「銀行融資の審査では、いったい何を見られているのか」。経営者の方から、最もよく受ける質問の一つです。銀行は審査の中身を教えてくれませんし、断られても理由をはっきり言われることはほとんどありません。
しかし、銀行融資の審査には決まった「型」があります。決算書を点数化する「格付け」、その結果として会社を分類する「債務者区分」、数字に表れない部分を見る「定性評価」、そして案件ごとに確認する「資金使途と返済原資」です。この記事では、銀行融資の審査で見られるポイントを、この4つの層に分けてわかりやすく解説します。
- 銀行融資の審査は「格付け(定量評価)→ 債務者区分 → 定性評価 → 案件審査」の順に見られる
- 格付けは決算書の点数化。著書のモデルでは129点満点で、最も配点が大きいのは返済能力(55点)
- 新規融資を前向きに検討してもらえるのは、原則として債務者区分が「正常先」の会社(著書のモデルで32点以上)
- 定性評価や案件の説明で評価は補正できる。ただし土台は決算書。決算書を「貸せる形」に整えることが最大の審査対策
銀行融資の審査は「4つの層」でできている
銀行の審査は、担当者の印象やその場の雰囲気で決まるものではありません。多くの銀行で、おおむね次の順序で判断が積み上がっていきます。
| 層 | 何を見るか | 主な材料 |
|---|---|---|
| 1. 格付け(定量評価) | 会社の財務の健全性を点数化 | 決算書(通常は直近2〜3期分) |
| 2. 債務者区分 | 格付けをもとに会社を分類 | 格付け、延滞の有無、実態の財務内容 |
| 3. 定性評価 | 数字に表れない強み・弱み | 経営者、業界、取引状況、面談 |
| 4. 案件審査 | 今回の融資そのものの妥当性 | 資金使途、返済原資、返済期間、担保・保証 |
ポイントは、下の層ほど土台になるということです。いくら事業の将来性を熱く語っても、格付けと債務者区分で「貸せない会社」と判断されていれば、案件の中身まで検討してもらえないことがあります。順に見ていきましょう。
格付け(定量評価):決算書が点数になる
銀行は決算書を受け取ると、財務指標を計算し、会社を点数化します。これが格付け(信用格付け)です。点数の付け方は銀行ごとに異なり公開もされていませんが、見ている観点は共通しています。
著書の格付けモデル(129点満点)
私の著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、銀行格付けを次の4分野、129点満点のモデルで解説しています。
| 分野 | 配点 | 代表的な指標 |
|---|---|---|
| 安全性 | 34点 | 自己資本比率、純資産の厚み など |
| 収益性 | 15点 | 経常利益の水準 など |
| 成長性 | 25点 | 売上や利益の伸び など |
| 返済能力 | 55点 | 債務償還年数 など |
| 合計 | 129点 | 正常先の目安は32点以上 |
配点を見ると、返済能力が全体の4割強を占めることがわかります。銀行が最終的に知りたいのは「貸したお金が返ってくるか」なので、当然といえば当然です。返済能力を測る代表的な指標である債務償還年数の計算方法は、決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで計算例つきで解説しています。
反対に、収益性の配点は15点と相対的に小さくなっています。「今年は利益がたくさん出たから大丈夫」と考えがちですが、銀行は単年度の利益よりも、その利益で借入をどれだけ早く返せるか、どれだけ純資産が積み上がっているかを重く見ているのです。
決算書は「実態」に修正されてから評価される
もう一つ知っておいてほしいのが、銀行は決算書をそのまま点数化するとは限らないということです。資産の中に実態のないものが含まれていれば、それを差し引いた「実態のバランスシート」で評価し直します。
修正の対象になりやすいのは、たとえば次のような科目です。
- 回収の見込みが薄い売掛金や貸付金
- 社長や関係会社への貸付金、使途のはっきりしない仮払金
- 売れる見込みのない在庫
- 時価が大きく下がっている有価証券や不動産
決算書上は純資産がプラスでも、実態修正の結果、債務超過と判断されることもあります。「帳簿上の数字」と「銀行が見ている数字」は違うという前提で、自社の決算書を点検しておくことが大切です。
債務者区分:あなたの会社は銀行の中でどこにいるか
格付けの結果などをもとに、銀行は取引先を「債務者区分」に分類します。かつて金融庁の金融検査マニュアルで示されていた枠組みで、マニュアル自体は2019年12月に廃止されましたが、この区分の考え方は、現在も多くの金融機関の実務で使われています。
| 債務者区分 | おおまかな状態 | 新規融資の姿勢(目安) |
|---|---|---|
| 正常先 | 業況が良好で、財務内容にも特段の問題がない | 前向きに検討される |
| 要注意先 | 業況が不安定、財務内容に問題がある、返済条件を緩和しているなど | 慎重になる。保全や条件を厳しく見られる |
| 要管理先 | 要注意先のうち、延滞や返済条件の緩和が一定の状態にある | 新規融資はかなり難しい |
| 破綻懸念先 | 経営難の状態で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きい | 原則として新規融資は難しい |
| 実質破綻先 | 法的には破綻していないが、実質的に破綻状態にある | 新規融資は行われない |
| 破綻先 | 法的・形式的に経営破綻している | 新規融資は行われない |
※区分の細かな基準や運用は金融機関ごとに異なります。
私が「プロパー融資のスタートライン」として、まず正常先であること(著書のモデルで32点以上)を挙げているのはこのためです。要注意先以下に区分されると、銀行は引当金を積む必要が出てくるなど、その会社に貸すこと自体の負担が増えます。銀行の担当者がどれだけ前向きでも、区分が悪ければ稟議は通りにくくなるのです。
私が「貸せません」と言われたときに起きていたこと
2019年、私は複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ、不動産投資の融資がすべて止まりました。当時の私は、物件を買うことばかり考えていて、銀行が自分のバランスシートをどう見ているかを考えていませんでした。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っており、銀行の目から見れば「これ以上貸すと危ない先」になっていたのです。
そこから、毀損した物件を売却し、きちんと納税し、現預金を厚くして、財務を立て直しました。その結果、2025年までに総投資額82億円、45プロジェクトまで進めることができています。審査の仕組みを知ってから、銀行との会話はまったく別のものになりました。
定性評価:数字に表れない部分も見られている
定量評価で大まかな位置が決まったあと、それを補正するのが定性評価です。決算書だけではわからない、会社と経営者の「質」を見る部分です。
定性評価で見られる主な項目
- 経営者:経営経験、業界知識、数字への理解、後継者の有無、個人の資産と負債
- 事業:業界の動向、競合との違い、販売先や仕入先の安定性
- 銀行との取引状況:入出金の動き、預金の推移、約束した書類の提出や報告をきちんと守っているか
- 計画と実績:過去に示した計画と、実際の数字がどれだけ一致しているか
とくに見落とされがちなのが「銀行との取引状況」です。決算書や試算表を期限どおりに出す、悪い数字こそ早めに報告する、といった積み重ねは、確実に担当者の評価に表れます。
「計画と実績のずれ」は、静かに効いてくる
定性評価の中で、経営者の方が見落としやすいのが「計画と実績」です。前回の融資で示した事業計画に対して、実際の売上や利益がどうだったか。銀行はこれを記録しています。
計画を大きく下回る状態が続くと、次に計画書を出したとき、その数字自体が信用されにくくなります。逆に、手堅い計画を立てて、それを着実に達成してきた会社は、計画書の数字をそのまま信頼してもらいやすくなります。計画を立てるときから、あとで実績と照らし合わせられることを前提に臨んでください。
金融機関によって、重みの置き方が違う
定性評価の重みは、金融機関によって異なります。格付けの数字に厳格な銀行もあれば、地域の信用金庫のように、経営者との関係や地域での事業実態を比較的重視するところもあります。
当事務所のお客さまでも、年商5,000万円の美容室が、信用金庫から運転資金1,500万円の融資を受けた事例があります。事業の実態と経営者の姿勢を丁寧に伝えられたことが、結果につながりました。金融機関ごとの違いは、信用金庫と地方銀行の違いでも詳しく解説しています。
案件審査:資金使途と返済原資
格付けと定性評価を経て、最後に見られるのが「今回の融資」そのものです。ここで確認されるのは、主に次の3点です。
1. 資金使途は明確か
何に使うお金なのかは、必ず確認されます。運転資金なら、なぜその金額が必要なのか(売上の増加、仕入の前払い、入金サイトの長期化など)。設備資金なら、見積書や契約書があるか。使途がはっきりしない資金は、それだけで審査が止まります。
2. 返済原資はあるか
返済は「利益」から行うのが原則です。銀行は、税引後の利益に減価償却費を足した金額を、返済に充てられるお金の目安として見ます。毎年の返済額がこの範囲に収まっているか、返済期間は資金使途に見合っているかが問われます。
3. 保全(担保・保証)はどうするか
万一返済が滞ったときの備えとして、不動産担保や信用保証協会の保証などが検討されます。保証協会付き融資と、銀行が自らのリスクで貸すプロパー融資の違いは、保証協会付き融資とプロパー融資の違いをご覧ください。
審査で評価を上げるために、経営者ができること
最後に、銀行融資の審査を有利にするために、経営者自身ができることをまとめます。
| やること | 審査のどこに効くか |
|---|---|
| 債務償還年数を自分で計算し、改善策を持つ | 格付けの返済能力(配点55点) |
| 利益を削りすぎず、納税して純資産を積む | 格付けの安全性、債務者区分 |
| 社長への貸付金や仮払金、不良在庫を整理する | 実態修正による減点を防ぐ |
| 決算書・試算表を早めに、自分から説明する | 定性評価(銀行との取引状況) |
| 資金使途と返済計画を数字で示す | 案件審査 |
この中で、私が特に強調したいのは2つ目です。目先の税金を減らすために利益を圧縮すると、純資産が積み上がらず、格付けが上がりません。私はこれを「払った税金の2倍、会社は強くなる」と表現しています。納税は、銀行からの評価を高めるための投資でもあるのです。
まとめ
- 銀行融資の審査は「格付け → 債務者区分 → 定性評価 → 案件審査」の4層で見られる
- 格付けは決算書の点数化。著書のモデルでは129点満点で、返済能力が55点と最大の配点
- 新規融資を前向きに検討してもらえるのは原則「正常先」。目安は32点以上
- 決算書は実態に修正されてから評価される。社長貸付金や不良在庫は減点の原因になる
- 定性評価と案件の説明で評価は補正できるが、土台はあくまで決算書
クレフティは、累計120億円超の融資承認と、20行超の金融機関との折衝の経験をもとに、格付けの事前シミュレーションから銀行への説明資料づくりまでご支援しています。資金調達部長は元地方銀行員で、審査する側の目線から決算書をチェックします。詳しくは資金調達・融資支援のページをご覧ください。
