「前の担当者はOKしてくれていたのに、担当が替わった途端に話が進まなくなった」。融資のご相談で、よく聞く言葉です。
担当者と仲良くなること自体は悪いことではありません。ただ、それだけに頼った関係は、担当者の異動とともにリセットされてしまいます。 担当者が替わっても融資が続く会社は、銀行との付き合い方の「相手」と「中身」が違います。
- 銀行の担当者は数年で異動するため、担当者個人ではなく「支店・銀行という組織」と信頼関係をつくることが大切
- 経営者の仕事は、担当者が稟議書に良い内容を書ける材料を出し続けること
- 決算書は決算が終わったらすぐ、良い決算でも悪い決算でも持っていく
- 面談では「決算書・試算表・来期の事業計画」の3点セットで、数字の背景にあるストーリーを自分の言葉で伝える
銀行の担当者は数年で異動する、という前提に立つ
まず押さえておきたいのは、銀行の担当者は数年ごとに異動するのが普通だという事実です。メガバンクに限らず、地方銀行や信用金庫でも同じです。おおむね2〜3年程度で担当が替わると考えておいたほうがよいでしょう。
10年同じ銀行と取引していれば、その間に担当者が3〜5人替わってもおかしくありません。しかも、引き継ぎの質は人によってまちまちです。前任者がどれだけ自社のことを理解してくれていても、新しい担当者がゼロから理解し直す、ということは珍しくありません。
つまり、「この担当者がずっといてくれる」という前提で関係をつくるのは、構造的に無理があります。担当者との相性や人間関係は大切ですが、それに全力を注ぐのは戦略として弱いのです。
では、何に力を注げばよいのか。答えは「支店・銀行という組織との信頼関係」です。
支店・銀行と関係をつくるとは「稟議書の材料」を出し続けること
担当者が替わっても、記録は支店に残る
銀行が融資を決めるときには、担当者が稟議書(りんぎしょ)と呼ばれる社内の決裁資料を作成し、支店長や本部の審査部門の承認を得ます。稟議書には、会社の事業内容や財務の状況、経営者の考え方などが書かれ、記録として銀行に残ります。
担当者が替わっても、過去の稟議書や面談の記録は残ります。前の担当者が「この会社はこういう会社です」と書いた記録を、次の担当者が読むわけです。
だから、経営者がやるべきことは「担当者に気に入ってもらうこと」ではありません。「稟議書に良い内容を書いてもらえる材料を、こちらから提供し続けること」です。
材料とは、決算書・試算表・事業計画と、その説明
具体的には、決算書、試算表、事業計画を定期的に持っていき、わかりやすく説明することです。担当者が稟議書を書きやすい情報を、こちらから出し続ける。
これを続けていると、担当者が替わっても「この会社は自分から情報を出してくれる、誠実な取引先だ」という評価が、支店の共通認識として積み上がっていきます。これが、担当者個人ではなく組織との信頼関係です。
| 担当者個人との関係に頼る | 支店・銀行との関係をつくる | |
|---|---|---|
| 主な手段 | 接待・雑談・相性 | 決算書・試算表・事業計画の定期的な提出と説明 |
| 担当者の異動時 | 関係がリセットされやすい | 稟議書や面談記録として評価が引き継がれる |
| 業績が悪い年 | 担当者の好意だけでは通らない | 過去の誠実な情報開示が下支えになる |
| 経営者の役割 | 気に入られること | 稟議書に書ける材料を出し続けること |
決算書は「決算が終わったら、すぐ」持っていく
何も言わずに過ごすのは、もったいない
決算書を持っていくタイミングの鉄則は、決算が終わったらすぐです。
ところが実際には、決算書ができあがっても、融資の相談がなければ銀行に何も言わずに過ごす経営者が少なくありません。これは非常にもったいないことです。
銀行は毎期、「この会社は今期どうだったか」を知りたがっています。決算の内容をもとに格付けを見直し、融資を継続するか、取引枠を増やすか減らすかを判断するからです。その情報をこちらから先に届けるのと、銀行から催促されて出すのとでは、関係の質がまったく違います。
良い決算も、悪い決算も持っていく
良い決算なら持っていきやすいでしょう。問題は悪い決算のときです。結論から言えば、悪い決算でも持っていきます。むしろ悪い決算こそ、先に持っていくべきです。理由は後ほど詳しくお話しします。
決算書を銀行に出す前に、銀行がどの数字をどう見ているかを確認しておくと、説明の準備がしやすくなります。チェックの観点は決算書を銀行に出す前にやるべきチェックで解説しています。
「数字を出す」ではなく「ストーリーを伝える」
決算書を渡すだけでは不十分
決算書を持っていくとき、「これが今期の決算書です」と渡すだけでは不十分です。数字だけを渡されると、担当者は自分で解釈するしかありません。その結果、こちらにとって都合の悪い読み方をされることもあります。
だから必要なのは、数字の背景にある「ストーリー」を伝えることです。
ストーリーの3つの軸
説明するときは、次の3つの軸を意識してください。
- 前期と今期で何が変わったか:売上が増えた理由、利益率が改善した(あるいは悪化した)理由。数字の背後にある経営の文脈を、自分の言葉で説明します。
- 今期力を入れたことと、今後の計画:どの事業に力を入れているか、来期に向けてどんな手を打っているか。担当者は「この経営者は先を見ているか」を見ています。
- 財務上の課題と対策:負債が増えているなら「なぜ増えて、どう返す計画か」。利益が下がっているなら「一時的な要因か、構造的な問題か」。
課題をこちらから先に説明すると、担当者は「これなら稟議書に書ける」と安心します。担当者が稟議書を書きやすいように、材料と文脈をセットで出す。これが銀行員との付き合い方の核心です。
面談に持っていく3点セット
具体的に、銀行との面談に持っていくものを整理します。
| 持っていくもの | ポイント |
|---|---|
| ① 決算書(直近期) | 貸借対照表・損益計算書に加え、勘定科目内訳明細書など付属資料も。前期との比較がわかる形にしておく |
| ② 直近の試算表 | 決算から半年ほど経っていれば、今期の途中経過がわかる試算表を持参する |
| ③ 来期の事業計画 | A4一枚で十分。売上目標・利益目標・主な取り組みを書く |
試算表で「今期の動向も見えている」と伝える
決算書は過去の数字です。決算からしばらく経っているなら、今期の状況がわかる試算表を一緒に持っていきましょう。「今期はいまのところこういう状態です」と説明できると、銀行は「この経営者は自社の動きを把握している」と安心します。
事業計画は大げさなものでなくていい
意外と多くの方がやっていないのが、来期の事業計画です。分厚い計画書をつくる必要はありません。A4一枚でいい。来期の売上目標、利益目標、主な取り組みを書いただけで十分です。
大事なのは、「この経営者は先のことを考えている」と担当者に感じてもらうことです。精密な財務モデルよりも、方向性と意志が伝わる一枚のほうが、信頼関係づくりには効きます。融資の申込みで本格的な計画書が必要になったときの書き方は、融資のための事業計画書の書き方で解説しています。
年間の付き合い方の目安
融資の相談があるときだけ銀行に行くのではなく、年間を通じて定期的に接点を持つのが理想です。目安としては、次のようなリズムをおすすめしています。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 決算確定後すぐ | 決算書を持参し、前期比の変化と来期の計画を説明する |
| 決算から半年後 | 試算表を持参し、今期の途中経過と見通しを報告する |
| 大きな動きがあったとき | 大口の受注・物件の取得や売却・役員の交代などを、事後ではなく事前または直後に伝える |
| 融資を相談する前 | 資金の使い道と返済の見通しを、数字で説明できるよう準備する |
ポイントは、融資の相談がない時期にも顔を出すことです。お金が必要になってから初めて連絡するのでは、担当者は会社のことを知らないまま稟議書を書かなければなりません。日ごろから情報が届いていれば、いざ融資を相談するときに、担当者はすでに「書ける材料」を持っている状態になります。
悪い決算こそ、先に持っていく
黙っていると、銀行は最悪を想像する
業績が悪い年ほど、銀行との接触を避けたくなるものです。「何か言われそう」「追加資料を求められそう」「融資が止まるかもしれない」。気持ちはよくわかります。
しかし、これは逆効果です。決算期を過ぎても連絡がない会社について、銀行は「何かまずいことがあって来られないのではないか」と想像します。黙っていることで、信頼を失うのです。
逆に、悪い決算を持って先に説明に行くと、「この経営者は誠実だ」「問題を隠さない」という評価になります。銀行の格付けには、決算書の数字で決まる定量評価のほかに、経営者の資質や銀行との関係といった定性評価があります。先に説明する誠実さは、数字に出ない信用として積み上がっていきます。
「なぜ悪かったか」と「来期どうするか」をセットで
ただし、悪い決算をただ渡すだけでは意味がありません。「なぜ悪かったのか」「来期に向けて何をするのか」を必ずセットで話してください。そこまで説明して初めて、誠実な対応として受け取られます。
私自身が融資を止められたときにやったこと
偉そうに書いていますが、私自身、銀行との関係を一度失った経験があります。
2014年から不動産投資を始め、順調に買い進めていましたが、2019年、複数の金融機関から「あなたには、貸せません」と言われました。そのとき私がやったことは、大きく2つです。
1つ目は、自分から動いて、状況を説明しに行ったことです。逃げずに「いまの状況はこうです。この計画でバランスシートを改善します」と、先に持っていって説明しました。厳しいことを言われたこともありますし、反応が冷たい銀行もありました。それでも、黙らないという姿勢を見せ続けました。
2つ目は、バランスシートを実際に改善したことです。毀損した物件を売却し、きちんと納税し、現預金を厚くしました。これは数字として決算書に表れます。翌年、翌々年と決算書が改善していくのを見せることで、「この経営者は言ったことを実行した」という実績になりました。
ここで強調したいのは、ストーリーを語るだけでは信頼にはならないということです。語ったストーリーの通りに数字が動いていくことで、初めて本物の信頼になります。その後、銀行との関係を立て直し、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げることができました。融資が止まる構造そのものについては、2棟目・3棟目の融資が止まる本当の理由で詳しく書いています。
まとめ
- 担当者が替わっても融資が続くのは、担当者個人ではなく支店・銀行との信頼関係があるから
- 経営者の役割は、稟議書に良い内容を書ける材料を出し続けること
- 決算書は決算が終わったらすぐ持参する。良い決算でも悪い決算でも先に説明しに行く
- 面談では「決算書・試算表・事業計画」の3点セットで、数字のストーリーを自分の言葉で伝える
- 悪い決算を隠すと信頼を失う。先に説明する誠実さが、定性評価として積み上がる
銀行との関係は、一度築いたら終わりではなく、毎年更新していくものです。決算書を持っていくたびに信頼を積み上げる。その積み重ねがすべてです。
どの銀行に、何を、どう説明すればよいか。決算書をお持ちいただければ、銀行の目線から一緒に整理します(融資・資金調達のご支援)。プロパー融資への移行も視野に入れたい方は、保証協会付き融資とプロパー融資の違いもあわせてご覧ください。
