「不動産は法人で持ったほうが相続に有利と聞いたのですが、本当ですか?」。資産管理法人で物件を買い進めている方から、ここ数年で明らかに増えたご相談です。
結論から言うと、法人で持つと相続税の「計算の土俵」が変わります。相続されるのは物件そのものではなく、物件を持っている会社の株式です。そしてその株式は、会社が利益を出し、法人税を払い、純資産を積み上げるほど評価が上がっていきます。融資を受け続けるために会社を強くすることと、相続税を抑えることは、放っておくと正面からぶつかるのです。
- 不動産を法人で持つと、相続の対象は会社の株式になる。物件の評価方法も、使える特例も個人所有とは変わる
- 法人税を払って純資産を積むほど株価が上がり、相続税も増える。ただし会社を強くする方針そのものは正しい
- 解き方は「持株会社」「生前贈与」「事業承継税制」などの組み合わせ。いずれも5〜10年単位の準備が必要
- 今すぐやるべきは、自社株の評価額を知る・遺言書を作る・承継の相談を始めるの3つ
経営者・オーナーに必ず来る「2つのXデー」
会社を持つ人には、必ず2つの日がやってきます。ひとつは相続、つまり自分が亡くなる日。もうひとつは事業承継、会社の経営や株式を誰かに引き継ぐ日です。どちらも「いつか」ではなく、確実に来ます。
それでも、多くの方が「まだ先の話」と考えています。60代のクライアントに「承継はどうお考えですか」とうかがっても、「もう少し先ですかね」という答えが返ってくることがほとんどです。
ところが、相続税の負担を和らげる準備には時間がかかります。株式を少しずつ後継者に移す、持株会社をつくる、退職金を設計する。こうした手当ては最低でも5年、場合によっては10年かけて進めるものです。理想は50代前半から動き出すこと、意識するだけなら40代からでも早すぎることはありません。
不動産投資家の資産管理法人も、まったく同じ構造の中にあります。物件を増やし、決算を黒字にし、純資産を厚くしていく。そのたびに、将来の相続税の「種」も育っているのです。
個人で持つか法人で持つか:相続税の評価はこう変わる
まず、同じ賃貸物件でも、個人で持つか法人で持つかで相続税の評価がどう変わるかを整理します。
| 比較項目 | 個人で所有 | 法人で所有 |
|---|---|---|
| 相続の対象 | 土地・建物そのもの | 会社の株式(出資持分) |
| 土地の評価 | 路線価等をもとに「貸家建付地」として減額 | 株価計算の中で同様に評価(取得後3年以内は通常の取引価額) |
| 建物の評価 | 固定資産税評価額から借家権割合(30%)×賃貸割合を減額 | 同上(取得後3年以内は通常の取引価額) |
| 含み益の扱い | 控除なし | 純資産価額方式では評価差額の38%(法人税等相当額。2026年3月31日以前の相続・贈与は37%)を控除 |
| 小規模宅地等の特例 | 貸付事業用宅地等として200㎡まで50%減額の可能性あり | 法人所有の土地には使えない |
| 遺産の分け方 | 物件単位で分ける | 株式の割合で分けられる |
法人の株式はどう評価されるか
上場していない会社の株式は、財産評価基本通達に沿って「純資産価額方式」「類似業種比準価額方式」、またはその併用で評価します。賃貸不動産が中心の小さな資産管理法人では、純資産価額方式の比重が大きくなることが多いでしょう。
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価額に置き換え、その差額(純資産)を株式の価値とみなす方法です。物件の時価と相続税評価額に開きがあれば、その開き(評価差額)に対して38%(2026年4月1日以後の相続・贈与の場合)を控除できます。
一方で、会社が取得してから3年以内の土地・建物は、通常の取引価額で評価するルールがあります。相続の直前に法人で物件を買っても、評価はほとんど下がりません。また、総資産に占める土地等の割合が一定以上の会社は「土地保有特定会社」として、原則として純資産価額方式だけで評価されます(判定基準は会社規模により異なります)。
2027年からの見直しにも注意
個人が持つ賃貸不動産についても、見直しが進んでいます。令和8年度税制改正大綱を受けて、国税庁は2026年9月に、相続・贈与の前5年以内に対価を払って取得・新築した貸付用不動産を、通常の取引価額で評価するとした通達案を公表しました(課税上の弊害がなければ、取得価額等をもとにした価額の80%で評価する方法も示されています)。2027年1月1日以後の相続・贈与への適用が予定されていますが、2026年10月時点では意見募集の段階で、最終的な内容は確定していません。
通達案の解説では、法人が持つ物件の株価計算(純資産価額方式)には、この新ルールではなく従来の「3年以内」ルールが適用されると整理されています。いずれにしても、「買ってすぐ相続に備える」発想はますます通用しなくなっていると考えてください。
会社を強くするほど相続税が増えるという「矛盾」
ここからが本題です。法人の株価は、純資産が大きいほど高くなります。そして純資産は、毎期の利益から法人税を払い、残ったお金を積み上げることで増えていきます。
たとえば株式の評価額が5億円になった会社を、オーナーが100%持っていたとします。相続人が子1人で、ほかに財産も債務もないという単純な前提で計算すると、相続税は約1.9億円です(基礎控除3,600万円、税率50%の段階)。相続税の最高税率は55%ですから、規模が大きくなるほど負担は重くなります。
しかも、株式は現金ではありません。会社に5億円の価値があっても、遺族の手元に納税資金があるとは限りません。これが、自社株を相続するときの最大の怖さです。
それでも「会社を強くする」方針は正しい
では、利益を出さず純資産を薄くしておけばよいのか。答えは明確にノーです。
私が常々お伝えしているのが「払った税金の2倍、会社は強くなる」という考え方です。法人税をきちんと払い、純資産を積み上げることは、銀行格付けを上げ、融資を受け続けるための土台になります。私の著書で紹介している銀行格付けモデル(129点満点)でも、純資産や自己資本比率は評価の重要な要素で、プロパー融資を引き出すためのひとつの目安を純資産1億円としています(詳しくは純資産1億円が融資の分かれ目になる理由)。
私自身、2019年に金融機関から「あなたには、貸せません」と言われ、融資が止まった経験があります。そこから財務を立て直したことで、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで広げることができました。株価を下げるために会社を弱くするのは、本末転倒です。
矛盾を解く鍵は、利益を圧縮することではなく、「準備」と「設計」です。会社を強くしながら、相続税の負担を和らげる構造を、生きているうちにつくっておく。それが承継設計という仕事です。
Xデーは突然やってくる:準備が間に合わなかったケース
詳細は伏せますが、ある製造業のオーナー経営者の話をします。60代前半、会社の純資産は約4億円、従業員は20名ほど。まだ十分に動ける年齢で、ご本人も「承継はあと5年後に考えよう」とおっしゃっていました。
その方が、突然、心筋梗塞で亡くなりました。遺言書はなく、株式の大半は社長本人が持っていました。相続人は奥さまとお子さま2人です。
自社株の評価額は約3億5,000万円。ほかの財産と合わせた相続税の試算は8,000万円を超えましたが、遺族の手元の現預金は1,000万円にも届きませんでした。会社からの退職金の支払い、一部の不動産の売却、延納の申請などを組み合わせてなんとか納税しましたが、手続きだけで1年以上かかりました。その間、「誰が会社を経営するのか」という問題も重なり、従業員の方々も不安を抱えていました。
5年前から準備していれば、状況はまったく違ったはずです。計画的な生前贈与で株式の移転は進んでいたでしょうし、退職金の設計をしておけば、納税資金を会社から適正に確保する道もありました。業種は違っても、不動産を法人で持つ方にとってまったく同じ話です。
矛盾をほどく3つのアプローチ
具体的な打ち手は、大きく3つです。どれかひとつに絞るのではなく、会社の規模・純資産・後継者・家族構成・借入の状況を見ながら組み合わせるのが一般的です。
1. 持株会社(ホールディングス)化
事業会社の上に持株会社をつくり、株式の持ち方を整理する方法です。グループの形を取ることで、株価の上がり方を抑えたり、後継者への移転を進めやすくしたりできる場合があります。
ただし、設立や運営にはコストがかかり、効果が出るかどうかは規模や状況次第です。「持株会社をつくれば相続税が下がる」という単純な話ではありません。組織再編は決算書の見え方や銀行の格付けにも影響するため、必ずBS(貸借対照表)の視点で、融資への影響まで含めて判断する必要があります。
2. 生前贈与
株式を少しずつ後継者に贈与していく方法です。暦年贈与(年110万円の基礎控除)と、相続時精算課税制度(累計2,500万円の特別控除に加え、2024年以降は年110万円の基礎控除)を使い分けます。
注意したいのは、2024年1月以降の暦年贈与は、相続開始前7年以内の分が相続財産に加算されるよう段階的に見直されたことです。亡くなる直前の駆け込み贈与はほとんど効果がありません。時間をかけるほど効果が大きいのが贈与ですから、早く始めることがすべてです。
3. 事業承継税制
一定の要件を満たせば、後継者が相続・贈与で取得した非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税を猶予し、一定の場合に免除する制度です。特例措置は、令和8年度税制改正で特例承継計画の提出期限が2027年9月30日まで延長されましたが、株式の贈与・相続の適用期限は2027年12月31日のまま据え置かれています(2026年10月時点)。
事業承継税制は、事業を営む中小企業を想定した制度です。総資産に占める賃貸用不動産などの割合が高い会社は「資産保有型会社」「資産運用型会社」に当たり、常時使用する従業員が5人以上いるなどの事業実態要件を満たさない限り、原則として対象外になります。資産管理法人で「この制度を使えば大丈夫」と考えるのは危険です。
今すぐやるべき3つのこと
1. 自社株の評価額を把握する
自分の会社の株がいくらなのかを知らないオーナーは、本当に多いです。税理士に依頼すれば試算できます。「うちはまだ大丈夫」と思っていた方が、評価額を初めて聞いて顔色を変える場面を、私は何度も見てきました。知らなければ、対策の立てようがありません。
2. 遺言書を作る
遺言書がなければ、遺産の分け方は相続人の話し合いで決めることになります。株式をめぐって家族の意見が割れ、会社の意思決定が止まるという話は珍しくありません。物件を担保にした借入がある資産管理法人では、代表者が決まらないことが金融機関との関係にも影響します。遺言書は「死の準備」ではなく、会社と家族を守るための経営者の責任だと私は考えています。
3. 税理士・公認会計士に承継の相談をする
いまの顧問税理士に「うちの承継はどう考えればいいですか」と一言聞くだけで、会話は始まります。株価の試算、贈与の計画、遺言の内容、借入と連帯保証の扱いまで、一度テーブルに並べてみることが第一歩です。
法人化そのものの判断については不動産投資の法人化はいつがベストか、資産管理法人の基本は資産管理法人のメリット・デメリットもあわせてご覧ください。
まとめ
- 不動産を法人で持つと、相続の対象は会社の株式になる。評価方法も使える特例も個人所有とは違う
- 法人の株価は純資産が大きいほど上がる。取得後3年以内の物件は通常の取引価額で評価され、駆け込みの対策は効きにくい
- 法人税を払って純資産を積むことは、融資を受け続けるために正しい。相続税とのぶつかりは「準備」と「設計」で和らげる
- 持株会社・生前贈与・事業承継税制は5〜10年単位。事業承継税制は資産管理法人では使えないことが多い
- まずは自社株の評価額を知る・遺言書を作る・承継の相談を始める
あなたが時間をかけて築いてきた会社と物件を、誰に、どう引き継ぐか。これは税の話であり、財務の話であり、根っこでは「何のために会社を経営してきたのか」という話でもあります。クレフティでは、不動産投資家向けのサポートの中で、株価の試算から融資を止めない承継設計までご相談をお受けしています。
