「純資産が1億円以上ないと、プロパー融資は難しい」。不動産投資や会社経営をしていると、一度は耳にする話です。
でも、「なぜ1億円なのか」と聞かれて、はっきり答えられる方は多くありません。なんとなく「そういう基準があるらしい」と受け入れている方がほとんどでしょう。この記事では、純資産1億円という数字の意味と、まだ届いていない場合にどうやって積み上げるかを解説します。
- プロパー融資のスタートラインの目安は、銀行格付けで正常先(著書のモデルで32点以上)+純資産1億円以上
- 銀行が純資産を見るのは、万が一のときにどれだけ回収の余力があるかを確かめるため。1億円は法律上の基準ではなく、実務上の目安
- 1億円に届かないと「保証付き融資への依存」「融資額の上限」「金利の上昇」という3つの制約がかかりやすい
- 積み上げるルートは「利益を出して内部留保を積む」「きちんと納税する」「不採算資産を整理してBSの質を高める」の3つ
銀行は融資先をどう区分しているか
債務者区分と「正常先」
まず前提として、銀行が融資先をどう見ているかを整理します。銀行は、融資先の財務状況や資金繰り、収益力などをもとに返済能力を判定し、融資先を次のように区分しています(債務者区分)。
| 債務者区分 | 状態のイメージ |
|---|---|
| 正常先 | 業況が良好で、財務内容に特段の問題がない |
| 要注意先(うち要管理先) | 業況が低調・不安定、返済条件の変更があるなど、今後の管理に注意が必要 |
| 破綻懸念先 | 今後、経営破綻に陥る可能性が大きい |
| 実質破綻先 | 法的には破綻していないが、実質的に破綻している |
| 破綻先 | 法的・形式的に破綻している |
新規の融資を前向きに検討してもらえるのは、基本的に正常先です。要注意先になると、新規融資のハードルは一気に上がり、既存の融資の条件にも影響が出ることがあります。正常先にとどまることが、融資を受け続けるための大前提です。
区分のもとになる「格付け」
この区分の土台になっているのが、決算書の数字をもとにした銀行内部の格付け(スコアリング)です。採点方法は銀行ごとに異なり、公表されていませんが、私の著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、129点満点(安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点)のモデルで解説しています。このモデルでは、32点以上が正常先の目安です。
プロパー融資のスタートラインは「正常先+純資産1億円」
プロパー融資とは、信用保証協会の保証を付けず、銀行が自らのリスクで行う融資のことです。保証付き融資に比べて、使える枠の制約がなく、信用保証料もかからず、銀行の判断で大きな金額を動かせます。不動産投資で規模を広げていくには、プロパー融資を受けられるかどうかが大きな分かれ目になります。
著書のモデルで、私がプロパー融資のスタートラインとして示しているのは次の2つです。
- 格付けが「正常先」であること(著書のモデルで32点以上)
- 純資産が1億円以上あること
この2つは、どちらか一方では足りません。純資産が1億円あっても格付けが低ければ、銀行は自らのリスクで貸すことに慎重になります。逆に格付けが正常先でも、純資産が薄ければ、保証付き融資で対応しようという判断になりやすい。両方がそろって初めて、プロパー融資の土俵に立てる、というのが私の実務上の実感です。
保証付き融資とプロパー融資の違いや移行のステップは、保証協会付き融資とプロパー融資の違いで詳しく解説しています。
なぜ「純資産1億円」なのか
純資産は、銀行にとってのクッション
銀行が純資産を重視するのは、最悪の場合にどれだけ回収の余力があるかを見ているからです。
純資産は、資産から負債を引いた残りです。会社がうまくいかなくなったとき、資産を処分して負債を返したあとに残るのが純資産の部分です。純資産がゼロや債務超過の会社では、資産をすべて処分しても借入を返しきれません。
つまり純資産は、銀行にとってのクッションです。純資産が1億円あるということは、「仮に事業がうまくいかなくなっても、1億円分の余力がある」というシグナルになります。
1億円は法律ではなく、実務上の目安
誤解のないようにお伝えすると、「純資産1億円以上でなければプロパー融資はできない」という法律や公表された基準があるわけではありません。純資産1億円未満でプロパー融資を受けている会社もあります。
それでも1億円が目安として語られるのは、中小企業として一定の信用力があると見なされやすい水準だからです。プロパー融資の扉が開くかどうかを見極める一つの目安として、私は純資産1億円を設計上の目標に置くことをおすすめしています。
不動産投資の法人は「実態の純資産」を見られる
不動産投資の法人で注意したいのは、銀行が決算書上の純資産をそのまま評価するとは限らないことです。保有物件の時価が帳簿価額を大きく下回っていれば、その含み損を差し引いた実態ベースの純資産で評価されることがあります。
決算書上は純資産が積み上がっているように見えても、含み損の大きい物件を抱えていると、銀行の目には「純資産が薄い会社」と映るのです。
純資産1億円に届かないと起きる3つの制約
純資産が1億円に届かないうちは、次のような制約がかかりやすくなります。
| 制約 | 何が起きるか |
|---|---|
| ① 保証付き融資への依存 | 信用保証協会の保証には1社あたりの限度額(一般的な保証で普通保証2億円・無担保保証8,000万円)があり、それ以上の規模の資金調達が難しくなる |
| ② 融資額の上限 | プロパー融資を受けられても、財務の余力が小さいため、1件あたりの融資額が抑えられやすい |
| ③ 金利の上昇 | 格付けが低い会社には、リスクに見合った高めの金利が設定されやすい |
※保証限度額は制度改正や別枠制度により変わることがあります。最新情報は各信用保証協会でご確認ください。
特に怖いのが③です。金利が高くなれば支払利息が増え、利益が削られます。利益が減れば純資産が積み上がらず、格付けがさらに下がる。調達コストが上がる→利益が減る→格付けが下がるという悪循環に入ってしまいます。利息の負担が銀行の評価にどう響くかは、ICRの計算方法と目安で解説しています。
だからこそ、早い段階から純資産を積み上げる設計が必要なのです。
純資産1億円を積み上げる3つのルート
では、純資産1億円をどうやって積み上げるか。ルートは3つあります。
ルート1:毎期きちんと利益を出し、内部留保を積む
もっとも王道で、もっとも強い方法です。利益を出し、税金を払い、残った利益が純資産(利益剰余金)として積み上がっていく。地道ですが、持続可能な方法はこれしかありません。
なぜこれが強いのか。本業でしっかり稼いで純資産を積み上げている会社は、格付けの収益性や返済能力の評価も同時に上がっていくからです。純資産の数字だけを増やしても格付けが伸びないことはありますが、利益を通じて積み上げた純資産は、格付け全体を底上げします。
ルート2:利益を過度に圧縮せず、きちんと納税する
私がよくお伝えしているのが、「払った税金の2倍、会社は強くなる」という考え方です。
たとえば税引前利益が1,500万円で、法人税等が約500万円だったとします。手元に残る税引後利益は約1,000万円。これがそのまま純資産に積み上がります。つまり、払った税金のおよそ2倍が、会社の純資産として残るのです。
逆に、税金を払いたくないあまり利益を削れば、純資産は積み上がりません。目先の税金は減っても、格付けが上がらず、融資の枠も広がらない。税金は単なるコストではなく、会社を強くするための投資の裏返しだと考えてください。利益の圧縮が融資にどう響くかは、節税のやりすぎが融資に与える影響でも解説しています。
※税額は説明のための概算です。実際の税額は所得の金額や地域、適用される制度によって異なります。
ルート3:不採算資産を整理し、BSの「質」を高める
収益を生まない資産や、含み損を抱えた物件が貸借対照表に残っていると、実態の純資産は決算書の数字より小さく評価されます。こうした資産を整理することで、純資産の「質」を高めることができます。
銀行は数字の中身を見ています。「この資産は本当に価値があるのか」という目線で決算書を読み解きます。純資産の金額だけを追うのではなく、実態のある純資産を積み上げることが大切です。
私自身が純資産を立て直したときのこと
私自身、純資産の大切さを身をもって知ったのは2019年のことです。
2014年から不動産投資を始め、融資を受けて買い進めていましたが、2019年、複数の金融機関から「あなたには、貸せません」と言われました。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていた時期でした。
正直、怖かったです。それでも冷静になって、数字を全部洗い直しました。格付けのどの項目が低いのか。純資産がどこで削られているのか。毀損した物件を売却し、きちんと納税し、現預金を積み増す。一つひとつ対策を打ちました。
そこから回復できたのは、特別なことをしたからではありません。毎年きちんと利益を出し、納税する。それを繰り返したからです。その結果、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げることができました。
純資産1億円へのロードマップは今日からつくる
純資産1億円と聞くと、遠い目標に感じる方もいるでしょう。いまが2,000万円や3,000万円なら、なおさらです。
でも、焦る必要はありません。焦って実態のない数字を積み上げようとするほど、危ないことはありません。大事なのは設計です。
たとえば、現在の純資産が3,000万円で、毎期1,000万円の税引後利益を積み上げられるなら、7年で1億円に届きます。「毎年これくらいの利益を出し、これくらい納税すれば、何年後に1億円に届く」というロードマップを、今日から持っておくことです。
| 現在の純資産 | 毎期の税引後利益 | 1億円に届くまでの年数(試算) |
|---|---|---|
| 2,000万円 | 1,000万円 | 8年 |
| 3,000万円 | 1,000万円 | 7年 |
| 3,000万円 | 1,500万円 | 約4.7年 |
| 5,000万円 | 1,000万円 | 5年 |
※配当や含み損益の変動などを考慮しない単純な試算です。
こうして並べると、純資産1億円は「いつか届けばいい夢の数字」ではなく、毎期の利益と納税をどう設計するかで到達時期が決まる目標だとわかります。物件を買い進めるときも、購入後のバランスシートがこのロードマップから外れないかを確認するのが、融資を止めないコツです。
ロードマップがあると、銀行との会話も変わります。「この会社には計画がある」「経営者が数字を理解している」と伝われば、担当者の受け止め方は大きく変わります。決算書を持っていくときの説明の仕方は、銀行員との正しい付き合い方で解説しています。
まとめ
- プロパー融資のスタートラインの目安は、正常先(著書のモデルで32点以上)+純資産1億円以上
- 銀行が純資産を見るのは、万が一のときの回収の余力を確かめるため。1億円は法律ではなく実務上の目安
- 不動産投資の法人は、含み損を差し引いた実態の純資産で見られることがある
- 1億円に届かないと「保証付き融資への依存」「融資額の上限」「金利の上昇」という制約がかかりやすい
- 積み上げるルートは「利益を出して内部留保を積む」「きちんと納税する」「不採算資産を整理する」
いまの純資産はいくらで、毎年どれだけ積み上がっているか。まずはそこを把握することから始めてください。ご自身の決算書をもとに、純資産1億円までのロードマップを一緒に描きたい方は、お気軽にご相談ください(不動産投資家向けのご支援)。
