取得・建築

取り壊し前提で買った建物の取得費・取壊費用は土地の取得価額|1年基準と例外、裁決事例と銀行の見え方

建替え用地として古家付きの土地を買い、決済後すぐに解体業者を入れる。新築アパートや戸建分譲の現場ではよくある流れです。このとき、古家の購入代価と解体費用は、その期の経費になるのか。

答えは、当初から取り壊す目的が明らかなら、どちらも土地の取得価額です。建物を買ったように見えても、実際に買ったのは「更地として使える土地」だからです。この記事では、法人と個人それぞれの取扱い、「おおむね1年以内」の意味と例外、所有物件の建替えとの違い、公表裁決、会計上の表示、銀行からの見え方を整理します。

この記事の結論
  • 取得後おおむね1年以内に取壊しに着手するなど、当初から土地利用目的が明らかなら、建物の取得費と取壊費用は土地の取得価額
  • 法人は法人税基本通達7-3-6、個人は所得税基本通達38-1。考え方は同じ
  • やむを得ない理由で使用をあきらめた場合は、1年以内でも損金にできる余地がある(国税庁タックスアンサーNo.5401)
  • 何年も貸していた所有物件の建替えは別。法人は除却損と取壊費用が損金、個人は資産損失
  • 土地の取得価額は売却まで費用にならない。その期の利益は減らないが、節税効果もない

通達の要件:「当初から取り壊して土地を利用する目的」

法人税基本通達7-3-6は、法人が建物等の存する土地を建物等とともに取得した場合(自己の土地の上の借地人の建物を取得した場合も含む)に、取得後おおむね1年以内に建物の取壊しに着手する等、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは、取壊し時の建物の帳簿価額と取壊費用の合計額(廃材等の処分で得た金額は控除)を、土地の取得価額に算入するとしています。

個人も、所得税基本通達38-1で同じ取扱いが定められています。こちらは、建物の取得に要した金額と取壊しに要した費用の合計額(発生資材の価額を控除)を、土地の取得費に算入するとしています。

区分土地の取得価額に入るもの根拠
法人取壊し時の建物の帳簿価額+取壊費用−廃材等の処分収入法人税基本通達7-3-6
個人建物の取得に要した金額+取壊し費用−発生資材の価額所得税基本通達38-1
建物の購入に先立つ立退料土地・建物の取得価額法人税基本通達7-3-5、所得税基本通達38-11

入居者が残っている建物を買って立ち退いてもらい、そのうえで取り壊す場合は、立退料も取得価額に入ります。立退料の扱いは立退料を払った場合の処理で詳しく扱います。

「おおむね1年以内」は判断の目安

1年以内の取壊しは「当初から取り壊す目的だった」ことを推認させる代表的な事情ですが、要件の本体はあくまで取得時の目的です。取得前から建築計画が進んでいた、解体の見積りを取っていた、融資の資金使途が新築だった、といった事情があれば、着手が1年を少し過ぎていても同じ扱いになり得ます。逆に、1年以内であっても次の例外があります。

例外:やむを得ない理由で使用をあきらめた場合

国税庁のタックスアンサーNo.5401は、初めは建物を事業に使用する目的で取得したが、その後やむを得ない理由が生じて使用をあきらめなければならなくなった場合には、取得後おおむね1年以内に取り壊したときでも、建物の帳簿価額と取壊費用は土地の取得価額に含めず、取り壊したときの損金にできるとしています。

ただし、後から「使うつもりだった」と言うだけでは通りません。取得時の利用計画、取得後の調査や改修の内容、使用をあきらめた理由を、資料で説明できる必要があります。次の裁決は、その点が争われた例です。

公表裁決:平成20年3月24日裁決(裁決事例集No.75・342頁)

飲食店の経営と食品製造を営む法人が、競売で土地と複数の建物を約1億円で取得し、一部の建物(旧工場の建屋と排水施設)を事業に使うことなく取り壊して、その跡地に社屋を増築し別棟を新築した事案です。法人は、排水施設の解体費や残置薬品の廃棄処理費など約695万円を固定資産除却損として損金に算入し、取り壊した建屋は改装して製造工場に使う目的だったと主張しました。

審判所は、取壊しが当初からの目的だったかどうかは、取得に至る経緯、取得後の調査や改装等の状況、建物の取壊時期や取壊目的等の客観的な事実を総合勘案して判断するとしたうえで、次の事実を挙げました。

  • 改装して工場として使うという意思決定を示す具体的な資料がない
  • 競売の評価書に、従前工場として有害物質が使われていた旨の記載があり、取得直前に土壌汚染の調査方法を行政機関に相談していた
  • 競売価格が固定資産税評価額の約5分の1で、建屋を取り壊しても跡地を利用する価値があったからこそ競売に参加したと認められる
  • 稟議書の記載から、取得の年の12月には建屋を解体して新工場を建てることを決めていた
  • 取得後1年以内に取壊しに着手し、取得後に事情の変更等があったとは認められない

これらから、建屋は当初から利用する計画もなく、取り壊して跡地を利用する目的であったと認定され、建屋の取得価額と解体費等は土地の取得価額に算入すべきとされました(国税不服審判所)。この事案では、土地の取得の際に払った固定資産税相当額を土地の取得価額に算入した原処分も適法とされています(固定資産税の精算金は取得価額)。

意思決定の記録(稟議書など)が、納税者に不利な方向でも証拠になるという点が、実務上の大きな示唆です。

参考:所有地の解体・造成費用の振り分け(平成28年3月3日裁決)

取得時の事案ではありませんが、相続で取得した土地を事業用定期借地として貸すために、土地上の建物を解体し造成した個人の事案です。審判所は、解体した建物はその時点で不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない資産と認定して解体費用は家事費とし、掘削・整地などの造成費用は土地の改良費として取得費に算入すべきとしました。一方、土留め工事や雑工事、境界の整備、土壌汚染調査の費用は貸付けの業務に関する費用として必要経費に、乗入側溝の改修費用は繰延資産としています(国税不服審判所)。工事の明細ごとに性格を分けて判断されることがわかる例です。

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所有物件の建替えとの違い

取得時から取り壊す目的があったかどうかで、処理は大きく変わります。

場面法人個人(不動産所得)
取壊し前提で取得した建物帳簿価額+取壊費用は土地の取得価額取得費+取壊し費用は土地の取得費
長年貸していた建物を建替えで取り壊す帳簿価額は除却損、取壊費用とともに損金資産損失として必要経費(事業的規模でなければ、その年の不動産所得の金額が限度)
取得後に使用をあきらめて取り壊すやむを得ない理由があれば損金同様の考え方

個人の資産損失は所得税法51条によります。事業的規模(いわゆる5棟10室基準など)かどうかで、損失の扱いが変わる点に注意してください。詳しくは個人の事業的規模で扱います。

販売目的で取得した場合

戸建分譲や土地の転売など、販売目的で古家付き土地を取得した場合は、土地は固定資産ではなく棚卸資産(販売用不動産)になり、建物の取得費や解体費用はその取得原価を構成します。販売時に売上原価として費用になるため、固定資産の場合と費用になる時期が異なります(販売用不動産と固定資産の区分)。

消費税の確認

法人税や所得税で土地の取得価額になっても、消費税では、建物の購入代価や解体工事の対価は課税仕入れとして扱われるのが通常です。本則課税の個別対応方式では、取得後の土地の使い道(住宅用の建物を建てて貸すのか、事務所を建てるのか、売却するのか)によって区分が変わるため、取得の時点で利用計画を整理しておきましょう。

会計上の扱いと決算書の表示

会計上も、当初から取り壊す前提で取得した建物には、それ自体として事業に使う価値がありません。支払った金額は土地を利用可能な状態にするための支出であり、土地の取得原価に含める考え方が一般的です。

「固定資産除却損」で特別損失にする話ではない

税務上は損金算入が認められるかが論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。取壊し前提の取得であれば、実態は土地の取得のための支出なので、「臨時的な損失だから特別損失へ」という処理には通常なりません。逆に、長年使った建物の建替えによる除却損であれば、臨時的な損失として特別損失に表示することが考えられます。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

項目土地の取得価額に算入(誤って)損金にした場合
その期の営業利益・経常利益影響なし表示によって下がる
税務正しい処理否認され追徴・加算税のリスク
貸借対照表土地の簿価が建物代・解体費の分だけ大きくなる―
実態評価銀行は土地を担保評価で見直す。簿価が担保評価を上回る部分は割り引いて見られることがある―

その期の利益を減らさないので、格付けの収益性の項目には中立です。注意したいのは、土地の簿価が銀行の評価額を上回りやすい点です。古家の購入代価、解体費、立退料が土地の簿価に積み上がると、銀行が土地を路線価や取引事例で評価し直したとき、実態の純資産は決算書の数字より小さく見積もられます。購入前に、解体費を含めた土地の総額が、新築後の物件全体の評価に見合っているかを試算しておくことが大切です。銀行の評価の見方は不動産投資の銀行格付けで解説しています。

実務のチェックポイント

  1. 取得の目的(建替え・新築・分譲・既存建物の利用)を、稟議書や事業計画で記録したか
  2. 取得後おおむね1年以内に取壊しに着手したか、またはその予定か
  3. 建物を利用する予定だった場合、使用をあきらめた理由を資料で説明できるか
  4. 解体費用の明細を、取壊し、整地・造成、土留め、残置物処分などに分けたか
  5. 取壊し前提の建物代と解体費を、固定資産除却損や修繕費で処理していないか
  6. 消費税の課税仕入れの区分を、取得後の土地の使い道に合わせて判定したか
  7. 解体費を含めた土地の総額が、銀行の評価に見合っているか試算したか

まとめ

  • 当初から取り壊して土地を利用する目的が明らかなら、建物の取得費と取壊費用は土地の取得価額
  • 取得後おおむね1年以内の取壊し着手は、その目的を推認させる代表的な事情
  • やむを得ない理由で使用をあきらめた場合は損金にできる余地があるが、資料での説明が前提
  • 長年貸していた所有物件の建替えは別扱い。法人は除却損、個人は資産損失
  • その期の利益は減らないが、土地の簿価が銀行評価を上回りやすい点に注意

取得時の諸費用全体は物件取得時の諸費用一覧にまとめています。建替え計画の段階から、不動産投資家向けサービスでご相談ください。

よくある質問

古家付きの土地を買って、すぐに古家を解体しました。解体費用は経費になりますか?
当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかな場合、建物の購入代価(法人は取壊し時の帳簿価額)と解体費用は、土地の取得価額に算入します(法人税基本通達7-3-6、所得税基本通達38-1)。取得後おおむね1年以内に取壊しに着手していれば、通常この目的があったと判断されます。土地は減価償却しないため、売却するまで費用になりません。
1年以内に取り壊した場合は、必ず土地の取得価額になりますか?
必ずではありません。国税庁のタックスアンサーNo.5401は、初めは建物を事業に使う目的で取得したが、その後やむを得ない理由で使用をあきらめなければならなくなった場合には、1年以内の取壊しであっても、帳簿価額と取壊費用を取り壊したときの損金にできるとしています。取得時の計画と、その後の事情の変化を資料で説明できることが前提です。
何年も貸していた自分のアパートを建て替えるために取り壊す場合も、土地の取得価額になりますか?
なりません。これは取得時から取り壊す目的があった場合の取扱いで、長年賃貸に使っていた建物を建替えのために取り壊す場合は、法人なら建物の帳簿価額(除却損)と取壊費用は損金になります。個人の不動産所得では、資産損失として必要経費に算入しますが、事業的規模でない場合はその年の不動産所得の金額が限度になります(所得税法51条)。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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