「ストックオプションを出したいが、税金がどうなるのかわからない」「税制適格にしないと、もらった社員が損をすると聞いた」。人材の採用を本格化させるスタートアップから、よくいただくご相談です。
ストックオプションの税金は、税制適格の要件を満たすかどうかで大きく変わります。要件を満たせば、権利を行使したときには課税されず、株式を売ったときにまとめて約20%の税率で課税されます。満たさなければ、行使した時点で給与として最大55%程度の税率で課税され、しかも手元に現金がない段階で税金だけが発生します。
この記事では、ストックオプションの課税の仕組み、税制適格の要件、要件を外れてしまう典型的な失敗を、資本政策の視点も交えて解説します。
- ストックオプションの税金は、税制適格なら売却時に譲渡所得(約20%)、非適格なら行使時に給与所得(最大55%程度)で課税される
- 税制適格の主な要件は、付与対象者・権利行使期間・権利行使価額(付与時の時価以上)・年間の権利行使価額の上限・譲渡禁止・株式の管理
- 年間の権利行使価額の上限は、令和6年度改正で設立5年未満は2,400万円、5年以上20年未満の非上場会社などは3,600万円に引き上げられた
- 要件は付与契約の内容で決まる。発行してから気づいても直せないため、設計段階から税理士と一緒に確認する
ストックオプションの課税は「3つのタイミング」で考える
ストックオプションとは、あらかじめ決めた価格(権利行使価額)で自社の株式を買える権利です。税金を考えるときは、次の3つのタイミングに分けて整理するとわかりやすくなります。
- 付与時:会社から権利を受け取ったとき
- 権利行使時:権利行使価額を払って株式を取得したとき
- 株式売却時:取得した株式を売ったとき
無償で付与されるストックオプションの場合、付与時には通常課税されません。問題は2と3です。
| タイミング | 税制適格 | 税制非適格 |
|---|---|---|
| 付与時 | 課税なし | 課税なし |
| 権利行使時 | 課税なし(売却時まで繰延べ) | 時価と行使価額の差額に給与所得として課税 |
| 株式売却時 | 売却価格と行使価額の差額に譲渡所得として課税 | 売却価格と行使時の時価の差額に譲渡所得として課税 |
| 税率の目安 | 約20%(所得税・住民税等) | 給与所得は最大55%程度、譲渡所得は約20% |
非適格の怖さは「現金がないのに税金が来る」こと
たとえば、権利行使価額100円で1万株を行使し、そのときの時価が1株1,000円だったとします。非適格なら、差額の900万円が給与所得として課税されます。株式を売っていないので、手元には現金がありません。未上場の株式はすぐに売れないことも多く、税金を払うために借金をするという事態も起こりえます。
税制適格であれば、行使時には課税されず、株式を売って現金を手にしたときに課税されます。税率が下がるだけでなく、税金を払うタイミングと現金が入るタイミングがそろうことが、税制適格の本当の価値です。
計算例で比べる
同じ条件で、課税される金額がどう分かれるかを比べてみます。権利行使価額1株100円、1万株を行使、行使時の時価1株1,000円、その後1株2,000円で全株を売却したケースです。
| 項目 | 税制適格 | 税制非適格 |
|---|---|---|
| 権利行使時に課税される金額 | なし | (1,000円−100円)×1万株=900万円(給与所得) |
| 売却時に課税される金額 | (2,000円−100円)×1万株=1,900万円(譲渡所得) | (2,000円−1,000円)×1万株=1,000万円(譲渡所得) |
| 課税される金額の合計 | 1,900万円 | 1,900万円 |
| 税率 | 1,900万円の全額に約20% | 900万円は他の給与と合算して累進税率、1,000万円に約20% |
課税される金額の合計は同じ1,900万円です。違いは、900万円の部分に約20%の税率がかかるか、給与として累進税率がかかるか、そしてその税金を株を売る前に払うかどうかです。役員や幹部社員のように給与水準が高い人ほど、給与所得として課税されたときの税率が高くなり、差は大きくなります。
税制適格ストックオプションの主な要件
税制適格の要件は租税特別措置法に定められています。主なものを整理すると次のとおりです(2026年10月時点)。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 付与対象者 | 発行会社やその子会社の取締役・執行役・使用人など。一定の認定を受けた社外高度人材も対象 |
| 大株主の除外 | 未上場会社では、発行済株式の3分の1を超えて保有する株主とその親族などは対象外 |
| 無償発行 | 金銭の払込みをさせずに付与されるもの |
| 権利行使期間 | 付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日まで(設立5年未満の非上場会社は15年まで) |
| 権利行使価額 | 付与契約を結んだ時点の1株あたりの価額(時価)以上 |
| 年間の権利行使価額の上限 | 原則1,200万円。設立5年未満は2,400万円、設立5年以上20年未満の非上場会社または上場後5年未満の上場会社は3,600万円 |
| 譲渡の禁止 | ストックオプションそのものを他人に譲渡できない |
| 株式の管理 | 行使で取得した株式を証券会社等で保管・管理する。譲渡制限株式は一定の要件のもとで発行会社による管理も可 |
令和6年度改正のポイント
令和6年度の税制改正で、スタートアップの人材獲得を後押しする方向の見直しが行われました。
- 年間の権利行使価額の上限の引上げ:一律1,200万円だった上限が、会社の設立年数などに応じて2,400万円・3,600万円に
- 発行会社自身による株式管理:未上場の譲渡制限株式について、証券会社等への保管委託に代えて、発行会社が一定の方法で管理することも可能に
また、令和5年度の改正で、設立5年未満の非上場会社については権利行使期間が付与決議後15年まで延びています。
「権利行使価額は時価以上」の時価をどう決めるか
未上場会社のストックオプションで実務上いちばん悩むのが、付与時点の株価(時価)をいくらとみるかです。権利行使価額がこの時価を下回ると、税制適格の要件を満たしません。
国税庁は、未上場会社の株価の算定方法について通達で一定の考え方を示しています。直近に第三者割当増資をしている場合はその価格との関係も問題になるため、資本政策と付与のタイミングをあわせて設計する必要があります。
税制適格から外れてしまう典型的な失敗
ストックオプションの要件は、発行の決議と付与契約の内容で決まります。あとから「要件を満たしていなかった」と気づいても、遡って直すことはできません。私が相談を受けた中で多いのは、次のようなケースです。
1. ひな形の契約書をそのまま使った
ネットで手に入る契約書のひな形を使った結果、権利行使期間や年間上限の条項が要件どおりになっていない、というケースです。令和6年度改正の前に作ったひな形では、上限が1,200万円のままになっていることもあります。
2. 年間の上限を意識せずに行使した
上場後などにまとめて行使した結果、その年の権利行使価額の合計が上限を超えてしまうケースです。上限を超えることになった行使は、超えた部分だけでなくその行使全体が税制適格の対象外になります。行使の計画は、本人任せにせず会社側でも管理しておくと安心です。
3. 株式の管理の手続きが漏れた
行使で取得した株式は、所定の方法で保管・管理されている必要があります。管理の手続きが抜けていると、それだけで要件を外れることがあります。
4. 付与後に大株主の要件にかかった
付与の時点で大株主に当たらないかの確認が漏れていた、というケースもあります。創業メンバーに付与するときは特に注意が必要です。
信託を通じて従業員に付与するタイプのストックオプションについて、国税庁は2023年に、権利行使時の経済的利益は給与所得として課税されるという考え方を示しました。過去に導入している会社は、源泉徴収などの対応を確認しておく必要があります。
ストックオプションは資本政策の一部として設計する
ストックオプションは、税金だけの問題ではありません。将来の株主構成をどう描くかという資本政策の一部です。
発行枠は「潜在株式」として見られる
ストックオプションは、行使されれば株式になります。投資家(VC)や証券会社は、発行済株式に加えてこの潜在株式も含めて持株比率を計算します。創業初期に気前よく出しすぎると、後から入る役員や従業員に渡す枠がなくなり、次の資金調達の交渉でも不利になります。資本政策の基本は資本政策の基本と、創業初期にやりがちな失敗で整理しています。
銀行は「財務の管理ができている会社か」を見る
スタートアップでも、エクイティ(出資)と並行して金融機関からの融資を使う会社は少なくありません。銀行の担当者が見ているのは、ストックオプションの有無そのものではなく、株主構成や潜在株式を経営者が正しく説明できるかです。株主名簿と新株予約権の原簿が整理され、誰に何を発行しているかを即答できる会社は、それだけで管理体制への信頼が上がります。
私自身、スタートアップの起業とベンチャーM&A仲介の仕事で、資本政策が整理されていない会社が投資や買収の検討の段階で苦労する場面を何度も見てきました。ストックオプションの記録の不備は、上場審査やM&Aのデューデリジェンスで必ず確認される項目です。
導入のタイミングの目安
- 外部から出資を受ける前後で、株価が大きく変わる前に付与すると、権利行使価額を低く設定できる
- ただし、付与後に優秀な人材が入ってくることも想定し、発行枠の全体像を先に決めておく
- 上場を目指すなら、上場準備(監査法人の監査開始)の前に方針を固めておく(IPO準備は何から始めるか)
まとめ
- ストックオプションの税金は、税制適格なら売却時に約20%、非適格なら行使時に給与として最大55%程度
- 税制適格の価値は、税率だけでなく「現金が入るときに税金を払える」こと
- 要件は、付与対象者、権利行使期間、権利行使価額(時価以上)、年間上限(最大3,600万円)、譲渡禁止、株式の管理など
- 要件は付与契約の内容で決まり、あとから直せない。設計段階から確認する
- ストックオプションは資本政策の一部。潜在株式を含めた株主構成を説明できるようにしておく
クレフティでは、ベンチャーCFO出身の公認会計士・税理士が、資本政策とストックオプションの設計、IPO準備までまとめてご相談をお受けしています。詳しくはスタートアップ支援をご覧ください。
