経営者向けの共済として知られる小規模企業共済と経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)。不動産賃貸業を営む人からも「大家でも入れるのか」「入ると税金が軽くなるのか」という質問をよくいただきます。
結論からいうと、条件を満たせば不動産賃貸業でも加入できます。しかし、個人か法人か、事業所得か不動産所得かによって、加入の可否も税務上の効果も大きく変わります。この記事では、2つの共済を賃貸業の立場から整理し、決算書と銀行の見え方まで解説します。加入要件や掛金の扱いは、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)の公表情報に基づいています。
- 小規模企業共済は、個人大家なら事業的規模(5棟10室など)か青色申告特別控除55万・65万円が加入の目安。会社員大家は加入できない。資産管理法人の役員は、従業員20人以下(不動産業)なら加入できる
- 小規模企業共済の掛金は、個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除)。契約者本人が払う必要がある
- 経営セーフティ共済は個人大家でも加入できるが、掛金は不動産所得の必要経費にならない。入居者が一般消費者中心だと共済金の貸付けの対象にならない場合もある
- 法人は経営セーフティ共済の掛金を損金にできるが、解約手当金は益金。令和6年10月以後の解約・再加入は2年間損金にならない
- 掛金で利益を圧縮すると決算書の利益が小さく見える。資金を会社に残す手段として、銀行の評価と合わせて考える
2つの共済の違い
| 項目 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 目的 | 経営者の退職金・廃業時の資金 | 取引先の倒産による連鎖倒産の防止(共済金の貸付け) |
| 加入者 | 個人事業主・共同経営者・会社等の役員(個人) | 個人事業主・会社(中小企業者) |
| 掛金 | 月1,000円〜70,000円 | 月5,000円〜20万円(総額800万円まで) |
| 税務上の扱い | 個人の所得控除(小規模企業共済等掛金控除) | 法人は損金、個人は事業所得の必要経費 |
| 受取時 | 一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得 | 解約手当金は法人の益金、個人の事業所得の収入 |
小規模企業共済:賃貸業で加入できる人・できない人
個人大家の加入要件
中小機構のFAQによれば、個人事業主として加入するには原則として事業所得で確定申告をしていることが必要ですが、不動産賃貸業で不動産所得だけを申告している場合でも、次のどちらかを満たせば、事業と認められる一定の規模(事業的規模)として加入できます。
- 貸家などの棟単位で5棟以上、アパート・マンションなどの部屋単位で10室以上、駐車場やその他の土地は50先(契約件数)以上を賃貸している
- 青色申告者で、青色申告特別控除として55万円または65万円の控除を受けている
加入申込みの時点で、賃貸用物件として所有し、実際に貸しているか借主を募集している状態であればよいとされています。所得税の事業的規模の判断については、不動産所得の事業的規模とはで詳しく扱っています。
会社員大家は加入できない
中小機構は、加入できない人として、事業を兼業している給与所得者(法人または個人事業主と常時雇用関係にある人)を挙げ、例として「アパート経営の事業をしているサラリーマン」を示しています。会社員を続けながら賃貸業をしている人は、物件の規模にかかわらず、小規模企業共済には加入できません。
資産管理法人の役員
株式会社・合同会社などの役員(登記された取締役、業務執行社員など)は、会社の常時使用する従業員の数が要件を満たしていれば加入できます。不動産業の場合、その数は20人以下です。ただし、規模の大きい別の会社の役員を兼ねていて、そちらが主たる事業である場合などは加入できません。
掛金は契約者本人が払う
小規模企業共済の掛金は、契約者本人の所得控除です。公表裁決では、歯科医業を営む個人が、青色事業専従者である配偶者を契約者とする小規模企業共済の掛金を支払っていても、その個人の小規模企業共済等掛金控除の対象にはならないと判断されています(平成15年1月28日裁決、裁決事例集No.65 268頁)。家族を契約者にするなら、その家族自身が加入資格を満たし、自分の資金から掛金を払う必要があります。法人の役員の掛金を会社が払うと、役員への給与の問題になります。
確認先:国税不服審判所 公表裁決事例(平15.1.28、裁決事例集No.65 268頁)
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る経営セーフティ共済:賃貸業での使いどころ
個人大家は加入できても、掛金は不動産所得の経費にならない
中小機構のFAQは、不動産賃貸業の個人事業主でも加入資格を満たせば加入できるとしつつ、2つの注意点を示しています。
- 個人事業主の場合、事業所得以外の収入(不動産所得など)は、掛金の必要経費としての算入が認められない
- 一般消費者を取引先とする不動産賃貸業者などは、取引先事業者に対する売掛金債権などが生じず、共済金の貸付けの対象とならない場合がある
つまり、不動産所得だけの個人大家が加入しても、掛金で税負担を減らす効果はなく、本来の目的である共済金の貸付けも受けにくい、ということです。
法人の場合:損金になるが、課税の時期がずれるだけ
資産管理法人などの会社は、掛金を損金に算入できます。ただし、解約したときの解約手当金は益金になるため、効果の中心は課税の時期を先に延ばすことです。中小機構の案内によれば、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上、40か月以上なら全額が解約手当金として戻ります(12か月未満は掛け捨て)。
また、令和6年度の税制改正により、令和6年10月1日以後に共済契約を解約し、再び加入した場合は、解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は、必要経費・損金に算入できなくなりました。解約と再加入を繰り返して損金を作ることはできません。
個人と法人での使い分けの考え方
| 立場 | 小規模企業共済 | 経営セーフティ共済 |
|---|---|---|
| 会社員を続けている個人大家 | 加入できない | 加入できても掛金は不動産所得の経費にならない |
| 専業の個人大家(事業的規模) | 加入でき、掛金は所得控除 | 同上 |
| 資産管理法人の役員 | 役員個人として加入でき、掛金は所得控除 | 法人として加入でき、掛金は損金(解約手当金は益金) |
個人で賃貸業を続けている間は小規模企業共済、法人化した後は役員として小規模企業共済を続けつつ、法人で経営セーフティ共済を検討する、という整理になることが多いでしょう。いずれも、掛金を払い続けられる資金の余裕があることが前提です。
会計上の扱いと決算書の表示
小規模企業共済は個人の所得控除なので、法人の決算書には出てきません(会社が役員の掛金を払っていれば、役員給与として処理する問題になります)。
経営セーフティ共済の掛金は、税務上は損金に算入できますが、解約すれば掛金の全部または一部が戻る、資産としての性格もあります。決算書で費用として処理するか、資産として計上するかは、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)の考え方と、税務上の損金算入の要件との関係を踏まえて判断する必要があります。税務上の処理と決算書の表示は別物です。どちらの方法をとるかは、顧問税理士・会計の専門家と確認してください。
費用として処理する場合、掛金が年240万円(月20万円)なら、その分だけ営業利益・経常利益が小さく見えます。決算期末に前納して損金を増やすような使い方をすると、その年の利益が大きく下がることもあります。
銀行からの見え方
| 見られる点 | 共済との関係 |
|---|---|
| 営業利益・経常利益 | 経営セーフティ共済の掛金を費用処理すると、その分利益が小さく見える |
| 実質的な資産 | 解約手当金の見込額は、銀行が実態の資産として評価することがある(評価は銀行による) |
| 現預金 | 掛金を払った分、現預金は減る。解約手当金は手元資金とは違う |
| 社長個人 | 小規模企業共済は社長個人の退職金準備。社長個人の資産としての説明材料になる |
著書では、「節税として最大限費用化する」という方針が、営業利益の赤字や格付けの低下を通じて、翌年の融資を止める原因になり得ることを指摘しています。経営セーフティ共済の掛金は、費用にするか資産に計上するかで決算書の見え方が変わるため、利益を圧縮する道具としてではなく、会社の外に資金を確保しておく手段として、資金繰りと銀行の評価の両方から判断することが大切です。
実務のチェックポイント
| チェック項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 小規模企業共済(個人) | 事業的規模か、青色申告特別控除55万・65万円を受けているか。会社員でないか |
| 小規模企業共済(役員) | 役員登記があり、会社の従業員が20人以下(不動産業)か |
| 契約者と掛金の支払者 | 契約者本人が自分の資金から掛金を払っているか |
| 経営セーフティ共済(個人) | 不動産所得だけの場合、掛金が必要経費にならないことを理解しているか |
| 経営セーフティ共済(法人) | 損金算入の手続き、解約手当金の益金計上の時期、令和6年10月以後の再加入の制限 |
| 決算書 | 掛金を費用処理するか資産計上するか、銀行にどう説明するか |
| 資金繰り | 掛金の支払いで現預金が薄くなりすぎていないか |
まとめ
- 小規模企業共済は、個人大家なら事業的規模か青色申告特別控除55万・65万円で加入できる。会社員大家は加入できない。法人役員は従業員20人以下(不動産業)で加入できる
- 小規模企業共済の掛金は契約者本人の所得控除。家族名義の掛金を払っても自分の控除にはならない(公表裁決)
- 経営セーフティ共済は、個人の不動産所得では掛金が必要経費にならない。法人は損金になるが解約手当金は益金で、令和6年10月以後の再加入には2年の制限がある
- 掛金の会計処理によって決算書の見え方が変わる。銀行の評価と資金繰りを含めて判断する
青色申告の要件や65万円控除の考え方は不動産所得の青色申告のメリットで解説しています。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、共済の活用を含めた個人と法人の資金計画、決算書の組立てまでご相談をお受けしています。
