不動産を担保に融資を受けるとき、契約書に「根抵当権設定」と書かれていて戸惑った経験はないでしょうか。抵当権と根抵当権の違いを理解しないまま署名してしまうと、あとで別の銀行から借りようとしたときや、物件を売るときに思わぬ制約を受けることがあります。
結論から言うと、抵当権は「この借入」を担保するもの、根抵当権は「この銀行との今後の借入」を枠でまとめて担保するものです。この記事では、両者の違いを整理したうえで、融資で根抵当権を設定するときの注意点を、銀行の見方も含めて解説します。
- 抵当権は特定の借入を担保し、根抵当権は極度額の範囲で繰り返し発生する借入をまとめて担保する
- 根抵当権は返済しても枠が残る。追加の借入はしやすいが、担保の余力をその銀行が押さえ続ける
- 極度額を大きくしすぎると、他の銀行から借りにくくなる
- 売却や相続のときは、根抵当権の解除・元本確定の手続きが必要になる
抵当権と根抵当権の違いを表で整理する
| 比較項目 | 抵当権 | 根抵当権 |
|---|---|---|
| 担保する借入 | 特定の1つの借入 | 一定の範囲の取引から生じる不特定の借入 |
| 上限 | その借入の金額 | 極度額(あらかじめ決めた上限) |
| 返済したとき | 借入の完済で消滅(抹消登記は必要) | 元本確定まで枠として残る |
| 追加の借入 | 新たに抵当権の設定が必要 | 極度額の範囲内なら設定し直さずに借りられる |
| 向いている取引 | 物件購入資金など一回限りの借入 | 運転資金など継続的な借入、当座貸越 |
| 登録免許税の課税標準 | 債権金額 | 極度額 |
登録免許税の税率は、どちらも原則として課税標準の1,000分の4です(住宅用家屋の軽減措置など、例外があります)。
抵当権は「借入とセット」
抵当権は、たとえば「2025年4月に借りた5,000万円」という特定の借入を担保します。この借入を返し終われば抵当権も役目を終えます(ただし登記簿から消すには抹消登記が必要です)。新しく借りるときには、改めて抵当権を設定します。
根抵当権は「枠」を設定する
根抵当権は、「銀行取引から生じる債権を、極度額1億円まで担保する」というように、取引の範囲と上限額を決めて設定します。その範囲内であれば、借りて返して、また借りて、を繰り返しても、そのたびに担保を設定し直す必要がありません。
事業を続けていれば、運転資金の借入は何度も発生します。根抵当権は、こうした継続的な取引を前提にした仕組みです。
根抵当権の「担保する範囲」を確認する
根抵当権では、どんな取引から生じた債権を担保するのかを、設定のときに決めます。金融機関との契約では「銀行取引」と定めることが多く、この場合、証書貸付、手形貸付、当座貸越など、その金融機関との銀行取引から生じる借入が広く担保されます。範囲が広いということは、その不動産が、その金融機関とのあらゆる借入の担保になるということです。設定の前に、範囲の書き方も確認しておきましょう。
根抵当権のメリットとデメリット
| 中身 | |
|---|---|
| メリット | 極度額の範囲内なら、追加の借入のたびに登記費用や手続きがかからない |
| メリット | 金融機関にとっても管理が楽なため、継続的な融資の相談がしやすい |
| デメリット | 返済しても枠が残り、担保の余力をその金融機関が押さえ続ける |
| デメリット | 他の金融機関が、その不動産を担保にした融資を組みにくくなる |
| デメリット | 不要になっても、解除には金融機関の同意と抹消登記が必要 |
融資で根抵当権を設定するときの5つの注意点
1. 極度額は「大きければ安心」ではない
極度額を大きく設定すれば、将来の追加融資はスムーズになります。しかし、その不動産の担保価値の大部分を1つの金融機関が押さえることになります。別の金融機関に「この不動産を担保に借りたい」と相談しても、先に大きな極度額の根抵当権が付いていれば、担保の余力はほとんど残っていないと判断されます。
極度額をどう設定するかは、今後どの銀行とどう付き合うかという取引方針そのものです。今後の資金計画と照らして決めましょう。
たとえば担保評価が1億円の不動産に、極度額1億2,000万円の根抵当権を設定したとします。実際の借入残高が5,000万円まで減っていても、ほかの金融機関から見れば、この不動産の担保価値はすでに使い切られているように見えます。借入残高ではなく極度額で担保の余力が判断されうる点が、抵当権との大きな違いです。
2. 他の銀行から見た「担保の余力」を意識する
銀行は、融資の審査で不動産の担保評価を行い、そこから先に設定されている担保の額を差し引いて、残りの余力を見ます。根抵当権の場合、実際の借入残高が少なくても、極度額の分だけ担保が使われていると見られることがあります。
複数の金融機関と取引を広げたい会社ほど、どの不動産をどの金融機関の担保にするかを、意識的に分けておくことが大切です。
3. 売却するときは、解除の段取りを早めに
根抵当権の付いた不動産を売るときは、買主に引き渡す前に根抵当権を抹消するのが一般的です。そのためには、金融機関に残りの借入をどう扱うかを相談し、解除に応じてもらう必要があります。他の物件の借入まで同じ根抵当権でまとめて担保されていると、話が複雑になります。売却を考え始めた段階で、早めに金融機関と相談しましょう。
4. 相続や事業承継のときは「元本確定」に注意
根抵当権には「元本確定」という仕組みがあります。確定すると、その時点の借入だけを担保する普通の抵当権に近い状態になり、以後の新しい借入は担保されなくなります。
たとえば債務者が亡くなった場合、相続開始から6か月以内に、取引を引き継ぐ人についての合意の登記をしなければ、元本は相続開始の時点で確定したものとみなされます。また、確定期日を定めていない場合、設定者は設定から3年を経過すると元本の確定を請求できます。相続や事業承継が近い方は、根抵当権の状態も含めて準備しておく必要があります。
5. 外す・減らすには金融機関との調整が必要
根抵当権は、借入を返しても自動的には消えません。取引を終えたい場合や、別の金融機関に担保を移したい場合は、その金融機関と話し合い、根抵当権を解除してもらう必要があります。解除に応じてもらえれば、抹消登記をして登記簿から消します。
また、極度額が大きすぎると感じても、設定した側の都合だけで極度額を減らすことはできません。元本が確定した後であれば、一定の範囲まで極度額を減らすよう請求できる仕組みもありますが、通常は金融機関との合意で変更します。設定の時点で、外すときのことまで考えておくことが大切です。
不動産投資では「物件ごとに抵当権」が基本
不動産投資では、物件の購入資金を物件ごとに借りることが多いため、通常は抵当権が使われます。ただ、継続的な取引を前提に、金融機関から根抵当権を求められることもあります。
私自身、複数の金融機関と取引しながら買い進めてきました。物件ごとに担保を分け、売却するときにはその物件の借入だけを整理できる状態にしておいたことが、財務を立て直す局面で役立ちました。毀損した物件を売って財務を改善しようにも、担保関係が複雑だと、売却の段取りだけで時間がかかってしまいます。
不動産投資でも、物件の数が増えてくると、金融機関から「今後の取引を考えて根抵当権で」と提案されることがあります。その金融機関と長く取引を続けるつもりなら合理的な選択ですが、別の金融機関で次の物件を買う予定があるなら、どの物件をどの金融機関の担保にするかの全体像を先に描いておくべきです。共同担保として複数の物件にまとめて根抵当権を設定すると、1つの物件だけを売りたいときにも調整が必要になります。
取引する金融機関を分散させる考え方は2棟目・3棟目で融資が止まる理由、金融機関ごとの特徴は信用金庫と地方銀行の違いで解説しています。
根抵当権を求められたら、まず確認したいこと
金融機関から根抵当権の設定を求められたら、署名する前に次の点を確認しましょう。
- 担保する取引の範囲(銀行取引すべてか、特定の取引か)
- 極度額はいくらか、その根拠は何か
- 確定期日を定めるかどうか
- 将来、他の金融機関から借りる予定がある場合、その不動産を使う可能性はあるか
- 売却や相続の予定はないか
一回限りの設備資金や物件購入資金であれば、抵当権で足りないか相談する余地もあります。担保の付け方は、一度決めると変更に手間がかかります。目先の借入だけでなく、3年後、5年後の資金調達まで見据えて判断することが大切です。
まとめ
- 抵当権は特定の借入を、根抵当権は極度額の範囲で繰り返し発生する借入をまとめて担保する
- 根抵当権は継続的な借入に便利だが、返済しても枠が残り、担保の余力を押さえ続ける
- 極度額を大きくしすぎると、他の金融機関から借りにくくなる
- 売却・相続の際は、根抵当権の解除や元本確定の扱いを早めに確認する
担保の付け方を含めた金融機関との取引方針づくりは、融資・資金調達のご相談でお手伝いしています。登記の手続きそのものは司法書士の業務となるため、必要に応じて連携してご案内します。
