「物件を買ったときの諸費用は、全部その年の経費にしていいのか」。不動産投資家からいちばん多く受ける質問のひとつです。
答えは「費用によって違う」です。物件取得時の諸費用には、取得価額に入れなければならないもの、取得価額に入れるか経費にするかを選べるもの、期間に応じて経費にするものが混ざっています。しかも、個人と法人で扱いが違う費用があります。この記事では、決済のときに出てくる諸費用を一覧にし、税務上の扱い、会計上の表示、銀行からの見え方の3つの角度から整理します。
- 仲介手数料・固定資産税の精算金・立退料などは、取得価額に含める(すぐには経費にならない)
- 不動産取得税・登録免許税・登記費用は、法人は取得価額に入れないことを選べる。個人の不動産所得では、業務用資産なら原則として必要経費
- 融資の保証料のように期間に対応する費用は、期間按分が必要になる
- 個人が賃貸業を始める前に払った借入金利子などは、取得価額に算入される
- 費用にするか資産にするかで、その期の営業利益・経常利益と銀行の評価が変わる。税務と表示を分けて考える
取得時の諸費用は「3つの箱」に分けて考える
物件を購入すると、売買代金のほかにさまざまな費用を支払います。税務上は、これを次の3つの箱に分けると整理しやすくなります。
| 箱 | 考え方 | 主な費用 |
|---|---|---|
| ① 取得価額に入れる | 購入の代価や、購入のために要した費用 | 仲介手数料、固定資産税等の精算金、立退料、取壊し前提で買った建物の代金 |
| ② 入れるか費用にするかを選べる(法人) | 取得に関連するが、取得価額に算入しないことができる費用 | 不動産取得税、登録免許税その他登記のための費用 |
| ③ 期間に応じて費用にする | 借入れや保険など、一定期間の役務に対応する費用 | 信用保証料、火災保険料(長期一括)、借入金利子 |
法人税では、購入した減価償却資産の取得価額は「購入の代価(購入手数料その他購入のために要した費用を含む)」と「事業の用に供するために直接要した費用」の合計とされています(法人税法施行令54条1項1号)。個人も同じ考え方です(所得税法施行令126条1項1号)。
そのうえで、法人税基本通達7-3-3の2は、不動産取得税、登録免許税その他登記・登録のために要する費用などを「取得価額に算入しないことができる」と定めています。②の箱は、この通達による選択肢です。
費用別の一覧:法人と個人の扱い
決済時によく出てくる費用を、法人と個人(不動産所得)に分けて一覧にします。個人は、すでに賃貸業を営んでいる人が追加で物件を買う場合を前提にしています。
| 費用 | 法人 | 個人(業務開始後) | 主な根拠 |
|---|---|---|---|
| 仲介手数料 | 取得価額に算入 | 取得価額に算入 | 法令54条、所令126条 |
| 固定資産税・都市計画税の精算金 | 取得価額に算入 | 取得価額に算入 | 裁決・判決(後述) |
| 不動産取得税 | 損金か取得価額かを選択 | 必要経費 | 法基通7-3-3の2、所基通37-5 |
| 登録免許税(所有権移転) | 損金か取得価額かを選択 | 必要経費 | 法基通7-3-3の2、所基通37-5・49-3 |
| 司法書士報酬(所有権移転登記) | 登記費用として上と同じ | 登記費用として上と同じ | 同上 |
| 抵当権設定の登録免許税・司法書士報酬 | 借入れの費用として損金 | 必要経費 | 借入れのための費用 |
| 金銭消費貸借契約書の印紙税 | 損金 | 必要経費 | 借入れのための費用 |
| 信用保証料(一括払い) | 保証期間で按分 | 保証期間で按分 | 平成19年2月27日裁決 |
| 建物の購入に先立つ立退料 | 取得価額に算入 | 取得価額に算入 | 法基通7-3-5、所基通38-11 |
| 契約を解除して別の物件を買ったときの違約金 | 損金か取得価額かを選択 | 取得費・取得価額に算入(必要経費としたものを除く) | 法基通7-3-3の2、所基通38-9の3 |
個別の費用の詳しい扱いは、不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額か、司法書士報酬・登記費用の処理、購入時の仲介手数料、銀行に払う費用の処理と期間按分で解説しています。
売買契約書の印紙税
不動産売買契約書に貼る印紙税は、実務では租税公課として費用処理されることが多い費用です。ただし、購入のために要した費用として取得価額に含める考え方もあり、取り扱いを統一しておくことが大切です。なお、不動産の譲渡に関する契約書には、令和9年3月31日までに作成されるものについて税率の軽減措置があります(国税庁タックスアンサーNo.7140)。
個人と法人で扱いが分かれるところ
不動産取得税・登録免許税
法人は、不動産取得税や登録免許税を取得価額に入れても、入れなくてもよいとされています。入れなければ、その期の損金です。
個人の不動産所得では、業務の用に供される資産にかかる固定資産税、登録免許税(登録に要する費用を含み、取得価額に算入されるものを除く)、不動産取得税などは必要経費に算入するとされています(所得税基本通達37-5)。登録免許税については、土地・建物のような資産に係るものは取得価額に算入しないこととされているため(所基通49-3)、個人では原則として必要経費になります。法人のような「どちらを選ぶか」という幅は、個人にはほとんどありません。
1棟目を買う前の支出
個人で注意したいのが、賃貸業を始める前の支出です。所得税では、業務を始める前に業務用の資産を借入金で取得した場合、業務開始前の期間に対応する借入金の利子は、その資産の取得価額に算入するとされています(所基通37-27の注、38-8)。抵当権設定登記費用など借入れのために通常必要な費用も同様です。
法人は設立の時から所得計算が始まるため、設立後の支出はこの問題になりにくい一方、個人は「開業前」の線引きが論点になります。詳しくは建築中の借入利息は取得価額か期間費用かで扱います。
会計上の扱いと決算書の表示
ここまでは税務の話です。決算書をどう作るかは、別に考える必要があります。
企業会計では、固定資産の取得価額は購入代価に付随費用を加えた金額とするのが原則です。中小企業の会計に関する指針(33項)も、固定資産の取得価額は「購入代価等に、買入手数料、運送費、引取運賃、据付費、試運転費等の付随費用を加えた金額」とし、付随費用が少額であれば取得価額に算入しないことができるとしています。
つまり、会計の原則から見ると、不動産取得税や登録免許税も付随費用として取得原価に含める考え方が基本にあり、法人税の通達はそれを「入れなくてもよい」と認めている、という関係です。
税務上は、損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(一般に公正妥当と認められる会計基準=GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。物件取得を毎期のように繰り返す会社の取得関連費用は、通常は臨時的な費用とはいいにくいなど、会社ごとの事情で結論が変わります。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る銀行からの見え方:費用にするか、資産にするか
法人の場合、②の箱の費用をどう処理するかで、その期の決算書の見え方が変わります。仮に、不動産取得税と登録免許税・登記費用で合計300万円を支払ったとします。
| 項目 | 全額を販管費(租税公課)にした場合 | 建物・土地の取得価額に入れた場合 |
|---|---|---|
| その期の営業利益・経常利益 | 300万円減る | 建物分の減価償却費の分だけ減る |
| その期の法人税等 | 減る | 減らない(翌期以降に建物分が償却で少しずつ戻る) |
| 純資産 | 税引後の分だけ減る | 減らない |
| 土地部分の費用 | すぐ損金 | 売却するまで損金にならない |
銀行の格付けでは、営業利益・経常利益が重視されます。著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算します。建物の取得価額に入れた部分は、あとで減価償却費として分母に足し戻されますが、その期に販管費で落とした部分は経常利益をそのまま押し下げます。
一方、取得価額に入れれば、その期の納税額は増えます。現預金が薄い時期に税金を多く払うのが得策とは限りません。どちらが良いかは、その期の利益水準、現預金、次の融資の予定によって変わります。物件取得の前に、決算書がどう見えるかを試算しておくことをおすすめします。決算書の見られ方全般は銀行に出す前の決算書の整え方で解説しています。
裁決事例・判例から見る線引き
取得時の諸費用をめぐっては、公表された裁決・判決がいくつかあります。代表的なものを紹介します(詳細は各テーマの記事で扱います)。
固定資産税の精算金は取得価額(福岡高裁平成28年3月25日判決)
土地建物を購入した法人が、売主に支払った固定資産税等の日割精算金を租税公課として損金に算入したところ、取得価額に算入すべきとして更正処分を受けた事案です。一審の長崎地裁(平成27年10月5日判決)、控訴審の福岡高裁とも納税者の請求を退けました。固定資産税の納税義務者は賦課期日の所有者であり、精算金は当事者の合意に基づく売買の対価の一部と判断されています(税務訴訟資料266号順号12833、国税庁ウェブサイト掲載の判決文)。
信用保証料は保証期間で按分(平成19年2月27日裁決)
不動産の売買・仲介業を営む法人が、融資の際に信用保証協会へ支払った信用保証料の全額を支払った期の損金にしたところ、未経過の保証期間分は損金にできないとされた事例です。審判所は、保証料は保証期間中継続して役務の提供を受けるための費用であり、融資実行で役務の提供が終わるわけではないと判断しました(裁決事例集No.73・353頁、国税不服審判所)。
開業前の借入金利子は取得価額(平成11年6月28日裁決)
診療所の開業に当たり、事業開始前に借入金で建物等を取得した個人が、開業前の利子を開業費(繰延資産)として償却したところ、建物等の取得価額に算入すべきとされた事例です(裁決事例集No.57・138頁、国税不服審判所)。賃貸業でも、所得税基本通達で同じ考え方が示されています。
いずれも、名目ではなく、その支出が何の対価か、どの期間の役務に対応するかで判断されている点が共通しています。
決済前後のチェックリスト
- 精算書(決済明細)を受け取り、費用を「取得価額」「選べるもの」「期間費用」に仕分けたか
- 土地と建物の価額の区分は、契約書などで確認できるか(土地と建物の按分方法)
- 固定資産税の精算金を租税公課にしていないか
- 法人の場合、不動産取得税・登録免許税を取得価額に入れるか費用にするか、会社の方針を決めたか
- 信用保証料や長期の火災保険料を、期間按分しているか
- 個人で1棟目の場合、業務開始前の利子・登記費用を取得価額に入れたか
- その期の決算書の営業利益・経常利益が、銀行にどう映るかを試算したか
まとめ
- 物件取得時の諸費用は「取得価額に入れるもの」「法人なら選べるもの」「期間按分するもの」に分けて考える
- 仲介手数料・固定資産税の精算金・立退料は取得価額。不動産取得税・登録免許税は、法人は選択、個人は原則として必要経費
- 個人の1棟目は、業務開始前の利子や登記費用が取得価額に入る点に注意
- 税務上の処理と決算書の表示区分は別物。表示は会計基準と取引の実態に沿って判断する
- 費用化は税金を減らす一方、その期の利益と銀行の評価を下げることがある。取得前に試算を
物件取得の段階から、税務と決算書の見え方の両方を見据えた処理をご提案しています。不動産投資家向けサービスからご相談ください。
