取得・建築

競売物件の取得費・滞納管理費の承継・明渡費用の処理|取得価額に入るもの、土地建物の按分、消費税と裁決事例

競売(不動産の強制競売・担保不動産競売)は、相場より低い価格で物件を取得できる可能性がある一方、通常の売買にはない費用がついてくる取得方法です。前所有者が滞納していた管理費・修繕積立金の負担、居座っている占有者の明渡し、残置物の処分、現況のまま引き渡されるための修繕。さらに、売買契約書がないため、土地と建物の代金の内訳もありません。

この記事では、競売物件の取得価額に入るものを整理し、滞納管理費・明渡費用の扱い、土地と建物の按分、取り壊す建物の扱い、消費税(インボイス)、公表裁決、決算書と銀行からの見え方を順に解説します。

この記事の結論
  • 取得価額は落札代金+付随費用(登録免許税は買受人の負担。法人は損金にする選択も可)
  • 前所有者の滞納管理費・修繕積立金は買受人が承継する(区分所有法8条)。その期の経費ではなく取得価額に含める考え方が一般的
  • 占有者の立退料その他立退きのために要した費用は取得価額(法人税基本通達7-3-5、所得税基本通達38-11)
  • 土地と建物の区分は、競売では固定資産税評価額の比率による按分が合理的とされた裁決がある
  • 当初から取り壊す目的なら、建物の取得価額と取壊費用は土地の取得価額。判断の基準時は競売時

競売物件の取得価額に入るもの

落札代金と付随費用

購入した減価償却資産の取得価額は、購入の代価(購入のために要した費用を含む)と、事業の用に供するために直接要した費用の合計額です(法人税法施行令54条1項1号、所得税法施行令126条1項1号)。競売の場合、購入の代価は落札代金(買受代金)です。

費用扱い根拠・補足
落札代金取得価額土地と建物に按分する
所有権移転登記の登録免許税法人は取得価額か損金かを選択。個人(業務用)は原則必要経費嘱託登記の登録免許税は買受人の負担(民事執行法82条4項)。法人税基本通達7-3-3の2(1)、所得税基本通達37-5
不動産取得税同上同上
入札の代行業者・仲介業者への手数料取得価額購入のために要した費用
前所有者の滞納管理費・修繕積立金取得価額に含める考え方が一般的区分所有法8条で買受人が承継
占有者の立退料・明渡しの費用取得価額法人税基本通達7-3-5、所得税基本通達38-11
残置物の撤去・処分明渡しを受けるための費用として取得価額に含めて検討事業の用に供するために直接要した費用
取得後の修繕・リフォーム修繕費か資本的支出かを判定下記参照

登録免許税・不動産取得税の扱いは不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額かで詳しく解説しています。なお、入札時に納める保証金は代金に充当されるもので、それ自体は費用ではありません。

滞納管理費・修繕積立金:買受人が承継する

区分所有法7条は、区分所有者が共用部分などについて他の区分所有者に対して有する債権や、規約・集会の決議に基づく債権について先取特権を定め、8条は、これらの債権は債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができるとしています。競売で区分所有建物を取得した買受人は、この特定承継人に当たり、前所有者が滞納していた管理費・修繕積立金を管理組合から請求されます。

税務上、この支払は自分が所有している期間の管理費ではありません。取得に伴って負担することになった前所有者の債務であり、取得のための支出と考えるのが自然です。固定資産税の精算金についても、公表裁決は、売買に基因し因果関係のある給付は購入の代価の一部として取得価額に算入すべきとしています(固定資産税の精算金は取得価額)。滞納管理費の負担も、同じように取得価額に含める考え方が一般的です。

ただし、法律上は前所有者に求償できる立場にあります。求償の見込みや、承継した金額の中に遅延損害金が含まれているかなどによって整理が変わることもあるため、金額が大きい場合は申告前に税理士に確認してください。滞納額は物件明細書や管理組合への照会で事前に把握し、入札価格に織り込んでおくことが前提です。毎月の管理費・修繕積立金の扱いは区分所有マンションの修繕積立金は支払時に経費になるかをご覧ください。

明渡しの費用:立退きのために要した金額

法人税基本通達7-3-5と所得税基本通達38-11は、土地、建物等の取得に際し、その使用者等に支払う立退料その他立退きのために要した金額は、取得価額に算入するとしています。

競売物件では、代金を納付した買受人は、債務者や占有者に対して不動産を引き渡すよう命じる引渡命令を申し立てることができます(民事執行法83条。代金納付の日から原則6か月以内)。占有者との任意の交渉で払う立退料、引渡命令に基づく強制執行の費用、残置物の搬出・保管・処分の費用などは、いずれも物件を使える状態にするための費用として、取得価額に含めて検討します。立退料の考え方は立退料を払った場合の処理でも扱っています。

なお、買受人に対抗できる賃借権を持つ入居者がいる場合は、明渡しを求めるのではなく賃貸借を引き継ぐことになり、敷金の返還債務の扱いも問題になります(入居者付き物件の購入と敷金・前受家賃の承継)。

土地と建物の按分、取り壊す建物の扱い

按分は固定資産税評価額の比率が基本

競売には売買契約書がなく、落札代金の土地・建物の内訳はありません。平成27年6月1日裁決は、競売で土地と建物を一括取得した法人について、競売の落札価格は通常の取引より低くなるのが通例で、各資産の価額比で按分する方法が取引の実態に合致し最も合理的としたうえで、提出された鑑定評価は合理性のある価額になっていないとして、固定資産税評価額の比率によるべきとしました(国税不服審判所)。

路線価で土地を出して残りを建物とする差引法は、競売では特に建物が過大になりやすい方法です。按分方法の考え方と他の裁決は土地と建物の按分方法と争いになった裁決事例で詳しく解説しています。

取り壊すなら土地の取得価額

建物等とともに土地を取得し、取得後おおむね1年以内に取壊しに着手するなど、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかな場合は、建物の帳簿価額と取壊費用は土地の取得価額に算入します(法人税基本通達7-3-6)。取り壊し前提の購入の全体像は取り壊し前提で買った建物の取得費・取壊費用で解説しています。

購入後の修繕・耐用年数

競売物件は内覧できないまま取得することが多く、取得後に大がかりな改修が必要になることがあります。使用前の改修が取得価額になるか修繕費になるかは購入直後のリノベーション費用は取得価額か修繕費か、中古建物の耐用年数は中古建物の耐用年数(簡便法)を参照してください。

消費税:競売でもインボイスは受け取れる

競売による売却も資産の譲渡です。前所有者(債務者)が事業者で、事業用の建物であれば、建物部分は課税取引になり得ます。

インボイス制度の下では、適格請求書発行事業者が強制換価手続(強制執行や担保権の実行としての競売を含む)により執行機関を介して課税資産の譲渡等を行う場合、執行機関が買受人にインボイスを交付できる特例があります(消費税法施行令70条の12第5項、いわゆる公売特例)。執行機関は自ら適格請求書発行事業者である必要はなく、登録番号の代わりに執行機関の名称と特例の適用を受ける旨を記載します(国税庁「インボイス制度に関するQ&A 問48」)。

ただし、前所有者が個人の居住用として使っていた物件や、免税事業者だった場合は、インボイスを受け取れません。また、住宅として貸す建物は、居住用賃貸建物として仕入税額控除の対象外です(居住用賃貸建物の消費税)。

公表裁決に見る判断のポイント

平成20年3月24日裁決(裁決事例集No.75・342頁):取壊しの目的は競売時で判断

飲食店経営・食品製造の法人が、競売で土地と複数の建物を約1億300万円で取得し、そのうち工場建屋を取得後まもなく取り壊して社屋の増築・新築に使った事案です。請求人は、改装して工場として使う予定だったと主張しました。

審判所は、当初から取り壊して土地を利用する目的が明らかかどうかの判断の基準時は、競売による取得の場合は競売時としました。そのうえで、競売の評価書に有害物質の使用が記載され、監査役が取得直前に土壌汚染の調査方法を行政に相談していたこと、競売価格が固定資産税評価額の約5分の1であったこと、稟議書の内容、取得後1年以内に取壊しに着手したことなどから、当初から取り壊す目的であったと認定し、建屋の取得価額と排水施設の解体費等は土地の取得価額に算入すべきとしました(国税不服審判所)。

平成11年2月25日裁決(裁決事例集No.57・169頁):落札代金がそのまま取得費になるとは限らない

貸付債権の担保として根抵当権を設定していた土地について、自ら競売を申し立て、貸付債権相当額で落札した個人が、その土地を約半年後に譲渡し、落札代金を取得費とした事案です。入札したのは請求人だけで、落札価額は最低売却価額の約230倍でした。審判所は、取得費は資産の取得時の客観的価額を構成する費用に限られるとして、落札価額ではなく取得時の客観的価額を取得費としました(国税不服審判所)。

実務への示唆:通常の入札で競り合って落札した価格が否定されるわけではありません。ただ、債権回収のために時価とかけ離れた価格で落札したような特殊な事情があると、落札代金がそのまま取得費とは認められないことがあります。

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会計上の扱いと決算書の表示

企業会計(一般に公正妥当と認められる会計基準(GAAP:Generally Accepted Accounting Principles)。中小企業では「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」など)でも、固定資産の取得原価は、購入代価に付随費用を加えた額です。滞納管理費の承継額や明渡しの費用を、管理費や雑費として販管費に入れてしまうと、取得価額が過小になるうえ、その期の営業利益を不必要に押し下げます。

著書では、決算書の定期チェックとして「物件取得時の費用が、不必要に費用化されて営業利益を圧迫していないか」を挙げています。競売物件は付随費用の種類が多いため、取得の期に、取得価額に入れるべきものが販管費に紛れていないか確認しましょう。ただし、何でも資産に入れればよいわけではありません。税務上の扱いと、決算書の表示区分(資産計上か費用処理か、販管費か特別損失か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って取引の実態から判断する必要があります。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

論点銀行が見るポイント
資金調達代金納付の期限が短い。代金納付と同時に抵当権設定登記を嘱託する仕組み(民事執行法82条2項)に対応できるか
総投資額落札代金だけでなく、滞納管理費・明渡費用・修繕費を含めた総額で収支が成り立つか
担保評価取得価額(簿価)と担保評価の差。占有者の有無や修繕の必要性
決算書取得の期に付随費用が販管費に入り、営業利益が一時的に悪化していないか

競売物件は、取得後に明渡しや修繕で想定外の出費が生じやすく、銀行も慎重に見る傾向があります。入札前に、物件明細書・現況調査報告書・評価書で占有状況や滞納額を確認し、総投資額と資金の出どころを説明できるようにしておくと、融資の相談が進めやすくなります。自己資金の考え方は物件購入時の自己資金(頭金)も参考にしてください。

実務のチェックポイント

  1. 落札代金に、登録免許税・不動産取得税(法人は選択)・代行手数料などの付随費用を加えたか
  2. 滞納管理費・修繕積立金の承継額を確認し、取得価額に含めるか税理士と確認したか
  3. 立退料、強制執行の費用、残置物の処分費用を、取得価額に含めて検討したか
  4. 土地と建物を、固定資産税評価額の比率など合理的な方法で按分したか
  5. 取り壊す予定の建物は、競売時点の目的を示す資料(稟議、計画)を残したか
  6. 前所有者が適格請求書発行事業者か、公売特例のインボイスを受け取れるか確認したか
  7. 使用前の改修工事を、取得価額か修繕費か判定したか
  8. 総投資額と資金計画を、銀行に説明できる資料にしたか

まとめ

  • 競売物件の取得価額は、落札代金に付随費用を加えた額が基本
  • 前所有者の滞納管理費・修繕積立金は買受人が承継し、取得価額に含める考え方が一般的
  • 占有者の立退料その他立退きのために要した費用は取得価額
  • 土地と建物は固定資産税評価額の比率で按分するのが合理的とされた裁決があり、取り壊す建物は土地の取得価額(判断の基準時は競売時)
  • インボイスは公売特例で執行機関から受け取れる場合がある。総投資額で収支と資金計画を組み、銀行に説明できるようにする

物件取得時の諸費用の全体像は物件取得時の諸費用一覧で整理しています。競売物件の取得と融資のご相談は、不動産投資家向けサービスをご覧ください。

よくある質問

競売で買ったマンションの前所有者の滞納管理費を払いました。経費になりますか?
区分所有法8条により、管理費等の債権は特定承継人である買受人にも請求できるため、買受人が支払うことになります。この支払は自分が所有する期間の管理費ではなく、取得に伴って負担する前所有者の債務なので、その期の経費ではなく、物件の取得価額に含める考え方が一般的です。前所有者への求償の可能性や金額によって扱いが変わることもあるため、税理士に確認してください。
競売物件の占有者を退去させる費用は、取得価額になりますか?
土地、建物等の取得に際し、その使用者に支払う立退料その他立退きのために要した金額は、取得価額に算入します(法人税基本通達7-3-5、所得税基本通達38-11)。占有者との交渉で払った立退料のほか、引渡命令に基づく強制執行の費用など、明渡しを受けるために要した費用も、この考え方で取得価額に含めて検討します。
競売で取得した建物を壊して新築する場合、落札代金の建物部分はどうなりますか?
取得後おおむね1年以内に取壊しに着手するなど、当初から建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかな場合、建物の取得価額と取壊費用は土地の取得価額に算入します(法人税基本通達7-3-6)。平成20年3月24日裁決は、競売で取得した工場建屋について、判断の基準時は競売時であるとしたうえで、当初から取り壊す目的だったと認定しています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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