築年数が進んだ賃貸物件を売るとき、「古い建物付きより更地のほうが売りやすい」として、売却前に建物を取り壊すことがあります。このとき問題になるのが、解体費用と、取り壊した建物の未償却残高(帳簿価額)の扱いです。
個人の場合、取壊しが「売却のため」か「賃貸業のため」かで、譲渡所得の計算に入れるのか、不動産所得の経費になるのかが分かれます。法人の場合は、取壊しの時期と売却の時期が決算期をまたぐと、損失が出る期がずれます。この記事では、法人と個人の違い、公表裁決、会計上の表示、消費税・固定資産税への影響、銀行の見え方を整理します。
- 個人:土地を売るための取壊しなら、解体費用も建物の未償却残高も譲渡費用(所得税基本通達33-7・33-8)。不動産所得の経費ではない
- 賃貸業の建替えなどのための取壊しなら不動産所得の資産損失。事業的規模でなければ、損失は不動産所得の金額が限度(所得税法51条4項)とした裁決がある
- 法人:解体費用と除却損は、取り壊した事業年度の損金。売却と決算期がずれると、損失だけ先に出ることがある
- 会計上、賃貸用の建物の除却損は原則として特別損失。解体費用の表示も実態で判断する
- 土地の売却は消費税が非課税のため、売却のための解体費用の消費税は控除できないのが原則。更地にすると翌年の固定資産税が上がることもある
個人:売却のための取壊しは「譲渡費用」
通達の定め
国税庁の所得税基本通達33-7は、譲渡費用の一つとして、土地を譲渡するためにその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用を挙げています。また同通達33-8は、土地の譲渡に際して建物等を取り壊した場合に、その取壊しが譲渡のために行われたものであることが明らかなときは、取壊しの時の建物の損失額(資産損失の計算に準じた金額から、発生資材の価額を差し引いた額)を譲渡費用とするとしています。
つまり、個人が土地を売るために賃貸アパートを取り壊した場合、次の2つが土地の譲渡所得の計算で差し引かれます。
- 解体工事の費用(取壊し費用)
- 取り壊した建物の未償却残高(取壊し時点の帳簿価額)から、発生資材の売却価額などを差し引いた額
譲渡費用に入るもの・入らないものの全体像と、判断基準を示した最高裁平成18年4月20日判決は不動産売却の譲渡費用に入るもの・入らないもので解説しています。
「売却のため」でない取壊しは扱いが違う
一方、建替えのため、あるいは老朽化して危険になったために取り壊した場合は、売却とは関係がありません。賃貸業に使っていた建物なら、その損失は不動産所得の計算で扱われます。このとき、不動産の貸付けが事業的規模かどうかで、損失の扱いが変わります。
| 取壊しの目的・状況 | 個人の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 土地を売るための取壊し(明らかな場合) | 取壊し費用・建物の損失額とも譲渡費用 | 所得税基本通達33-7・33-8 |
| 事業的規模の賃貸業の建物を、建替え等のために取り壊した | 損失は不動産所得の必要経費(全額) | 所得税法51条1項 |
| 事業的規模でない賃貸の建物を取り壊した | 損失は、その損失を差し引く前の不動産所得の金額が限度 | 所得税法51条4項 |
| 建物付きのまま売り、買主が取り壊す | 建物も含めて譲渡。建物の取得費(未償却残高)を差し引く | 所得税法33条・38条 |
事業的規模の判断は不動産所得の事業的規模とはで整理しています。入居者に立ち退いてもらう費用の扱いは立退料を払った場合の処理をご覧ください。
公表裁決:取壊しの費用・損失の扱い
平成11年1月27日裁決(裁決事例集No.57・96頁):物納のための取壊し費用は譲渡費用
- 事案:相続税の物納の許可を受けるため、土地の上の賃貸用建物の賃貸借契約を解約し、建物を取り壊して更地にした。請求人は、解約損害金と取壊し費用を不動産所得の必要経費に、建物の損失を所得税法51条1項の資産損失として不動産所得の必要経費に算入すべきと主張した
- 判断:不動産所得を生ずべき業務について生じた費用といえるには、土地を業務に使う意図があるだけでは足りず、近い将来確実に業務の用に供されるといえる客観的な状態が必要と解された。新しいビルの建築を考えていたとはいえ、具体的な建築計画や利用形態は確定しておらず、業者に打診もしていなかった。物納の許可を受けるために更地にしたもので、物納は公法上の代物弁済として譲渡の一態様であるから、解約損害金と取壊し費用は譲渡費用に当たるとされた(国税不服審判所)
平成13年4月26日裁決(裁決事例集No.61・118頁):事業的規模でない貸付けの取壊し損失
- 事案:請求人は、自らが主宰する会社1社だけに不動産を貸しており、賃料は預金口座に振り込まれ、清掃も借主の従業員が行い、必要経費も減価償却費と固定資産税程度だった。その建物を取り壊した損失の扱いが争われた
- 判断:貸付けは社会通念上事業といえる規模ではなく、取壊しによる資産の損失には所得税法51条4項が適用され、損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度として必要経費に算入されるとされた(国税不服審判所)
実務への示唆:取壊しの費用と損失が「どの所得の計算に入るか」は、取壊しの目的と、賃貸の規模で決まります。売却のための取壊しなら、売却の経緯(買主との交渉、更地渡しの条件、契約日と取壊し日の関係)を記録に残すことが大切です。建替えのための取壊しと主張するなら、建築計画が具体化していることを示す資料が必要になります。これらの裁決は個別の事実に基づく判断であり、同じ結論がすべての事案に当てはまるわけではありません。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る法人:取壊し費用・除却損の計上時期
法人の場合、所得の区分はなく、取壊し費用も建物の除却損も損金になります。論点になるのは計上する時期です。
| 項目 | 法人の扱い |
|---|---|
| 解体工事の費用 | 取壊しをした事業年度の損金(売却のための費用であっても、取壊し時の費用として計上するのが一般的) |
| 建物の未償却残高 | 取り壊した(除却した)事業年度に除却損として損金 |
| 取壊しと売却が同じ期 | 同じ期の決算書に、除却損・解体費用と土地の売却損益が並ぶ |
| 取壊しが前期、売却が当期 | 前期に損失だけが計上され、当期に土地の売却損益が計上される |
注意したいのは、決算期をまたぐケースです。たとえば3月決算の法人が、2月に建物を取り壊し、5月に土地を売ると、除却損と解体費用は前期の決算書に、土地の売却益は当期の決算書に出ます。前期だけを見ると「大きな損失を出した期」に見えるため、銀行への説明が必要になります。売却のタイミングと決算期の関係は売却のタイミングと決算期(銀行の見え方)で詳しく扱います。
なお、取り壊す前提で買った建物の取得費・取壊し費用は、そもそも土地の取得価額に含めるのが原則です。購入時の取壊しについては取り壊し前提で買った建物の取得費・取壊費用を参照してください。
会計上の扱いと決算書の表示
決算書の表示は、企業会計の基準、つまり一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)に沿って判断します。中小企業であれば、企業会計原則、「中小企業の会計に関する指針」「中小企業の会計に関する要領」などが中心です。
- 建物の除却損:賃貸用の固定資産を取り壊した損失は、企業会計原則の考え方では臨時的な損失として、原則として特別損失(固定資産除却損)に表示します
- 解体費用:除却に伴って発生する費用であり、除却損と合わせて特別損失に表示することが考えられます。売却と一体の取引であれば、売却損益の計算に含める整理もありえます
- 販売用不動産の場合:販売用として保有していた土地建物なら、解体費用は販売用不動産の原価(売上原価)を構成するのが基本です
著書では、PLの整え方として「収益は上に、費用は下に」という原則を示し、固定資産除却損などは特別損失に分類する例を挙げています。これは、臨時・多額の損失が本業の利益(営業利益・経常利益)を不必要に圧迫していないかを確認しよう、という表示区分の話です。ただし、税務上は損金算入が認められるかが論点であり、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、売上原価か)は、企業会計の基準に沿って判断する必要があります。どの区分にできるかは取引の実態次第ですので、顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
消費税と固定資産税への影響
消費税:土地を売るための解体費用は控除できないのが原則
解体工事の代金には消費税がかかります(課税仕入れ)。一方、土地の譲渡は非課税です。課税事業者が個別対応方式で仕入税額控除を計算する場合、土地を売るための解体費用は、非課税売上げ(土地の譲渡)にのみ要する課税仕入れに当たり、控除できないのが原則です。建物付きのまま売る場合は建物部分が課税売上げになるため、取り壊すかどうかで消費税の計算も変わります。課税売上割合と控除方式の考え方は個別対応方式と一括比例配分方式を参照してください。
固定資産税:更地にすると住宅用地の特例がなくなる
住宅が建っている土地には、固定資産税の住宅用地の特例(小規模住宅用地は課税標準が6分の1など)があります。1月1日時点で建物を取り壊して更地になっていると、その年度からこの特例がなくなり、土地の固定資産税が大きく上がることがあります。売却まで時間がかかりそうなら、取壊しの時期を年明け以降にする、買主に取り壊してもらう、といった方法も検討します。
居住用財産の特例を使う場合
自宅を取り壊して敷地を売る場合に3,000万円の特別控除を受けるには、国税庁のタックスアンサーNo.3302のとおり、家屋を取り壊した日から1年以内に譲渡契約を結び、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、取壊し後に貸駐車場などに使っていないことなどの要件があります。賃貸物件ではあまり関係しませんが、自宅併用の物件では確認が必要です。
銀行からの見え方
損失が出る期と、利益が出る期を分けて説明する
除却損と解体費用は、特別損失として表示されれば営業利益・経常利益には影響しません。しかし、当期純利益と純資産は確実に減ります。取壊しと売却が決算期をまたぐと、ある期は大きな特別損失、翌期は売却益という決算書になり、どちらか一方だけを見た銀行担当者は判断を誤りかねません。2期分をセットにして、取壊しから売却までの一連の取引として説明する資料を用意しましょう。
取壊し中は家賃収入がなくなる
取壊しの前には入居者の退去が必要で、その間は家賃収入が減っていきます。売却まで時間がかかれば、借入の返済だけが続く期間が生じます。著書のモデルの債務償還年数「(借入金 − 現預金)÷(経常利益 + 減価償却費 − 法人税等)」では、家賃収入の減少は分母を小さくします。売却で借入を返済すれば分子が大きく減るため、売却までの期間をできるだけ短くする計画が、財務の面でも重要です。出口の考え方は不動産投資の出口戦略もご覧ください。
担保の建物を取り壊すときは銀行の承諾を
建物に抵当権が設定されている場合、取り壊すと担保が減るため、融資契約上、銀行の事前承諾が必要なことが一般的です。取壊しの前に、売却の見込み、売却代金での返済計画を銀行に伝え、承諾を得てから着手してください。
実務のチェックポイント
| タイミング | 確認すること |
|---|---|
| 取壊しの検討時 | 更地にして売る場合と、建物付きで売る場合の価格・税金・手残りを比較したか |
| 取壊しの検討時 | 取壊しが「売却のため」であることを示す記録(買主との交渉、更地渡しの条件)を残す準備をしたか |
| 取壊しの検討時 | 1月1日をまたぐ場合の固定資産税(住宅用地の特例の喪失)を確認したか |
| 取壊しの検討時 | 担保に入っている建物なら、銀行の承諾を得たか |
| 取壊し後 | 建物の滅失登記を行い、取壊し時点の未償却残高を確定させたか |
| 申告時(個人) | 取壊し費用と建物の損失額を、土地の譲渡所得の譲渡費用として計算したか(不動産所得の経費にしていないか) |
| 決算時(法人) | 除却損・解体費用を取り壊した期に計上し、特別損失など実態に応じた区分で表示したか |
| 申告時(課税事業者) | 土地の売却のための解体費用を、非課税売上げ対応の課税仕入れとして区分したか |
| 銀行への説明 | 取壊しから売却までを一連の取引として、2期分の決算書で説明する資料を用意したか |
まとめ
- 個人が土地を売るために建物を取り壊した場合、解体費用も建物の未償却残高も譲渡費用になる(所得税基本通達33-7・33-8)。物納のための取壊し費用を譲渡費用とした裁決がある
- 賃貸業のための取壊しなら不動産所得の資産損失。事業的規模でなければ、不動産所得の金額が限度とされた裁決がある
- 法人は、取り壊した事業年度に解体費用と除却損を損金に計上する。売却と決算期がずれると損失が先に出る
- 会計上、除却損は原則として特別損失。表示区分はGAAPに沿って取引の実態で判断する
- 土地の売却のための解体費用の消費税は控除できないのが原則。更地にすると固定資産税が上がることもある。担保の建物は銀行の承諾を得てから取り壊す
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