起業・スタートアップ

IPO準備は何から始めるか|上場までのスケジュールと、最初の1年でやるべきこと

「いずれは上場したいと考えているが、IPO準備は何から始めればいいのかわからない」。売上が伸び始めた会社の経営者から、こうしたご相談をいただくことが増えています。

結論から言うと、IPO準備の最初の一歩は、監査法人のショートレビューを受けて、自社の課題を一覧にすることです。上場申請には直前2期分の監査が必要なため、上場を目指す時期から逆算すると、準備は申請の3年以上前から始まります。

この記事では、上場までのスケジュール、最初の1年でやるべきこと、そして準備期間中の資金繰りと銀行との付き合い方を解説します。

この記事の結論
  • IPO準備は、監査法人のショートレビューで課題を洗い出すことから始める
  • 上場申請には直前2期分の監査が必要。申請期をN期とすると、N-2期の期首までに監査を受けられる体制を整える
  • 最初の1年でやるのは、ショートレビュー、主幹事証券の選定、資本政策の策定、管理部門の人材確保、月次決算の早期化
  • グロース市場は2030年3月から上場維持基準が「上場5年経過後に時価総額100億円以上」に厳しくなる。上場後の成長計画まで含めて検討する

IPOまでのスケジュール|N-3期から逆算する

IPOのスケジュールは、上場申請する事業年度をN期(申請期)として、その前の期を「N-1期(直前期)」「N-2期(直前々期)」と呼んで逆算します。

時期主なテーマやること
N-3期準備の開始ショートレビュー、主幹事証券・監査法人の選定、資本政策の策定、管理部門の採用
N-2期(直前々期)体制の構築監査法人の監査開始、規程の整備、予算管理の仕組みづくり、内部統制の整備
N-1期(直前期)運用の実績整備した体制を実際に運用し、記録を残す。月次決算の早期化、内部統制の運用
N期(申請期)審査主幹事証券の引受審査、取引所の上場審査、上場承認、公募・売出し

グロース市場では、最近2年間の財務諸表について、登録上場会社等監査人の監査を受けていることが求められます。つまり、N-2期の期首から監査を受けられる状態にしておく必要があるということです。ここから逆算すると、N-3期には監査法人と話を始めていなければ間に合いません。

「来年上場したい」は、ほぼ間に合わない

ご相談を受けると、「2年後には上場したい」というお話をよく聞きます。しかし、まだ監査を受けていない段階でこの目標だと、スケジュール上かなり厳しいのが実情です。近年は監査法人側の人手不足もあり、監査を引き受けてもらうまでに時間がかかるケースも増えています。上場の時期は、監査の受け入れ時期から決まると考えてください。

最初の1年でやるべき5つのこと

1. ショートレビューを受ける

ショートレビュー(短期調査)は、監査法人が上場に向けた課題を洗い出す予備調査です。会計処理、管理体制、規程、内部統制、関連当事者との取引などを確認し、課題を報告書にまとめます。

ショートレビューの報告書は、IPO準備の「やることリスト」そのものです。ここで指摘された課題を、N-2期の期首までにどこまで解決できるかが、スケジュールを左右します。

2. 主幹事証券を選ぶ

主幹事証券は、上場までの伴走者です。資本政策や上場時の株価についての助言、引受審査を担います。複数の証券会社と面談し、自社の事業への理解や、上場後の支援体制まで比較して選びます。

3. 資本政策を固める

上場時に誰が何%の株式を持っているかは、上場後の経営の自由度を左右します。上場前の増資、ストックオプションの発行、創業者の持株比率をどう設計するかを、上場時の株価や必要な調達額から逆算して決めます。一度渡した株式は取り戻せないため、資本政策は準備の早い段階で固めるのが鉄則です(資本政策の基本、ストックオプションの税金)。

4. 管理部門の人材を確保する

上場準備で最も時間がかかるのが、人の確保です。経理、法務、労務、内部監査を担う人材が必要で、特に上場準備を経験したCFOや経理責任者は採用市場でも取り合いになっています。社内で育てる場合は、時間がかかる前提で計画を立てます。

5. 月次決算を早くする

上場会社には、四半期ごとの開示が求められます。月次決算が締まるのに2か月かかっている状態では、とても間に合いません。月次決算を翌月の早い時期に締める仕組みづくりは、準備の初期から始める必要があります。

創業期の税務・資金調達・資本政策をワンストップで

ベンチャーCFO・IPO支援経験のある公認会計士が、法人設立前の設計から融資・資本政策まで支援します。

スタートアップ・ベンチャー支援を見る

上場審査で見られる「管理体制」の中身

上場審査では、利益が出ているかどうかだけでなく、会社として継続的に、ルールに沿って経営できる体制があるかが見られます。主なテーマは次のとおりです。

  • 予算統制:年度予算と月次の実績を比べ、差異の原因を分析して手を打てているか
  • 内部統制:売上の計上や支払いが、承認のルールに沿って行われ、記録が残っているか
  • 規程の整備と運用:職務権限規程などがあり、実際にそのとおりに運用されているか
  • 労務管理:残業代の未払いがないか、労働時間が適切に管理されているか
  • 関連当事者との取引:社長や親族の会社との取引が、合理的な条件で行われているか
  • 反社会的勢力との関係遮断:取引先や株主のチェックの仕組みがあるか

オーナー企業の場合、社長個人と会社の取引(社長の車を会社で借りる、社長の親族の会社に業務を委託するなど)が残っていることがよくあります。審査では、こうした取引を解消するか、合理的な条件であることを説明できるようにする必要があります。

内部統制報告制度(J-SOX)への備え

上場会社は、財務報告に関する内部統制を経営者自身が評価し、内部統制報告書を提出する必要があります。新規上場企業には、上場後3年間は監査法人による内部統制監査を免除する特例があります(一定規模以上の会社を除く)。ただし免除されるのは「監査」であって、内部統制の整備と経営者による評価そのものは必要です。準備期間中に、業務の流れを文書にし、承認の記録が残る仕組みにしておくことが前提になります。

税務の「過去の宿題」を片づける

意外と見落とされるのが、過去の税務処理の整理です。上場準備に入ると、監査法人や主幹事証券が過去の決算と申告の内容を確認します。

  • 役員報酬や役員への貸付金など、オーナー企業特有の処理が税務上の要件を満たしているか
  • 過去の増資や株式の譲渡が、税務上の時価から大きく外れた価格で行われていないか
  • 消費税や源泉所得税の処理に漏れがないか

特に、上場前の株式の移動は、価格によっては受け取った側に贈与税や所得税の問題が生じることがあります。資本政策で株式を動かす前に、税務上の株価の考え方を確認しておくことが大切です。上場準備に入ってから過去の誤りが見つかると、修正申告などの対応でスケジュールが遅れることもあります。

グロース市場の上場維持基準の見直し

グロース市場では、上場維持基準の見直しが決まっています。現在は「上場10年経過後に時価総額40億円以上」ですが、2030年3月1日からは「上場5年経過後に時価総額100億円以上」に見直されます。

上場がゴールではなく、上場後も成長を続けられるかがより厳しく問われるようになります。IPO準備の段階から、上場後5年間の成長シナリオまで描いておくことが求められます。新規上場の基準(株主数150人以上、流通株式数1,000単位以上、流通株式時価総額5億円以上など)を満たすだけでなく、その先の時価総額まで見据えた計画が必要です。

準備期間の資金繰りと、銀行との付き合い方

IPO準備には、管理部門の人件費、監査報酬、システム投資など、利益を生まないコストが先行します。売上が伸びていても、資金繰りが苦しくなる会社は少なくありません。

エクイティだけに頼らない

上場前の資金調達というとVCからの出資が思い浮かびますが、出資を受けるたびに持株比率は下がります。運転資金や設備資金は、銀行融資で賄える部分は融資で賄うほうが、資本政策を守りやすくなります。

監査済みの決算書は、銀行にとっても信頼の材料

上場準備に入った会社は、監査法人の監査を受けた決算書や、整備された予算と実績の比較資料を出せるようになります。銀行の目線でいえば、数字の信頼性が高く、説明が上手な会社です。準備期間中の決算書は、銀行の格付けにも効いてきます。

ただし、上場準備中に気をつけたいのが、会計処理の見直しで利益が減るケースです。ショートレビューの指摘を受けて、売上の計上時期を見直したり、引当金を計上したりした結果、前期より利益が大きく減ることがあります。銀行には、事前に「会計方針を上場会社の水準に合わせたため」と説明しておくと、評価への影響を抑えられます。

「上場しない」選択肢も持っておく

私はスタートアップの起業や、ベンチャーM&A仲介の役員として、上場を目指して走り続けた会社も、途中でM&Aを選んだ会社も見てきました。上場準備で整えた管理体制は、上場しなかった場合でも、M&Aの企業価値や銀行の評価を高める財産になります。IPOだけを唯一のゴールにせず、融資で堅実に伸ばす道、M&Aという出口も含めて選択肢を持っておくことが、経営の安定につながります。

上場準備を始めるかどうか迷っている段階なら、まずは「上場会社と同じ水準で月次決算と予算管理ができているか」を自己点検してみてください。ここが整っていれば、上場を目指す場合も、融資で伸ばす場合も、同じように強い武器になります。創業期の資金調達の全体像は創業期の資金調達方法を比較でまとめています。

まとめ

  • IPO準備は、監査法人のショートレビューで課題を洗い出すところから始める
  • 申請期をN期とすると、N-2期の期首から監査が必要。上場時期は監査の受け入れ時期から決まる
  • 最初の1年は、ショートレビュー、主幹事証券の選定、資本政策、管理部門の人材確保、月次決算の早期化
  • グロース市場は2030年3月から上場維持基準が厳しくなる。上場後の成長計画まで描く
  • 準備期間はコストが先行する。融資と出資を組み合わせ、監査済みの決算書を銀行との信頼づくりにも活かす

クレフティでは、ベンチャーCFO出身の公認会計士・税理士が、資本政策の策定から上場準備の体制づくり、準備期間中の資金調達までご相談をお受けしています。詳しくはスタートアップ支援をご覧ください。

よくある質問

IPO準備はいつから始めればいいですか?
上場申請する事業年度を「申請期(N期)」とすると、その2期前(N-2期)から監査法人の監査を受けている必要があります。そのため、N-3期にあたる時期にはショートレビューを受け、課題の洗い出しを始めるのが一般的です。上場を目指す時期から逆算して、少なくとも3〜4年前には準備を始めると考えてください。
ショートレビューとは何ですか?
監査法人が、上場に向けた会社の課題を洗い出す予備調査です。会計処理、管理体制、内部統制、規程の整備状況などを確認し、上場までに解決すべき課題を報告書にまとめます。その後の監査契約を結ぶかどうかの判断材料にもなるため、IPO準備の最初の一歩といえます。
IPO準備中でも銀行から融資は受けられますか?
受けられます。上場準備中の会社は、監査法人の監査を受けた決算書や、整備された予算管理の資料を出せるため、むしろ金融機関に説明しやすい面もあります。上場準備には人件費やシステム投資などのコストが先行するため、エクイティだけでなく融資も組み合わせて資金繰りを安定させる会社は少なくありません。

※本記事は2026年10月17日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

RELATED

あわせて読みたい

起業・スタートアップ

J-KISSとは?仕組みと条件をわかりやすく解説|普通株出資・融資との違い、決算書と銀行の見え方

J-KISSは、シード期のスタートアップが株価を決めずに資金を受け入れられる新株予約権のひな形です。2.0の主な条件(ポストマネーのキャップ、適格資金調達、M&A時の扱い)、普通株出資や融資との違い、決算書の純資産への載り方と銀行の見方、使う前の注意点を、公認会計士・税理士が解説します。

2026年10月18日
起業・スタートアップ

エンジェル税制の仕組み|優遇措置A・B、プレシード・シード特例、起業特例をわかりやすく整理

エンジェル税制は、スタートアップに投資した個人や自己資金で起業した人の税負担を軽くする制度です。優遇措置A・B、プレシード・シード特例、起業特例の違いと控除の上限、令和7年度改正(再投資期間の延長・保有期間の設定)、確認書の手続き、資金調達での使い方を税理士・公認会計士が解説します。

2026年10月17日
起業・スタートアップ

資本政策の基本と、創業初期にやりがちな失敗

資本政策とは「誰に、いつ、何株を、いくらで」渡すかの計画です。一度渡した株式は取り戻せません。議決権の3分の2・過半数・3分の1の意味、共同創業者の均等割りや初期の渡しすぎなど創業初期の失敗例、融資と出資を組み合わせて持株比率を守る考え方を解説します。

2026年10月17日
FREE CONSULTATION

決算書と融資のこと、
まずは30分お話ししませんか。

初回相談(30分)は無料です。資金調達・税務・法人化・事業承継など、お気軽にご相談ください。