、融資にも直結します。銀行は、オーナーに万一のことがあったとき、誰が会社を経営し、誰が返済を続けるのかを気にしています。

  • 株主構成や後継者が決まっていない会社は、長期の融資で不安材料になる
  • 相続で株式が分散すると、増資や組織再編、物件の売却の意思決定が止まる
  • 相続税の支払いのために会社から資金が流出すると、自己資本と手元資金が細る

私自身、物件を買い続けてきた中で「次も貸せるか」を銀行に判断され続けてきました。2019年に融資が止まった経験から学んだのは、銀行が見ているのは今期の数字だけでなく、会社が続いていく見通しだということです。承継の計画を説明できる経営者は、それだけで信頼されます。

事業承継のための株式取得では、持株会社が既存の会社の株式を買い取り、その資金を金融機関から借りる方法もあります。日本政策金融公庫には「事業承継・集約・活性化支援資金」などの制度があります。融資の条件は審査によるため、早い段階から銀行と話しておくことが大切です。

セミナー後30日でやること

  1. 自社株の概算評価:今の株価を知らなければ、何も始められません(自社株評価の方法)
  2. 個人と法人の資産一覧:土地・建物・株式・会社への貸付金・保証を1枚にまとめる
  3. 定款と株主名簿の確認:名義株、種類株式、相続人への売渡請求の規定の有無
  4. 納税資金の仮計算:今亡くなったら、10か月以内にいくら足りないか
  5. 家族と一度話す:誰が会社を継ぐか、答えが出なくても議題にする

まとめ

  • 相続対策は、会社・経済価値・議決権・納税・会社の継続の5つを元気なうちに設計すること
  • 暦年贈与の7年加算や賃貸不動産の評価見直し案など、直前の対策は効きにくくなっている
  • 法人で資産を築いた人ほど、個人に現金も土地もない状態に注意。持ち方は出口の相続税まで含めて比べる
  • 道具は目的から選ぶ。遺言・贈与・種類株式・保険・事業承継税制を組み合わせる
  • 承継の計画は、銀行への説明力にもなる

稼ぐことと残すことは、別々の経営ではありません。クレフティでは、不動産投資家向けのサポートの中で、資産の持ち方と融資を両立させる承継設計のご相談をお受けしています。

よくある質問

30代や40代で相続税対策を始めるのは早すぎませんか?
早すぎることはありません。暦年贈与は相続前7年分が加算される方向に改正され、相続直前に取得した賃貸不動産の評価も見直しが進んでいます。直前の対策が効きにくくなっている以上、時間を味方にできる30〜50代のうちに、財産の持ち方と承継の骨格を決めておく価値は大きいといえます。
相続税の申告と納付の期限はいつですか?
相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。納付も原則として同じ期限までに金銭で一括して行います。自社株や不動産が中心で現金が少ない場合、この期限が最大の壁になります。延納や物納の制度もありますが要件があるため、生前に納税資金を準備しておくことが基本です。
最初に何から手をつければいいですか?
まずは現状の把握です。個人と法人の資産・負債の一覧、自社株の概算評価、株主名簿と定款、納税資金の仮計算の4つを揃えると、どこに問題があるかが見えてきます。そのうえで、家族と一度、誰が会社や物件を引き継ぐのかを話し合うところから始めてください。

※本記事は2026年10月17日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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