「確定申告では黒字なのに、通帳の残高が増えない。むしろ減っている」。不動産投資を始めて数年たった方から、こうした相談を受けることがあります。その多くは、デッドクロスと呼ばれる状態に入っています。
デッドクロスとは、借入金の元金返済額が、減価償却費を上回る状態のことです。不動産投資のデッドクロスは、仕組みを知っていれば事前に予測でき、対策も打てます。この記事では、発生の仕組みを試算で示したうえで、対策と銀行からの見え方を解説します。
- デッドクロスは「元金返済額 > 減価償却費」の状態。帳簿上の利益は増えるのに、税金が増えて手元のお金が減る
- 原因は、元利均等返済で元金返済が年々増えることと、減価償却がいずれ終わること。築古木造を簡便法で償却すると数年で起きる
- 対策は「事前に時期を把握して納税資金を積み立てる」「返済条件の見直し」「売却の検討」。節税目的の買い増しは問題の先送り
- 銀行は帳簿上の黒字を悪く見るわけではない。問題は資金不足と納税の遅れ
デッドクロスが起きる仕組み
不動産投資の利益(税金の計算上の所得)と、手元に残るお金は一致しません。差が生まれる原因は、次の2つです。
- 減価償却費:お金は出ていかないのに、経費として利益を減らす
- 元金返済:お金は出ていくのに、経費にならない(経費になるのは利息だけ)
購入当初は、減価償却費が元金返済額より大きいため、「利益は小さい(または赤字)のに、お金は残る」状態です。ところが時間がたつと、2つの理由で関係が逆転します。
理由1:元利均等返済では、元金返済が年々増える
元利均等返済では毎月の返済額が一定で、その内訳は最初は利息が多く、徐々に元金の割合が増えていきます。経費になる利息が減り、経費にならない元金が増えるので、同じ家賃収入でも利益は年々大きくなります。
理由2:減価償却はいずれ終わる
建物の減価償却は、耐用年数が過ぎれば終わります。特に中古物件は、簡便法で耐用年数を短く見積もることが多く、たとえば法定耐用年数22年の木造住宅で22年を超えて経過したものは「22年×20%=4.4年」の端数を切り捨てて4年で償却します。5年目に入った瞬間、減価償却費がゼロになるわけです。耐用年数の計算は中古物件の減価償却の記事で詳しく解説しています。
築古木造で試算すると
次の条件で、1年目と5年目を比べます。
- 年間家賃収入1,000万円、運営費200万円
- 借入9,000万円、金利2%、20年、元利均等返済(年間返済額 約546万円)
- 建物の取得価額3,000万円を、簡便法で4年償却(年750万円)
- 税金は、わかりやすくするため利益に対して30%と仮定
| 項目 | 1年目 | 5年目 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 1,000万円 | 1,000万円 |
| 運営費 | 200万円 | 200万円 |
| 支払利息 | 約177万円 | 約146万円 |
| 減価償却費 | 750万円 | 0円 |
| 帳簿上の利益 | 約−127万円(赤字) | 約654万円(黒字) |
| 元金返済 | 約370万円 | 約400万円 |
| 税引き前の手残り | 約254万円 | 約254万円 |
| 税金(30%と仮定) | 0円 | 約196万円 |
| 税引き後の手残り | 約254万円 | 約58万円 |
家賃も返済額も同じなのに、手元に残るお金は約254万円から約58万円へ、4分の1以下になります。しかも5年目は、帳簿上は650万円以上の黒字です。「黒字なのにお金が残らない」の正体はこれです。
ここに空室や大規模修繕が重なれば、税金を払うお金が足りなくなることもあります。
個人と法人で、デッドクロスの痛み方は違う
個人で物件を持っている会社員の方の場合、購入当初の不動産所得の赤字は、給与所得と損益通算できることがあります(土地の取得にかかる借入金の利息に相当する部分は損益通算できないなどの制限があります)。そのため、当初は給与から天引きされた所得税の還付を受け、デッドクロス後は逆に給与と合算された所得に累進税率がかかる、という落差が生まれます。当初の還付を「もうけ」と勘違いして使ってしまうと、後で苦しくなります。
法人の場合は、不動産の利益がほかの事業の利益と合算されて法人税等の対象になります。税率の構造は個人と異なりますが、黒字になれば納税資金が必要になる点は同じです。個人と法人の税率の違いは個人と法人の税率比較の記事で整理しています。
デッドクロスへの対策
1. いつ起きるかを、買う前に把握する
最も大切なのは、購入前に、何年目にデッドクロスが来るかを計算しておくことです。手順は次のとおりです。
- 建物の取得価額と耐用年数から、毎年の減価償却費を出す(設備を別に計上している場合は、設備の耐用年数も別に計算する)
- 金融機関の返済予定表から、毎年の元金返済額を拾う
- 2つを年ごとに並べ、元金返済額が減価償却費を上回る年を確認する
- その年以降の利益と税金を試算し、税引き後の手残りがいくらになるかを見る
一度この表をつくれば、逆転する年がわかります。わかっていれば、それまでの数年間の手残りから、将来の税金分を積み立てておけます。物件を複数持っている場合は、物件ごとではなく、ポートフォリオ全体で表をつくることが大切です。ある物件のデッドクロスを、別の物件の減価償却で一時的に吸収できているだけ、というケースも多いからです。
2. 返済条件を見直す
元金返済を減らす方法としては、借り換えや条件変更で返済期間を延ばす、繰り上げ返済(返済額軽減型)で毎月の返済を減らす、といった選択肢があります。ただし返済期間の延長は総返済額を増やし、繰り上げ返済は手元資金を減らします。どちらもメリットとデメリットを比べたうえで判断します。繰り上げ返済の考え方は繰り上げ返済の記事で整理しています。
3. デッドクロスの前後で売却を検討する
減価償却が進んだ物件は、帳簿価額が小さくなっているため、売却すると売却益が出やすくなります。個人であれば所有期間によって税率が変わります。デッドクロスの時期と、売却時の税金、次の買い手が融資を受けられるかを合わせて考えると、売却のタイミングが見えてきます。詳しくは出口戦略の記事をご覧ください。
4. 「節税のための買い増し」には注意する
新しい物件を買えば、その減価償却費で税金は一時的に減ります。しかし借入も増えるため、数年後にはより大きなデッドクロスがやってきます。税金を減らすことが目的になると、収益性の低い物件をつかみやすくなります。しかも買い増しのたびに自己資金と諸費用で現預金が減るため、デッドクロスで税金が増える時期に、手元資金がさらに薄くなるという悪循環に陥りかねません。物件は、その物件自体の収益力で判断するのが原則です。
5. 大規模修繕の時期を計画する
デッドクロスの時期と、外壁や屋上防水などの大規模修繕の時期が重なると、税金と修繕費の支払いが同時にやってきます。修繕の内容によって、その年の経費(修繕費)になるものと、資産として計上して減価償却するもの(資本的支出)に分かれます。資本的支出として計上すれば、新たな減価償却費が生まれますが、支払ったお金は一度に出ていきます。修繕の計画は、税金の見通しと資金繰りの両方を見ながら立てることが大切です。判定の考え方は修繕費と資本的支出の違いの記事で解説しています。
銀行はデッドクロスをどう見るか
意外に思われるかもしれませんが、デッドクロスで帳簿上の利益が増えること自体は、銀行の評価にとって悪いことではありません。黒字の決算書は、むしろ収益性の評価を上げます。
一方、債務償還年数の計算は「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」です。減価償却費が減ったぶん経常利益が増えるので、分母は税金の増加分だけ小さくなります。つまり、銀行の指標の上でも、返済に回せるお金は税金の分だけ減ると読まれます。
| デッドクロスの影響 | 銀行からの見え方 |
|---|---|
| 帳簿上の利益が増える | 収益性の評価にはプラス |
| 税金が増え、手元資金が減る | 債務償還年数の分母が小さくなる |
| 納税資金が足りず、納税が遅れる | 大きなマイナス。格付けの引き下げにつながりうる |
銀行が最も嫌うのは、資金不足で税金を滞納したり、返済が遅れたりすることです。逆に、デッドクロスを見越して納税資金を積み立て、黒字で納税を続けている会社は、純資産が着実に積み上がり、次の融資で評価されます。
私はかねてから「払った税金の2倍、会社は強くなる」とお伝えしています。デッドクロスは避けるべき災難ではなく、利益が出て納税する局面に入ったというサインでもあります。慌てて税金を減らそうとするより、納税資金を確保して財務を厚くするほうが、長く買い続けるうえでは得策です。減価償却と銀行評価の関係は減価償却費が多い会社のリスクでも解説しています。
まとめ
- デッドクロスは元金返済額が減価償却費を上回る状態。黒字でも手元のお金が減る
- 元利均等返済で元金が増えること、減価償却がいずれ終わることが原因
- 対策は、購入前に時期を把握し、納税資金を積み立てること。返済条件の見直しや売却も選択肢
- 節税目的の買い増しは問題の先送り。銀行が嫌うのは黒字ではなく、資金不足と納税の遅れ
保有物件の減価償却と返済のスケジュールを並べると、デッドクロスの時期と必要な準備がはっきりします。シミュレーションの作成から売却・借り換えの判断まで、不動産投資家向けサービスでご相談をお受けしています。
