「手元にまとまったお金ができたので、アパートローンを繰り上げ返済したほうがいいでしょうか?」。金利が上がり始めてから、この相談が増えています。
不動産投資の繰り上げ返済には、利息が減るというわかりやすいメリットがあります。一方で、手元の現預金が減るという、目に見えにくいデメリットもあります。この記事では、繰り上げ返済のメリット・デメリットを試算で比べ、現預金とのバランスをどう取るか、銀行はどう見るかを解説します。
- 繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」がある。1億円・金利2%の借入で5年後に1,000万円返すと、利息の削減額は期間短縮型で約590万円、返済額軽減型で約270万円
- ただし繰り上げ返済しても、債務償還年数の「借入金−現預金」は基本的に変わらない。銀行評価が自動的に上がるわけではない
- 最大のリスクは手元資金が薄くなること。空室・修繕・金利上昇・次の物件の自己資金に使えるお金がなくなる
- 繰り上げ返済は「十分な現預金を残したうえで、余ったお金で」が原則
繰り上げ返済の2つの方法と効果
繰り上げ返済には2つの方法があります。
- 期間短縮型:毎月の返済額は変えずに、返済期間を短くする
- 返済額軽減型:返済期間は変えずに、毎月の返済額を減らす
1億円を金利2%・30年・元利均等で借り、5年後(残高約8,720万円)に1,000万円を繰り上げ返済した場合で比べます。
| 項目 | 期間短縮型 | 返済額軽減型 |
|---|---|---|
| 毎月の返済額 | 約37.0万円のまま | 約37.0万円 → 約32.7万円 |
| 年間返済額の変化 | 変わらない | 約51万円減る |
| 残りの返済期間 | 25年 → 約21年5か月 | 25年のまま |
| 利息の削減額(概算) | 約590万円 | 約270万円 |
利息の削減額だけを見れば、期間短縮型が有利です。一方、毎月の手残りが増えるのは返済額軽減型で、空室や金利上昇への耐性が上がります。
利息の削減は「税引き後」で考える
不動産所得や法人の所得の計算上、借入金の利息は経費になります(個人で不動産所得が赤字の場合、土地の取得にかかる借入金の利息に相当する部分は損益通算できないという制限があります)。繰り上げ返済で利息が減ると、そのぶん利益が増え、税金も増えます。実際に得をする額は、利息の削減額から税金の増加分を差し引いた額です。
繰り上げ返済のメリット
1. 総返済額が減る
もっとも直接的なメリットです。金利が高いほど、残りの期間が長いほど効果は大きくなります。
2. 金利上昇リスクを減らせる
変動金利で借りている場合、残高が減れば、金利が上がったときの返済増加額も小さくなります。金利上昇局面での対策の全体像は金利上昇対策の記事で整理しています。
3. 担保割れ(債務超過)の物件を解消できる
物件の評価額より借入残高が大きい状態は、銀行から見ると「実質的に債務超過の物件」です。繰り上げ返済で残高を評価額以下に下げると、借り換えや売却の選択肢が広がります。
繰り上げ返済のデメリット
1. 手元資金が減り、いざというときに困る
最大のデメリットです。繰り上げ返済したお金は、原則として戻ってきません。大規模修繕や長期の空室が重なったとき、もう一度同じ額を借りられる保証はありません。
2. 次の物件の自己資金がなくなる
買い進めたい人にとっては、現預金は次の物件の頭金と諸費用です。繰り上げ返済で使ってしまうと、良い物件が出たときに動けなくなります。
3. 手数料・違約金がかかることがある
金融機関や契約によっては手数料がかかり、固定金利期間中は違約金が発生することもあります。
銀行は繰り上げ返済をどう見るか
ここがクレフティとして最もお伝えしたいポイントです。
債務償還年数は、次の式で計算します。
1,000万円を繰り上げ返済すると、借入金が1,000万円減り、現預金も1,000万円減ります。分子の「借入金−現預金」は変わりません。利息が減るぶん経常利益はわずかに増えますが、債務償還年数が劇的に改善するわけではないのです。
| 項目 | 繰り上げ返済前 | 1,000万円を繰り上げ返済後 |
|---|---|---|
| 借入金 | 8,720万円 | 7,720万円 |
| 現預金 | 1,500万円 | 500万円 |
| 借入金−現預金 | 7,220万円 | 7,220万円 |
| 手元資金の厚み(年間返済約444万円に対して) | 約3年分 | 約1年分 |
自己資本比率は少しだけ改善する
繰り上げ返済で借入と現預金が同時に減ると、総資産も小さくなるため、純資産÷総資産で計算する自己資本比率はわずかに上がります。たとえば総資産2億円・純資産2,000万円(自己資本比率10%)の法人が1,000万円を繰り上げ返済すると、総資産は1億9,000万円になり、自己資本比率は約10.5%です。改善はするものの、その幅は小さく、格付けを大きく動かすほどではないことが多いでしょう。自己資本比率の考え方は自己資本比率の目安の記事で解説しています。
一方で、手元資金は大きく減ります。銀行は「借入に対して現預金がどれだけあるか」を、安全性の判断材料として見ています。繰り上げ返済で現預金を薄くしすぎると、かえって次の融資で慎重に見られることがあるのです。
銀行にとって、貸出の利息は収益の柱です。順調に返済している借入を大きく繰り上げ返済されることを歓迎しない金融機関もあります。今後も取引を続けたい銀行であれば、事前に担当者へ相談し、意図を伝えておくのが無難です。銀行との付き合い方はこちらの記事で解説しています。
繰り上げ返済すべきケース・しないほうがいいケース
| 繰り上げ返済を検討してよいケース | 繰り上げ返済を急がないほうがいいケース |
|---|---|
| 返済の数年分の現預金を残しても、なお余裕資金がある | 現預金が返済の1年分にも満たない |
| 金利が高い借入、または変動金利で上昇が見込まれる借入 | 金利が低い固定金利で、違約金がかかる |
| 担保割れを解消して借り換え・売却をしたい | 近いうちに次の物件を買う予定がある |
| 今後の買い増しは考えていない | 大規模修繕の時期が近い |
複数の借入があるなら、金利が高く、残高と評価額の差が大きいものから優先して検討するのが基本です。
繰り上げ返済の前に確認する5つのこと
- 繰り上げ返済後に残る現預金は、年間返済額の何年分か
- 手数料・違約金はいくらか。差し引いても効果があるか
- 期間短縮型と返済額軽減型のどちらを選べるか(金融機関によっては選べないこともある)
- 近いうちに物件の購入、大規模修繕、売却の予定はないか
- 今後も取引を続けたい銀行か。担当者に事前に相談したか
繰り上げ返済の代わりに検討したい選択肢
「余裕資金があるから、とりあえず繰り上げ返済」と決める前に、ほかの使い道とも比べてみてください。
| 選択肢 | 期待できる効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現預金として持ち続ける | 安全性が上がり、銀行評価の上でも手元資金が厚く見える | 利息の負担は変わらない |
| 借入先の銀行に預金する | 取引関係が深まり、金利交渉の材料になることがある | 預金と借入の相殺を前提にしない |
| 借り換え・金利交渉 | 手元資金を減らさずに利息を減らせる可能性がある | 借り換えには事務手数料や登記費用がかかる |
| 修繕・バリューアップに使う | 家賃や入居率が上がれば、収益力そのものが改善する | 投資額に見合う家賃の上昇があるか見極める |
| 次の物件の自己資金にする | 規模を拡大し、収益の柱を増やせる | 累積負債とのバランスを試算してから |
特に、金利が上がり始めた局面では、繰り上げ返済よりも借り換えや金利交渉で利息を下げられないかを先に検討する価値があります。手元資金を減らさずに済むからです。考え方は借り換えの記事と融資の金利交渉の記事で解説しています。
個人と法人で異なる注意点
個人で借りている場合、繰り上げ返済の原資は、給与や家賃収入から税金を払った後のお金です。生活防衛資金まで使ってしまわないよう、家計全体で判断します。
法人で借りている場合は、繰り上げ返済によって決算書の現預金が減ることに注意が必要です。決算の直前に大きく繰り上げ返済をすると、決算書上の現預金が薄く見え、銀行が格付けを計算するときに安全性の評価が下がることがあります。繰り上げ返済をするなら、決算期との関係も考えて時期を決めるのが賢明です。
私自身、財務を立て直した時期に最も重視したのは、借入を減らすことより現預金を積み増すことでした。手元にお金があれば、金利上昇にも空室にも耐えられ、銀行との交渉でも主導権を持てます。繰り上げ返済は、その土台ができたあとで考えても遅くありません。
まとめ
- 繰り上げ返済の利息削減効果は、期間短縮型のほうが大きく、返済額軽減型は毎月の手残りが増える
- 繰り上げ返済しても「借入金−現預金」は変わらず、銀行評価が自動的に上がるわけではない
- 最大のリスクは手元資金が薄くなること。現預金を十分に残したうえで、余ったお金で行う
- 金利が高い借入、担保割れの借入から優先して検討する
繰り上げ返済をするか、現預金として持ち続けるかは、保有物件全体の財務と今後の投資計画で決まります。迷ったときは、不動産投資家向けサービスからお気軽にご相談ください。
