賃貸中の一棟マンションを「いずれ売るつもり」で買ったとき、それは販売用不動産でしょうか、それとも固定資産でしょうか。販売用不動産と固定資産の区分は、減価償却ができるか、評価損をどう扱うか、売ったときに売上高になるか特別損益になるか、そして消費税の控除まで、多くの論点に連動します。
区分を決めるのは、物件の種類ではなく保有目的と実態です。この記事では、税務(法人と個人)、企業会計(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)、銀行の見え方の3つの視点から、区分の考え方と、保有目的を変えるときの注意点を整理します。
- 販売目的で持つ不動産は棚卸資産(販売用不動産)、賃貸・自社使用目的なら固定資産。区分は保有目的と実態で決まる
- 棚卸資産は原則として減価償却しない。個人の不動産業者が一時的に貸し付けた場合は、償却費相当額を必要経費にできる取扱いがある(所得税基本通達26-7)
- 会計上、販売用不動産は収益性が低下すれば簿価を切り下げる。一方、税務上の評価損は限られた事実がある場合にしか損金にならない
- 保有目的の変更は、正式な意思決定と実態の変化が前提。決算対策のための振替えはできない
- 消費税では、転売目的でも住宅として賃貸していれば、その購入は課税・非課税に共通する仕入れとされる(最高裁令和5年3月6日判決)
販売用不動産と固定資産では何が変わるのか
最初に、区分によって何が変わるのかを一覧にします。
| 項目 | 販売用不動産(棚卸資産) | 固定資産(賃貸用など) |
|---|---|---|
| 貸借対照表の区分 | 流動資産 | 固定資産(有形固定資産) |
| 減価償却 | 原則としてしない | 建物・附属設備などは償却する |
| 売却時の損益計算書 | 売却代金は売上高、帳簿価額は売上原価 | 売却損益を原則として特別損益に表示 |
| 会計上の評価 | 収益性が低下すれば簿価を切り下げる | 減損の兆候があれば減損を検討 |
| 税務上の評価損 | 災害による著しい損傷など、限られた事実がある場合のみ | 同様に限定的 |
| 銀行の見え方 | 流動比率に効くが、長期滞留は厳しく見られる | 担保評価・減価償却費(償却前利益)で見られる |
特に影響が大きいのは、減価償却の有無と、売却したときにPLのどこに出るかの2点です。
税務上の扱い:法人と個人の違い
法人の場合
法人税法では、棚卸資産と減価償却資産は別の資産として定義されています。販売目的で保有する土地・建物は棚卸資産となり、原則として減価償却はしません。取得に要した費用は棚卸資産の取得価額に含め、売れたときに売上原価として損金になります。
棚卸資産の評価損は、帳簿上で簿価を下げただけでは損金になりません。法人税法上、評価損の損金算入が認められるのは、災害による著しい損傷や、著しい陳腐化など、法令で定められた特別な事実がある場合に限られます。不動産市況の下落だけを理由にした評価損は、原則として損金になりません。
個人の場合
個人では、所得の区分が変わります。不動産業者が販売目的で持つ不動産を売った所得は事業所得、賃貸用の不動産を売った所得は譲渡所得(分離課税)です。
所得税基本通達26-7は、不動産業者が販売目的で取得した不動産を一時的に貸し付けた場合、その貸付けによる所得は不動産業から生ずる事業所得に当たるとしたうえで、建物など減価する資産については、減価償却資産に準じて計算した償却費相当額を必要経費に算入できる、としています。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 販売用不動産の売却 | 売上高・売上原価として所得計算に含める | 事業所得(不動産業として行っている場合) |
| 賃貸用不動産の売却 | 売却損益として所得計算に含める | 分離課税の譲渡所得。損失は他の所得と原則通算できない |
| 販売用不動産の一時的な賃貸 | 保有目的と実態から個別に判断 | 事業所得。償却費相当額を必要経費にできる(所基通26-7) |
| 市況下落による評価損 | 原則として損金にならない | 原則として必要経費にならない |
会計上の扱い:保有目的で区分し、勝手には変えられない
企業会計では、販売目的で保有する資産は棚卸資産として扱います。企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、期末の正味売却価額が帳簿価額を下回れば、収益性が低下したものとして簿価を切り下げます。会計上は簿価を切り下げても、税務上はその評価損が原則として損金にならないため、会計と税務で数字がずれる典型的な場面です。
保有目的の変更(固定資産から販売用へ、またはその逆)は、取締役会などの正式な意思決定と、販売活動の開始や賃貸の開始といった実態の変化を伴って行うものです。監査実務でも、販売用不動産の保有目的の変更には合理的な理由が求められてきました。
固定資産に区分すれば減価償却費が出て利益は減り、販売用にすれば償却がなくなって利益は増えます。売却したときも、販売用なら売上高、固定資産なら特別損益と、表示が変わります。だからこそ、区分を数字の見せ方で選んではいけません。区分は保有目的と実態で決まります。税務上の扱いと会計上の表示(GAAP)は別の判断が必要になるため、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
判例:ムゲンエステート事件・エー・ディー・ワークス事件
販売用不動産を賃貸しながら保有するケースでは、消費税の仕入税額控除が大きな争点になってきました。最高裁判所は、同じ日に2つの判決を出しています。
ムゲンエステート事件(最高裁令和5年3月6日 第一小法廷判決)
- 事件番号:令和4年(行ヒ)第10号、民集77巻3号440頁
- 争点:転売目的で購入した、住宅として賃貸されている建物の購入が、消費税法30条2項1号の「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れか、「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する」課税仕入れか
- 判断:「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れとは、事業において課税資産の譲渡等にのみ対応するものをいい、その他の資産の譲渡等(非課税の住宅家賃など)にも対応する課税仕入れは、全て共通して要するものに当たるとして、納税者の上告を棄却
- 一次情報:裁判所 裁判例検索(令和4年(行ヒ)第10号)
エー・ディー・ワークス事件(最高裁令和5年3月6日 第一小法廷判決)
- 事件番号:令和3年(行ヒ)第260号、集民270号25頁
- 争点:同様の課税仕入れを全額控除して申告したことについて、過少申告加算税を免れる「正当な理由」があるか
- 判断:税務当局は遅くとも平成17年以降、住宅として賃貸される建物の購入を共通対応の課税仕入れとする見解を採っており、一般の納税者も知り得たことなどから、「正当な理由」は認められないとした
- 一次情報:裁判所 裁判例検索(令和3年(行ヒ)第260号)
実務への示唆
この2つの判決が示しているのは、「販売目的」という保有目的があっても、消費税では実際に生じる売上げ(非課税の家賃)との対応関係が見られるということです。会計上の区分が販売用不動産であっても、消費税の区分は別に判断されます。なお、令和2年10月1日以後は、一定の居住用賃貸建物の取得について仕入税額控除そのものが制限されています。詳しくはムゲンエステート事件をわかりやすくと居住用賃貸建物の判定実務で解説しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方:流動資産か、収益不動産か
販売用不動産は「早く売れる在庫」として見られる
販売用不動産は流動資産に計上されるため、流動比率(流動資産÷流動負債)を押し上げます。ただし銀行は、販売用不動産がいつ、いくらで売れるのかを厳しく見ます。何期も売れずに残っている販売用不動産は、流動資産としての価値を割り引いて評価されることがあります。著書でも、BSの定期チェック項目として「棚卸資産(販売用不動産など)が長期滞留していないか」を挙げています。
宅建業として売れば、売却益は売上高・営業利益になる
宅建業の免許を持ち、販売用不動産として仕入れて売る事業を行っていれば、売却代金は売上高、利益は営業利益になります。著書のモデルでは、債務償還年数の分母に経常利益、ICRの分子に営業利益が入るため、本業の売買で利益を出せる会社は格付け上も有利です。著書が「収益は上に」の例として買取再販の売却益を挙げているのは、この意味です。
ただし、これは実際に販売事業として行っている場合の話です。賃貸用として長く保有してきた物件の売却益を、売上高に入れて営業利益を大きく見せることはできません。
賃貸用の固定資産は、償却前利益で見られる
固定資産として保有する賃貸物件は、減価償却費が計上される分、利益は小さく見えます。銀行はこれを補うために、減価償却費を足し戻した償却前利益やキャッシュフローで返済能力を見ます。減価償却と銀行の見方は減価償却費と銀行の見方で解説しています。
保有目的を変えるときのチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 意思決定 | 取締役会・株主総会など、正式な機関で保有目的の変更を決議し、議事録を残したか |
| 実態 | 販売活動の開始(媒介契約、販売図面)や、賃貸の開始(募集、賃貸借契約)を伴っているか |
| 時期 | 期末直前の振替えになっていないか。変更の理由を説明できるか |
| 減価償却 | 販売用へ振り替えた後の償却の扱い、振替え時の帳簿価額を確認したか |
| 評価 | 販売用不動産の正味売却価額が帳簿価額を下回っていないか |
| 消費税 | 賃貸中の物件の取得で、居住用賃貸建物や共通対応の区分を正しく判定したか |
| 銀行への説明 | 販売用不動産の販売計画(売却予定時期・価格)を資料で示せるか |
まとめ
- 販売用不動産(棚卸資産)か固定資産かは、物件の種類ではなく保有目的と実態で決まる
- 棚卸資産は原則として減価償却しない。個人の不動産業者の一時的な賃貸には償却費相当額を必要経費にできる取扱いがある
- 会計上の簿価切下げと、税務上の評価損の損金算入は別物。税務と会計(GAAP)の両方を顧問税理士・会計の専門家と検討する
- 消費税では、転売目的でも住宅として賃貸していれば共通対応の課税仕入れになる(最高裁令和5年3月6日判決)
- 銀行は、販売用不動産の滞留と、売却益が本業の売上かどうかを見ている
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