金利が上がった、というニュースを目にする機会が増えました。不動産投資をしている方なら、まず頭に浮かぶのは「うちの返済、大丈夫かな」ということではないでしょうか。
ただ、「金利が上がると返済が増える」という感覚はあっても、それが銀行の目にどう映るかまで考えている方は、多くありません。その答えになるのが、ICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)という指標です。この記事を読み終えるころには、ご自身の会社のICRを計算できるようになります。
- ICRは「本業の利益で、支払利息を何倍まかなえているか」を示す指標。簡易的には「営業利益÷支払利息」で計算できる
- 目安は2倍以上。1倍を下回ると、本業の稼ぎで利息を払えていない状態とみなされやすい
- 借入の大きい不動産投資では、営業利益が同じでも、金利が1%から3%に上がるだけでICRが2.5倍から0.83倍に落ちることがある
- 改善策は「営業利益を増やす」「借入残高を減らす」「固定金利への切り替えを検討する」の3つ。債務償還年数とセットで見る
ICRとは?計算方法をシンプルに理解する
ICRの計算式
ICRはInterest Coverage Ratioの略で、日本語では「インタレスト・カバレッジ・レシオ」「利息カバレッジ比率」などと呼ばれます。企業が本業で稼いだ利益で、借入金の利息をどれだけ余裕をもって払えているかを見る指標です。
受取利息や受取配当金がほとんどない会社なら、「営業利益÷支払利息」で、おおよその水準をつかめます。この記事でも、わかりやすさのために簡易式で説明します。
なお、ICRの具体的な計算方法は金融機関や資料によって多少異なります。不動産の融資では、物件の純収益(NOI)を使って利息の支払余力を見るケースもあります。まずは自社の決算書の営業利益で計算し、取引先の銀行がどのような基準で見ているかを確認するのがよいでしょう。
1倍が「ちょうどトントン」
ICRの意味はシンプルです。
- ICR=1.0倍:営業利益と支払利息がちょうど同じ。稼ぎがすべて利息に消えている
- ICR=0.8倍:本業の稼ぎだけでは、利息を払いきれていない
- ICR=2.0倍:利息の2倍の営業利益がある。余裕がある
銀行から見て、ICRが1倍を下回る会社は「本業の利益で利息すら払えていない会社」です。返済能力に懸念があるという、わかりやすい信号になります。
銀行格付けの中でICRはどう扱われるか
著書のモデルでは「返済能力55点」の一角
銀行は、融資先の決算書をもとに格付け(スコアリング)を行っています。具体的な採点方法は銀行ごとに異なり、公表されていませんが、私の著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、銀行格付けを129点満点のモデルで解説しています。内訳は、安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点です。
このモデルでは、配点がもっとも大きい返済能力55点のうち、ICRが15点を占めます。残りは償却前営業利益(20点)と債務償還年数(20点)です。そして、このモデルで正常先とされるラインが32点以上。15点という配点は、正常先にとどまれるかどうかを左右しうる大きさです。
ICRの目安
ICRをどの水準で評価するかも銀行によって異なりますが、おおむね次のような感覚で見ておくとよいでしょう。
| ICRの水準 | 評価の目安 |
|---|---|
| 2.0倍以上 | 良好。利息の支払いに余裕がある |
| 1.0倍以上〜2.0倍未満 | 普通〜注意。金利上昇や減益への備えが必要 |
| 1.0倍未満 | 要注意。本業の利益で利息を払えていない |
※一般的な目安と筆者の実務感覚にもとづくもので、金融機関の公式な基準ではありません。
大事なのは、この数字が「いまの金利水準」で計算されているという点です。金利が上がれば、同じ会社でも一気に危険水域に入ることがあります。
金利が1%から3%になると、ICRはどう変わるか
具体的な数字で見てみましょう。不動産を保有する、ある法人を想定します。
【例A:現在】
- 営業利益:500万円
- 借入残高:2億円、金利1%
- 支払利息:2億円×1%=200万円
ICR=500万円÷200万円=2.5倍。目安でいえば「良好」です。
では、営業利益も借入残高も変わらないまま、金利だけが上がったらどうなるでしょうか。
【例B:金利が3%に上昇】
- 営業利益:500万円(変わらず)
- 借入残高:2億円(変わらず)
- 支払利息:2億円×3%=600万円
ICR=500万円÷600万円=0.83倍。
同じ会社です。稼ぎも借入も変わっていません。それでも、金利が1%から3%に上がっただけで「本業の稼ぎで利息を払えない会社」に転落してしまいます。途中の金利でどう変わるかを並べると、次のとおりです。
| 金利 | 支払利息(借入2億円) | ICR(営業利益500万円) |
|---|---|---|
| 1.0% | 200万円 | 2.50倍 |
| 1.5% | 300万円 | 1.67倍 |
| 2.0% | 400万円 | 1.25倍 |
| 2.5% | 500万円 | 1.00倍 |
| 3.0% | 600万円 | 0.83倍 |
※説明のための単純化した試算です。実際には元本の返済で借入残高は減り、固定金利の借入があれば利息は変わりません。
これが金利上昇リスクの本質です。「うちは利益が出ているから大丈夫」と思っていても、金利という外部要因だけで、銀行からの見え方が大きく変わってしまうのです。
借入の大きい不動産投資は、影響が直撃する
この影響は、借入残高が大きいほど強く出ます。不動産投資の法人はまさにその典型です。物件ごとに数千万円〜数億円の借入があり、変動金利で借りているケースも少なくありません。また、不動産の法人は減価償却費が大きく、営業利益が小さく出やすいことも、ICRが低くなりやすい理由の一つです。
だからこそ、ICRを決算ごとに確認しているかどうかが、買い進められるかどうかの分かれ目になります。2棟目・3棟目で融資が止まる構造については、2棟目・3棟目の融資が止まる本当の理由で解説しています。
自社のICRを計算する手順
ご自身の会社のICRは、次の手順で計算できます。
- 損益計算書から営業利益を拾う:売上(賃料収入など)から、減価償却費や管理費などの費用を引いた、本業の利益です
- 営業外収益から受取利息・受取配当金を拾う:少額であれば省略しても大きな差は出ません
- 営業外費用から支払利息を拾う:借入金の利息です
- 割り算をする:(営業利益+受取利息・配当金)÷支払利息
計算できたら、借入残高に「金利が1%上がった場合」の利息を上乗せして、もう一度計算してみてください。変動金利の借入が多い方ほど、この一手間で見える景色が変わります。いまは2倍あっても、金利が少し上がるだけで1倍を割り込むようなら、早めに対策を考える必要があります。
ICRを改善する3つの方法
ICRが低い、あるいは金利が上がると危ない水準だとわかったら、どうすればよいか。計算式「営業利益÷支払利息」に立ち返ると、打ち手は3つに整理できます。
方法1:営業利益を増やす
分子を大きくする方法です。不動産投資でいえば、空室を減らす、賃料を適正な水準に見直す、管理費や修繕のコストを見直すといった、物件の収益力そのものを高める取り組みです。
当たり前に聞こえるかもしれませんが、財務指標の改善は、結局のところ稼ぐ力を高めることに行き着きます。数字だけをきれいに見せる魔法はありません。
方法2:借入残高を減らす
分母の支払利息を下げるには、借入の元本を減らすことです。元本は毎月の返済で少しずつ減っていくため、新たな借入をしなければ、時間とともにICRは改善していきます。
裏を返せば、新しく借りるときこそ慎重にということです。「とりあえず借りておこう」がいちばん危ない。借りるなら、その借入が営業利益を増やす投資になるかをセットで考える必要があります。
方法3:固定金利への切り替えを検討する
金利上昇局面での一つの手が、変動金利から固定金利への切り替えです。固定金利にしておけば、その期間中は金利変動の影響を受けません。
ただし、固定金利は変動金利より高く設定されることが多く、借り換えには手数料などの費用がかかる場合もあります。コストとリスクのトレードオフで判断してください。
借り換えや金利の見直しは、銀行に相談すれば検討してもらえます。ただ、どこまで応じてもらえるかは、銀行との関係や格付けによるところが大きいのが実情です。普段から決算書を持って説明に行き、信頼関係を積み上げておくことが、いざというときの交渉の余地になります。銀行との関係づくりは銀行員との正しい付き合い方をご覧ください。
ICRは「債務償還年数」とセットで見る
ICRは単独で見るのではなく、必ず債務償還年数とセットで見てください。債務償還年数は、借入金を本業のキャッシュフローで何年で返せるかを示す指標で、計算方法は決算書を銀行に出す前にやるべきチェックで解説しています。
著書のモデルでは、ICR(15点)と債務償還年数(20点)を合わせて35点。返済能力55点のうち、6割以上をこの2つの指標が占めています。
| 指標 | 何を見るか | 計算の考え方 | 著書のモデルでの配点 |
|---|---|---|---|
| ICR | 利息を払う余力 | 営業利益÷支払利息 | 15点 |
| 債務償還年数 | 元本を返し終える期間 | 借入金÷本業のキャッシュフロー | 20点 |
ここが中小企業、特に不動産投資の法人にとっての勝負どころです。資本の厚さ(安全性)や成長性で大企業に劣っていても、返済能力のスコアを上げることで、格付けを引き上げることができます。逆に、ここが低いと、ほかの項目がよくても格付けは伸びません。
どちらの指標も、計算は決算書と電卓があれば十分です。決算書ができたら自分で計算し、数字が悪ければ打ち手を考える。その習慣が、融資を受け続けられる会社をつくります。
私自身、2019年に複数の金融機関から「あなたには、貸せません」と言われた経験があります。そこから財務を立て直す過程で痛感したのは、数字が見えていないことが、いちばんの不安の原因だということでした。
まとめ
- ICRは「本業の利益で、支払利息を何倍まかなえているか」を示す指標。簡易的には営業利益÷支払利息
- 目安は2倍以上。1倍を下回ると、本業の稼ぎで利息を払えていない状態
- 借入の大きい不動産投資では、金利上昇だけでICRが大きく下がる。いまの金利だけでなく、金利が上がった場合も試算しておく
- 改善策は「営業利益を増やす」「借入残高を減らす」「固定金利への切り替えを検討する」
- 債務償還年数とセットで見る。著書のモデルでは、この2指標で返済能力55点のうち35点
ICRという名前がついているだけで、やることは割り算です。ご自身の会社のICRが金利上昇にどこまで耐えられるか、一度試算してみてください。物件ごと・借入ごとの試算や、銀行の目線での決算書の点検をご希望の方は、お気軽にご相談ください(不動産投資家向けのご支援)。
