相続税の計算で最も金額が大きくなりやすいのが不動産です。そして不動産は、買った値段でも、売れる値段でもない「相続税評価額」で計算されます。
相続税での不動産の評価は、土地は路線価、建物は固定資産税評価額が基本です。賃貸物件ならさらに減額があり、要件を満たせば小規模宅地等の特例で土地の評価を大きく下げられます。この記事では、その計算の流れと、法人で持つ場合の違い、2027年からの見直し案、そして銀行の担保評価との違いまで、不動産投資家の視点で解説します。
- 土地は路線価(または倍率)、建物は固定資産税評価額で評価する。購入価格より低くなるのが一般的
- 賃貸物件は、土地が貸家建付地、建物が貸家として、借家権割合30%×賃貸割合の分だけさらに減額される
- 小規模宅地等の特例は、自宅330㎡・事業用400㎡まで80%減、貸付事業用200㎡まで50%減。個人の土地にしか使えない
- 法人が3年以内に取得した物件は通常の取引価額で評価。個人も相続前5年以内に取得した貸付用不動産の評価を見直す通達案が出ている
土地と建物の評価の基本
土地:路線価方式と倍率方式
市街地の土地は、道路ごとに国税庁が毎年公表する路線価(1㎡あたりの価額)に、土地の形や奥行きに応じた補正をかけて評価します。路線価が定められていない地域では、固定資産税評価額に地域ごとの倍率を掛ける倍率方式です。路線価は、公示価格のおおむね8割の水準が目安とされています。
建物:固定資産税評価額
建物は、原則として固定資産税評価額で評価します。帳簿上の価額(取得価額から減価償却した後の金額)とは関係ありません。税務上の耐用年数が過ぎて帳簿価額が1円になっていても、相続税評価額が0円になるわけではありません。
購入価格との差
セミナーで使った例では、5億円で購入した物件が、土地を路線価、建物を固定資産税評価額で評価すると約2億円になりました。立地や築年数によって差は大きく変わりますが、相続税評価額は購入価格を大きく下回ることが多いのが実態です。
賃貸物件は「貸家建付地」「貸家」でさらに下がる
人に貸している物件は、自分で自由に使えないぶん、評価が下がります。
借家権割合は現在30%、借地権割合は路線価図の記号(A〜G)で示される90%〜30%です。たとえば借地権割合60%の地域で満室なら、土地は自用地の82%(18%減)、建物は固定資産税評価額の70%(30%減)になります。
| 区分 | 減額のイメージ(借地権割合60%・満室) |
|---|---|
| 自用地 | 減額なし |
| 貸家建付地 | 18%減(60%×30%) |
| 自用家屋 | 減額なし |
| 貸家 | 30%減 |
賃貸割合と空室
賃貸割合は、相続開始時点で実際に賃貸されている床面積の割合です。空室が多いと減額幅が小さくなります。ただし、継続的に賃貸してきた物件で、退去後すぐに募集を行い、空室期間が一時的である場合などは、賃貸されているものとして扱えます。
減額が使えない「貸し方」
旅館業や短期の民泊のように、借地借家法の保護を受ける賃貸借契約ではない使い方は、原則として貸家・貸家建付地の評価になりません。セカンドハウスや、空室のまま持っているマンションも自用の評価です。「人に貸している」と言えるかどうかは、契約の形で判断されると考えてください。
小規模宅地等の特例:個人の土地を大きく減額
亡くなった方などが自宅や事業に使っていた土地は、一定の面積まで評価額を減額できます。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 |
|---|---|---|
| 特定居住用宅地等(自宅) | 330㎡ | 80% |
| 特定事業用宅地等・特定同族会社事業用宅地等 | 400㎡ | 80% |
| 貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など) | 200㎡ | 50% |
自宅と事業用は合計730㎡まで併用できますが、貸付事業用を組み合わせる場合は、面積を調整する計算式があります。
貸付事業用宅地等については、相続開始前3年以内に新たに貸付けを始めた宅地は対象外です(3年を超えて事業的規模の貸付けを続けてきた場合などは除きます)。相続直前にアパートを建てて特例を使う、という対策は封じられています。
また、この特例は申告期限までに遺産分割が終わっていることが原則で、相続人が取得して事業や居住を続けることなどの要件もあります。遺言や分割の段取りが、税額に直結するということです。
計算例:個人で持つ賃貸アパート
個人で持つ賃貸アパート(土地300㎡、満室)を例に、評価の流れを追ってみます。数字は説明用のものです。
| ステップ | 計算 | 評価額 |
|---|---|---|
| ① 土地の自用地評価(路線価×補正×面積) | ― | 1億円 |
| ② 貸家建付地(借地権割合60%) | 1億円×(1−60%×30%×100%) | 8,200万円 |
| ③ 小規模宅地等の特例(貸付事業用200㎡まで50%減) | 8,200万円×200㎡/300㎡×50%を減額 | 約5,470万円 |
| ④ 建物(固定資産税評価額3,000万円の貸家) | 3,000万円×(1−30%×100%) | 2,100万円 |
| 合計 | ③+④ | 約7,570万円 |
購入価格が2億円の物件でも、相続税評価額は4割弱になる計算です。ただし借入が残っていれば、その残高は債務として差し引かれます。評価額が低いほど相続税は軽くなりますが、その分、財産の額と借入の額の差が大きく見えることは、後半の銀行評価の話につながります。
タワーマンションなど区分所有の自宅
2024年1月1日以後の相続・贈与からは、居住用の区分所有マンションについて、市場価格との乖離が大きい場合に評価額を補正する新しいルールが適用されています。高層階ほど評価が低く出るという、いわゆるタワマン節税の効果は大きく縮小しました。
法人で持つ場合と、2027年からの見直し案
法人の「3年ルール」
法人が持つ不動産は、相続税では自社株の評価の中に取り込まれます。株価を純資産価額方式で計算するとき、会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地・建物は、通常の取引価額で評価します。また、法人の土地には小規模宅地等の特例は使えません。持ち方による違いは不動産を法人で持つと相続税はどう変わる?で詳しく解説しています。
個人の貸付用不動産にも「5年」の見直し案
これまで、個人が買った賃貸物件は、取得直後から路線価などで評価できました。この点について、令和8年度税制改正大綱を受けて、国税庁は2026年9月に通達案を公表しています。
- 相続・贈与の前5年以内に対価を払って取得・新築した貸付用不動産は、原則として通常の取引価額で評価する
- 取得価額が取得時の通常の取引価額に相当すると認められる場合は、土地は「取得価額×地価変動率×80%」、建物は「(取得価額−償却費)×80%」で評価する方法も示されている
- 不動産小口化商品は、取得時期を問わず対象とされている
- 2027年1月1日以後の相続・贈与から適用予定
2026年10月時点では意見募集の段階で、最終的な内容は確定していません。ただ方向性は明らかです。相続の直前に借入で賃貸物件を買い、評価差で相続税を減らすという手法は、通用しなくなっていきます。
通達どおりでも否認されることがある
2022年4月の最高裁判決では、90歳を超えた被相続人が借入で賃貸マンション2棟を購入し、通達評価により相続税が0円となったケースで、鑑定評価による課税が認められました。最高裁は、評価の乖離だけでなく、相続税の負担軽減を意図して購入・借入をしたことを重視しています。銀行の稟議書に相続対策と書かれていたことも、判決の事実認定の中で触れられています。
銀行の担保評価は、相続税評価とは別物
不動産投資家にとって、もうひとつ大事な視点があります。相続税評価額と、銀行が見る担保評価は別物だということです。
| 評価 | 目的 | 主な考え方 |
|---|---|---|
| 相続税評価額 | 相続税・贈与税の計算 | 路線価・固定資産税評価額、貸家建付地などの減額 |
| 銀行の担保評価 | 融資の回収可能性 | 積算評価(土地+建物の再調達価格)と収益還元評価を組み合わせることが多い |
| 市場価格 | 実際の売買 | 利回りと需給で決まる |
相続税評価が低い物件は、相続のときには有利に見えます。しかし、銀行の積算評価も低くなりやすい物件であれば、借入残高が担保評価を上回る「担保割れ」の状態に見えます。相続した物件の借換えや、相続人が次の物件を買うときの融資で、その評価がそのまま効いてきます。
私自身、融資が止まった経験から学んだのは、銀行は物件を「この人の財務全体の中で、次も貸せるか」という目で見ているということです。相続の評価だけで物件の価値を判断せず、担保評価と収益力の両面で残す物件を選ぶことをおすすめします。物件ごとの評価の見え方は中古物件の減価償却と耐用年数もあわせてご覧ください。
まとめ
- 土地は路線価・倍率、建物は固定資産税評価額で評価。購入価格より低くなるのが一般的
- 賃貸物件は貸家建付地・貸家で減額。減額幅は相続時点の賃貸割合で決まる
- 小規模宅地等の特例は自宅330㎡・事業用400㎡で80%減、貸付事業用200㎡で50%減。個人の土地限定で、3年以内貸付けの制限がある
- 法人の3年ルールに加え、個人の5年以内取得の貸付用不動産の評価見直し案が出ている(2026年10月時点で未確定)
- 相続税評価と銀行の担保評価は別物。残す物件は、相続と融資の両方の目で選ぶ
クレフティでは、物件ごとの相続税評価の試算と、個人・法人どちらで持つかの比較を、融資への影響とあわせて不動産投資家向けのサポートの中でお手伝いしています。
