「そろそろ資産管理法人をつくったほうがいいと言われた」「法人にすると何が変わるのか、メリットとデメリットを知りたい」。不動産投資が軌道に乗り始めた方から、必ず相談される質問です。
資産管理法人のメリットとして語られるのは、税率や所得分散、相続対策です。それ自体は間違っていません。ただ、不動産を買い続けたい方にとって、いちばん大きな変化は別のところにあります。銀行が審査で見る決算書が、個人の確定申告書から法人の決算書に変わるということです。
- 資産管理法人のメリットは、①所得が大きい場合の税率差、②家族への所得分散、③相続時の財産の承継のしやすさ、④損失の繰越期間の長さ
- デメリットは、①設立・維持のコスト(赤字でも住民税の均等割)、②個人から物件を移すときの移転コスト、③社会保険、④設立直後は決算の実績がなく融資が受けにくいこと
- 法人の融資審査では、決算書の利益と純資産がすべて。節税で利益を削る法人は、買い進められなくなる
- 相続税評価のルールは改正が続いている。「法人にすれば相続税が下がる」と決めつけず、最新の制度で試算する
資産管理法人とは
資産管理法人とは、不動産などの資産を保有・管理するためにつくる法人です。不動産投資家の場合、主に次の3つの形があります。
| 形態 | 仕組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 管理委託型 | 個人所有の物件の管理を法人に委託し、管理料を払う | 移転コストはないが、法人に移せる所得は管理料相当(相場の範囲)に限られる |
| サブリース型 | 法人が個人から一括で借り上げ、入居者に転貸する | 管理委託型より法人に残る利益は大きいが、家賃設定の妥当性が問われる |
| 所有型 | 法人が物件を所有する | 賃貸収入がすべて法人の収入になる。新規購入を法人で行うのが一般的 |
効果がもっとも大きいのは所有型ですが、融資・相続への影響も大きくなります。以下は主に所有型を前提に説明します。
資産管理法人の4つのメリット
1. 所得が大きくなると、税率差が効く
個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がり、住民税とあわせると最高で約55%になります。一方、法人の税率は、中小法人で所得800万円以下の部分に軽減税率が適用されるなど、所得規模にかかわらずおおむね一定の範囲に収まります。不動産所得が大きくなるほど、法人で受けたほうが税負担は軽くなりやすい構造です。
2. 家族への所得分散
法人から家族に役員報酬を支払えば、所得を家族に分散でき、世帯全体の税負担を抑えられる場合があります。ただし、実際に業務をしていることと、業務内容に見合った金額であることが前提です。名前だけの役員への報酬は、税務調査で否認される典型例です。
3. 相続時に財産を承継しやすい
不動産を法人で持てば、相続の対象は個々の不動産ではなく法人の株式になります。株式は分けやすく、物件を共有にして揉める、といった事態を避けやすくなります。また、設立時から後継者が株式を持っていれば、その後に法人に蓄積される利益は後継者の株式の価値として積み上がります。
4. 損失の繰越期間が長い
個人の青色申告では、純損失を繰り越せるのは原則3年です。法人の場合、青色申告であれば欠損金を一定の期間(現行制度では10年)繰り越せます。大規模修繕や売却損などで大きな赤字が出たときに、将来の利益と相殺しやすくなります。
資産管理法人の4つのデメリット
1. 設立・維持のコストがかかる
設立時の登記費用に加えて、毎年の税理士報酬、決算・申告の手間がかかります。法人住民税の均等割は、赤字でも毎年納める必要があります。所得が小さいうちは、このコストが税率差のメリットを上回ることもあります。
2. 個人の物件を移すときのコストが大きい
個人で持っている物件を法人に移すのは、法人への売却です。個人側では譲渡所得の税金(所有5年以下なら短期の高い税率)、法人側では不動産取得税や登録免許税がかかります。残っているローンは、金融機関の承諾を得るか借り換えが必要です。不動産売却の税金については不動産売却の税金|短期・長期譲渡所得の税率と法人で売る場合の違いで解説しています。
3. 社会保険への加入
法人から役員報酬を受け取ると、原則として社会保険への加入が必要です。会社員の方が副業で資産管理法人の役員になる場合など、報酬の設計によって負担が変わるため、事前の確認が欠かせません。
4. 設立直後は「決算の実績」がない
ここが融資の観点で最も重要なデメリットです。次の章で詳しく説明します。
資産管理法人と融資|銀行は法人の決算書だけを見る
個人で物件を買っていたときは、銀行は勤務先・年収といった個人の属性と、確定申告書を見て審査していました。法人で買う場合、審査の土台は法人の決算書に移ります。設立したばかりの法人には決算の実績がなく、個人の年収がいくら高くても、法人としての信用は別物として評価されます。
もちろん実際には、代表者個人の資産や収入もあわせて見られますし、代表者が連帯保証を求められることも少なくありません。それでも、買い続けるためには、法人の決算書を「貸せる形」に育てていく必要があることに変わりはありません。
法人の決算書で、銀行が見ているもの
拙著『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、銀行の格付けを129点満点(安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点)のモデルで解説しています。正常先の目安は32点以上です。
資産管理法人で特に効いてくるのは、
- 利益が出ているか(赤字決算は収益性・返済能力で大きく減点)
- 純資産が積み上がっているか(安全性の中心。プロパー融資の目安は純資産1億円)
- 現預金に厚みがあるか(空室や修繕に耐えられるか)
の3点です。純資産1億円の考え方は純資産1億円で融資はどう変わるかで詳しく解説しています。
役員報酬を最大まで取り、経費を積み上げて法人の利益をゼロにする。税金は減りますが、銀行から見れば「利益が出ない、純資産が増えない会社」です。資産管理法人は財務を強くする器として使ってこそ、買い進める力になります。
設立前に決めておくべき4つのこと
資産管理法人は、設立した後から変えにくい項目がいくつもあります。融資と相続の両方を見据えて、設立前に次の4点を決めておきます。
- 株主構成:誰が株式を持つか。後継者に持たせるなら設立時がもっとも簡単で、後から移すと贈与や譲渡の問題が生じます
- 資本金と決算期:資本金は消費税の免税判定や法人住民税の均等割に影響します。決算期は、物件の取得時期や融資の申込み時期との兼ね合いで決めます。消費税の論点は法人設立前に知るべき消費税で解説しています
- 最初の物件と銀行:決算実績のない1期目に、どの銀行で、どの規模の物件を買うか。最初の取引銀行は、その後の法人の歩みを左右します
- 個人資産とのバランス:個人の現預金をすべて法人に入れてしまうと、個人の属性が弱くなります。代表者個人の資産も銀行は見ているため、両方の財務を並べて設計します
特に1期目・2期目の決算書は、その後何年にもわたって銀行に提出し続けることになります。最初から「見られることを前提とした決算書」をつくる意識が大切です。
筆者が法人の財務にこだわる理由
私は2014年に不動産投資を始め、2018年には累計約20億円まで買い進めました。ところが2019年、複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ、融資が止まりました。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたのです。
そこから毀損物件の売却、きちんとした納税、現預金の積み増しで財務を立て直し、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げ直しました。「払った税金の2倍、会社は強くなる」。利益を出して納税し、純資産を積み上げた法人は、銀行にとって「次も貸せる会社」になります。
相続対策としての資産管理法人|評価ルールの変化に注意
相続の観点では、資産管理法人は財産の承継をスムーズにする有力な手段です。一方で、株式の相続税評価には注意点があります。
- 不動産の保有割合が高い会社は、株式の評価で会社の純資産をもとにした方法(純資産価額方式)が中心になりやすい
- 純資産価額方式では、法人が取得してから3年以内の土地・建物は、通常の取引価額で評価される
- 個人で土地を持っていれば使える「小規模宅地等の特例」は、法人が所有する土地には個人と同じ形では使えない
さらに、令和8年度税制改正大綱では、相続開始前の一定期間内に取得した貸付用不動産の相続税評価を見直す方針が示されています(2027年1月1日以後の相続から適用予定)。相続直前に不動産を買って評価を下げる、という手法は、今後ますます通用しにくくなります。
相続税と法人の関係については相続税と法人の不動産で詳しく解説しています。相続対策は「評価額を下げる」より、「誰が、いつ、どの形で引き継ぐか」を早めに設計することのほうが効果が大きいのです。
まとめ
- 資産管理法人のメリットは、税率差、所得分散、相続時の承継のしやすさ、損失の繰越期間
- デメリットは、維持コスト、個人からの移転コスト、社会保険、設立直後に決算実績がないこと
- 法人で買い進めるなら、銀行が見るのは法人の決算書。利益と純資産を積み上げる設計が必要
- 相続税評価のルールは改正が続いている。最新の制度で試算し、承継の形を早めに決める
資産管理法人は、つくるタイミングと使い方次第で、買い進める力にも足かせにもなります。設立のタイミングについては不動産投資の法人化はいつがベストかもあわせてご覧ください。設立前の段階でご相談いただければ、融資・相続まで含めて設計できます。不動産投資家向けサービスからお気軽にお問い合わせください。
