「利益が出そうなので、法人で保険に入りませんか」。決算前になると、こうした提案を受ける経営者は多いと思います。法人の生命保険が損金になるかどうかは、保険の種類と解約返戻率で決まります。ただ、それ以上に考えてほしいのは、その保険料が決算書と銀行の評価にどう映るかです。
この記事では、法人で入る生命保険の経理の基本と、2019年以降のルール、そして融資の現場から見た保険の本当の影響を解説します。
- 定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率に応じて損金と資産計上の割合が決まる(50%以下は原則全額損金)
- 終身保険は原則として全額資産計上、一定の養老保険は2分の1資産計上・2分の1損金
- 損金にできても、税金はなくなるのではなく先送りされることが多い。解約返戻金を受け取れば益金になる
- 銀行は保険積立金を解約返戻金ベースで見直し、保険料で下がった経常利益で格付けや債務償還年数を計算する
法人で入る生命保険の主な種類と経理
法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者とする生命保険は、種類によって経理が変わります。
| 種類 | 保険の特徴 | 保険料の経理(法人が受取人の場合) |
|---|---|---|
| 定期保険・第三分野保険 | 保険期間が決まっている。満期保険金はない | 最高解約返戻率に応じて損金と資産計上を按分 |
| 終身保険 | 一生涯の保障。解約返戻金が積み上がる | 原則として全額資産計上(保険積立金) |
| 養老保険 | 死亡保険金と満期保険金がある | 原則として全額資産計上 |
養老保険には、役員・従業員のほぼ全員を被保険者とし、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族、満期保険金の受取人を法人とする形で加入すると、保険料の2分の1を資産計上、2分の1を福利厚生費として損金にできる取扱いがあります。いわゆるハーフタックスプランです。役員だけを対象にするなど普遍的な加入でなければ、給与として扱われることがあります。
2019年以降の定期保険・第三分野保険のルール
2019年の通達改正で、保険期間3年以上の定期保険・第三分野保険は、最高解約返戻率(契約期間中に最も高くなる解約返戻率)で経理が決まるようになりました。
| 最高解約返戻率 | 資産計上の割合(資産計上期間中) | 主な資産計上期間 |
|---|---|---|
| 50%以下 | 資産計上なし(原則全額損金) | ― |
| 50%超〜70%以下 | 保険料の40% | 保険期間の当初4割の期間 |
| 70%超〜85%以下 | 保険料の60% | 保険期間の当初4割の期間 |
| 85%超 | 当初10年間は保険料×最高解約返戻率×90%など、大部分 | 解約返戻金の増え方に応じて決まる |
資産計上した部分は、保険期間の後半に取り崩して損金にしていきます。また、最高解約返戻率が70%以下で、年換算の保険料が被保険者1人あたり30万円以下の契約は、全額損金にできる例外もあります。
改正の背景には、解約返戻率の高い保険で多額の保険料を損金にし、後で解約して受け取るという、いわゆる「節税保険」の広がりがありました。現在は、解約返戻金が多く戻る保険ほど損金になりにくい仕組みです。
このルールは、原則として2019年7月8日以後に契約した保険に適用されます。それより前に契約した保険は、従来の取扱いのまま経理していることが多いはずです。同じ会社の中で、契約時期によって経理が違う保険が混在しているケースは珍しくありません。決算書の保険積立金が何の契約のどの部分なのか、保険証券と解約返戻金の推移表で一度棚卸ししておくと、銀行から質問されたときにも説明できます。
保険で税金は「なくなる」のか
保険料を損金にすれば、その期の法人税は減ります。しかし、解約返戻金を受け取れば、その時点で資産計上額との差額が益金になります。多くの場合、税金はなくなるのではなく、将来に先送りされているだけです。
先送りに意味があるのは、解約返戻金を受け取る時期に、大きな損金と重なる場合です。典型的なのが役員退職金です。退任のタイミングで解約返戻金を退職金の原資に充てれば、益金と損金が相殺されます。逆に、出口の設計がないまま加入すると、解約した年に利益が膨らみ、結局税金を払うことになります。節税と財務の関係は良い節税・悪い節税でも詳しく書いています。
銀行は保険をどう見ているか
ここからが、クレフティとしてお伝えしたい本題です。保険料を損金にすれば税金は減りますが、決算書の見え方も変わります。
1. 保険積立金は「解約返戻金」で見直される
銀行は、決算書の数字をそのまま使うのではなく、実態に合わせて修正した「実質的な純資産」で会社を見ます。保険積立金は、実際に解約したらいくら戻るかに置き換えられることが多い科目です。帳簿上の保険積立金が2,000万円でも、解約返戻金が1,500万円なら、500万円は実質的な資産の目減りとして扱われます。
2. 保険料は経常利益を押し下げる
損金になる保険料は、経常利益を直接減らします。私の著書で紹介している銀行格付けモデル(129点満点)では、収益性と返済能力の配点が大きく、経常利益の減少は点数に響きます。
債務償還年数で比べてみます。借入金3億円、現預金5,000万円、減価償却費1,000万円の会社が、全額損金の保険料1,000万円を払ったとします(法人税等は利益の30%と仮定)。
| 項目 | 保険なし | 保険料1,000万円 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 3,000万円 | 2,000万円 |
| 法人税等 | 900万円 | 600万円 |
| 返済原資(経常利益+減価償却費−法人税等) | 3,100万円 | 2,400万円 |
| 債務償還年数((借入金−現預金)÷返済原資) | 約8.1年 | 約10.4年 |
健全とされる「10年以内」から外れました。税金は300万円減りましたが、手元から出ていった現金は1,000万円で、決算書の評価も下がっています。債務償還年数の考え方は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで解説しています。
3. それでも保険が評価される場面
一方で、保険が銀行に評価される場面もあります。
- 経営者に万一があったときの返済原資:社長1人に売上や信用が集中している会社では、死亡保険金で借入を返せる備えは、銀行にとって安心材料になる
- 事業承継や退職金の原資:役員退職金の資金を計画的に準備していることは、承継の見通しとして説明できる
- いざというときの資金:解約返戻金や契約者貸付は、緊急時の資金繰りの手段になる
ポイントは、必要な保障額から逆算して加入しているかです。借入残高や運転資金、退職金の予定額から必要額を出し、その範囲で加入しているなら、銀行にも筋の通った説明ができます。「利益が出たから入る」では説明になりません。不動産投資の借入では団体信用生命保険という選択肢もあります(法人の不動産投資と団信)。
保険金を受け取ったときの経理と相続
経営者が亡くなり、法人が死亡保険金を受け取ると、資産計上していた保険積立金との差額は益金になり、法人税の対象です。何もしなければ、会社は保険金に税金を払うことになります。
そこで多くの会社は、受け取った保険金を原資に、遺族へ死亡退職金や弔慰金を支給します。退職金は役員の勤続年数や功績に見合った適正額であれば損金になり、保険金の益金と相殺できます。遺族が受け取る死亡退職金は相続税の対象ですが、「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。
| 場面 | 会社側 | 遺族側 |
|---|---|---|
| 法人が死亡保険金を受け取る | 保険積立金との差額が益金 | ― |
| 会社が死亡退職金を支給する | 適正額なら損金 | 相続税の対象(500万円×法定相続人の数まで非課税) |
| 借入の返済に充てる | 借入金と現預金が減る | 相続する株式の評価に反映される |
保険金を退職金として遺族に渡すのか、会社に残して借入返済や運転資金に充てるのかで、会社の財務も相続税も変わります。受け取った後の使い道まで決めて加入することが、保険を生かす前提です。
「払った税金の2倍、会社は強くなる」
私がよくお伝えする言葉です。法人税を払って残った利益は、純資産と現預金として積み上がり、銀行格付けを押し上げます。それが次の融資の土台になります。
保険料で利益を減らすことは、裏を返せば、純資産と経常利益を減らすことです。融資を受け続けたい会社ほど、保険を「税金を減らす道具」ではなく「リスクに備える道具」として使ってください。加入を決める前に、次の3つを確認すると判断を誤りにくくなります。
- 何のための保険か:死亡時の借入返済、退職金の原資、事業承継など、目的を一言で言えるか
- 出口はいつか:解約返戻金を受け取る時期に、退職金などの損金を合わせられるか
- 決算書がどう変わるか:保険料を払った後の経常利益、純資産、債務償還年数を試算したか
まとめ
- 定期保険・第三分野保険は最高解約返戻率で経理が決まる。50%以下は原則全額損金
- 終身保険は原則全額資産計上、普遍的に加入した養老保険は2分の1損金
- 損金算入は多くの場合、税金の先送り。解約返戻金の出口を退職金などと合わせて設計する
- 銀行は保険積立金を解約返戻金ベースで見直し、保険料で下がった経常利益で格付け・債務償還年数を計算する
- 保険は、必要な保障額から逆算して加入すれば、返済原資・承継資金として銀行にも説明できる
クレフティでは、保険の加入や見直しが決算書と融資にどう影響するかを試算したうえで、資金調達・融資のサポートの中でご相談をお受けしています。役員退職金の設計は役員報酬の決め方もあわせてご覧ください。
