これから事業を始める方にとって、最初の資金調達先として最も名前が挙がるのが日本政策金融公庫の創業融資です。実績のない創業者にも門戸を開いている、政府系金融機関ならではの制度です。
ただ、「公庫は創業者に貸すのが仕事だから、申し込めば通る」と考えていると、審査で思わぬつまずき方をします。公庫も金融機関である以上、見ているのは「この人に貸したお金は、きちんと返ってくるか」という一点です。この記事では、日本政策金融公庫の創業融資の審査で見られるポイント、自己資金の目安、そして断られないための準備を、銀行と20行超の折衝を重ねてきた税理士の目線で解説します。
- 日本政策金融公庫の創業融資の中心は「新規開業・スタートアップ支援資金」。融資限度額は7,200万円で、制度上は自己資金の要件はない
- ただし審査では自己資金の額と「貯めてきた過程」が強く見られる。目安は必要資金の3分の1程度
- 審査の柱は「自己資金」「経験」「計画の根拠」「信用情報」の4つ。面談では計画書の数字を自分の言葉で説明できるかが問われる
- 創業融資は「ゴール」ではなく、次の銀行融資につながる最初の信用実績。1期目の決算書まで見据えて設計する
日本政策金融公庫の創業融資とは
日本政策金融公庫(以下、公庫)は、国が100%出資する政策金融機関です。民間の銀行が貸しにくい創業期の事業者や小規模事業者を支えることを役割の一つとしており、決算書がまだない創業者でも申し込める融資制度を用意しています。
中心となる「新規開業・スタートアップ支援資金」
現在、公庫の創業融資の中心となっているのが「新規開業・スタートアップ支援資金」です。以前は「新創業融資制度」という無担保・無保証人の制度があり、創業資金総額の10分の1以上の自己資金が要件とされていましたが、2024年に制度が見直され、現在の形に整理されています。
公庫の公式サイトに掲載されている主な条件は次のとおりです(2026年10月時点)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(いずれも据置期間5年以内) |
| 利率 | 基準利率。女性、35歳未満または55歳以上の方など、一定の要件に該当すると特別利率 |
| 担保・保証人 | 希望を聞きながら個別に相談 |
| 自己資金 | 金額の要件は設けられていない |
※条件や利率は改定されることがあります。申込みの前に、必ず日本政策金融公庫の公式サイトまたは窓口で最新の内容をご確認ください。
ここで注意してほしいのは、「限度額7,200万円」は上限であって、誰でもそこまで借りられるという意味ではないことです。実際の融資額は、事業の内容、自己資金、経験、計画の妥当性から個別に判断されます。
公庫と民間銀行(保証付き融資)の違い
創業期の資金調達には、公庫のほかに、自治体の制度融資(信用保証協会の保証を付けた銀行融資)という選択肢もあります。どちらが正解ということはなく、両方を並行して検討するのが一般的です。
保証協会付き融資の仕組みや、その先にあるプロパー融資(銀行が自らのリスクで行う融資)との関係は、保証協会付き融資とプロパー融資の違いで詳しく解説しています。創業期の資金調達手段の全体像は創業時の資金調達方法の比較もあわせてご覧ください。
審査で見られる4つのポイント
創業者には決算書がありません。だから公庫は、決算書の代わりに「人」と「計画」と「お金の準備」を見ます。私たちが融資のご相談を受けるときに必ず確認するのも、次の4点です。
ポイント1:自己資金(額と、貯めてきた過程)
最も重視されるのが自己資金です。制度上の要件がなくなっても、審査での重みは変わっていません。
自己資金が見られる理由は単純で、計画的にお金を貯めてきた人は、計画的に返済できる人だと推測できるからです。逆に、創業直前に親族から一時的にお金を借りて通帳に入れる、いわゆる「見せ金」はすぐにわかります。面談では通帳の履歴を確認されることが多く、毎月コツコツ積み立ててきた記録そのものが、あなたの信用になります。
ポイント2:事業に関連する経験
「その事業を、なぜあなたがやるのか」。これは審査担当者が最初に知りたいことです。同じ業界での勤務経験、管理職としてのマネジメント経験、独立前から付き合いのある取引先などは、計画の実現可能性を裏づける材料になります。
経験が浅い場合は、資格、研修、副業での実績、すでに取り付けている受注の見込みなど、経験の不足を補う事実を用意しておきましょう。
ポイント3:計画の根拠
創業計画書の売上予測に、根拠はありますか。「1日あたり客数30人×客単価5,000円」と書くなら、その30人という数字がどこから来たのかを説明できる必要があります。席数と回転率、近隣の同業店の状況、前職での実績、予約や受注の見込みなど、数字の一つひとつに「なぜ」を答えられる状態が理想です。
計画書の具体的な書き方は、融資に通る事業計画書の書き方で詳しく解説しています。
ポイント4:個人の信用情報と支払い状況
意外に見落とされるのがここです。クレジットカードやローンの延滞、携帯電話端末の分割払いの遅れ、税金や公共料金の滞納は、審査に影響します。
公庫からすれば、「これまでの支払いを約束どおり守ってきたか」は、これからの返済を守るかどうかの最も確かな手がかりです。申込みの前に、ご自身の支払い状況に問題がないかを確認しておきましょう。
自己資金の目安は「必要資金の3分の1」
では、自己資金はいくらあればよいのでしょうか。旧制度の要件は創業資金総額の10分の1でしたが、これはあくまで最低ラインでした。実務の感覚としては、必要資金の3分の1程度を自己資金で用意できると、審査の土台がしっかりすると考えてください。
| 自己資金の割合 | 審査での受け止められ方(目安) |
|---|---|
| ほぼゼロ | 準備不足と見られやすい。希望額どおりの融資は難しい |
| 1割程度 | 最低限のライン。経験や計画の根拠で補う必要がある |
| 3分の1程度 | 計画性が伝わりやすく、審査の土台として十分 |
| 半分以上 | 返済余力が高いと見られやすいが、手元資金を残す配慮も必要 |
※金融機関や事業内容によって判断は異なります。あくまで目安としてご覧ください。
自己資金として認められやすいもの・認められにくいもの
自己資金として評価されやすいのは、本人名義の預金で、時間をかけて貯めてきたことが通帳で確認できるものです。退職金や、事業用にすでに支払った設備や物件の契約金なども、証拠書類があれば評価の対象になり得ます。
一方、出どころを説明できない現金や、直前に入金された親族からの借入は、自己資金として扱われにくいと考えてください。親族からの援助を受ける場合は、贈与なのか借入なのかを整理し、契約書や振込記録を残しておくことが大切です。
自己資金を「全部入れない」という判断も必要
自己資金は多いほど審査上は有利ですが、全額を開業資金に投じて手元資金がゼロになるのは危険です。創業期は、想定より売上の立ち上がりが遅れることのほうが普通です。運転資金の余裕は、自己資金と借入の組み合わせで確保するのが基本です。
面談で聞かれること、断られやすいパターン
公庫の創業融資では、書類審査に加えて担当者との面談があります。面談は「試験」ではなく、計画書に書いた内容が本当にあなたの頭の中にあるかを確かめる場です。
面談でよく聞かれること
- なぜこの事業を始めるのか(創業の動機)
- これまでの経歴と、事業に生かせる経験
- 売上予測の根拠(客数、単価、受注見込み)
- 必要資金の内訳と、見積書の有無
- 自己資金をどのように貯めてきたか
- 計画どおりに売上が立たなかったときの対応
数字を聞かれて「税理士さんに作ってもらったので……」と答えてしまうと、その時点で評価は大きく下がります。専門家に手伝ってもらうこと自体は問題ありませんが、説明するのは経営者本人です。
断られやすいパターン
| パターン | 公庫が懸念すること |
|---|---|
| 自己資金がほとんどない、または見せ金 | 計画性・返済の意思が見えない |
| 未経験の業種で、補う材料もない | 計画を実行できるかわからない |
| 売上予測に根拠がない | 返済原資が確保できるか判断できない |
| 必要資金の内訳が曖昧、見積書がない | 資金が事業に使われるか確認できない |
| 延滞・滞納の履歴がある | 約束を守ってもらえるか不安がある |
| 面談で数字を説明できない | 経営者として数字を管理できるか不安がある |
裏を返せば、この表の右側の懸念を、申込みの前に一つずつ消していけばよいということです。
創業融資は「次の融資」への最初の一歩
最後に、私がいちばんお伝えしたいことをお話しします。
「借りられた」で終わらせない
創業融資が通ると、多くの方がほっとして、そこで資金調達のことを考えなくなります。しかし、事業が伸びれば、いずれ追加の運転資金や設備資金が必要になります。そのとき金融機関が見るのは、創業計画書ではなく1期目、2期目の決算書です。
私自身、2014年から不動産投資を始め、順調に買い進めていたつもりが、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われ、融資がすべて止まった経験があります。借りることばかり考えて、銀行が自分の決算書をどう見ているかを考えていなかったのが原因でした。そこから財務を立て直し、2025年までに総投資額82億円、45プロジェクトまで積み上げることができましたが、最初から「次も借りられる決算書」を意識していれば、もっと早く進めたと今でも思います。
1期目の決算書から「格付け」は始まっている
銀行は決算書をもとに会社を点数化し、格付けを行います。著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、この格付けを129点満点(安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点)のモデルで解説しており、正常先の目安を32点以上としています。
創業期に、目先の税金を減らそうとして利益を削りすぎると、1期目から純資産が薄い決算書ができあがり、次の融資で苦労します。私はこれを「払った税金の2倍、会社は強くなる」と表現しています。きちんと利益を出して納税し、純資産を積み上げることが、結果的に資金調達の選択肢を広げます。
クレフティのご支援の実例
当事務所のお客さまでも、創業2年目のトレーディングカード売買の会社が、都市銀行から3,500万円、地方銀行から2,000万円の融資を受けた事例があります。創業から間もない時期でも、決算書の中身と説明の準備が整っていれば、民間銀行との取引は十分に広げられます。
まとめ
- 日本政策金融公庫の創業融資の中心は「新規開業・スタートアップ支援資金」。限度額7,200万円、制度上の自己資金要件はない
- それでも審査では自己資金の額と貯めてきた過程が強く見られる。目安は必要資金の3分の1程度
- 審査の柱は「自己資金」「経験」「計画の根拠」「信用情報」。面談では数字を自分の言葉で説明する
- 断られやすいパターンを申込み前に一つずつ潰しておく
- 創業融資は最初の信用実績。1期目の決算書から、次の融資を見据えて設計する
クレフティでは、創業計画書の作成支援や面談の準備だけでなく、創業後の決算書を「次の融資が受けられる形」に整えるところまで、一貫してご支援しています。資金調達部長は元地方銀行員で、金融機関の目線から計画をチェックします。詳しくは資金調達・融資支援のページをご覧ください。
