親が残した賃貸アパートを、兄弟で共有のまま相続する。遺産分割の話し合いを早く終わらせるために選ばれがちな形ですが、賃貸物件の共有は、入居者との契約、修繕、売却、借換えのたびに共有者の合意が必要になり、時間がたつほど身動きが取れなくなります。共有者の誰かが亡くなれば、さらにその相続人が共有者に加わります。
この記事では、相続で共有になった賃貸物件のリスクと解消方法を、令和5年4月に施行された改正民法の管理ルール、分割方法ごとの税金、最高裁判決、銀行からの見え方に分けて整理します。共有名義の不動産所得の申告など基本的な税金は共有名義の不動産の税金と注意点をご覧ください。
- 相続した賃貸物件の共有には、遺産分割前の遺産共有と、分割後の通常の共有がある。どちらも重要な判断に共有者の合意が必要
- 改正民法で、軽微な変更や短期の賃貸借は持分の過半数で決められるようになったが、借地借家法が適用される通常の賃貸借は基本的に全員同意
- 解消方法は、遺産分割(現物・代償・換価)、持分の売買、共有物分割(協議・裁判)、所在等不明共有者の持分取得など
- 税金は方法で大きく変わる。持分どおりの現物分割は譲渡なし、持分の売買・賠償分割は譲渡所得
- 銀行は共有物件の追加担保や借換えに全員の関与を求める。共有のままでは財務戦略の自由度が下がる
相続による共有の2つの段階
| 段階 | 状態 | 解消の手続 |
|---|---|---|
| 遺産共有 | 遺産分割が終わるまで、相続人全員で遺産を共有している状態 | 遺産分割(協議・調停・審判) |
| 通常の共有 | 遺産分割で「兄弟で2分の1ずつ」などと共有で取得した状態 | 共有物分割(協議・裁判)、持分の売買 |
遺産分割前の家賃は、各相続人が相続分に応じて取得し、後の遺産分割の影響を受けません(最高裁平成17年9月8日判決)。詳しくは遺産分割前の家賃は誰のものかで解説しています。
改正民法では、相続開始から10年を経過した後の遺産分割は、原則として特別受益や寄与分を考慮した具体的相続分ではなく、法定相続分(または指定相続分)で行うことになりました(民法904条の3)。また、令和6年4月から相続登記が義務化されています。「とりあえず共有のまま」にしておくことの不利益は、以前より大きくなっています。
共有物件の管理:改正民法で何が変わったか
法務省の資料(民法の改正(所有者不明土地等関係)の主な改正項目について)をもとに、賃貸物件に関係するルールを整理します。
| 行為 | 必要な同意 | 賃貸物件での例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 各共有者が単独で可能 | 雨漏りの応急修理 |
| 管理行為 | 持分の価格の過半数 | 管理会社の選任、管理者の選任 |
| 軽微な変更 | 持分の価格の過半数(新民法251条1項・252条1項) | 形状・効用の著しい変更を伴わない外壁補修など |
| 短期の賃借権等の設定 | 持分の価格の過半数(建物は3年以内。新民法252条4項) | 一時使用目的の賃貸、3年以内の定期建物賃貸借 |
| 上記以外の変更 | 共有者全員 | 建替え、大規模な用途変更、売却 |
注意したいのは、借地借家法が適用される通常の建物賃貸借です。法務省の解説では、約定の期間内に終了することが確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ設定できないとされています。共有の賃貸アパートで新しい入居者と普通借家契約を結ぶたびに問題が生じないよう、共有者間で管理の方法と権限をあらかじめ書面で決めておくことが大切です。
改正民法では、持分の過半数で管理者を選べるようになりました(共有者以外も可)。共有者の一人や管理会社を管理者にして、日常の管理を任せる方法もあります。
共有を解消する方法と税金
遺産分割の段階で解消する
| 方法 | 内容 | 主な税金 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 物件ごとに取得者を決める | 相続税のみ。譲渡所得は生じない |
| 代償分割 | 一人が物件を取得し、他の相続人に代償金を払う | 受け取った代償金は相続税の対象。払った代償金は物件の取得費にならない。代償として不動産を渡すと、その不動産の譲渡になる |
| 換価分割 | 売却して代金を分ける | 各相続人に持分に応じた譲渡所得。取得費加算の特例を使える |
| 共有分割 | 共有で取得する | 将来の共有物分割・売却の問題を残す |
換価分割で売却する場合は、相続税の申告期限の翌日以後3年以内なら取得費加算の特例を使えます。詳しくは相続税の取得費加算の特例と納税資金のための売却で解説しています。
遺産分割の後に解消する
| 方法 | 内容 | 主な税金 |
|---|---|---|
| 持分の売買 | 他の共有者の持分を買い取る | 売った人に譲渡所得。時価より著しく低い価額だと贈与税の問題 |
| 共有物分割(現物分割) | 土地を分筆して持分どおりに分ける | 持分に応じた現物分割なら譲渡はなかったものとされる(所得税基本通達33-1の7) |
| 共有物分割(賠償分割) | 一人が取得し、他の共有者に持分の価格を払う | 受け取った人に譲渡所得 |
| 共有物分割(競売分割) | 競売で売却し代金を分ける | 各共有者に譲渡所得 |
| 所在等不明共有者の持分取得 | 裁判所の決定と時価相当額の供託で取得(新民法262条の2) | 遺産共有の場合は相続開始から10年経過後に限る |
| 資産管理法人への移転 | 共有者全員が持分を法人に売る | 各共有者に譲渡所得。法人側に不動産取得税・登録免許税 |
一棟の賃貸アパートは物理的に分けることが難しく、現物分割は土地だけの場合や複数物件がある場合に限られがちです。法人への移転の税金は個人から法人へ物件を移すときの税金をご覧ください。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る判例:全面的価格賠償による共有物分割(最高裁平成8年10月31日判決)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 裁判所 | 最高裁判所第一小法廷 |
| 判決日 | 平成8年10月31日 |
| 事件番号 | 平成3年(オ)第1380号 持分権確認並びに共有物分割 |
| 掲載 | 民集50巻9号2563頁 |
| 一次情報 | 裁判所 裁判例結果詳細 |
- 争点:裁判による共有物分割で、共有物を共有者の一人の単独所有とし、他の共有者に持分の価格を支払わせる方法(全面的価格賠償)が許されるか
- 判断:共有物を特定の者に取得させるのが相当で、価格が適正に評価され、取得する者に支払能力があり、他の共有者に持分の価格を取得させても実質的公平を害しない特段の事情があるときは、全面的価格賠償の方法も許される。ただし本件では、取得者の支払能力を確定しないまま全面的価格賠償を採用した原審に違法があるとして、破棄差戻し
- その後:改正民法258条2項で、賠償分割が裁判による分割方法として明文化された
実務への示唆は、共有物件を一人が取得するには、他の共有者に払う資金が必要だということです。賃貸アパートを取得したい共有者は、自己資金や借入れで持分の価格を払えるかを、早い段階で銀行と相談しておく必要があります。
個人と法人で何が違うか
| 項目 | 個人の共有 | 法人で保有(株式を相続) |
|---|---|---|
| 相続の対象 | 不動産の持分 | 株式 |
| 管理の決定 | 民法の共有ルール(重要事項は全員同意) | 法人の機関(取締役・株主総会)で決定 |
| 家賃・経費 | 持分に応じて各共有者が申告 | 法人の売上・費用 |
| 共有の解消 | 共有物分割・持分売買(譲渡所得) | 株式の買取り・自己株式の取得など |
| 借入れ | 共有者全員が債務者・担保提供者になることが多い | 法人が債務者 |
法人で持っていれば、オーナーの相続で株式が共有になっても、物件の管理は法人の意思決定で続けられます(株式が未分割で共有のままだと議決権の行使に権利行使者の指定が必要です)。相続前に法人化しておくか、少なくとも遺言で物件ごとの取得者を決めておくことが、共有を生まない最も確実な方法です。
会計上の扱い:共有者ごとの帳簿と、法人化した場合
個人の共有者は、持分に応じた家賃・経費をそれぞれの帳簿に記録し、減価償却も持分に応じて計算します。管理を担当する共有者が他の共有者の分も受け取っている場合は、預り金として区分し、年に1回は精算書を作って共有します。
共有物件を法人に移すと、法人の決算書で処理することになります。企業会計は、一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に従います(会社法431条、法人税法22条4項)。取得した不動産は取得原価で計上し、取得時の税金や登記費用は、税務上は損金算入が認められるものでも、決算書でどの区分に表示するか(取得原価に含めるか、費用処理するか)は取引の実態に沿って判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と事前に検討してください。
銀行からの見え方:共有のままでは財務戦略が動かない
- 借換え・追加融資:共有物件を担保にするには、原則として共有者全員が担保提供者になる。一人でも反対すれば借換えも大規模修繕の融資も進まない
- 相続人ごとの財務:共有者の一人の財務が悪化すると、その持分に差押えなどのリスクが生じ、銀行は物件全体の担保価値を慎重に見る
- 持分の買取資金:一人が取得する場合、持分の買取資金の借入れが必要になる。著書のモデルでは、債務償還年数(借入金−現預金を、経常利益+減価償却費−法人税等で割ったもの)で返済能力を見るため、物件の収益力に見合った買取価格かどうかが重要
- 出口の判断が遅れる:毀損した物件を売る、建て替えるといった判断が遅れ、物件の収益力が落ちていく
実務のチェックポイント
| 確認項目 | 内容 |
|---|---|
| 共有の段階 | 遺産分割前(遺産共有)か、分割後の共有か |
| 管理の取決め | 管理者、賃貸借契約の締結権限、修繕の決め方を書面で決めたか |
| 賃貸借の種類 | 新規契約は普通借家か定期借家か。共有者全員の同意が必要な契約か |
| 解消の方針 | 誰が取得するか、売却するか。取得者の資金調達は可能か |
| 税金の試算 | 分割方法ごとの譲渡所得・相続税・贈与税・不動産取得税を比べたか |
| 期限 | 相続登記(相続を知った日から3年以内)、取得費加算の期限(申告期限の翌日以後3年)、10年経過後の具体的相続分の制限 |
| 借入れ | 銀行に共有者全員の方針を伝え、債務者・担保提供者の整理を相談したか |
まとめ
- 相続による共有には遺産共有と通常の共有があり、どちらも重要な判断に共有者の合意が必要
- 改正民法で、軽微な変更や短期の賃貸借は持分の過半数で決められるようになったが、借地借家法が適用される通常の賃貸借は基本的に全員同意
- 共有の解消方法は、遺産分割(現物・代償・換価)、持分の売買、共有物分割(現物・賠償・競売)など。方法によって税金が大きく変わる
- 一人が取得する賠償分割は、取得者の支払能力が前提(最高裁平成8年10月31日判決、民法258条2項)
- 共有のままでは借換えや売却が進まず、財務戦略の自由度が下がる。遺言や法人化で共有を生まない準備が最も確実
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