不動産の決済では、固定資産税と都市計画税を引渡日で日割りし、引渡日以後の分を買主が売主に払うのが慣行です。金額としては数万円から数百万円。精算書には「固定資産税精算金」と書かれているため、買主の側で租税公課として経費に計上してしまうケースが後を絶ちません。
しかし、この精算金は税金ではありません。買主にとっては物件の購入代価の一部、売主にとっては譲渡の対価の一部です。この点は、国税不服審判所の裁決や裁判所の判決で繰り返し確認されています。この記事では、売主・買主それぞれの扱い、消費税、会計上の表示、銀行からの見え方を、公表されている裁決・判決とあわせて整理します。
- 固定資産税の納税義務者は1月1日現在の所有者。買主はその年度の税を納める義務を負わない
- 買主が払う精算金は、税金ではなく売買の取引条件。土地・建物の取得価額に算入する(租税公課にはできない)
- 不動産取得税のような「取得価額に入れなくてもよい」という選択肢はない(狭義の購入の代価)
- 売主が受け取る精算金は譲渡の対価。個人は譲渡所得の収入金額、法人は譲渡対価に含める
- 建物分の精算金は消費税の課税対象(課税仕入れ)。土地分は非課税
なぜ精算金は「税金」ではないのか
地方税法上、固定資産税と都市計画税は、賦課期日である毎年1月1日に固定資産課税台帳(登記簿)に所有者として登録されている人に、その年度分が課されます。年の途中で売買があっても、課税関係は変わりません。
つまり、年の途中で物件を買った人は、その年度の固定資産税を納める義務を負いません。売主が1年分を納め、買主は売買契約の合意に基づいて、その一部を売主に払っているだけです。裁決はこの点を捉えて、精算金の授受は売買の条件の一つであり、租税公課の負担とはいえない、と判断しています。
なお、日割計算の起算日を1月1日とするか4月1日とするかは、地域の慣行や契約によって異なります。どちらでも、契約で合意した精算金であることに変わりはありません。
買主の扱い:取得価額に算入する
| 区分 | 精算金の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人の買主 | 土地・建物の取得価額に算入 | 法人税法施行令54条1項1号、法人税基本通達7-3-16の2、裁決・判決 |
| 個人の買主(不動産所得) | 土地・建物の取得価額に算入 | 所得税法施行令126条1項1号(同じ考え方) |
| 消費税(建物分) | 課税仕入れの支払対価に含める | 消費税法基本通達10-1-6、平成25年8月30日裁決 |
精算書に土地分と建物分の金額が分かれていれば、それぞれの取得価額に加えます。土地分は減価償却されず、売却するまで費用になりません。
不動産取得税との違い
法人の場合、不動産取得税や登録免許税は、法人税基本通達7-3-3の2によって取得価額に算入しないこと(損金にすること)を選べます。精算金も「取得に関連して払う税金のようなもの」に見えますが、この選択肢の対象にはなりません。平成25年8月30日裁決は、精算金は取得関連費用ではなく「狭義の購入の代価」に当たるとしています。不動産取得税・登録免許税の扱いは不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額かで解説しています。
公表された裁決・判決
平成13年9月3日裁決(裁決事例集No.62・249頁)
土地を購入した法人が、売主に払った固定資産税等相当額を損金に算入した事案です。審判所は、買主は地方税法上の納税義務者ではないから、払った金員は市町村に納める税ではなく、固定資産税等の負担なしに土地を取得できる対価として売主に払うものであり、土地の取得のために実質的に欠かせない費用として購入の代価に加算するのが相当としました(国税不服審判所)。
平成20年3月24日裁決(裁決事例集No.75・342頁)
競売で土地建物を取得した法人の事案で、争点の一つが、土地の取得の際に払った固定資産税相当額を土地の取得価額に算入すべきかでした。審判所はこの争点について原処分を適法としています(国税不服審判所)。
平成24年7月5日裁決
信託受益権の形で土地建物を取得した法人の事案です。審判所は、精算金は売買契約書の定めにより当事者間に生じる債権債務に基づいて授受されたもので、売買に伴って授受されたものであり事後費用ともいえないとして、購入の代価の一部と認めました(国税不服審判所)。この事案では、建物と各償却資産の取得価額の按分を計算し直した結果、原処分の一部が取り消されています。
平成25年8月30日裁決と、長崎地裁・福岡高裁の判決
菓子製造業等を営む法人が、土地と建物を購入した際の精算金を租税公課(一般管理費)として損金に算入し、建物分の精算金を消費税の課税仕入れに含めずに計算していた事案です。審判所は、精算金は合意された売買の取引条件の一つであり、支払わなければ売買が完了しないから、取得関連費用ではなく狭義の購入の代価として取得価額に含まれるとしました。消費税についても、消費税法基本通達10-1-6の取扱いを相当とし、建物分の精算金は課税仕入れの支払対価に含まれるとしています(国税不服審判所)。
その後、同じ事業年度(平成21年7月1日から平成22年6月30日まで)・同じ日付(平成24年4月25日付)の更正処分について争われた訴訟で、長崎地裁平成27年10月5日判決、福岡高裁平成28年3月25日判決とも、法人の請求を退けています(税務訴訟資料266号順号12833、国税庁ウェブサイト掲載の判決文)。
平成14年8月29日裁決(裁決事例集No.64・152頁):売主側
土地を譲渡した個人が、受け取った未経過固定資産税等相当額は立替金の清算であり担税力がないとして、譲渡所得の収入金額に含めなかった事案です。審判所は、譲渡人は譲受人に対して未経過分の求償権を取得するわけではなく、授受は契約によって初めて生じる債権債務に基づくもので、その性質は売買条件の一つにほかならないとして、総収入金額に算入すべきとしました(国税不服審判所)。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る売主の扱い:譲渡の対価に含める
| 区分 | 受け取った精算金 | 売主が納めた固定資産税 |
|---|---|---|
| 個人の売主(譲渡所得) | 譲渡所得の収入金額に算入 | 賃貸用なら不動産所得の必要経費 |
| 法人の売主 | 譲渡対価に含める(販売用不動産なら売上) | 租税公課として損金 |
| 消費税(課税事業者) | 建物分は課税売上げ、土地分は非課税売上げ | ― |
国税庁の質疑応答事例「未経過固定資産税等に相当する額の支払を受けた場合」も、受け取った額は実質的に土地・家屋の譲渡の対価の一部を成すとして、譲渡所得の収入金額に算入されると回答しています。消費税については質疑応答事例「未経過固定資産税等の取扱い」で、私人間の利益調整のための金銭の授受であり、不動産の譲渡対価の一部を構成するとされています。
売主が課税事業者の場合、建物分の精算金を課税売上げに含め忘れると、消費税の申告漏れになります。売却時の消費税は建物を売ったときの消費税で扱います。
選択の誤りは後から直せない(平成12年12月4日裁決)
不動産売買業を営む法人が、取得したビルの不動産取得税・登録免許税を取得価額に算入し、精算金を損金に算入して申告した事案です。精算金は取得価額に算入すべきものとされたため、法人は「最初から分かっていれば、精算金を取得価額に入れる代わりに不動産取得税等を損金にしていた」として更正の請求をしました。
審判所は、不動産取得税等を取得価額に算入した処理は、確定決算で法人が自主的に選択した正当な会計処理であり、いったん選択した後に再度の選択の機会を与えれば任意に取得価額を減額する恣意的な所得計算を認めることになるとして、更正の請求を認めませんでした(裁決事例集No.60・28頁、国税不服審判所)。
精算金の処理を誤ると、その分だけ所得が増えるだけでなく、ほかの選択で埋め合わせることもできません。決算の前に、精算書の項目を一つずつ確認することが大切です。
会計上の扱いと表示
会計上も、精算金は固定資産の購入代価の一部として取得原価に含めます。平成25年の裁決は、取得価額に関する法人税法施行令54条の内容と企業会計原則等の内容は何ら異なるところはないと述べています。税務と会計の処理が一致する費用です。
税務上は損金算入が認められるかが論点です。一方、決算書の表示(資産計上か費用処理か、販管費か営業外費用か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。精算金は購入代価の一部という実態がはっきりしているため、租税公課として販管費に計上する余地は通常ありません。顧問税理士・会計の専門家と確認してください。
銀行からの見え方
買主の側では、精算金を取得価額に入れても、その期の損益にはほとんど影響しません。
| 処理 | その期の営業利益 | 税務 | 銀行の見え方 |
|---|---|---|---|
| 租税公課(販管費)に計上 | 下がる | 否認される | 更正による追徴で純資産と現預金が減る |
| 取得価額に算入 | ほぼ影響なし(建物分の減価償却費が少し増える) | 正しい処理 | 中立 |
金額が小さいと軽く見られがちですが、物件を毎年のように買う会社では、精算金の誤りが毎期積み重なり、税務調査でまとめて指摘されることがあります。追徴税額や過少申告加算税・延滞税は純資産と現預金を減らし、銀行からは「経理の精度」の問題としても見られます。決算書の見られ方全般は銀行に出す前の決算書の整え方、固定資産税そのものの仕組みは固定資産税の基礎で解説しています。
実務のチェックポイント
- 精算書の「固定資産税・都市計画税精算金」を、租税公課ではなく取得価額に入れたか
- 精算金を土地分と建物分に分け、それぞれの取得価額に加えたか
- 課税事業者で本則課税の場合、建物分の精算金を課税仕入れに含めたか
- 不動産取得税・登録免許税の処理(取得価額か損金か)を、決算前に方針として決めたか
- 売主になった場合、受け取った精算金を譲渡の対価(建物分は課税売上げ)に含めたか
- 管理費などほかの精算項目と、固定資産税の精算金を混同していないか
まとめ
- 固定資産税の納税義務者は1月1日現在の所有者。精算金は税金ではなく売買の取引条件
- 買主は土地・建物の取得価額に算入する。不動産取得税のような選択肢はない
- 売主は譲渡の対価に含める。個人は譲渡所得の収入金額、法人は譲渡対価
- 建物分は消費税の課税対象。買主は課税仕入れ、売主は課税売上げ
- 処理を誤ると、ほかの選択で埋め合わせることはできない。決算前に精算書を確認する
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