融資を申し込むとき、銀行から求められることが多いのが事業計画書です。ところが、「どう書けば融資に通るのか」がわからず、ネットのテンプレートを埋めただけの計画書を出してしまう方が少なくありません。
結論から言うと、融資に通る事業計画書の書き方には、はっきりした答えがあります。銀行が知りたいのは、事業の夢や理念ではなく、「この会社に貸したお金は、計画どおりに返ってくるか」です。この記事では、銀行が事業計画書で必ず確認する5つの項目と、それぞれの書き方のコツを解説します。
- 資金使途と必要額:何に、いくら、なぜ必要か。見積書で裏づける
- 売上計画の根拠:「客数×単価」などに分解し、一つひとつの数字に理由をつける
- 返済原資:税引後利益+減価償却費が、年間の返済額を上回っているか
- 資金繰り:月ごとに現預金が底をつかないか
- 下振れ時の対策:売上が計画を下回ったとき、どう手を打つか
事業計画書は「返済できること」の証明書
事業計画書を書く前に、まず視点を切り替えてください。融資のための事業計画書は、投資家に向けて成長の夢を語る資料とは役割が違います。
銀行は、貸したお金の元本と利息が返ってくることで収益を得ています。事業が10倍に成長しても、銀行が受け取るのは約束した利息だけです。一方、事業が失敗すれば元本を失います。だから銀行は、上振れの可能性よりも、下振れしても返済できるかを見ます。
| 視点 | 投資家向けの計画書 | 融資向けの事業計画書 |
|---|---|---|
| 読み手が知りたいこと | どこまで大きくなるか | 確実に返済できるか |
| 重視される数字 | 売上の成長率、市場規模 | 返済原資、資金繰り、純資産 |
| 好まれる計画 | 野心的な計画 | 根拠のある、手堅い計画 |
| 下振れへの備え | 次の資金調達で補う | 計画書の中で対策を示す |
銀行の審査は、決算書をもとにした格付けと、今回の融資の妥当性を見る案件審査とで成り立っています。事業計画書が主に効いてくるのは、この案件審査の部分です。審査の全体像は銀行融資の審査で見られるポイントで解説しています。
項目1:資金使途と必要額
最初に確認されるのが、「何に、いくら使うのか」です。ここが曖昧な計画書は、その先を読んでもらえないと考えてください。
書き方のコツ
- 設備資金は、見積書や契約書の金額と一致させる
- 運転資金は、必要になる理由を説明する(売上の増加で仕入が先行する、入金までの期間が長いなど)
- 「念のため多めに」という上乗せは避け、余裕資金を持つなら、その理由も書く
たとえば運転資金なら、「売掛金の回収まで平均2か月かかり、その間の仕入と人件費の支払いに◯◯万円が必要」というように、ビジネスの流れからお金が必要になる理由を示すと、銀行は納得しやすくなります。
項目2:売上計画の根拠
事業計画書で最も多い失敗が、売上計画に根拠がないことです。「前年比130%」「3年後に年商1億円」と書いても、なぜそうなるのかが説明されていなければ、銀行はその数字を信用しません。
売上は「分解」して書く
売上は、必ず要素に分解して書きます。
業種によって分解の仕方は変わります。飲食店なら「席数×回転数×客単価×営業日数」、BtoBのサービスなら「顧客数×月額単価」、製造業なら「受注件数×平均受注額」といった形です。
分解したら、それぞれの数字に根拠をつけます。前期の実績、既存顧客からの受注見込み、類似店舗の実績、商圏の人口など、第三者が確認できる事実ほど説得力が増します。
「実績からの延長」を基本にする
すでに事業を行っている会社なら、計画は直近の実績を出発点にします。実績と計画の間に大きな飛躍があるときは、その飛躍を生む具体的な理由(新店舗の出店、大口取引先との契約など)が必要です。
項目3:返済原資
ここが、銀行が最も時間をかけて見る部分です。返済は、原則として事業が生んだお金から行います。
減価償却費は、費用として計上されていてもお金は出ていかないため、返済原資に足し戻して考えます。この返済原資が、年間の元金返済額を上回っていることが、計画の大前提です。
計算例
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
|---|---|---|---|
| 売上 | 6,000万円 | 6,600万円 | 7,200万円 |
| 経常利益 | 400万円 | 550万円 | 700万円 |
| 法人税等 | 120万円 | 165万円 | 210万円 |
| 税引後利益 | 280万円 | 385万円 | 490万円 |
| 減価償却費 | 300万円 | 300万円 | 300万円 |
| 返済原資 | 580万円 | 685万円 | 790万円 |
| 年間の元金返済額 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
※数字は説明のための架空の例です。
この例では、1年目から返済原資が返済額を上回っています。もし返済原資が返済額を下回るなら、返済期間を延ばす、借入額を減らす、自己資金を厚くするなど、計画そのものを組み直す必要があります。
利益を削る計画は、返済原資を削る計画
ここで注意してほしいのが、税金を減らすことだけを考えて利益を圧縮すると、そのまま返済原資が減るということです。返済原資が減れば、債務償還年数(借入金を何年で返せるか)が悪化し、格付けも下がります。債務償還年数の計算方法は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで解説しています。
私が「払った税金の2倍、会社は強くなる」と言い続けているのは、このためです。きちんと利益を出して納税した会社ほど、返済原資と純資産が積み上がり、次の融資で有利になります。
項目4:資金繰り
年間の損益計画で返済できることを示しても、それだけでは足りません。利益が出ていても、入金と支払いのタイミングがずれれば、お金は途中で足りなくなるからです。
1年目は月次で書く
少なくとも融資後1年間は、月ごとの資金繰り(入金・出金・月末の現預金残高)を作成します。確認するのは、どの月も月末残高がマイナスにならないか、そして、ある程度の余裕を持てているかです。
季節によって売上が変動する業種や、仕入が先行する業種では、どこかの月で残高が大きく落ち込むことがよくあります。その谷の深さを把握していることが、銀行から見た「数字がわかる経営者」の証明になります。
資金繰り表をつくると、融資の申込額そのものが適切かどうかも見えてきます。谷の月に残高がマイナスになるなら、借入額が足りていません。反対に、どの月も残高が大きく余っているなら、必要以上に借りようとしている可能性があります。申込額の根拠を資金繰り表で示せれば、項目1の「必要額」の説明にもそのまま使えます。
項目5:下振れしたときの対策
最後に、売上が計画を下回った場合のシナリオです。多くの計画書はここが抜けていますが、銀行の担当者は稟議書を書くとき、必ず「計画どおりにいかなかったらどうなるか」を考えます。
書き方のコツ
- 売上が計画の8割にとどまった場合の利益と返済原資を、試算して示す
- そのときに削れる費用(広告費、採用の時期など)を具体的に書く
- 個人の資産や、追加で用意できる資金があれば、それも示す
下振れのシナリオを自分から示せる経営者は、銀行から見て最も安心できる経営者です。楽観的な計画だけを出すより、はるかに評価が上がります。
事業計画書を「融資に通る形」に仕上げるために
5つの項目を押さえたうえで、仕上げとして意識してほしいことがあります。
決算書との整合性をとる
既存事業の計画であれば、銀行は必ず過去の決算書と並べて見ます。過去の利益率と計画の利益率がかけ離れていれば、その理由を問われます。計画書は、過去の決算書の延長線上にあることを意識して作りましょう。
計画書に添えると説得力が増す資料
事業計画書は、単体で出すよりも、裏づけとなる資料をセットにしたほうが格段に伝わります。金融機関や案件によって求められるものは異なりますが、次のような資料を準備しておくと、面談がスムーズに進みます。
- 直近2〜3期分の決算書と、今期の試算表
- 借入金の一覧表(金融機関ごとの残高、月々の返済額、金利、返済期限)
- 設備資金の見積書・契約書
- 主要な取引先との契約書や、受注・予約の見込みがわかる資料
- 月次の資金繰り表
とくに借入金の一覧表は、意外と用意していない会社が多い資料です。銀行は「ほかの金融機関からいくら借りていて、毎月いくら返しているか」を必ず確認します。聞かれる前に一覧で示せる会社は、それだけで「数字を管理できている会社」と受け止められます。
経営者が自分の言葉で説明する
計画書を専門家に手伝ってもらうことは問題ありません。ただし、銀行との面談で数字を説明するのは経営者本人です。「なぜこの売上になるのか」「返済原資が足りなくなったらどうするのか」に、その場で答えられるようにしておいてください。
クレフティのご支援の実例
当事務所のお客さまでは、年商5,000万円の専門職の事業者が、9,000万円のM&A(事業の買収)にあたり、政府系金融機関と地方銀行の協調融資で資金を調達した事例があります。買収のように金額が大きく、将来の数字が見えにくい案件ほど、買収後の売上の根拠、返済原資、資金繰りを一つひとつ組み立てた計画書が、金融機関の判断を支えます。
私自身、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ、融資が止まった経験があります。当時は、物件を買うための数字は考えていても、銀行に「返せる」と納得してもらうための数字を組み立てていませんでした。財務を立て直し、計画を数字で語れるようになってから、2025年までに総投資額82億円、45プロジェクトまで進めることができました。
なお、これから創業する方が日本政策金融公庫に申し込む場合の準備は、日本政策金融公庫の創業融資|審査のポイントと自己資金の目安で詳しく解説しています。
まとめ
- 融資のための事業計画書は「返済できること」の証明書。上振れより下振れへの備えが見られる
- 銀行が必ず確認するのは「資金使途」「売上の根拠」「返済原資」「資金繰り」「下振れ時の対策」の5項目
- 返済原資は「税引後利益+減価償却費」。年間の元金返済額を上回る計画にする
- 利益を削る計画は、返済原資と純資産を削る計画でもある
- 計画は過去の決算書の延長線上に置き、経営者が自分の言葉で説明する
クレフティでは、元地方銀行員の資金調達部長と、ベンチャー企業のCFO出身のパートナーが、金融機関の目線で事業計画書の作成をご支援しています。累計120億円超の融資承認の経験をもとに、計画書づくりから銀行との面談の準備まで伴走します。詳しくは資金調達・融資支援のページをご覧ください。
