「減価償却費が多い年は税金が少なくて助かった」。経営者の方から、よくこんな声を聞きます。たしかに税金の面だけを見れば、減価償却費が多いほど利益が減り、税金も減ります。
ところが、銀行の審査担当者は同じ数字をまったく別の目線で見ています。税務では「ありがたい費用」の減価償却費が、銀行からは「利益の薄さ」や「資産の実態が見えにくい会社」のサインに見えることがあるのです。この記事では、損益計算書(PL)の裏側で銀行が何を読んでいるのかを、3つの視点から解説します。
- 「減価償却費が多い=節税できている」という発想だけで動くのは危険
- 銀行は減価償却費の多い会社を「収益性が低い」「実態BSが見えにくい」と見ることがある
- 債務償還年数では減価償却費が足し戻されるが、なぜ償却が多いのかまで分解して読まれる
- 本業の設備なら減価償却費は「味方」、損金目的の償却なら「敵」
- 1〜2年に一度、銀行員の目線でBSを棚卸しする習慣をつける
減価償却費の基本と「多いほど得」という誤解
減価償却とは、資産の購入費を耐用年数に分けて費用にする仕組み
建物、機械、車両などの固定資産は、買った年に全額を費用にするのではなく、使える期間(法定耐用年数)に分けて毎年少しずつ費用にします。これが減価償却です。
たとえば重量鉄骨造(骨格材の肉厚4mm超)の住宅用建物の法定耐用年数は34年です。建物は定額法で償却するため、1億円の建物なら償却率0.030をかけて、毎年300万円が減価償却費になります。
「税金が減る」と「会社が得をする」は別の話
減価償却費が積み上がると課税所得が下がり、税金は減ります。そのため「償却が多いほど得」と考える方がいますが、これは税務の目線だけで見た話です。
減価償却費は、すでに払ったお金(あるいは借りて払ったお金)を後から費用に振り分けているにすぎません。会社の財産が増えたわけではなく、資産の帳簿価額が減り、その分だけ利益と純資産も小さく見えているのが実際のところです。
銀行はこの数字を、税務とは別の3つの視点から読んでいます。
銀行の見方1:利益が小さく見えて「収益性」が下がる
1つ目は、単純に利益が小さく見えることです。
銀行の格付けには「収益性」という評価軸があります。私が著書で紹介している格付けモデル(129点満点)では、収益性に15点が配分されており、売上に対して利益がどれだけ出ているかが評価の中心になります。減価償却費が大きいと、この利益率が下がり、収益性の点数が伸びません。
ここで起きるのが、「キャッシュは十分に回っているのに、PL上は利益が薄い」という逆転現象です。大きな設備や不動産を持つ会社ほど、稼いでいるのに数字の上では稼げていないように見えることがあります。
法人税法では、減価償却費は会社が損金経理した範囲で損金になるため、償却額を少なく計上する(償却不足にする)ことも制度上は可能です。ただし銀行は、本来計上すべき償却費との差を把握して実態の利益を修正するのが一般的です。見かけの利益を作るより、利益が薄い理由を説明できるほうが評価につながります。
銀行の見方2:価値の下がった資産がBSに溜まっていく
2つ目は、減価償却が進んだ資産がBSに残り続けることです。
資産は償却されるたびに帳簿価額が下がりますが、その帳簿価額が実際の価値と一致しているとは限りません。たとえば5,000万円で買った設備が10年後に帳簿価額500万円になっていたとして、売れば500万円になるかというと、そうでないケースは多くあります。特定の用途にしか使えない機械や、立地に需要がない不動産は、帳簿価額より低い値でしか売れないこともあります。
このように、帳簿上は資産として載っているのに、実際にはそれほどの価値がない資産が溜まっていくことを、私は「実態BSの毀損」と呼んでいます。帳簿上の純資産は1億円あっても、資産を時価で洗い直すと8,000万円しかない、ということが起こり得るのです。
経験のある審査担当者ほど、この「実態の価値」を意識して決算書を読みます。特に不動産や生産設備の多い会社では、帳簿上の資産が実態とずれていないかを注意深く確認しています。
| 項目 | 帳簿上 | 銀行が見る実態 |
|---|---|---|
| 設備・建物 | 取得価額 − 減価償却累計額 | 売却したらいくらになるか |
| 不動産(土地) | 取得価額のまま | 路線価や実勢価格 |
| 純資産 | 資産 − 負債(帳簿価額) | 時価で洗い直した資産 − 負債 |
| 減価償却費 | 費用として利益を減らす | 現金支出のない費用として足し戻す |
銀行の見方3:債務償還年数では足し戻されるが、中身を分解される
3つ目は少し複雑ですが、大切なポイントです。銀行が返済能力を見るときに使う債務償還年数の計算では、減価償却費が足し戻されます。
分母に減価償却費が加えられているのは、減価償却費が実際に現金が出ていく費用ではないからです。利益が100万円で減価償却費が200万円あれば、会社に残るキャッシュはおおよそ300万円になります。銀行はこの「実質的な返済原資」で、借金を返し切るのに何年かかるかを測ります。計算方法と目安は決算書を銀行に出す前にやるべき3つのチェックで詳しく解説しています。
「償却で良く見えている」会社は見抜かれる
この式だけを見ると、減価償却費が多い会社ほど分母が大きくなり、債務償還年数は短く出ます。一見すると有利です。
ところが、ここに落とし穴があります。減価償却費のおかげで債務償還年数がよく見えているだけで、本業の稼ぐ力(経常利益)は低いままという会社があるからです。審査担当者は数字を分解して、次のように読み進めます。
- 経常利益は薄いのに、なぜ返済原資が多く見えるのか
- 減価償却費が大きいからだ。では、償却している資産は何か
- それは本業に必要な設備か、それとも税金を減らすために買った資産か
償却が多い理由が「本業のための設備投資」なら問題はありません。しかし「損金を作るために買った資産」であれば、銀行員はその背景を敏感に感じ取ります。そうした資産は数年後に価値がなくなり、そのころには償却費も消えて、返済原資が一気に細るからです。
実際にあった事例:大型償却で利益は薄く、BSは毀損していった
この罠は、決して珍しいものではありません。実際にあったご相談事例を紹介します。
ある不動産投資家の方は、物件を買い進める中で、太陽光発電設備と築古の木造アパートに複数投資していました。どちらも当時は「税効果の高い資産」として人気がありました。太陽光は短期間で大きな償却が取れ、法定耐用年数を過ぎた木造建物は簡便法で4年償却ができる。実際に大きな損金を作ることができました(中古建物の耐用年数の考え方は中古物件の減価償却と耐用年数で解説しています)。
問題は「大型償却の後」でした。太陽光の設備は償却が終わると帳簿上の価値はほぼゼロ。築古木造は流動性が低く、思うような価格で売れません。毎年の大型償却で帳簿上の資産の価格は急速に減り、表面上の利益は薄く、BSは毀損していきました。貸借対照表上の資産の価格(いわゆる「簿価」)よりも負債の金額のほうが大きくなる、債務超過の状態に陥っていたのです。銀行格付けは悪化し続け、やがて複数の金融機関から新しい融資を断られることになりました。
原因は複合的でしたが、この大型償却によるBSの毀損が要因のひとつだったことは間違いありません。「税効果」という言葉に引きずられて、BSへの影響を甘く見ていたのです。同じような事例はいい節税と悪い節税の見分け方でも詳しく書いています。
減価償却費は敵か味方か:答えは「何のための資産か」で決まる
では、減価償却費は敵なのでしょうか、味方なのでしょうか。答えは「文脈次第」です。
本業のための設備投資なら、減価償却費は味方です。 その設備が稼ぎを生み出し、BSにも価値のある資産として残るなら、減価償却費は正しい費用の計上にすぎません。収益性の点数が一時的に下がっても、会社の競争力は上がっています。銀行にも「この設備でこれだけ稼ぐ」と説明できます。
損金目的の償却なら、減価償却費は敵です。 税金を減らすためだけに買った資産が、毎年BSを削り続け、最後は融資が止まります。
見分けるための問いはシンプルです。
- この資産は、5年後・10年後も稼ぎを生み出しているか?
- 売ろうとしたとき、帳簿価額以上の値段がつくか?
両方にYESと答えられるなら、減価償却費は味方です。NOなら、BS毀損のリスクを抱えた選択です。
対策:銀行員の目線で自社のBSを棚卸しする
最後に、すぐに始められる対策をお伝えします。1〜2年に一度、銀行員の目線で自社のBSを棚卸しする習慣をつけてください。
棚卸しの手順
- BSに載っている資産をすべて書き出す
- それぞれ「いま売ったらいくらになるか」を考える。建物や土地は路線価や周辺の取引事例と照らし合わせ、機械設備は中古市場での取引価格を調べる
- 特に「償却が進んだ資産」「買ってから年数が経った資産」に注目し、帳簿価額と実際の価値の差を確認する
- 差の大きい資産について、持ち続けるのか、入れ替えるのか、銀行にどう説明するのかを決めておく
決算書を出すときに添えたい説明
減価償却費が多い期の決算書を銀行に出すときは、数字だけを渡すのではなく、次のような説明を一枚にまとめて添えると伝わり方が変わります。
| 説明する項目 | 伝える内容の例 |
|---|---|
| 償却が多い理由 | 本業の生産能力を上げるための設備を導入した |
| 資産が生む収益 | この設備で年間どれだけ売上・利益が増える見込みか |
| 償却を除いた実力 | 償却前の利益(経常利益+減価償却費)の推移 |
| 資産の実態価値 | 帳簿価額と、時価や再販価格の見込み |
| 今後の見通し | 償却が終わる時期と、そのころの利益水準 |
「償却が多いから利益が薄い」という事実は同じでも、その資産が何を生むのかを自分の言葉で説明できる会社は、稼ぐ力のある会社として読まれます。反対に、償却の中身を聞かれて答えられないと、損金目的の買い物を疑われても仕方がありません。
一人で難しければ税理士と一緒に
自社だけで判断するのが難しければ、顧問税理士に「実態BSを確認したい」と依頼してみてください。銀行の視点を持つ税理士であれば、格付けへの影響も含めてBS全体を一緒に見てくれるはずです。
この棚卸しをしている経営者と、していない経営者とでは、銀行との対話の質がまったく違ってきます。「この設備の帳簿価額は○○円ですが、実際の価値は△△円程度と見ています」と自分から言える社長は、それだけで数字をわかっている経営者として信頼されます。
まとめ
- 「減価償却費が多い=節税できている」という発想だけで動くのは危険
- 銀行は減価償却費の多い会社を「収益性が低い」「実態BSが見えにくい」という目線で見ることがある
- 債務償還年数では減価償却費が足し戻されるが、償却している資産の中身まで分解して読まれる
- 本業の設備なら減価償却費は味方、損金目的の償却なら敵
- 1〜2年に一度、銀行員の目線でBSを棚卸しする
PLはあくまで1年間の「断面」です。会社の体力はBSに積み上がっていきます。クレフティでは、決算書の作成にとどまらず、実態BSの確認や格付けのシミュレーションまで、銀行の目線で財務を点検するお手伝いをしています。
