「利益は出ているのに、なぜか通帳の残高が増えない」。不動産会社の経営者から、よく聞く悩みです。原因の多くは、損益計算書(PL)の利益と、実際のお金の動きがずれていることにあります。そのずれを一枚で示すのがキャッシュフロー計算書です。
不動産会社のキャッシュフロー計算書は、賃貸中心か売買中心かで読み方が大きく変わります。また、税務上の損金・益金と、会計上の表示はルールが別です。この記事では、営業・投資・財務の3区分の読み方、不動産会社ならではの論点、銀行が見る「返せる力」との関係を解説します。
- キャッシュフロー計算書は、お金の動きを営業活動・投資活動・財務活動の3つに分けて示す。中小企業に作成義務はないが、中小企業の会計に関する指針は作成が望ましいとしている
- 賃貸業では「減価償却費(お金が出ない費用)」と「元本返済(費用にならない支出)」のずれが、利益と現預金のずれの正体
- 販売用不動産の仕入れは営業活動、賃貸用の固定資産の取得は投資活動に入る。保有目的で区分が変わる
- 税務上の損金算入と、会計上の表示・区分は別の問い。銀行への説明資料としての作り方は、顧問税理士・会計の専門家と検討する
キャッシュフロー計算書の基本:3つの区分
キャッシュフロー計算書は、一定期間の現金及び現金同等物の増減を、活動の性質ごとに3つに分けて示す計算書です。企業会計審議会の「連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準」が基本的な考え方を定めています。
| 区分 | 主な内容(不動産会社の例) | 見るポイント |
|---|---|---|
| 営業活動によるキャッシュフロー | 家賃収入、管理費・修繕費・固定資産税の支払、法人税等の支払、販売用不動産の仕入れ・売却 | 本業でお金を生んでいるか |
| 投資活動によるキャッシュフロー | 賃貸用の土地・建物の取得・売却、資本的支出、定期預金の預入・払戻 | 物件の入替えにどれだけ使ったか |
| 財務活動によるキャッシュフロー | 借入による収入、借入金の返済、増資、配当 | 足りないお金をどう調達し、どう返したか |
中小企業にも作成が望まれている
会社法上、中小企業にキャッシュフロー計算書の作成は求められていません。ただし「中小企業の会計に関する指針」(令和7年9月19日修正版・第90項)は、経営者自らが経営実態を正確に把握するとともに、金融機関や取引先からの信頼性の向上を図るため、作成することが望ましいとしています。
ここでいう会計の基準は、企業会計原則や中小企業の会計に関する指針・要領など、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)のことです。会社法431条は、株式会社の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うとしています。
間接法で読むと、利益とのずれが見える
営業活動の区分は、税引前当期純利益から出発して、現金が動かない項目を足し引きする「間接法」で作るのが一般的です。不動産会社では、次の項目が大きく効きます。
- 減価償却費(足し戻す)
- 販売用不動産の増減(増えればマイナス、売れて減ればプラス)
- 未収家賃・前受家賃・預り敷金などの増減
- 法人税等の支払額(マイナス)
賃貸業のキャッシュフロー:減価償却費と元本返済のずれ
賃貸中心の会社では、利益と現預金がずれる最大の理由は、減価償却費と借入金の元本返済です。
| 項目 | 税務(法人) | 税務(個人) | お金の動き |
|---|---|---|---|
| 減価償却費 | 償却限度額の範囲で損金経理した額が損金 | 償却費の計算どおり必要経費(強制償却) | 出ていかない |
| 借入金の利息 | 損金 | 必要経費(土地取得部分の利子は損益通算に制限あり) | 出ていく |
| 借入金の元本返済 | 損金にならない | 必要経費にならない | 出ていく |
| 法人税・所得税等 | 法人税・住民税は損金不算入(事業税は損金) | 所得税・住民税は必要経費にならない | 出ていく |
減価償却費は、お金が出ていかないのに利益を減らします。元本返済は、お金が出ていくのに利益を減らしません。築年数が進んで減価償却費が減り、元本返済が増えていくと、「黒字なのにお金が残らない」状態が生まれます。この仕組みはデッドクロスとして知られています。
例:賃貸中心の会社のキャッシュフロー
数字は説明のための仮のものです。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 税引前当期純利益 | 1,000万円 |
| 減価償却費 | +2,500万円 |
| 法人税等の支払額 | −300万円 |
| その他(未収家賃・前受家賃の増減など) | −100万円 |
| 営業活動によるキャッシュフロー | 3,100万円 |
| 資本的支出(投資活動) | −400万円 |
| 借入金の約定返済(財務活動) | −2,800万円 |
| 現預金の増減 | −100万円 |
PLでは1,000万円の黒字でも、元本返済と資本的支出を払うと現預金は減っています。銀行が見ているのは、まさにこの「営業キャッシュフローで約定返済を払えているか」です。
売買を行う会社のキャッシュフロー:保有目的で区分が変わる
宅地建物取引業として買取再販や開発を行う会社では、読み方がまったく変わります。
- 販売用不動産(棚卸資産)の仕入れ・売却は、営業活動に入る
- 賃貸用の固定資産の取得・売却は、投資活動に入る
このため、販売用不動産を大きく仕入れた期は、PLが黒字でも営業キャッシュフローが大きなマイナスになります。仕入資金を借入でまかなえば、財務活動がプラスになります。売却した期には逆に、営業活動が大きくプラスになり、借入の返済で財務活動がマイナスになります。
どちらに区分するかは、物件の保有目的によって決まります。保有目的の判断と、途中で変える場合の考え方は販売用不動産と固定資産の区分で詳しく扱っています。区分を決算の都合で変えることはできません。
利息・敷金の区分は方針を決めて継続する
作成基準では、支払利息を営業活動に含める方法と、財務活動に含める方法のいずれかを選ぶことができ、選んだ方法は継続して適用します。預り敷金・保証金の受入れと返還をどの区分で表示するかも、会社として方針を決め、毎期同じ方法で作ることが大切です。方法が期ごとに変わると、銀行は前期との比較ができなくなります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務上の扱いと会計上の表示は別物
キャッシュフロー計算書そのものは、法人税の計算には使われません。しかし、そのもとになるPL・BSの処理には、税務と会計の両方の判断が入っています。
| 論点 | 税務の問い | 会計・表示の問い |
|---|---|---|
| 減価償却 | 償却限度額の範囲か | 規則的・継続的な償却か |
| 修繕と資本的支出 | 修繕費(損金)か資本的支出(資産)か | 費用か資産か。CFでは営業活動か投資活動か |
| 物件の保有目的 | 棚卸資産か固定資産か(減価償却の可否) | 営業活動か投資活動か |
| 売却損益 | 益金・損金の額 | 売上高か特別損益か |
たとえば外壁の大規模工事を修繕費として処理すれば営業活動のマイナス、資本的支出として資産計上すれば投資活動のマイナスになります。税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。修繕の判断は修繕費と資本的支出の違い、税務と会計の関係は税務上の損金と企業会計(GAAP)の違いをご覧ください。
個人の場合
個人の不動産所得では、キャッシュフロー計算書を作る決まりはなく、青色申告決算書も損益と貸借対照表が中心です。ただし、元本返済が必要経費にならない点、減価償却費が強制的に計上される点は法人と同じで、お金の残り方とのずれは個人でも起きます。規模が大きい個人の方ほど、自分でキャッシュフローを整理しておくと、銀行への説明がしやすくなります。
銀行からの見え方:「返せる力」をどう読むか
銀行は、キャッシュフロー計算書の形式そのものよりも、返済の原資がどこから来ているかを見ています。
簡易キャッシュフローと債務償還年数
銀行が返済能力を見るときの代表的な指標が債務償還年数です。著書のモデルでは、債務償還年数=(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)で計算し、10年以内が健全、20年超は厳しいと考えます。分母の「経常利益+減価償却費−法人税等」は、営業活動のキャッシュフローを簡便に表したものです。
銀行が気にする3つのパターン
| パターン | 銀行の受け止め方 | 説明のポイント |
|---|---|---|
| 営業CFで約定返済をまかなえている | 健全 | 物件別の家賃と返済の対応を示す |
| 営業CFが返済に足りず、現預金を取り崩している | 要注意 | 一時的な理由(大規模修繕、空室)か、構造的な問題か |
| 新規借入で既存の返済をまかなっている | 返済能力に疑問 | 物件の入替え計画、売却予定を具体的に示す |
債務償還年数を改善するのは「売却」と「利益の積み上げ」
著書では、債務償還年数を改善する二つの戦略として、物件の売却と、利益と現預金の積み上げを挙げています。繰上返済は、現預金で借入金を返すだけなので、分子の「借入金−現預金」はほとんど動きません。一方、物件を売却して借入を完済すると、借入金が一気に減り、売却代金が残債を上回れば現預金も増えます。キャッシュフロー計算書で見ると、投資活動のプラス(売却収入)と財務活動のマイナス(返済)が同時に立つ形です。
判例・裁決事例:審判所もキャッシュフローで実態を見た
キャッシュフロー計算書の作り方そのものが争われた公表事例は見当たりませんが、税務の判断でお金の流れが重視された例があります。
- 国税不服審判所 平成14年6月28日裁決(裁決事例集No.63・341頁)
- 争点:親会社が子会社への貸付金債権を放棄し「子会社支援損」として損金に算入した額が、寄附金に当たるか
- 判断:審判所は、子会社の資金計算書の資金収支の推移を検討し、元本返済の猶予や金利の棚上げでも資金効果は同じで、債権放棄をしなければ倒産したとはいえないこと、再建案が過剰支援であることから、寄附金に当たると判断した
- 一次情報:国税不服審判所 公表裁決事例
実務への示唆
この裁決は、グループ会社の支援が税務上認められるかどうかを、キャッシュフローの実態から判断しています。「倒産しそうだから支援した」と主張するなら、資金収支の数字でそれを示せなければならない、ということです。銀行への説明と同じで、キャッシュフローは「言葉」ではなく「数字」で語る資料です。グループ会社間の支援の税務は銀行はグループ会社を合算して見るでも扱います。
実務のチェックポイント
- 営業キャッシュフローで、約定返済と維持のための資本的支出をまかなえているか
- 減価償却費の減少と元本返済の増加で、数年後にキャッシュフローが逆転しないか
- 販売用不動産と賃貸用の固定資産の区分が、保有目的どおりになっているか
- 支払利息・預り敷金の区分を毎期同じ方法で作っているか
- 法人税等・消費税の納付(中間納付を含む)の時期を資金繰りに入れているか
- 銀行に出すときに、大きく動いた項目の理由を一言で説明できるか
資金繰りを月単位で管理する方法は資金繰り表の作り方で解説しています。
まとめ
- キャッシュフロー計算書は、お金の動きを営業・投資・財務の3つに分けて示す。中小企業に作成義務はないが、作成が望ましいとされている
- 賃貸業では、減価償却費と元本返済のずれが、利益と現預金のずれの正体
- 販売用不動産は営業活動、賃貸用の固定資産は投資活動。保有目的が区分を決める
- 銀行は「営業キャッシュフローで返せているか」を見る。債務償還年数の改善には、売却と利益の積み上げが効く
- 税務上の損金算入と会計上の表示は別の問い。どの区分で表示するかは、顧問税理士・会計の専門家と検討する
銀行に伝わる決算書と説明資料づくりは、不動産投資家向けサービスでご支援しています。
