「今期は利益が出そうだから、決算までに何か経費を使っておきましょう」。決算が近づくと、こんな会話が全国の会社で交わされます。税金はできるだけ払いたくない。経営者として自然な感覚ですし、私自身も同じ気持ちを持っています。
ただ、その「節税」が、数年後の融資を止める原因になっているとしたらどうでしょうか。税理士・公認会計士として、そして2014年から不動産投資を続けてきた経営者として、私はこの落とし穴に落ちた事例を実務で数多く見てきました。この記事では、会社を強くする節税と、知らないうちに会社を弱くする節税の違いを、銀行の目線から整理します。
- 悪い節税とは「純資産を削るだけの損金算入」。税金は減っても、銀行格付けが下がって融資が止まる
- 典型例は「意味のない高額経費」「過度な役員報酬」「損金目的の資産購入」の3つ
- 良い支出とは「資産が残る支出」。本業の設備、人材、研究開発など、税金を減らしながら会社も強くなる
- 判断基準はひとつ。「この支出が終わったとき、会社に何が残るか?」
節税の「正体」は損金を増やして利益を減らすこと
税金が減るとき、純資産も一緒に減っている
法人税は、ざっくり言えば「益金 − 損金 = 所得」に税率をかけて計算します。損金(税務上の費用)を増やせば所得が減り、税金が減る。節税と呼ばれるものの多くは、突き詰めるとこの仕組みを使っています。
これ自体は、法律の範囲内で行う限り何も間違っていません。問題は、その支出が会社のバランスシート(BS)に何も残さない場合です。
お金が出ていき、税金が減る。ところが同時に、会社の純資産も削れます。決算書の上では「利益が減った」としか見えませんが、銀行から見ると「内部留保が積み上がらなかった会社」になります。
銀行は「税金の少なさ」ではなく「会社の体力」を見る
銀行が融資の判断に使う格付け(スコアリング)では、純資産の厚さや利益の水準が大きな意味を持ちます。私が著書で紹介している格付けモデルでは、129点満点のうち安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点という配分で、正常先と判断される目安は32点以上です。また、保証協会を使わないプロパー融資を継続的に受けるには、純資産1億円がひとつの目安になると考えています。
このモデルで見ると、利益を圧縮する節税は「収益性」と「安全性(純資産の蓄積)」の両方に効いてきます。税金を減らして、格付けを下げ、融資を失う。これが悪い節税の正体です。厄介なのは、毎年少しずつ進むため、多くの経営者がこのトレードオフに気づかないまま繰り返してしまうことです。
純資産とプロパー融資の関係は、保証協会付き融資とプロパー融資の違いの記事でも詳しく解説しています。
融資を止める「悪い節税」3つの典型例
1. 意味のない高額経費
年末や決算月に「利益が出すぎたから経費を使え」と、業務との関係が薄い備品をまとめ買いする。交際費を使い切る。こうした支出の多くは、払ったお金が消えて会社に何も残りません。
「税金で持っていかれるくらいなら、使ったほうが得」という理屈はよく聞きます。しかし冷静に計算すると、100万円の経費で減る税金は、税率が3割なら約30万円です。残りの約70万円は会社から出ていっただけ。BSから見れば「現預金が減り、純資産が削れた」だけの状態です。
なお、業務との関連が説明できない支出は、そもそも税務上の損金として認められないリスクもあります。「とりあえず経費に」という発想は、税務調査の面でも危ういものです。
2. 過度な役員報酬
社長の報酬を高く設定し、会社の利益をほぼゼロに圧縮する。これもよくある手法です。役員報酬は経営者の生活を支える正当な報酬であり、それ自体を否定するつもりはありません。
ただし、会社のBSを犠牲にするほどの高額設定は、格付けの「収益性」と「純資産の蓄積」を同時に損ないます。さらに、役員報酬を受け取る個人の側では、所得税と住民税が累進課税でかかります。会社の税金を減らしたつもりが、個人の税金が増え、会社と個人を合わせた税負担はたいして減っていなかった、ということも珍しくありません。
3. 損金目的の資産購入
3つ目は「資産性のない投資」、もっと言えば損金を作るための資産購入です。将来の値上がりや稼ぎが期待できない資産、事業との関係が薄い資産に、「税金を払うくらいなら買ったほうがいい」という判断でお金を入れる。
この場合、BSには価値の下がっていく資産だけが溜まり、純資産は償却とともに削れていきます。しかも、短期間で大きく償却した資産は帳簿価額が小さくなるため、後で売却すると売却益が出やすくなります。つまり税金がなくなったのではなく、後ろに繰り延べられているだけというケースも多いのです。
| 支出の例 | 税金 | 会社に残るもの | 銀行からの見え方 |
|---|---|---|---|
| 決算前の不要な備品購入・交際費 | 減る | ほぼ何も残らない | 利益と純資産が減っただけ |
| 利益をゼロにする高額な役員報酬 | 会社は減る(個人は増える) | 何も残らない | 収益力が弱く、内部留保がない |
| 損金目的の資産購入 | 当初は減る(売却時に戻ることも) | 価値の下がる資産 | 実態の薄い資産が溜まる |
| 本業の設備・システム投資 | 償却で減る | 稼ぐ設備 | 将来の収益力として評価される |
| 人材育成・研究開発 | 費用で減る | 人材・ノウハウ・競争力 | 成長性の裏付けになる |
実際にあった事例:太陽光と築古木造で純資産が削れたケース
ここで、実際にあったご相談事例をお話しします。
ある不動産投資家の方は、物件を買い進める中で「節税効果の高い資産」に次々と投資していました。
ひとつは野立ての太陽光発電設備です。当時はFIT(固定価格買取制度)の全盛期で、太陽光発電設備には即時償却などの優遇税制がありました(グリーン投資減税による太陽光の即時償却は2015年3月末で終了しています)。もうひとつは築古の木造アパートです。法定耐用年数(木造の住宅用建物は22年)をすべて過ぎた中古建物は、簡便法により耐用年数を「22年×20%=4.4年 → 4年」とできるため、建物部分を4年で償却できます。
どちらも税理士の間ではよく知られた手法で、ご本人も当時は「賢い選択」だと考えていました。実際に大きな損金を作ることができ、税負担は大きく下がりました。
ところが、BSを見ると様子がまったく違いました。大きな償却によって、純資産がみるみる削れていたのです。太陽光の設備は償却が終われば帳簿上の価値はほぼゼロ。築古木造は売ろうとしても流動性が低く、思うような値がつきませんでした。純資産が落ち、BSが毀損し、銀行格付けが下がる。
そしてやがて、複数の金融機関から新しい融資を断られるようになりました。償却の速い資産が積み上がった結果、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたのです。「損金目的の大型投資」がその状態を招いた一因だったことは間違いありません。
税金を減らすために動いたことが、融資を失うことにつながった。こうした事例を見てきたからこそ、私は、テクニックとしての「節税」を軽々しく勧めることができません。融資が止まる構造と立て直しについては、2棟目・3棟目で融資が止まる理由の記事でも書いています。
「いい節税」は資産が残る支出
では、会社を強くする支出とは何でしょうか。ひとことで言えば「資産が残る支出」です。
本業に直結する設備投資
生産性を高める機械、業務を効率化するシステムなど、本業に直結する設備投資です。減価償却によって短期的には利益が圧縮されますが、その資産が実際に稼ぎを生み出します。税金が減るうえに、数年後の売上や利益として返ってくる。銀行も「将来の収益力のための投資」と説明できる支出は評価します。
人材育成への投資
研修費、採用費、教育費。これらは費用として処理されるためBSの資産には載りませんが、人材という「目に見えない資産」を会社に蓄積します。経験を積んだ社員が増えれば、売上や利益として必ず数字に表れてきます。
研究開発(R&D)
新しい商品やサービスの開発に充てる支出は、将来の競争力に直結します。いまの利益は減っても、成長性の裏付けになります。
判断基準は「支出のあとに何が残るか」
チェックポイントはひとつだけです。
残るものがあれば、税金を減らしながら会社を強くする「いい支出」。何も残らなければ、純資産を削るだけの「悪い節税」です。
決算前に経費の相談をするときも、設備を検討するときも、この問いを一度挟むだけで判断はかなり変わります。
「いい支出」でも、銀行に説明できる形にしておく
設備投資や人材投資は、その年の利益を一時的に押し下げます。銀行から「今期はなぜ利益が減ったのか」と聞かれたときに、「この設備で来期から何がどれだけ改善するのか」を数字で説明できれば、利益の減少はむしろ前向きな投資として受け止められます。
反対に、同じ設備投資でも目的や効果を説明できなければ、銀行からは損金目的の支出と区別がつきません。支出を決めるときに、その効果を一言で説明できるかも確認しておくと安心です。
「払った税金の2倍、会社は強くなる」
私がよくお伝えしている言葉に「払った税金の2倍、会社は強くなる」があります。
法人の実効税率をおおまかに3割強とすると、税金を100万円払う会社は、税引前でおよそ300万円の利益を出しています。そして税金を払ったあとに残る約200万円が、内部留保として純資産に積み上がります。つまり、払った税金のおよそ2倍、純資産が増えているわけです。
純資産が増えれば銀行格付けが上がり、次の融資が受けやすくなる。融資で事業や物件に投資し、また利益が出る。この循環が、会社を大きくしていきます。
| 利益を圧縮した会社 | きちんと納税した会社 | |
|---|---|---|
| 税引前利益 | 0円(経費で消した) | 300万円 |
| 税金 | ほぼ0円 | 約100万円 |
| 純資産の増加 | ほぼ0円 | 約200万円 |
| 銀行からの見え方 | 稼ぐ力が見えない | 毎年体力がついている |
悪い節税は、この循環を自分で断ち切る行為です。短期的に払う税金を最小にしようとする動きが、長期的には会社の成長を止めてしまいます。純資産をどう積み上げていくかは、決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックもあわせてご覧ください。
税金を払う悔しさとの付き合い方
正直に言えば、税金を払うのは悔しいものです。せっかく稼いだお金を持っていかれる感覚は、経営者を何年やっても慣れません。
大切なのは、その悔しさをどちらに向けるかです。「じゃあ経費を使おう」という方向に向けると、会社は弱くなります。「次の投資で稼いで取り返そう」という方向に向ければ、会社は強くなります。
私が2019年に融資を止められてから財務を立て直したときも、やったことは地味でした。毀損した物件を整理し、きちんと納税し、現預金と純資産を積み増す。その結果、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げ直すことができました。遠回りに見えて、融資を受け続けるにはBSを守ることが最優先だったのです。
まとめ
- 悪い節税とは、純資産を削るだけの損金算入。税金は減っても、格付けが下がって融資が止まる
- 典型例は、意味のない高額経費、過度な役員報酬、損金目的の資産購入
- 損金目的の大型償却は、税金が後ろに繰り延べられているだけのことも多い
- いい支出とは、本業の設備・人材・研究開発など「資産が残る支出」
- 判断基準は「この支出が終わったとき、会社に何が残るか?」
税務の判断を、税金の額だけでなくBSを基準に考える。それが、融資を受け続けられる会社をつくる近道です。クレフティでは、決算前の経費や設備投資の判断を、銀行格付けへの影響とあわせてご一緒に検討しています。
