会社の設立登記が終わると、ほっとして本業に集中したくなります。ところが、法人設立後には税務署・都道府県・市区町村に出す届出がいくつもあり、なかには期限を過ぎると取り返しがつかないものがあります。
この記事では、法人設立後に必要な税務の届出を、提出先と期限つきの一覧で整理します。あわせて、出し忘れたときに何が起きるのか、そして届出の管理が金融機関の評価にどうつながるのかを、税理士・公認会計士の目線で解説します。
- 税務署への必須3点は法人設立届出書(2か月以内)、青色申告の承認申請書(最短で設立から3か月以内)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)
- 都道府県・市区町村にも別に設立届が必要。期限は自治体ごとに異なり、東京都は事業開始から15日以内
- 消費税・インボイスの届出は、第1期中に出さないと選べないものがある
- いちばん痛いのは青色申告の出し忘れ。創業期の赤字を繰り越せなくなる
税務署に出す届出一覧と提出期限
まず、本店所在地を管轄する税務署に出す主な届出です(2026年10月時点)。
| 届出 | 対象 | 提出期限 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | すべての法人 | 設立の日以後2か月以内 |
| 青色申告の承認申請書 | 青色申告をする法人 | 設立の日以後3か月を経過した日と、第1期の終了日のいずれか早い日の前日 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 役員報酬・給与を支払う法人 | 開設の日から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 給与の支払を受ける人が常時10人未満 | 随時(提出月の翌月に源泉徴収する分から適用) |
| 棚卸資産の評価方法の届出書 | 評価方法を選ぶ場合 | 第1期の確定申告書の提出期限まで |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 償却方法を選ぶ場合 | 第1期の確定申告書の提出期限まで |
法人設立届出書
すべての法人が出す基本の届出です。定款の写しなどを添付します。この届出をもとに、税務署から申告書の案内などが届くようになります。
青色申告の承認申請書
もっとも期限に注意が必要な届出です。設立第1期から青色申告をするには、「設立の日以後3か月を経過した日」と「第1期の事業年度終了の日」のいずれか早い日の前日までに提出しなければなりません。第1期を短く設定した会社は、3か月より前に期限が来ることもあります。
給与支払事務所等の開設届出書
社長1人の会社でも、役員報酬を払うなら源泉徴収義務者になるため、この届出が必要です。
源泉所得税の納期の特例
源泉徴収した所得税は、原則として翌月10日までに毎月納めます。給与の支払を受ける人が常時10人未満であれば、この特例の承認を受けることで、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日の年2回にまとめて納付できます。申請した月の翌月末日までに却下の通知がなければ承認されたものとみなされ、翌月に源泉徴収する分から適用されます。
なお、税理士報酬などの一部を除き、個人への外注費(デザイン料など)から源泉徴収した所得税は特例の対象外で、毎月納付が必要です。
棚卸資産・減価償却の方法の届出
届出をしなければ、法定の方法(棚卸資産は最終仕入原価法、減価償却は資産の種類に応じた法定の方法)が適用されます。法定の方法で問題ない会社は、出さなくても構いません。
消費税・インボイスの届出は「第1期中」が勝負
消費税の届出の多くは、提出した課税期間の翌期から効力が生じるのが原則です。ただし設立第1期については、その期中に出せば第1期から適用できる特例があります。
| 届出 | 主な内容 | 設立時の期限 |
|---|---|---|
| 消費税簡易課税制度選択届出書 | 簡易課税を選ぶ | 第1期の末日まで(第1期から適用する場合) |
| 消費税課税事業者選択届出書 | 免税事業者があえて課税事業者になる | 第1期の末日まで(第1期から適用する場合) |
| 適格請求書発行事業者の登録申請書 | インボイス発行事業者になる | 第1期の末日までに提出すれば、設立日にさかのぼって登録を受けられる |
| 消費税の新設法人に該当する旨の届出書 | 資本金1,000万円以上で設立 | 速やかに(法人設立届出書に記載すれば不要) |
設備投資が大きく、消費税の還付を受けたい場合の課税事業者選択や、インボイス登録をするかどうかは、第1期のうちに判断しないと選択肢がなくなる論点です。判断の考え方は法人設立前に知るべき消費税で詳しく解説しています。
都道府県・市区町村に出す届出
法人住民税と法人事業税は地方税のため、税務署とは別に、都道府県と市区町村にも法人設立の届出が必要です。
| 提出先 | 届出 | 提出期限の例 |
|---|---|---|
| 都道府県(都税事務所・県税事務所) | 法人設立届(名称は自治体による) | 東京都は事業開始の日から15日以内 |
| 市区町村 | 法人設立届 | 自治体ごとに定める期限 |
- 東京23区内の法人は、市町村民税に相当する部分も都が課税するため、都税事務所への提出で足ります
- 期限は自治体ごとに異なります。本店所在地の自治体のホームページで必ず確認してください
- 添付書類として定款の写しなどを求められるのが一般的です
国税と地方税の設立届は、法人設立ワンストップサービスやeLTAXを使うと、オンラインでまとめて提出できます。税務署・都道府県・市区町村をそれぞれ回る必要がなく、控えもデータで残るので、出したかどうかの管理も楽になります。
設立日から見たスケジュール例
期限は「設立の日」を起点にするものが多いため、カレンダーに落としておくと漏れが防げます。たとえば、2026年11月2日に設立し、第1期を2027年10月末までとした会社を例にすると、次のようになります(日付は目安です。土日祝日の扱いは各制度で確認してください)。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 設立直後〜5日以内 | 年金事務所に健康保険・厚生年金保険の新規適用届と役員の資格取得届 |
| 設立から15日以内 | 都税事務所に法人設立・設置届出書(東京都で事業を開始した場合) |
| 設立から1か月以内 | 税務署に給与支払事務所等の開設届出書。あわせて源泉所得税の納期の特例の申請 |
| 設立から2か月以内 | 税務署に法人設立届出書(設立直後にまとめて出すのが確実) |
| 2027年2月1日まで | 青色申告の承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日=2月2日の前日が期限) |
| 第1期の末日(2027年10月31日)まで | 消費税の簡易課税・課税事業者選択、インボイス登録の判断と提出 |
実務では、設立から1〜2週間のうちに、税務署・都道府県・市区町村の届出を一度に出してしまうのがおすすめです。期限がばらばらの書類を個別に管理するより、まとめて出すほうが漏れがありません。
社会保険と労働保険の手続きは、税務とは別に年金事務所・労働基準監督署・ハローワークに出します。期限が5日以内と短いものもあるので、起業したときの社会保険の加入もあわせて確認してください。
出し忘れると何が起きるか
届出の多くは、出し忘れても罰則があるわけではありません。しかし、「選べたはずの有利な選択肢を失う」という形で効いてきます。
青色申告を出し忘れた場合
第1期は白色申告になり、次のような青色申告の特典が使えません。
- 赤字(欠損金)を翌期以降10年間繰り越して、将来の黒字と相殺する制度
- 少額減価償却資産の特例など、中小企業向けの特例の一部
創業期は設備投資や採用が先行し、赤字になりやすい時期です。第1期の赤字を繰り越せず、2期目に黒字になったときにそのまま課税されてしまう。創業期の資金繰りにとっては大きな痛手です。
消費税の届出を出し忘れた場合
第1期中に簡易課税や課税事業者選択の届出を出し忘れると、適用は翌期からになります。設立初年度に大きな設備投資をして消費税の還付を受けるつもりだったのに、届出が間に合わず還付を受けられなかった、ということが起こりえます。
届出の管理は、銀行に見られている
届出の話は事務手続きに見えますが、私は金融機関の評価にもつながる話だと考えています。
金融機関は融資の審査で、決算書と申告書の一式に加えて、納税証明書の提出を求めることがあります。申告書には青色申告かどうかが表示されますし、税金の未納があれば納税証明書でわかります。創業期から期限どおりに届出・申告・納付ができている会社は、それだけで「管理ができる会社」と評価されます。逆に、源泉所得税の納付漏れで延滞税や加算税を払っている会社は、担当者の目に留まります。
融資の世界では、数字の良し悪しと同じくらい「この経営者は約束を守れるか」が見られています。期限を守ることは、その一番わかりやすい証拠です。決算書を銀行に出す前の確認ポイントは決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで解説しています。
まとめ
- 税務署への必須3点は、法人設立届出書(2か月以内)、青色申告の承認申請書(最短で3か月以内)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)
- 従業員が常時10人未満なら、源泉所得税の納期の特例で納付を年2回にできる
- 消費税の簡易課税・課税事業者選択・インボイス登録は、第1期中の判断が重要
- 都道府県・市区町村にも別に設立届が必要。期限は自治体ごとに確認する
- 届出と期限の管理は、金融機関からの「管理ができる会社」という評価につながる
会社設立の段取りそのものは会社設立は自分でやるか専門家に頼むかで解説しています。クレフティでは、設立前の設計から設立後の届出、最初の決算・申告まで一貫してご支援しています。スタートアップ・起業支援からご相談ください。
