「夫婦の共有名義で収益物件を買ったが、申告はどうすればいいのか」「親と共有で相続した貸家の税金がよくわからない」。共有名義の不動産の税金は、仕組みそのものは単純ですが、名義を決めた時点の判断が、10年後の売却・相続・融資にまで影響するのが難しいところです。
この記事では、共有名義の賃貸不動産について、確定申告の基本、贈与税のリスク、事業的規模の判定といった税金の論点を整理したうえで、銀行から見た共有物件の扱いまでお伝えします。
- 共有物件の家賃と経費は、原則として持分に応じて各共有者に帰属し、それぞれが確定申告をする
- 購入資金の負担割合と持分がずれると、贈与税の問題が生じる。持分は資金の出し方に合わせて決める
- 青色申告の承認や届出は共有者ごとに必要。事業的規模は物件全体で考えるのが一般的だが、判断が分かれる場面もある
- 共有は売却・相続・法人化・追加融資のすべてで全員の合意が必要になる。買う前に「出口」まで決めておく
共有名義の不動産所得は、持分ごとに申告する
収入も経費も、持分で按分する
共有名義の賃貸物件から生じる家賃収入と必要経費は、原則として各共有者の持分に応じて帰属します。たとえば夫2分の1・妻2分の1の物件で、年間の家賃が600万円、経費が400万円なら、それぞれの不動産所得は次のようになります。
| 項目 | 物件全体 | 夫(持分1/2) | 妻(持分1/2) |
|---|---|---|---|
| 家賃収入 | 600万円 | 300万円 | 300万円 |
| 必要経費(減価償却費・利息などを含む) | 400万円 | 200万円 | 200万円 |
| 不動産所得 | 200万円 | 100万円 | 100万円 |
家賃の入金口座が一人の名義でも、税務上はこの按分で各自が申告します。減価償却費も、建物の取得価額を持分で分けて、それぞれが計算します。
借入金の利息は「誰が債務を負っているか」で
夫婦で借入をする場合、連帯債務やペアローンなど形はさまざまです。借入金の利息を誰の経費にするかは、実際に誰が債務を負担し、返済しているかに沿って整理する必要があります。持分と債務の負担割合がずれていると、利息の配分や、後述する贈与の問題につながります。
確定申告が必要かどうかも、各自で判定する
給与を受けている会社員の共有者は、自分の持分の不動産所得を含めて、給与以外の所得が20万円を超えるかで確定申告の要否を判定します。申告の手順は不動産投資の確定申告のやり方と必要書類で解説しています。
共有物件の経費と書類の実務
実務では、次のような点でつまずくことが多いです。
- 固定資産税の納税通知書:共有物件の通知書は、共有者の代表者あてに1通で届くことがあります。税額全体を持分で按分して、各自の経費にします
- 管理会社の送金明細:物件全体の明細を共有者全員で共有し、同じ数字をもとに按分します。共有者ごとに数字がずれると、どちらかの申告が誤っていることになります
- 修繕などの支払い:一人が立て替えて払った場合も、原則は持分に応じた負担です。立て替えたままにせず、精算の記録を残しておきます
共有名義で持つメリットもある
ここまで注意点を中心に書きましたが、共有名義にはメリットもあります。
| メリット | 内容 |
|---|---|
| 所得が分かれる | 持分に応じて所得が分かれるため、一人に集中する場合より累進税率の影響を抑えられることがある |
| 資金を出し合える | 夫婦や親子で資金を出し合い、一人では届かない規模の物件を買える |
| 実態に合った名義 | 実際に資金を出した人の名義にすることで、贈与の問題を避けられる |
大事なのは、メリットとデメリットを理解したうえで、資金の出し方と将来の出口に合わせて名義を決めることです。
持分と資金負担がずれると、贈与税がかかる
共有名義でもっとも注意したいのが贈与税です。
持分は、購入資金を誰がどれだけ負担したかに合わせて決めるのが原則です。たとえば、夫が自己資金と借入金の返済をすべて負担しているのに、持分を夫婦で2分の1ずつにすると、妻は自分で負担していない持分を得たことになり、その分が夫から妻への贈与とみなされることがあります。
| ケース | 起きること |
|---|---|
| 資金負担の割合と持分が一致 | 原則として贈与の問題は生じない |
| 一方が多く負担したのに持分は均等 | 負担を超えて得た持分が贈与とみなされる可能性 |
| 共有者の借入金を別の共有者が返済している | 返済のたびに贈与とみなされる可能性 |
夫婦だからといって贈与税がかからないわけではありません。暦年課税なら年110万円の基礎控除を超える部分に贈与税がかかります。持分の登記をする前に、誰が頭金を出し、誰が返済するかを整理しておきましょう。不動産の贈与全般については、今後不動産の贈与と相続時精算課税の記事でも詳しく解説します。
事業的規模・青色申告は「共有者ごと」の手続きが要る
青色申告の承認申請や届出は各自で
青色申告の承認申請、青色事業専従者給与の届出などは、共有者ごとに提出が必要です。夫だけが青色申告の承認を受けていても、妻の持分は白色申告のままになります。
事業的規模の判定は、判断が分かれることもある
不動産所得の事業的規模(おおむね5棟10室以上)は、青色申告特別控除の額や専従者給与の可否に影響します。共有物件の場合、持分で室数を割るのではなく、物件全体の規模で判断する考え方が一般的です。ただし、共有の形態や管理の実態によって判断が分かれることもあるため、規模の境目にある場合は事前に確認してください。共有者の一人だけが別に単独名義の物件を持っている場合など、共有者ごとに保有の状況が違うときは、それぞれの事業的規模の判定も分けて考える必要があります。事業的規模で何が変わるかは不動産所得の青色申告のメリットで整理しています。
売却・相続・法人化で困る「全員の合意」
共有物件の管理や処分には、民法のルールがあります。物件全体を売却したり大きく形を変えたりするには、原則として共有者全員の同意が必要です。賃貸借契約の締結など日常の管理に関することは、持分の過半数で決められる場面もありますが、どこまでが管理でどこからが変更かは、行為の内容によって変わります。
共有名義の本当の難しさは、保有中より、動かそうとしたときに表れます。
- 売却:物件全体を売るには、原則として共有者全員の同意が必要です。一人が反対すれば、出口の時期を逃します
- 相続:共有者が亡くなると、その持分がさらに相続人の間で共有になり、関係者が増えていきます。世代を重ねるほど、意思決定は難しくなります。親子で共有している物件は、親の相続のときに誰が持分を引き継ぐかを、遺言などで決めておくと整理しやすくなります
- 法人化:物件を資産管理法人に移す場合、共有者全員が持分を売却する必要があり、それぞれに譲渡所得の申告や移転コストが生じます
- 離婚・関係の変化:夫婦共有の物件は、関係が変わったときの整理に時間と費用がかかります
売却時の税金は不動産売却の税金|短期・長期譲渡所得、法人に移す場合の論点は資産管理法人のメリット・デメリットをご覧ください。
銀行から見た共有名義の物件
ここからは融資の視点です。
共有者全員が「当事者」になる
共有物件に融資をする場合、銀行は通常、共有者全員に連帯債務者や連帯保証人になってもらい、物件全体に抵当権を設定します。つまり、持分が2分の1でも、借入金の全額について責任を負う形になりやすいということです。
その結果、配偶者が将来自分の名義で別の物件を買おうとしたとき、すでに共有物件の借入が与信の枠を使っている、ということが起こります。夫婦それぞれが買い進める計画なら、最初の物件で双方の与信をどう使うかまで考えておく必要があります。
また、共有持分だけを担保に取ることは、銀行にとって使いにくいものです。持分だけでは物件全体を処分できないため、担保としての評価が低くなりがちです。共有者の一人が自分の持分を担保に別の借入をしようとしても、思うように評価されないことがあります。
「誰の財務か」が見えにくくなる
銀行は、借り手ごとのバランスシートで次も貸せるかを判断します。共有物件が増えると、資産と負債が夫婦それぞれの申告書に分かれて載り、どちらの財務も中途半端に見えることがあります。私の著書のモデルでは、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としていますが、純資産を一つの器に積み上げていくという発想からすると、共有は財務が分散しやすい持ち方です。
- 頭金と返済を誰が負担するか(持分はそれに合わせる)
- いつ、どんな条件なら売るか。共有者の誰かが亡くなったらどうするか
- 次の物件は誰の名義、どの器(個人・法人)で買うか
まとめ
- 共有名義の家賃と経費は、原則として持分に応じて各共有者が申告する
- 資金負担と持分がずれると贈与税の問題が生じる。持分は資金の出し方に合わせる
- 青色申告などの手続きは共有者ごと。事業的規模は物件全体で考えるのが一般的だが、境目では確認が必要
- 売却・相続・法人化・追加融資では全員の合意が必要。銀行は共有者全員を当事者として見る
共有名義で買うか、法人で買うか。名義と器の選び方は、10年後の融資と出口を左右します。不動産投資家向けサービスで、買う前の段階からご相談ください。
