個人と法人・損益通算

資産管理法人からの受取り方|役員報酬・配当・退職金の税金と社会保険料、決算書の表示と銀行の見え方の違い

資産管理法人や不動産会社に利益が貯まってくると、「このお金をどうやって個人で受け取るのが良いのか」という質問をいただくようになります。会社のお金は社長のお金ではないので、個人で使うには、役員報酬、配当、退職金のいずれかの形で正式に受け取る必要があります。

3つの方法は、会社の法人税、個人の所得税、社会保険料、そして決算書の見え方がそれぞれ違います。この記事では、資産管理法人からの受取り方を、税務・会計・銀行の3つの視点で比較し、組み合わせ方の考え方を整理します。個人と法人のどちらで不動産を持つかという入口の判断は不動産所得は個人と法人どちらが得?で扱っています。

この記事の結論
  • 役員報酬は会社の損金になるが、個人では給与所得として累進課税され、社会保険料もかかる。期中に自由に変えられない
  • 配当は会社の損金にならず、法人税を払った後の利益から出す。非上場会社の配当は原則として総合課税で、配当控除がある。社会保険料はかからない
  • 退職金は、損金算入(不相当に高額な部分を除く)と、退職所得の2分の1課税(役員勤続5年以下は除く)で税負担が軽くなりやすいが、受け取れるのは退職時だけ
  • 銀行から見ると、役員報酬は利益を、配当と退職金は純資産を減らす。借入れのある会社では、受取りの方法が格付けに直結する
  • 税負担だけでなく、会社にどれだけ残すかを先に決め、その範囲で受取り方を組み合わせる

3つの受取り方の比較

項目役員報酬配当退職金
会社の法人税定期同額給与などの要件を満たせば損金損金にならない不相当に高額な部分を除き損金
個人の所得区分給与所得(給与所得控除あり)配当所得退職所得(分離課税)
個人の課税方法総合課税・累進税率非上場は原則総合課税(少額配当は申告不要も可)。配当控除(収入-退職所得控除)×1/2(役員勤続5年以下は1/2なし)
源泉徴収毎月の給与で源泉徴収20.42%退職所得の源泉徴収
社会保険料かかる(会社・本人の双方)かからない原則かからない
会社法の制限株主総会決議など(定款・決議で上限)分配可能額の範囲内株主総会決議など
受け取れる時期毎月決議に基づき(年1回など)退職時

役員報酬:損金になるが、社会保険料と累進課税

法人税:期中に変えられない

同族会社が役員報酬を損金にするには、原則として定期同額給与(期首から3か月以内に決めた額を毎月同額で払う)か、事前確定届出給与(届け出たとおりの時期・金額で払う賞与)のどちらかに当てはまる必要があります。利益が出たからと期中に増額した分や、届出と違う賞与は損金になりません。役員報酬の決め方と届出の注意点は役員報酬の決め方で整理しています。

個人:給与所得控除と社会保険料

個人では給与所得として、給与所得控除を差し引いた額に累進税率で課税されます。会社が社会保険の適用事業所であれば、健康保険料・厚生年金保険料がかかり、会社と本人で負担します。資産管理法人の社長が他の会社から給与を受けている場合は、両方の報酬を合わせた社会保険の扱い(二以上事業所勤務)も確認が必要です。

家族を役員にして報酬を払う場合は、職務の実態に見合う金額であることが前提です。否認された事例は家族への給与が否認された裁決事例と認められる条件を参照してください。

配当:損金にならないが、社会保険料はかからない

二段階の課税

配当は、法人税を払った後の利益(利益剰余金)から支払います。会社の段階で法人税等がかかり、さらに個人の段階で配当所得として所得税・住民税がかかる、二段階の課税になります。

国税庁のタックスアンサー(No.1330)によれば、上場株式等以外(非上場会社)の配当は、支払時に20.42%(所得税・復興特別所得税)が源泉徴収され、原則として総合課税の対象です。申告分離課税は選べず、確定申告不要を選べるのは、1回の配当が「10万円×配当計算期間の月数÷12」以下の少額配当に限られます。総合課税で申告すると、二段階の課税を調整する配当控除を受けられます。

会社法の制限

配当は、会社法の分配可能額の範囲でしか行えません。債務超過の会社や、利益剰余金が少ない会社は、配当そのものができないことがあります。また、会社が株主に対して株主の地位に基づいて与えた経済的な利益は、正式な配当決議がなくても配当に含まれるとされています(所得税基本通達24-1)。会社の資金を株主である社長が個人的に使う、といった処理は、配当や役員給与の問題を生みます。

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退職金:税負担は軽いが、一度きりで純資産を大きく減らす

法人税と所得税

役員退職金は、不相当に高額な部分を除き、会社の損金になります。不相当に高額かどうかは、業務に従事した期間、退職の事情、同種同規模の法人の支給状況などに照らして判断され、実務では功績倍率法などが使われます。不動産賃貸業の同族会社の判例は、不動産法人の役員退職金で詳しく紹介しています。

個人では、退職所得として他の所得と分けて課税されます。国税庁のタックスアンサー(No.1420)によれば、退職所得の金額は「(収入金額-退職所得控除額)×1/2」が原則で、退職所得控除額は勤続20年以下なら1年あたり40万円(最低80万円)、20年超は800万円+70万円×(勤続年数-20年)です。ただし、役員等としての勤続年数が5年以下の人が受け取る「特定役員退職手当等」は、2分の1の計算がありません。

受け取れるのは退職時だけ

退職金は、実際に退職するか、職務の内容が大きく変わって実質的に退職したと同じ状況(分掌変更)にある場合に限られます。分掌変更による支給は、経営への関与が実際に減っているかが厳しく見られます。

会計上の扱いと決算書の表示

3つの受取り方は、決算書への出方がまったく違います。

項目損益計算書貸借対照表
役員報酬販売費及び一般管理費(営業利益を減らす)利益が減った分、利益剰余金の積上げが減る
配当費用にならない(損益計算書には出ない)株主資本等変動計算書で利益剰余金が減る
退職金販売費及び一般管理費、または臨時・多額なら特別損失利益剰余金が減る。退職給与引当金を積んでいれば取崩し

退職金を販管費と特別損失のどちらに表示するかは、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って、臨時性や金額の大きさなど取引の実態で判断します。税務上は損金算入が認められるかが論点ですが、決算書のどの区分に表示できるかは別の問いで、どの区分にできるかは実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方:会社にどれだけ残すか

受取り方銀行から見た影響
役員報酬を高くする会社の営業利益・経常利益が減り、ICRや債務償還年数が悪化する。社長個人の収入は増える
配当を出す利益は減らないが、純資産と現預金が減る。借入れのある会社では「社外流出」として見られる
退職金を払う一度に純資産と現預金が大きく減る。特別損失なら経常利益は守られるが、純資産の減少は避けられない

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金-現預金)÷(経常利益+減価償却費-法人税等)」で計算し、プロパー融資の目安を「正常先+純資産1億円」としています。不動産を買い続けたい会社であれば、受取り方を考える前に、会社にどれだけ利益と現預金を残すかを決めることが先です。著書の標語「払った税金の2倍、会社は強くなる」は、法人税を払って残した利益が純資産と現預金を厚くし、次の融資につながるという意味です。詳しくは「払った税金の2倍、会社は強くなる」の意味を参照してください。

そのうえで、生活に必要な分は役員報酬で、まとまった資金は退職時に退職金で、株主構成によっては配当も、という組み合わせを、法人税・所得税・社会保険料・銀行評価の合計で比較します。

実務のチェックポイント

チェック項目確認する内容
会社に残す額次の物件取得や借入返済のために、会社に残す利益・現預金の目標を決めたか
役員報酬期首3か月以内に決議し、毎月同額で払っているか。家族役員の職務の実態
配当分配可能額の範囲か。株主総会の決議と源泉徴収・支払調書の手続き
退職金役員退職金規程、功績倍率などの根拠、退職の実態、銀行への事前説明
社会保険役員報酬の水準と社会保険料、他社の給与との合算
個人の申告配当の総合課税と配当控除、少額配当の申告不要の選択
個人的な支出会社の資金を社長が個人的に使っていないか(役員貸付金・役員給与・配当の問題)

まとめ

  • 資産管理法人から受け取る方法は、主に役員報酬・配当・退職金の3つ
  • 役員報酬は損金だが社会保険料と累進課税、配当は損金にならず二段階の課税(配当控除あり)、退職金は税負担が軽いが一度きり
  • 決算書では、役員報酬は営業利益を、配当と退職金は純資産を減らす
  • 銀行の評価を考えると、まず会社に残す額を決め、その範囲で受取り方を組み合わせる
  • 3つの方法を、法人税・所得税・社会保険料・銀行評価の合計で比較する

資産管理法人の仕組み全体は資産管理法人のメリット・デメリットもご覧ください。クレフティでは、不動産投資家向けサポートの中で、役員報酬・配当・退職金の組み合わせを、税負担と銀行評価の両面から試算するご相談をお受けしています。

よくある質問

資産管理法人から配当を受け取ると、税金はどうなりますか?
非上場会社の配当は、支払時に20.42%の所得税等が源泉徴収され、原則として総合課税で確定申告します。1回の配当が10万円×配当計算期間の月数÷12以下の少額配当は申告不要を選べます。総合課税にすると配当控除を受けられます。配当は会社の損金にならないため、法人税を払った後の利益から支払うことになります。
役員報酬と配当では、社会保険料はどう違いますか?
役員報酬(給与)には、会社が社会保険の適用事業所であれば健康保険料・厚生年金保険料がかかり、会社と本人がそれぞれ負担します。配当は給与ではないため、社会保険料の対象になりません。ただし、社会保険料は将来の年金や保障にもつながるため、負担の大小だけで判断しないことが大切です。
資産管理法人で役員退職金を払うときの注意点は何ですか?
法人では、不相当に高額な部分が損金に算入されません。個人では、退職所得控除の後に2分の1を掛けて分離課税されるのが原則ですが、役員としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1の計算がありません。また、退職金は会社の純資産を大きく減らすため、借入れのある会社では、支給の前に銀行への影響を確認しておく必要があります。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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