「サラリーマンで不動産投資を始めたいけれど、会社にバレないか心配」。会社員の方からのご相談で、とても多い質問です。
先に結論を言うと、会社に知られるきっかけの多くは住民税の通知です。確定申告書で住民税の「自分で納付(普通徴収)」を選べば、多くの場合はそのきっかけを減らせます。ただし、不動産所得が赤字の年は仕組み上、隠しようがないことがあり、自治体の運用次第で希望どおりにならないこともあります。この記事では、仕組みを正直に整理したうえで、「隠す」よりも大事な考え方をお伝えします。
- 会社に知られるきっかけの多くは、勤務先に届く住民税の特別徴収税額の通知。給与以外の所得の分が上乗せされると、給与に比べて住民税が高いことで気づかれる
- 確定申告書第二表で「自分で納付」を選ぶと、給与以外の所得(黒字)にかかる住民税は普通徴収にできる。ただし自治体の運用で特別徴収になる場合もある
- 不動産所得が赤字の年は、損益通算で給与分の住民税が減るため、普通徴収を選んでも変化が表れやすい
- 確実に知られない方法はない。就業規則を確認し、必要なら届け出るのが、長く投資を続けるうえでの正攻法
なぜ会社に知られるのか|住民税の仕組み
会社員の住民税は「会社が給与から天引き」している
会社員の住民税は、通常、勤務先が毎月の給与から差し引いて市区町村に納めています。これを特別徴収といいます。毎年5月ごろ、市区町村から勤務先に「特別徴収税額の決定通知書」が届き、そこに従業員ごとの年税額が記載されています。
確定申告で不動産所得を申告すると、その情報は市区町村に回り、住民税の計算に反映されます。何も選ばなければ、不動産所得の分の住民税も給与からの天引きに上乗せされます。経理や人事の担当者が「この人は給与のわりに住民税が高い」と気づけば、給与以外の所得があることがわかってしまう、という仕組みです。
住民税以外のきっかけ
住民税以外にも、次のようなことから知られるケースがあります。
- 同僚との会話や、SNSでの発信
- 法人を設立して役員に就任し、登記簿に名前が載る
- 会社に副業や兼業の届出を求められて提出する
年末調整や源泉徴収票から不動産所得がわかることは、通常ありません。勤務先が把握するのは、あくまで勤務先が払った給与の情報です。言い換えれば、注意すべきなのは「確定申告をしたあとの住民税の流れ」と「自分自身の言動や登記」の二つに絞られます。
確定申告で「自分で納付」を選ぶ方法
第二表の「住民税に関する事項」で選ぶ
確定申告書の第二表には、「給与、公的年金等以外の所得に係る住民税の徴収方法」を選ぶ欄があります。ここで「自分で納付」に印をつけると、給与以外の所得にかかる住民税は、自宅に届く納付書で自分で納める普通徴収になります。給与分の住民税は、これまでどおり会社の天引きです。
| 選択 | 給与分の住民税 | 不動産所得分の住民税 | 会社に届く通知 |
|---|---|---|---|
| 給与から差引き(特別徴収) | 会社が天引き | 会社が天引き(上乗せ) | 不動産所得の分を含んだ税額 |
| 自分で納付(普通徴収) | 会社が天引き | 自宅に届く納付書で自分で納付 | 給与分のみの税額(黒字の場合) |
e-Taxや確定申告書等作成コーナーで作成する場合も、住民税に関する事項の入力画面で同じ選択ができます。
「自分で納付」が通らないことがある
注意したいのは、普通徴収にするかどうかを最終的に決めるのは市区町村だという点です。自治体の案内でも、給与以外の所得がマイナスの場合や申告の内容によっては、「自分で納付」を選んでいても特別徴収になる場合があるとされています。運用は自治体によって違うため、気になる方は申告前にお住まいの市区町村の住民税担当に確認しておくと安心です。
所得税の確定申告が不要な規模(給与以外の所得が20万円以下)でも、住民税の申告は必要です。この場合も、住民税の申告書で徴収方法を選べるかを市区町村に確認してください。申告の全体の流れは不動産投資の確定申告のやり方と必要書類で解説しています。
申告から納付までのスケジュール
住民税は前年の所得をもとに計算されるため、確定申告から実際の納付まで数か月のずれがあります。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 2月16日〜3月15日 | 前年分の確定申告。第二表で住民税の徴収方法を選ぶ |
| 5月ごろ | 市区町村から勤務先に特別徴収税額の決定通知が届く |
| 6月ごろ | 普通徴収分の納税通知書(納付書)が自宅に届く |
| 6月〜翌年5月 | 給与分は毎月の給与から天引き。普通徴収分は原則として年4回に分けて自分で納付 |
普通徴収の納付書は自宅に届くので、納付を忘れないように注意してください。滞納すると督促や延滞金の対象になり、結果として勤務先に照会が行く可能性もあります。
不動産所得が赤字の年に起きること
ここが、「自分で納付」を選んでいても会社に知られることがある、いちばんの理由です。
不動産所得が赤字になると、その赤字は給与所得と相殺されます(損益通算)。所得税は確定申告で還付され、住民税は翌年度の給与分の税額そのものが下がります。給与以外の所得がマイナスなので、普通徴収に切り分ける「上乗せ分」がそもそもありません。
その結果、会社に届く通知には「給与のわりに住民税が低い」という形で変化が表れます。担当者がそこまで見るかどうかは会社次第ですが、仕組みとしては隠せない、と理解しておくべきです。
赤字になりやすいのは、物件を購入した初年度(諸費用を経費にできるため)や、大規模修繕をした年、築古物件で減価償却費が大きい時期です。こうした年が来ることをあらかじめ想定し、勤務先に説明が必要になったときに慌てないよう、就業規則上の扱いを先に確認しておきましょう。
| 不動産所得の状況 | 「自分で納付」を選んだ場合 | 会社に届く税額の見え方 |
|---|---|---|
| 黒字 | 不動産所得分は普通徴収にできることが多い | 給与相応(変化なし) |
| 赤字 | 切り分ける上乗せ分がない | 給与のわりに低くなる |
| 黒字だが自治体の運用で特別徴収 | 上乗せされる | 給与のわりに高くなる |
赤字の扱いと損益通算の制限は不動産投資の赤字と損益通算で詳しく解説しています。
「隠す」より先に確認すべきこと
就業規則で何が求められているか
住民税の仕組みを知る前に、まず確認していただきたいのが勤務先の就業規則です。不動産賃貸を資産運用として認めている会社は少なくありませんが、一定規模を超える場合や、法人を設立して役員に就任する場合に届出や許可を求める会社もあります。公務員は、一定規模を超える不動産賃貸に承認が必要とされています。
ルール上必要な届出をせずに規模を広げ、あとで発覚するほうが、立場を悪くします。届出が必要なら届け出る、認められていないなら方針を相談する。これが結局いちばん安全です。
銀行には「会社員であること」が武器になる
融資の視点で見ると、会社員であることは隠すものではなく、むしろ強みです。1棟目の融資では、勤務先・年収・勤続年数といった個人の属性が審査の中心になります。2棟目以降は、そこに賃貸経営の実績(確定申告書)が加わります。
だからこそ、会社に知られたくないからと申告を曖昧にしたり、規模の拡大を急いで就業規則とぶつかったりするのは、融資の面でも得策ではありません。属性と実績の両方を、整った資料で示せる状態を保つことが、買い進めるための土台です。2棟目で融資が止まる仕組みは2棟目・3棟目の融資が止まる本当の理由で解説しています。
会社員としての安定した収入は、銀行がもっとも評価する返済原資の一つです。不動産投資のために勤務先との関係を損なえば、属性そのものを失いかねません。会社員のうちに、ルールの範囲で実績をつくることが、長く投資を続けるうえでの近道です。
法人で持てば知られない、とは限らない
「個人で持つと住民税で知られるなら、法人で持てばいい」と考える方もいます。たしかに法人が物件を持ち、個人が法人から報酬を受け取らなければ、個人の住民税に不動産の所得は表れません。
ただし、法人の役員として登記されれば、その情報は登記簿に載ります。就業規則で役員の兼任や他社の経営への関与を制限している会社もあります。また、法人から役員報酬を受け取れば、給与が2か所になり、住民税の通知にも影響します。法人で保有する場合も、勤務先のルールとの関係は確認が必要です。法人化の判断は不動産投資の法人化はいつがベストかで解説しています。
退職・独立のタイミングにも注意
いずれ独立や不動産専業を考えている方も、退職のタイミングには注意が必要です。勤務先という属性がなくなると、それまで通っていた融資が通りにくくなることがあります。私自身、2019年に独立と同時に法人を設立したことで、融資の窓口がほとんど閉まる経験をしました。退職前に次の物件の融資の目途をつけておく、法人の決算実績を先につくっておくなど、順番を設計してから動くことをおすすめします。
まとめ
- 会社に知られるきっかけの多くは、勤務先に届く住民税の通知
- 確定申告書第二表で「自分で納付」を選ぶと、黒字の不動産所得分は普通徴収にできることが多い。ただし最終的には自治体の運用次第
- 不動産所得が赤字の年は、給与分の住民税が下がるため、変化が表れやすい
- 確実に隠す方法はない。就業規則を確認し、必要な届出をしたうえで、属性と実績の両方を育てるのが正攻法
会社員のうちにどこまで買い進め、いつ法人化や独立を考えるか。融資の見通しを含めた設計は、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
