「中古物件は減価償却が早く取れる」。不動産投資を学び始めると、必ず耳にする話です。たしかに中古物件の減価償却では、簡便法という方法で耐用年数を短くでき、1年あたりの償却費を大きくできます。
ただ、総投資額82億円の不動産を買い進めてきた税理士として強調したいのは、償却を早く取ることが、いつも正解とは限らないということです。減価償却費は決算書の利益を直接減らし、銀行の評価にも効いてくるからです。
- 中古物件の耐用年数は、法定耐用年数ではなく簡便法で短く見積もることができる(選択制)
- 簡便法は「(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%」。法定耐用年数を全部経過していれば「法定耐用年数×20%」。端数切捨て、2年未満は2年
- 償却できるのは建物部分だけ。土地と建物の按分が償却額を大きく左右する
- 償却が多いと利益が減り、赤字や純資産の減少として銀行の評価に響く。耐用年数は融資計画とセットで決める
減価償却とは|中古物件でも考え方は同じ
減価償却とは、建物や設備の購入代金を、使える期間(耐用年数)にわたって少しずつ経費にしていく仕組みです。1億円の建物を買っても、その年に1億円が経費になるわけではありません。
建物の償却方法は、個人・法人とも定額法です(建物附属設備や構築物も、平成28年4月1日以後の取得分は定額法)。毎年同じ額を経費にしていきます。
構造別の法定耐用年数(住宅用)
新築の場合は、構造と用途ごとに決められた法定耐用年数を使います。住宅用の主なものは次のとおりです。
| 構造 | 法定耐用年数(住宅用) |
|---|---|
| 鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造(RC) | 47年 |
| 重量鉄骨造(骨格材の肉厚4mm超) | 34年 |
| 軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3mm超4mm以下) | 27年 |
| 軽量鉄骨造(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 |
| 木造 | 22年 |
中古物件では、この法定耐用年数を出発点に、すでに経過した年数を考慮して耐用年数を見積もります。
中古物件の耐用年数|簡便法の計算式と計算例
中古資産は、本来は残りの使用可能期間を個別に見積もるのが原則です。ただ、それは実務上難しいため、次の簡便法で計算することが認められています。
- 法定耐用年数の全部を経過している場合:法定耐用年数 × 20%
- 法定耐用年数の一部を経過している場合:(法定耐用年数 - 経過年数) + 経過年数 × 20%
- 1年未満の端数は切り捨て。計算結果が2年未満なら2年
計算例1:築25年の木造アパート
木造(法定22年)で、築25年なので法定耐用年数を全部経過しています。
- 22年 × 20% = 4.4年 → 端数を切り捨てて4年
建物部分の取得価額が3,000万円なら、4年の定額法償却率は0.250なので、年間750万円の償却費が4年間計上されます。
計算例2:築20年のRCマンション(1棟)
RC(法定47年)で、築20年なので一部を経過しています。
- (47年 - 20年) + 20年 × 20% = 27年 + 4年 = 31年
建物部分の取得価額が1億円なら、31年の償却率0.033で、年間330万円です。同じ「中古」でも、構造と築年数でこれだけ差が出ます。
簡便法が使えない・使わないケース
- 取得後、事業に使うまでに行った改修(資本的支出)の金額が、取得価額の50%を超える場合などは簡便法が使えません
- 簡便法は選択制です。使わずに法定耐用年数で償却することもできます
- 中古資産の耐用年数を見積もれるのは、事業に使い始めた年(事業年度)だけ。翌年以降に変更はできません
個人が海外の中古建物を簡便法などで償却している場合、その償却費から生じた不動産所得の損失は、なかったものとみなされます(2021年分以後)。国内物件とは扱いが異なるので注意してください。
償却額を決める「土地と建物の按分」
減価償却できるのは建物部分だけで、土地は償却できません。ところが、中古物件の売買契約書は「土地・建物一括で○円」となっていることが多く、建物価格をいくらにするかで償却額が大きく変わります。
按分の方法としては、主に次のようなものがあります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 契約書に内訳が記載されている | 原則としてその金額を使う(不自然でない限り) |
| 消費税額から逆算 | 建物には消費税がかかるため、契約書の消費税額から建物価格を算出 |
| 固定資産税評価額の比率 | 土地・建物の評価額の比率で一括価格を按分 |
| 不動産鑑定評価 | 鑑定士の評価に基づいて按分 |
償却を大きく取りたいからと、根拠なく建物比率を高めると、税務調査で否認されるリスクがあります。按分は購入時に根拠を残して決めるものです。
償却が多いと利益が減る|銀行は決算書をこう見る
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいことです。
簡便法で耐用年数を短くすると、1年あたりの償却費が増え、そのぶん帳簿上の利益が減ります。税金は減りますが、決算書の見た目も悪くなるのです。
銀行の評価には「足し戻される部分」と「足し戻されない部分」がある
減価償却費はお金が出ていかない経費なので、銀行が返済能力(借入金を何年で返せるか)を計算するときは、利益に償却費を足し戻して考えるのが一般的です。この点では、償却が多くても致命的ではありません。
しかし、銀行の格付けは返済能力だけで決まるわけではありません。拙著『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』では、銀行格付けを129点満点(安全性34点・収益性15点・成長性25点・返済能力55点)のモデルで解説していますが、償却で利益が減ると、
- 収益性:利益率が下がり、赤字になれば大きく減点
- 安全性:利益が積み上がらず、純資産(自己資本)が増えない
- 成長性:利益の伸びが見えない
と、返済能力以外の項目で点数を落とします。正常先の目安は32点以上。特に、償却が原因で赤字決算になることは、それだけで担当者の稟議を書きにくくします。
4年償却の「その後」も考える
計算例1の木造アパートで、年750万円の償却が4年で終わると、5年目からは同じ家賃収入でも帳簿上の利益が一気に増え、税負担も急に重くなります。元本返済は続くのに償却費がなくなるため、手元資金が減っていく、いわゆるデッドクロスも起きやすくなります。
償却を前倒しすると、税金の支払いが「なくなる」のではなく「後ろにずれる」だけ、と考えておくべきです。減価償却費が多い会社が融資で見られるポイントは、減価償却費が多い会社の融資でも解説しています。
耐用年数は「税金をいくら減らせるか」ではなく、「この物件を買ったあと、決算書が銀行からどう見えるか」で決める。次の物件を買い続けたいなら、利益と純資産を積み上げる選択が、結局はいちばん安くつきます。
簡便法と法定耐用年数で、決算書はどう変わるか
計算例1の木造アパート(建物3,000万円、家賃収入から償却前の利益が年600万円出ると仮定)で比べてみます。
| 項目 | 簡便法(4年) | 法定耐用年数(22年) |
|---|---|---|
| 年間の償却費 | 750万円(償却率0.250) | 138万円(償却率0.046) |
| 帳簿上の利益(1〜4年目) | 150万円の赤字 | 462万円の黒字 |
| 帳簿上の利益(5年目以降) | 600万円の黒字(償却終了) | 462万円の黒字 |
| 銀行から見た印象 | 前半は赤字決算、後半は税負担が急増 | 毎期安定して黒字 |
税金だけを見れば、簡便法のほうが前半の負担は軽くなります。しかし、この物件を買った直後に次の物件の融資を申し込むなら、この物件が赤字を生み続けている決算書で審査を受けることになります。どちらが正解かは、次の物件をいつ、どの銀行で買うつもりかによって変わるのです。
法人は償却額を調整できるが、銀行は見ている
個人の減価償却は、計算した額を必ず経費にする「強制償却」です。一方、法人は償却限度額の範囲内で、実際に償却する額を決められます(任意償却)。赤字を避けるために償却を少なくする、という選択もできます。
ただし、銀行も決算書の注記や別表から償却不足を把握できます。償却を止めて利益を見せても、実態の利益は償却後で判断されると考えておくべきです。小手先の調整ではなく、そもそも赤字にならない物件選びと耐用年数の選択をすることが本筋です。
融資期間も耐用年数を見ている
もうひとつ見落とせないのが、融資期間との関係です。金融機関の多くは、建物の残りの法定耐用年数を融資期間の目安にしています。築古の木造アパートは、償却が早く取れる一方で、融資期間が短くなりやすく、毎月の返済額が大きくなります。償却で税金が減っても、元本返済で手元資金が減っていく。この組み合わせが、デッドクロスを早める原因になります。
筆者が財務を立て直したときに学んだこと
私は2018年までに累計約20億円の不動産を買い進めましたが、2019年に複数の銀行から「あなたには、貸せません」と言われました。減価償却が速い物件が多く、貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたのです。
そこから、毀損物件の売却、きちんとした納税、現預金の積み増しで財務を立て直し、2025年までに総投資額82億円・45プロジェクトまで積み上げ直しました。「払った税金の2倍、会社は強くなる」。これは、その経験から生まれた言葉です。
まとめ
- 中古物件の耐用年数は簡便法で短くできる。「(法定-経過)+経過×20%」、全部経過なら「法定×20%」
- 簡便法は選択制で、決められるのは事業に使い始めた年だけ
- 償却額は土地・建物の按分で大きく変わる。根拠を残して決める
- 償却が多いと利益と純資産が減り、銀行格付けの収益性・安全性で不利になる。償却期間が終わった後の税負担と資金繰りも見込んでおく
なお、保有中に償却した分は、売却時に取得費から差し引かれて譲渡益を大きくします。売却時の税金は不動産売却の税金|短期・長期譲渡所得の税率で解説しています。
中古物件を買う前に、「この耐用年数で決算書がどうなるか」をシミュレーションしておくことが、次の融資につながります。購入を検討中の方は、不動産投資家向けサービスからお気軽にご相談ください。
