「払った税金の2倍、会社は強くなる」。著書『総額82億円 税理士投資家が明かす「買い続ける」ための決算書戦略』で繰り返し出てくる標語です。税金を払うことを「コスト」ではなく「会社を強くする行為」と捉え直す言葉ですが、なぜ「2倍」なのか、何が強くなるのかを、税務・会計・銀行の3つの面から分解するとよりはっきりします。
この記事では、税負担率と税引後利益の関係、法人税等が決算書のどこに出るか、法人と個人で経費になる税・ならない税の違い、そして利益が出た年に費用を前倒しして重加算税を課された裁決事例を通じて、この標語の意味を整理します。
- 税負担が利益の約3分の1なら、税金を払ったあとに残る利益は税金の約2倍。それがそのまま利益剰余金(純資産)と現預金になる
- 法人税・住民税・事業税(所得割)は、決算書では税引前当期純利益の下に表示される。営業利益・経常利益は税金で減らない
- 著書のモデルの債務償還年数では、納税で分母は少し減るが、積み上がった現預金で分子が縮む。純資産の増加は安全性の評価にも効く
- 利益を消すための費用の前倒しは、否認されれば本税に加えて加算税がかかり、純資産をさらに傷める(平成26年10月28日裁決)
- 目指すのは「いくら払うか」の最小化ではなく、「いつ、どのように払うか」の設計
「2倍」の意味:税負担率と税引後利益
利益に対して法人税・住民税・事業税がかかり、残りが税引後の当期純利益になります。仮に税負担が利益の3分の1だとすると、次のようになります。
| 項目 | 金額(仮定) |
|---|---|
| 税引前当期純利益 | 3,000万円 |
| 法人税・住民税・事業税(仮に3分の1) | 1,000万円 |
| 税引後の当期純利益 | 2,000万円 |
| 純資産(利益剰余金)の増加 | 2,000万円 |
| 現預金の増加(ほかの増減がない場合) | 2,000万円 |
税金を1,000万円払った会社は、その2倍の2,000万円だけ純資産が増え、同じく現預金も増えています。これが「払った税金の2倍、会社は強くなる」の基本的な意味です。
実際の税負担率は、所得の規模や資本金、地域によって変わります。国税庁タックスアンサーNo.5759 法人税の税率によると、資本金1億円以下の法人(大法人の完全子会社などを除く)は、年800万円以下の所得部分の法人税率が15%(所得が年10億円を超える事業年度は17%)、それを超える部分は23.2%です。所得が小さい法人ほど税負担率は下がるため、残る利益は税金の2倍を超えます。なお、令和8年4月1日以後に開始する事業年度からは防衛特別法人税(基準法人税額から年500万円の基礎控除を差し引いた額の4%)も創設されています(国税庁「防衛特別法人税の創設」)。
節税で消えるのは、税金だけではない
逆に、利益を圧縮して税金を1,000万円減らした場合を考えます。経費で3,000万円の利益を消せば、税金は減りますが、純資産の増加2,000万円も同時に消えます。著書は、過度な節税を「目の前の100万円を守って、将来の1億円を失う」行為だと表現しています。特に、借入で償却資産を買って利益を消すと、負債が増え、資産は年々目減りし、数年後には簿価がほぼゼロの資産と借入だけが残ります。
会計上の表示:税金は決算書のどこに出るか
企業会計基準第27号「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」では、税金の表示を次のように定めています。
| 税金 | 損益計算書の表示 | 貸借対照表 |
|---|---|---|
| 法人税・地方法人税・住民税・事業税(所得割) | 税引前当期純利益の次に「法人税、住民税及び事業税」 | 未納付額は流動負債の「未払法人税等」 |
| 事業税(付加価値割・資本割) | 原則として販売費及び一般管理費 | 同上 |
| 過年度分の追徴税額 | 「法人税、住民税及び事業税」の次に内容を示す科目(重要性が乏しければ含めて表示) | 同上 |
固定資産税・都市計画税、印紙税、登録免許税などは、この基準の範囲外で、通常は租税公課として販管費に、または取得価額に含めて処理されます。
ここから分かるのは、利益にかかる税金は、営業利益・経常利益を減らさないということです。銀行格付けで重視される段階利益は、税金を払っても傷みません。減るのは当期純利益ですが、その残りが純資産に積み上がります。
また、決算日時点の未払法人税等は流動負債に入るため、利益が大きく出た期末は流動比率が一時的に下がります。納税資金を現預金として確保していれば、流動資産も同時に厚くなっているので、慌てる必要はありません。
税務上の扱い:経費になる税・ならない税(法人と個人)
税金そのものが経費になるかどうかも、法人と個人で異なります。
| 税金 | 法人 | 個人(不動産所得) |
|---|---|---|
| 法人税・所得税 | 損金にならない | 必要経費にならない |
| 住民税 | 損金にならない | 必要経費にならない |
| 事業税 | 損金(原則として申告書を提出した事業年度) | 個人事業税は必要経費 |
| 固定資産税・都市計画税 | 損金(賃貸物件分) | 必要経費(賃貸物件分) |
| 印紙税(賃貸事業の契約書など) | 損金 | 必要経費 |
| 加算税・延滞税 | 損金にならない | 必要経費にならない |
法人の扱いは国税庁タックスアンサーNo.5300で確認できます。法人税や所得税は「利益から払うもの」なので、それ自体を経費にして利益を減らすことはできません。加算税・延滞税も経費にならないことは、過少申告加算税・重加算税・延滞税で解説しています。
個人の場合、所得税・住民税を払っても、事業の「純資産」として積み上がる仕組みはありません。税引後の手取りは個人の資産になります。銀行が法人の決算書を見るときのような「利益剰余金の積み上がり」を示すには、法人で事業を行い、利益を法人に残す形が向いています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方:債務償還年数と純資産
著書のモデルでは、債務償還年数を次の式で計算します。
納税すると、分母の「法人税等」が増えるので、分母は少し小さくなります。一方で、税引後の利益は現預金として残り、分子の「借入金 − 現預金」を縮めます。この効果は毎年積み重なります。
| 項目 | 利益を圧縮した会社 | 利益を出して納税した会社 |
|---|---|---|
| 経常利益 | 小さい(費用で消した) | 大きい |
| 法人税等 | ほぼゼロ | 利益の約3分の1 |
| 純資産 | 増えない | 税引後利益だけ増える |
| 現預金 | 増えない(費用の支払で減ることも) | 税引後利益だけ増える |
| 債務償還年数 | 分母が小さく、分子も縮まない | 分母が確保され、分子が年々縮む |
| 自己資本比率 | 改善しない | 改善する |
著書のモデルでは、129点満点のうち返済能力が55点、安全性が34点を占めます。納税後の利益の積み上げは、返済能力(債務償還年数)と安全性(自己資本比率)の両方に同時に効きます。著書が「利益が出たということは、BSを強化する絶好の機会だ」と述べるのはこのためです。純資産を積み上げる道筋は不動産事業者が純資産1億円を目指す道筋で整理しています。
裁決事例:利益が出た年の「費用の前倒し」
利益が大きく出た年ほど、「今期のうちに費用を計上したい」という誘惑は強くなります。その結果を示すのが次の裁決です。
国税不服審判所 平成26年10月28日裁決
国税不服審判所 平成26年10月28日裁決は、被害を受けた施設の復旧のための修繕工事や備品の購入について、事業年度末までに工事や引渡しが終わっていないにもかかわらず、業者に期末以前の日付で請求書を発行してもらい、期末日付で費用に計上していた法人の事案です。
- 背景:その年に多額の保険金(約2億6,000万円)を受け取っており、当期に費用を計上しないと収入だけが増えて税金が高くなる、という考えから、上層部が「関連費用は翌期に持ち越さず当期の損金にする」と指示していたことが、関係者の答述で認定された
- 争点:期末までに役務の提供等が完了していない費用を、前倒しの日付の請求書に基づいて当期の損金・課税仕入れに計上したことが、国税通則法68条1項の「仮装」に当たるか
- 判断:期末までに役務の提供等が完了していなかった取引について、意図的にした経費の繰上計上は、実際には当期の経費ではないものを当期の経費として計上するもので、事実を「仮装した」ものに当たるとして、重加算税を適法とした。一方、期末までに完了していた(または未完了とまではいえない)取引については仮装とは認めず、消費税の重加算税の一部を取り消した
- 実務への示唆:法人税では、費用は事業年度末までに債務が確定していなければ損金になりません。工事が終わっていない費用を期末に計上すれば、否認されて本税を払うだけでなく、意図的であれば重加算税(35%)まで課されます。利益が出た年に無理に費用を作ろうとすると、純資産を守るどころか、加算税の分だけ純資産を減らし、銀行の信頼も失います
修繕や設備交換は、工事の完了時期を含めて計画するものです。大規模修繕と決算書の表示については大規模修繕と特別損失もご覧ください。
「いつ、どのように払うか」を設計する
著書は、「節税と納税は二者択一ではない。『いくら払うか』ではなく、『いつ、どのように払うか』を設計するのが真の税務戦略だ」と述べています。例として挙げられているのは、次のような考え方です。
- 大規模修繕が予定されている年に向けて利益の見通しを立て、修繕の時期と利益の波を合わせる
- 物件の売却でキャピタルゲインが出る年に、含み損を抱えた物件の売却を検討する
- 売却益が出たときも、全額を次の物件に入れず、一定額を現預金として残す
いずれも、実際に必要な修繕や、実際に行う売却の時期を、事業計画として考えるものです。存在しない費用を作ったり、完了していない工事を当期に計上したりすることとは、まったく違います。
決算書の表示(修繕を販管費にするか、臨時・多額で特別損失に当たるか、資本的支出として資産計上するか)も、税務上の損金算入とは別の問いで、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って取引の実態で判断する必要があります。どの区分にできるかは実態次第なので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください(税務上の損金と企業会計(GAAP)の違い)。
実務のチェックポイント
- 決算の3か月ほど前に、当期の利益と納税額の見込みを試算したか
- 納税資金を現預金として確保しているか。中間申告の方法を選べるか確認したか(中間申告で資金繰りを整える)
- 期末に計上する費用は、期末までに工事・引渡しが完了し、金額が確定しているか
- 利益を減らすための資産購入が、事業に本当に必要なものか。購入後のBSを試算したか
- 役員報酬の水準が、法人に利益を残す設計になっているか
- 税引後の利益が、純資産・現預金・債務償還年数にどう効くかを、銀行に説明できる形で整理したか
まとめ
- 税負担が利益の約3分の1なら、残る利益は税金の約2倍。それが純資産と現預金にそのまま積み上がる
- 利益にかかる税金は税引前当期純利益の下に表示され、営業利益・経常利益は減らない
- 納税後の利益は、債務償還年数(返済能力)と自己資本比率(安全性)の両方を改善する
- 利益が出た年の費用の前倒しは、否認されれば加算税まで負担することになる。意図的なら重加算税
- 目指すのは「いつ、どのように払うか」の設計。表示や処理は会計の基準に沿って、税理士と検討する
利益が出た年の納税計画から、決算書と銀行への説明まで、不動産投資家向けサービスでご相談いただけます。
