「不動産投資の赤字は、給与と相殺できて税金が戻ってくる」。物件を勧められるときに、よく聞く説明です。
たしかに、不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算でき、源泉徴収された所得税の還付や、翌年度の住民税の減額につながります。ただし、赤字のすべてが通算できるわけではありません。代表的なのが土地を取得するための借入金の利子で、赤字のうちこの部分は給与と相殺できない仕組みになっています。この記事では、損益通算の仕組みと制限を計算例つきで整理し、赤字の申告書が融資にどう響くかまでお伝えします。
- 不動産所得の赤字は、給与所得などと損益通算できる。所得税は還付、住民税は翌年度に減額される
- ただし、土地取得のための借入金利子に相当する部分、別荘などの貸付けの赤字、国外中古建物の一定の減価償却費による赤字は通算できない
- 損益通算しても引ききれない赤字は、青色申告なら翌年以後3年間繰り越せる
- 赤字の申告書は融資審査で不利に働きやすい。「税金が戻る」より「現金と純資産が増えているか」で判断する
不動産投資の赤字と損益通算の仕組み
赤字を給与所得と相殺できる
所得税では、所得を10種類に分けて計算します。そのうち、赤字(損失)が出たときに他の所得と差し引きできるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つだけです。これを損益通算といいます。
会社員の方なら、不動産所得の赤字を給与所得から差し引けます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 給与所得 | 700万円 |
| 不動産所得 | ▲150万円 |
| 損益通算後の所得 | 550万円 |
給与からはすでに所得税が源泉徴収されているので、確定申告をすると、所得が減った分に対応する税金が還付されます。住民税は確定申告の情報をもとに計算されるため、翌年度の税額が下がります。
なぜ赤字になるのか
不動産所得の赤字の主な原因は、次のようなものです。
- 減価償却費:特に築古の物件は耐用年数が短く、1年あたりの減価償却費が大きくなる
- 購入初年度の諸費用:個人の場合、不動産取得税や登録免許税などをその年の経費にできる
- 大規模修繕:修繕費として一度に経費になる場合(判定は修繕費と資本的支出の違いを参照)
- 空室や家賃の下落:収入そのものが減っている
前の3つは「お金が出ていかない、または一時的な」赤字ですが、最後の一つは賃貸経営そのものの問題です。同じ赤字でも、意味はまったく違います。
たとえば、家賃収入が年600万円、返済額(元本と利息)が年450万円、その他の経費が年100万円の物件なら、手元の現金は年50万円増えています。それでも、減価償却費が大きければ、不動産所得は赤字になることがあります。反対に、帳簿上は黒字でも、元本の返済が重く現金が減っていく物件もあります。税金の計算上の損益と、手元の現金の増減は別物だと理解しておくことが大切です。
損益通算できない赤字
不動産所得の赤字でも、次の部分は損益通算できません。国税庁の案内では、これらは「生じなかったもの」とみなされます。
| 通算できないもの | 内容 |
|---|---|
| 土地等の借入金利子 | 赤字のうち、土地(借地権などを含む)を取得するための借入金の利子に相当する部分 |
| 別荘などの貸付け | 主に趣味・娯楽・保養などの目的で持つ資産の貸付けによる赤字 |
| 国外中古建物 | 2021年分以後、簡便法などで計算した減価償却費に相当する赤字(国内の不動産所得とも通算できない) |
| 一定の組合・信託 | 業務執行に関与しない組合員などが受ける組合事業の赤字 |
会社員の不動産投資で最も影響が大きいのが、一つ目の土地の借入金利子です。
土地の借入金利子の制限|計算の考え方
赤字と土地の利子の、小さいほうが通算できない
土地取得のための借入金利子があるとき、通算できない金額は、おおむね次のように考えます。
計算例で見てみましょう。
| ケース | 不動産所得の赤字 | うち土地の借入金利子 | 通算できない額 | 給与と通算できる額 |
|---|---|---|---|---|
| A | ▲100万円 | 150万円 | 100万円 | 0円 |
| B | ▲300万円 | 80万円 | 80万円 | 220万円 |
ケースAのように、借入金利子の大きい物件では、赤字が出ても給与とまったく相殺できないことがあります。特に、物件価格に占める土地の割合が高い都心の物件や、購入初期で利息の負担が大きい時期は注意が必要です。
土地と建物をまとめて買った場合
1つの借入金で土地と建物をまとめて買い、どちらにいくら充てたか区分できない場合は、借入金をまず建物の取得に充て、残りを土地に充てたものとして計算できる取扱いがあります。
たとえば、土地4,000万円・建物6,000万円の物件を、8,000万円の借入金で買った場合、この取扱いによれば、借入金のうち6,000万円は建物、残りの2,000万円が土地の取得に充てたものとなります。利息のうち土地に対応するのは、借入金全体の4分の1(2,000万円÷8,000万円)という計算です。
借入金の割合をどう按分するかで、通算できる金額は大きく変わります。購入時の売買契約書で土地と建物の価格を確認し、計算の根拠を残しておきましょう。
申告書ではどこに書くか
青色申告決算書(不動産所得用)や収支内訳書には、土地等を取得するために要した負債の利子の額を記入する欄があります。確定申告書等作成コーナーで作成する場合も、不動産所得が赤字になると、この金額を入力する画面が表示されます。
ここを空欄のままにすると、赤字の全額が給与と通算され、還付額が過大になってしまいます。あとで税務署から指摘を受けると、追加の納税に加えて加算税がかかることもあります。赤字の年は、返済予定表と売買契約書をもとに、土地に対応する利子を計算してから申告してください。
引ききれない赤字は、青色申告なら3年繰り越せる
給与所得などと損益通算しても、まだ赤字が残る場合(純損失)、青色申告者は翌年以後3年間繰り越して、将来の所得から差し引けます。前年も青色申告をしていれば、繰り越す代わりに前年分の所得税の還付を受ける(繰戻し還付)ことも可能です。白色申告では、原則としてこの繰越しは使えません(災害による損失など一部を除く)。
なお、不動産を売却して出た損失(譲渡損失)は、原則として給与所得などと損益通算できません。保有中の不動産所得の赤字とは扱いが違う点に注意してください。売却時の税金は不動産売却の税金|短期・長期譲渡所得で解説しています。
赤字の申告書は、融資審査でどう見られるか
ここからは融資の視点です。
「還付」は、損失の一部が戻っているだけ
まず確認したいのは、赤字の中身です。減価償却費による帳簿上の赤字で、手元の現金収支がプラスなら、還付はたしかにありがたいものです。しかし、家賃より返済と経費のほうが多く、毎年現金が減っているなら、還付は失ったお金の一部が戻ってくるにすぎません。「税金が戻るから得」という説明には、この視点が抜けていることがあります。
銀行は「賃貸経営で稼げていない人」と読む
個人で不動産を持つ方が次の融資を申し込むと、銀行は確定申告書で返済能力を判断します。減価償却費は足し戻して考えてもらえることが多いものの、不動産所得が毎年赤字の申告書は、それだけで説明を求められる材料になります。給与との通算で所得税がゼロになっている申告書は、「この人の賃貸事業は、本業の給与に支えられている」と読まれかねません。
実際にあったご相談事例でも、築古の木造アパートの短い耐用年数を使って大きな損金をつくり、税負担を下げていたケースがあります。税金は減りましたが、純資産は削れ、銀行格付けが下がる一因になりました。同様の事例はいい節税と悪い節税の見分け方で紹介しています。
- 現金収支(家賃−返済−経費)はプラスか
- 赤字は減価償却や一時的な修繕によるものか、空室など経営の問題か
- 次の融資で、この申告書を銀行に胸を張って出せるか
減価償却が減って利益と税金が増えていく局面(デッドクロス)への備えはデッドクロスの対策で解説しています。
法人で持つ場合の赤字の扱い
物件を法人で持つ場合、法人の赤字は、個人の給与所得と損益通算することはできません。その代わり、法人の赤字は欠損金として、青色申告であれば一定期間(現在は最長10年)繰り越して、将来の法人の利益から差し引けます。
個人で赤字を出して給与と通算するか、法人で将来の黒字と相殺するか。どちらがよいかは、物件の収支の見通しと、融資をどちらの器で受けていくかによって変わります。判断の軸は不動産所得は個人と法人どちらが得かで整理しています。
まとめ
- 不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算でき、所得税の還付・住民税の減額につながる
- 土地取得のための借入金利子に相当する部分、別荘などの貸付け、国外中古建物の一定の減価償却費による赤字は通算できない
- 土地と建物を一括で買った場合は、借入金をまず建物に充てたものとして計算できる取扱いがある
- 引ききれない赤字は青色申告なら3年繰り越せる
- 赤字の申告書は融資で不利に働きやすい。還付額より、現金収支と純資産の増減で判断する
赤字の申告が次の融資にどう響くか、申告前に確認したい方は不動産投資家向けサービスからご相談ください。
