「不動産投資を始めたいけれど、自己資金はいくら必要ですか?」。初めての方から最もよく受ける質問です。
答えは「物件と融資条件しだい」なのですが、それでは何も言っていないのと同じです。この記事では、不動産投資の自己資金を「頭金」「諸費用」「購入後に手元に残すお金」の3つに分けて、いくら必要かを具体的に考えます。あわせて、銀行が自己資金をどう評価するのかという、融資の視点もお伝えします。
- 不動産投資の自己資金は「頭金+諸費用+手元に残す現預金」の合計で考える
- 頭金は金融機関や物件で異なるが、物件価格の1〜3割程度を求められることが多い。諸費用は物件価格の7〜10%程度が目安と言われる
- 見落とされがちなのが購入後に手元に残すお金。空室・修繕・金利上昇に備え、ここを削って頭金に回さない
- 銀行は自己資金の額だけでなく、出どころと、購入後に残る現預金の厚みを見ている
自己資金は「3つの財布」に分けて考える
多くの方が「自己資金=頭金」と考えがちですが、実際に必要なお金は3つあります。
| 財布 | 中身 | 目安 |
|---|---|---|
| ① 頭金 | 物件価格のうち、融資を受けない部分 | 物件価格の1〜3割程度を求められることが多い |
| ② 諸費用 | 仲介手数料、登記費用、不動産取得税、融資手数料、火災保険料など | 物件価格の7〜10%程度と言われることが多い |
| ③ 手元に残すお金 | 空室、修繕、金利上昇、税金の支払いに備える現預金 | 物件の規模と築年数に応じて確保 |
①と②は「買うためのお金」、③は「持ち続けるためのお金」です。不動産投資で失敗する人の多くは、①と②を用意することに集中し、③をゼロにしてしまいます。
諸費用の中身
諸費用は「物件価格の何%」とひとまとめにされがちですが、中身を知っておくと見積もりの精度が上がります。
- 仲介手数料:宅地建物取引業法にもとづく上限があり、売買価格が400万円を超える部分では「価格×3%+6万円」に消費税を加えた額が上限
- 登記費用:登録免許税と司法書士報酬。所有権移転と抵当権設定の両方がかかる
- 不動産取得税:取得後しばらくしてから納税通知が届く。購入時に払わないので忘れやすい
- 融資関連費用:事務手数料、保証料、印紙税など。金融機関によって大きく異なる
- 火災保険・地震保険:複数年分を一括で払うと、購入時の負担が大きくなる
税率や軽減措置は物件の種類や取得時期で変わるため、具体的な金額は購入前に見積もりを取って確認してください。
諸費用まで含めて融資を受ける、いわゆるオーバーローンを認める金融機関もあります。ただし、その分だけ借入が物件の価値を上回り、購入直後から実質的な債務超過の状態になります。諸費用は自己資金でまかなうのが原則と考え、融資でまかなう場合は、その後の財務への影響まで試算してから判断してください。
1億円の物件で試算すると
1億円の一棟マンションを、頭金2割で買う場合を考えます(諸費用は8%と仮定)。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 物件価格 | 1億円 |
| 融資額 | 8,000万円 |
| ① 頭金 | 2,000万円 |
| ② 諸費用(8%と仮定) | 800万円 |
| ③ 手元に残すお金(例) | 500万円 |
| 必要な自己資金の合計 | 3,300万円 |
「頭金2割なら2,000万円」と考えていた方は、実際には1.5倍以上のお金が必要になる計算です。逆に言えば、手元に3,000万円あるからといって「頭金3,000万円で買える」と考えるのは危険です。
③をいくら残すか
手元に残すお金に決まった基準はありませんが、次のような支出に耐えられるかで考えます。
- 空室が想定以上に続いたときの、数か月分の返済
- 給湯器、外壁、屋上防水などの突発的な修繕
- 金利が1〜2%上がったときの返済増加分
- 黒字になった年の所得税・住民税(法人なら法人税等)
築年数が古いほど修繕リスクが高く、規模が大きいほど一度の修繕額も大きくなります。築古・大型ほど③を厚くするのが原則です。
頭金を入れすぎるのも考えもの
自己資金に余裕がある方の中には、「借入は少ないほど安心」と、手元資金のほとんどを頭金に入れる方もいます。確かに返済は軽くなりますが、次のようなデメリットもあります。
- 手元資金が薄くなり、③の「持ち続けるためのお金」が足りなくなる
- 次の物件を買う自己資金がなくなり、良い物件が出ても動けない
- 一度頭金として入れたお金は、物件を売るまで取り戻せない
頭金を多く入れるほど融資条件が良くなることもありますが、どこまで入れるかは、③を確保したうえで決めるのが順番です。自己資金の配分は、物件の収益性、借入の金利、今後の買い増し計画を並べて判断します。
銀行は自己資金をどう見ているか
自己資金は、融資の可否と条件を左右する重要な要素です。ただし銀行が見ているのは「いくら入れるか」だけではありません。
1. 自己資金の出どころ
銀行は通帳の履歴などで、自己資金がどのように貯まったお金なのかを確認します。給与や事業からコツコツ積み上げたお金は、それ自体が「計画的にお金を管理できる人」という評価につながります。一方、直前に大きな入金があれば、その説明を求められます。親族からの援助なら贈与税の手続きも含めて整理しておきましょう。
2. 購入後に残る現預金
意外に知られていないのが、銀行は購入後に手元に残る現預金も見ているということです。自己資金を全部頭金に入れて、購入後の通帳がほぼ空になる人と、一定額を手元に残している人では、後者のほうが「何かあっても返済が続けられる」と評価されます。
つまり③を残すことは、自分の身を守るだけでなく、銀行からの信用を保つことにもつながります。
3. 純資産が増える買い方かどうか
頭金を入れると、そのぶん購入直後の純資産が厚くなります。フルローンに近い買い方を続けると純資産が積み上がらず、2棟目・3棟目の審査で「これ以上は貸せない」と判断されやすくなります。この仕組みは2棟目・3棟目で融資が止まる理由で詳しく解説しています。
頭金を多めに入れると、目先の利回り(自己資金に対するリターン)は下がって見えます。しかし、純資産と現預金が厚い財務は、次の物件を買うときの融資条件を良くします。1棟だけで終わらせない人ほど、自己資金の入れ方を戦略的に考えています。
何棟目かで、自己資金の考え方は変わる
「自己資金はいくら必要か」の答えは、1棟目と5棟目でまったく違います。銀行の審査の軸が、段階によって変わるからです。
| 段階 | 銀行が主に見るもの | 自己資金の考え方 |
|---|---|---|
| 1棟目(個人) | 年収・勤務先・勤続年数などの個人属性 | 頭金を抑えても通ることがあるが、手元資金は必ず残す |
| 2〜3棟目 | 既存物件を含めた個人の資産・負債の全体 | 累積負債に見合う自己資金と現預金が求められる |
| 法人で買い進める段階 | 法人の決算書(利益・純資産・債務償還年数) | 内部留保と純資産の厚みが、そのまま次の融資枠になる |
1棟目は「残すお金」を優先する
1棟目は個人の属性で審査されるため、頭金が少なくても融資が出ることがあります。だからといって、手元資金をすべて頭金と諸費用に使い切るのは危険です。1棟目の運営で想定外の出費が出たとき、それを乗り切れるかどうかで、2棟目に進めるかが決まります。
2〜3棟目は「累積負債とのバランス」で考える
2棟目以降は、既存の借入と合わせた負債の総額に対して、どれだけの自己資金と現預金があるかが問われます。物件価格に対する頭金の割合だけでなく、借入の総額に対する現預金の割合を意識してください。
法人の段階では「純資産」が自己資金になる
法人で買い進める段階になると、決算書の純資産が厚いほど、銀行は融資に前向きになります。著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。この段階では、利益を出して納税し、内部留保を積み上げることが、最も確実な自己資金づくりになります。詳しくは純資産1億円の壁で解説しています。
自己資金を「つくる」3つの方法
自己資金が足りないときに、借りたお金を自己資金に見せかけるのは論外です。王道は次の3つです。
1. 毎月の収支から積み立てる
会社員の方なら、給与からの積み立てがいちばん確実です。銀行は「積み上げてきた履歴」そのものを評価します。
2. 保有物件の利益を内部留保する
すでに物件を持っている方は、家賃収入の手残りを使わずに積み上げることが、次の物件の自己資金になります。法人で保有している場合は、利益を出して納税し、残ったお金を内部留保することで純資産も厚くなります。節税で利益を削りすぎると、自己資金も純資産も増えません。
3. 収益力の弱い物件を売却して入れ替える
含み益のある物件や、収益力が落ちてきた物件を売却し、その資金を次の物件の自己資金に回す方法です。私自身、財務が苦しくなった時期に、毀損した物件を売って現預金を積み増したことが、その後の買い進めの土台になりました。売却時の税金は不動産売却の税金の記事で解説しています。
まとめ
- 自己資金は「頭金+諸費用+手元に残すお金」の3つで考える
- 1億円の物件を頭金2割で買うなら、合計で3,000万円台が必要になることもある
- 銀行は自己資金の額に加えて、出どころと購入後に残る現預金を見ている
- 自己資金は積み立て、内部留保、物件の入れ替えでつくる。借入を自己資金に見せかけない
「いくら必要か」は、何棟目を、どの金融機関で、どんな物件を買うかによって変わります。ご自身の状況で必要な自己資金と、銀行に評価される資金計画を一緒に整理したい方は、不動産投資家向けサービスからご相談ください。
