「不動産所得は、個人と法人のどちらで受けたほうが得なのか」。物件が増えて所得が伸びてくると、必ず出てくる問いです。
税率だけを比べると、答えは単純に見えます。個人は所得税と住民税を合わせて最高55%(復興特別所得税を除く)、法人は所得800万円以下の部分の法人税率が15%。ところが、法人に残ったお金は、そのままではあなたの手取りではありません。この記事では、不動産所得を個人と法人で比べた税率を整理したうえで、手取りと融資まで含めた判断の軸をお伝えします。
- 個人は累進課税で、所得税と住民税を合わせて約15%〜55%。給与と合算されるため、会社員は本業の年収で税率が決まる
- 法人(資本金1億円以下など)の法人税率は所得800万円以下の部分15%、超える部分23.2%。地方税を含めた実効税率でも、個人の高い税率帯より低くなりやすい
- ただし法人の利益を個人で使うには、役員報酬や配当で取り出すコストがかかる。法人の維持費もかかる
- 法人の本当の価値は、利益を残して純資産を積み上げ、銀行の評価を高められること。税率差だけで決めない
個人の不動産所得にかかる税率
個人の不動産所得は、給与所得などと合算した課税所得に対して、所得税(累進税率)と住民税(一律10%)がかかります。所得税には、所得税額の2.1%の復興特別所得税も上乗せされます。
| 課税所得 | 所得税率 | 住民税と合わせた税率(目安) |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 約15% |
| 195万円以上330万円未満 | 10% | 約20% |
| 330万円以上695万円未満 | 20% | 約30% |
| 695万円以上900万円未満 | 23% | 約33% |
| 900万円以上1,800万円未満 | 33% | 約43% |
| 1,800万円以上4,000万円未満 | 40% | 約50% |
| 4,000万円以上 | 45% | 約55% |
※所得税率は国税庁の速算表にもとづく。住民税は所得割10%で計算した目安で、復興特別所得税は含めていません。
ポイントは、会社員の不動産所得は、給与に上乗せされることです。たとえば給与所得だけで課税所得が900万円ある方が不動産所得を得ると、その不動産所得には最初から約43%の税率がかかります。同じ不動産所得でも、本業の年収によって税負担がまったく違うのです。
なお、令和8年度税制改正により、2027年分以後は復興特別所得税の税率が引き下げられ、新たに防衛特別所得税(所得税額の1%)が課されることになっています。合計の負担はおおむね変わらない設計とされていますが、細部は国税庁の案内で確認してください。
法人の不動産所得にかかる税率
資本金1億円以下などの中小法人の場合、法人税率は次のとおりです。
| 所得の区分 | 法人税率 |
|---|---|
| 年800万円以下の部分 | 15% |
| 年800万円を超える部分 | 23.2% |
法人にはこのほか、地方法人税、法人住民税、法人事業税などがかかります。これらを合わせた実効税率は、地域や所得の規模によって異なりますが、所得800万円以下の部分でおおむね2割台、超える部分で3割台前半〜半ばが目安です。また、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税(法人税額から年500万円を控除した額の4%)が創設されていますが、法人税額が500万円以下の規模であれば、通常は負担が生じません。
さらに法人には、利益が出ていなくてもかかる住民税の均等割(小規模な法人で年7万円程度が一般的)や、決算・申告のための税理士報酬といった維持コストがかかります。
税率だけで比べてはいけない理由|手取りの考え方
税率の表を見ると、課税所得が数百万円を超える方は「法人のほうが得」に見えます。しかし、比べるべきは税率ではなく最終的な手取りと、手元に何が残るかです。
法人に入った家賃収入を個人が使うには、次のいずれかの方法で取り出す必要があります。
| 取り出し方 | かかるもの | 特徴 |
|---|---|---|
| 役員報酬 | 個人の所得税・住民税、社会保険料 | 法人の経費になる。給与所得控除が使える一方、社会保険料の負担が大きい |
| 配当 | 法人税等を払ったあとの利益に、さらに配当課税 | 法人の経費にならず、二重に課税される形になる |
| 法人に残す | 法人税等のみ | 個人は使えないが、法人の純資産として積み上がる |
| 役員退職金 | 退職所得としての課税 | 退職所得は税負担が軽くなる仕組みがあるが、長期の設計が必要 |
特に会社員の方が役員報酬を受ける場合、給与が2か所になり、税率がさらに上がることもあります。家族を役員にして報酬を分散する方法もありますが、職務の実態に見合う金額であることが前提です。役員報酬の決め方は役員報酬の決め方で詳しく解説しています。
つまり、「法人のほうが税率が低い」が手取りの差になるのは、生活に必要なお金は個人の収入でまかない、法人の利益は法人に残して再投資するという使い方をする場合です。家賃収入を生活費として毎月取り出したい方にとっては、法人化の税メリットは思ったほど大きくないことがあります。
手取りを比べるときは、「個人で受けた場合の税引後の金額」と「法人で受けて、必要な分を役員報酬で取り出し、残りを法人に置いた場合の、個人の手取り+法人の税引後利益」を並べて見るのが基本です。社会保険料は将来の年金給付につながる面もあるため、単純な負担だけでなく、世帯としての受け取り方まで含めて設計します。
銀行は個人と法人をどう見るか
ここからが、税率の比較だけでは見えない、融資の視点です。
個人の利益は、銀行から「消えて」見える
個人で不動産所得を得ると、税引後のお金は家計と一体になります。生活費や教育費、ほかの投資に使われていき、銀行から見て、どれだけ財務が強くなったかがわかりにくいのが個人の弱点です。
法人の利益は、純資産として積み上がる
法人で利益を出して納税し、残ったお金を法人に置いておけば、それは毎期の決算書に純資産として積み上がります。銀行が融資の判断で重視するのは、まさにこの純資産と現預金の厚みです。
私の著書のモデルでは、銀行の格付けを129点満点で採点し、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。また、返済能力を測る債務償還年数は次の式で考えます。
法人で利益を出し、きちんと納税して残すほど、純資産は増え、債務償還年数は短くなります。私が「払った税金の2倍、会社は強くなる」と言い続けているのは、このためです。純資産1億円の意味は純資産1億円で変わる融資で解説しています。
ただし、法人には「実績ゼロ期間」がある
一方で、設立したばかりの法人には決算の実績がありません。個人の年収や属性で通っていた融資が、法人になった途端に通りにくくなることがあります。私自身、2019年に独立と同時に法人を設立し、融資の窓口がほとんど閉まる経験をしました。新設法人での借入の考え方は新設法人の不動産融資、法人化の判断のタイミングは不動産投資の法人化はいつがベストかをご覧ください。
法人で持つときにかかるコスト
税率の差を考えるときは、法人で持つことによる追加のコストも差し引いて考えます。
| コスト | 内容 |
|---|---|
| 設立費用 | 登録免許税、定款の認証手数料(株式会社の場合)、司法書士報酬など |
| 住民税の均等割 | 赤字でも毎年かかる。小規模な法人で年7万円程度が一般的 |
| 税理士報酬 | 法人の決算・申告は個人より手間がかかり、報酬も高くなりやすい |
| 社会保険料 | 役員報酬を払うと、法人と個人の双方に社会保険料の負担が生じる |
| 物件を移す場合の移転コスト | 個人の譲渡所得の課税、不動産取得税、登録免許税など |
特に、すでに個人で持っている物件を法人に移す場合は、移転のコストで税率差のメリットが何年分も消えることがあります。既存の物件は個人のまま持ち、次の物件から法人で買うという進め方が選ばれることが多いのはこのためです。
個人と法人、どちらで持つかの判断軸
最後に、判断の軸を整理します。
| 判断の軸 | 個人が向いている | 法人が向いている |
|---|---|---|
| 本業を含めた課税所得 | 低め(税率20%台まで) | 高め(税率33%以上の帯) |
| 家賃収入の使い方 | 生活費として取り出したい | 法人に残して再投資したい |
| 投資の規模と今後の計画 | 1〜2棟で拡大の予定は少ない | 買い進めて規模を大きくしたい |
| 融資の戦略 | 個人属性で借りられる範囲 | 法人の決算書で評価を積み上げたい |
| 相続・承継 | 物件数が少なく、分けやすい | 株式で承継を設計したい |
法人で持つ場合のメリット・デメリットの全体像は資産管理法人のメリット・デメリットで整理しています。
まとめ
- 個人の税率は給与と合算した課税所得で決まり、住民税と合わせて約15%〜55%
- 中小法人の法人税率は所得800万円以下で15%、超える部分で23.2%。地方税を含めても高い所得帯では個人より低くなりやすい
- ただし法人の利益を個人で使うには、役員報酬や配当で取り出すコストがかかり、法人の維持費もかかる
- 法人の本当の価値は、利益を残して純資産を積み上げ、銀行の評価を高められること
税率の比較だけでなく、手取りと融資の見通しまで含めたシミュレーションは、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
