「個人で2棟持っているので、次からは法人で買おうと思う。設立したばかりの法人でも融資は出ますか?」。新設法人で不動産を買うときの融資は、資産管理法人を検討している方から必ず出てくる質問です。
結論から言うと、新設法人でも融資を受けることはできます。ただし、銀行の審査の見方は個人とも既存の法人とも違います。この記事では、決算実績がない新設法人を銀行がどう審査するのか、そして設立前に決めておくべきことを解説します。
- 新設法人には決算書がない。銀行は「代表者個人の信用」「物件の収益性と担保価値」「自己資金」の3つで審査する
- 資本金・本店所在地・決算期・事業目的は、設立前に融資を受ける銀行の目線で決める
- 他の法人の借入を隠して融資を受ける「1法人1物件スキーム」は、発覚すれば取引停止もありうる。絶対にやらない
- 1期目の決算書が、その法人の最初の通信簿になる。赤字・債務超過で始めない設計が2棟目以降を決める
新設法人の審査で、銀行が見ている3つのこと
既存の法人なら、銀行は決算書から格付けを行い、融資の可否と条件を決めます。新設法人にはこの決算書がありません。そこで、次の3つを中心に審査します。
| 審査のポイント | 銀行が確認すること |
|---|---|
| 代表者個人の信用 | 年収、勤務先、個人の資産と借入、既存物件の収支、確定申告の内容 |
| 物件の収益性と担保価値 | 家賃収入で返済できるか、担保評価に対する借入の割合 |
| 自己資金 | どれだけ入れるか、出どころは明確か、購入後に現預金が残るか |
代表者個人と法人は「一体」で見られる
新設法人の融資では、代表者が連帯保証人になるのが一般的です。銀行から見れば、法人の返済が滞ったときに最終的に頼れるのは代表者個人です。そのため、法人と個人を合算した実態で判断します。
個人で物件を持っている方は、その物件の収支や確定申告の内容も見られます。個人の不動産所得が大きな赤字になっていれば、「この人の物件運営は大丈夫か」と懸念されます。法人で買う前の個人の申告内容が、そのまま法人の審査に影響するのです。
物件の力が問われる
決算実績がないぶん、物件そのものの収益性と担保価値の比重が大きくなります。家賃収入から運営費と返済を差し引いて十分な手残りがあるか、担保評価に対して借入が過大でないか。新設法人で買う1棟目は、「物件の力だけで返済が回る」と説明できる物件を選ぶことが重要です。
設立前に決めておくべき4つのこと
法人の基本的な設計は、設立後に変えるとコストや手間がかかります。融資を受ける前提なら、設立前に銀行の目線で決めておきましょう。
1. 本店所在地
地方銀行や信用金庫には営業エリアがあります。本店所在地や物件の所在地がエリア外だと、相談すらできないことがあります。融資を受けたい金融機関の営業エリアを意識して決めます。信用金庫と地方銀行の違いはこちらの記事で解説しています。
2. 資本金
資本金は設立時の純資産になります。少なすぎると、1期目に設立費用や購入時の諸費用で赤字が出たとき、すぐに債務超過になってしまいます。一方で、資本金の額によって消費税の免税の扱いや法人住民税の均等割が変わります。消費税の論点は法人設立と消費税の記事をご覧ください。
3. 決算期
物件の購入時期と決算期の関係は、1期目の決算書の見え方を左右します。購入直後に決算を迎えると、諸費用が先に出て赤字の決算書になりやすくなります。購入時期と事業年度の長さをセットで考えます。
4. 事業目的
定款の事業目的に「不動産の賃貸・管理」などが入っていないと、融資の審査で確認を求められることがあります。将来の売却や他の事業も視野に入れて記載しておきます。
5. 株主と役員の構成
誰が株主になり、誰が役員になるかも、融資と相続の両面に関わります。銀行は、法人を実質的に支配しているのは誰か、連帯保証人になるのは誰かを確認します。家族を役員や株主にする場合、その家族の収入や資産も審査の対象になることがあります。また、株主構成は将来の相続や事業承継にも影響します。「とりあえず自分一人で」と決める前に、10年後、20年後に誰がこの法人を引き継ぐのかまで考えておくと、後から株式を移す手間とコストを減らせます。
やってはいけない「1法人1物件スキーム」
かつて、物件ごとに新しい法人を設立し、それぞれの法人で別々の金融機関から融資を受け、他の法人の借入を金融機関に伝えない手法が広まったことがあります。決算書には他の法人の借入が載らないため、短期間で多額の物件を買えてしまう、というものです。
これは、金融機関が「その人がほかにいくら借りているか」を知らないまま貸しているという意味で、信頼関係を根本から壊す行為です。金融機関は、代表者個人の信用情報や登記簿、確定申告書の内容などから、ほかの法人や借入の存在に気づくことがあります。「隠しておけば分からない」という考え方そのものが通用しないと考えてください。発覚すれば、期限の利益を失って一括返済を求められたり、その金融機関とは二度と取引できなくなったりするおそれがあります。
保有している法人、その借入、個人の借入は、すべて金融機関に開示する。開示したうえで「それでも貸せる」と判断してもらえる財務をつくることが、長く買い続けるための唯一の道です。
融資の相談で用意しておきたい資料
決算書がない新設法人は、そのぶん資料の質と説明の筋道で信用を補う必要があります。金融機関によって求められるものは異なりますが、次のような資料を準備しておくと、相談がスムーズに進みます。
| 区分 | 主な資料 | 銀行が確認したいこと |
|---|---|---|
| 法人 | 登記事項証明書、定款、設立時の貸借対照表、事業計画 | 何のための法人で、どう返済していくのか |
| 代表者個人 | 源泉徴収票または確定申告書(直近数年分)、資産・負債の一覧、預金通帳 | 代表者の返済余力と、自己資金の出どころ |
| 既存物件 | 物件ごとの家賃・経費・返済の収支表、借入の返済予定表 | 既存の物件が健全に回っているか |
| 購入予定の物件 | 物件概要、レントロール(入居状況と家賃の一覧)、修繕履歴 | 家賃収入で返済が回るか、担保価値はいくらか |
事業計画は「保守的に」つくる
新設法人の事業計画で大切なのは、楽観的な数字を並べないことです。満室想定だけでなく、空室率を上げたケース、金利が上がったケースでも返済が続けられることを示します。銀行は、甘い計画を一目で見抜きます。保守的な前提でも返済が回ることを示せれば、それが新設法人の何よりの信用になります。計画づくりの考え方は事業計画書の書き方の記事も参考にしてください。
個人の物件を法人に移す場合の注意
すでに個人で物件を持っている方が、新設法人に物件を移すケースもあります。この場合、個人から法人への売却になるため、個人には譲渡所得の税金、法人には登録免許税や不動産取得税などの移転コストがかかります。さらに、個人の借入を法人の借入に切り替える必要があり、銀行の同意なしに物件だけを移すことはできません。
移転の目的が「税負担の軽減」だけであれば、移転コストと見合わないことも少なくありません。法人で新しく買う物件から始めるのか、既存物件も移すのかは、融資を受けている銀行の意向も確認しながら判断します。
1期目の決算書が「最初の通信簿」になる
新設法人で1棟目を買ったあと、2棟目の審査で銀行が必ず見るのが1期目の決算書です。ここで大きな赤字や債務超過になっていると、「新しい法人で、いきなり債務超過」という評価からスタートすることになります。
1期目は、設立費用、登記費用、不動産取得税、融資手数料など、購入時のコストが重なりやすい時期です。どの費用を一度に経費にし、どの費用を資産に計上するかによって、決算書の見え方は大きく変わります。節税のために赤字を大きくするより、純資産を残して黒字に近づけるほうが、2棟目以降の融資には有利に働くことが多いのです。
| 1期目の決算の姿 | 2棟目の審査での見え方 |
|---|---|
| 大きな赤字・債務超過 | 「物件の運営力に疑問」「これ以上は貸しにくい」 |
| 小さな赤字だが純資産はプラス | 「立ち上がり期として想定内」と説明しやすい |
| 黒字で納税し、純資産が積み上がる | 「順調な法人」として次の融資を検討しやすい |
私自身、法人で買い進めるなかで痛感したのは、法人の信用は決算書でしか証明できないということです。個人の年収がいくら高くても、法人の決算書が弱ければ融資は伸びません。銀行は決算書を受け取ると、短時間で格付けを仮計算します。提出前に確認すべきポイントは決算書を銀行に出す前のチェックで解説しています。
法人化そのもののタイミングや、資産管理法人のメリット・デメリットについては、法人化のタイミングと資産管理法人の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
- 新設法人は決算書がないため、代表者個人の信用・物件の力・自己資金で審査される
- 本店所在地・資本金・決算期・事業目的は、融資を受ける銀行の目線で設立前に決める
- 他の法人の借入を隠す1法人1物件スキームは絶対にやらない。すべて開示するのが原則
- 1期目の決算書が最初の通信簿。赤字・債務超過で始めない設計が2棟目以降を決める
新設法人での物件購入は、設立前の設計で結果の多くが決まります。法人の設計から銀行への説明資料、1期目の決算まで一貫してサポートしますので、不動産投資家向けサービスからお気軽にご相談ください。
