物件を買うときの融資では、銀行や保証会社にさまざまな費用を払います。融資手数料、信用保証料、抵当権設定の登録免許税と司法書士報酬、金銭消費貸借契約書の印紙税。決済の明細では「諸費用」とひとまとめにされがちですが、税務上はそれぞれ性格が違い、その期に費用にできるもの、期間で按分するもの、物件の取得価額に入るものに分かれます。
この記事では、銀行に払う費用の処理を、法人と個人の違い、会計上の表示、銀行からの見え方(ICR・債務償還年数)とあわせて整理します。信用保証料については、保証期間で按分すべきとした公表裁決があります。
- 銀行に払う費用は、物件を取得するための費用ではなくお金を借りるための費用として考えるのが出発点
- 一括払いの信用保証料は保証期間で按分する。未経過分は前払費用(1年超は長期前払費用)
- 融資手数料は、契約上一時の事務の対価か、期間に対応する対価かで扱いが分かれる
- 抵当権設定費用・金銭消費貸借契約書の印紙税は、法人や業務開始後の個人ならその期の費用
- 個人が賃貸業を始める前に借入れで物件を取得した場合は、これらの費用も取得価額に算入
銀行に払う費用を性格で分ける
まず、決済のときに出てくる借入関連の費用を一覧にします。
| 費用 | 性格 | 法人 | 個人(賃貸業をすでに営んでいる) | 個人(賃貸業を始める前の取得) |
|---|---|---|---|---|
| 信用保証料(一括払い) | 保証期間にわたる役務の対価 | 保証期間で按分 | 保証期間で按分 | 使用開始日までの分は取得価額 |
| 融資手数料・事務手数料 | 契約内容による | 一時の対価なら損金、期間対応なら按分 | 同左 | 取得価額に算入 |
| 抵当権設定の登録免許税・司法書士報酬 | 借入れのための費用 | 損金 | 必要経費 | 取得価額に算入 |
| 金銭消費貸借契約書の印紙税 | 借入れのための費用 | 損金 | 必要経費 | 取得価額に算入 |
| 借入金の利子 | 期間の経過に応じた費用 | 期間に応じて損金(使用開始前分は取得価額に入れることも可) | 期間に応じて必要経費(同左) | 業務開始前の分は取得価額 |
右端の列の根拠は所得税基本通達38-8です。固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち使用開始の日までの期間に対応する部分は取得価額に算入するとし、公正証書作成費用、抵当権設定登記費用、借入れの担保として締結した保険契約に基づき支払う保険料その他借入れのために通常必要と認められる費用についても同様とする、と定めています。業務を始める前に取得した資産の利子は、必要経費を定めた37-27ではなく38-8によることも、37-27の注で明記されています。
借入金の利子の扱いは建築中の借入利息は取得価額か期間費用かで詳しく扱います。以下では、利子以外の費用を見ていきます。
信用保証料:保証期間で按分する
平成19年2月27日裁決(裁決事例集No.73・353頁)
不動産の売買及び仲介業を営む法人が、銀行から3,000万円と8,000万円の融資を受ける際に信用保証協会へ支払った信用保証料の全額を、支払った事業年度の損金にした事案です。法人は「保証の承諾で役務の提供は終わっている」と主張しました。
審判所は、信用保証は保証期間が満了するまで有効に続いていること、保証料の額が保証金額・保証期間(日数)・保証料率などを基に算定されていること、途中で完済した場合には未経過期間に応じて保証料が返還される取扱いがあることなどから、保証料は一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるための費用に当たると判断しました。そのうえで、事業年度末に未経過の保証期間に対応する額は前払費用として処理すべきであり、支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るものではないため、短期前払費用の特例(法人税基本通達2-2-14)も使えないとして、請求を棄却しています(国税不服審判所)。
なお、この事案では、原処分庁が「前期に繰上完済した場合の返戻額」と「当期に繰上完済した場合の返戻額」の差額をその期の費用とした計算方法も、合理的と認められています。保証料は分割返済の係数を使って計算されることが多く、単純な月割りと実際の負担の進み方がずれることがあるためです。
実務での計算例
保証期間10年(120か月)の保証料600万円を、決算日の6か月前に一括で払った場合の均等按分の例です。
| 区分 | 金額 | 決算書での表示 |
|---|---|---|
| 当期の費用(6か月分) | 30万円 | 支払保証料など |
| 翌期1年分 | 60万円 | 前払費用(流動資産) |
| それ以降の分 | 510万円 | 長期前払費用(固定資産・投資その他の資産) |
個人の場合も、所得税基本通達37-30の2で、前払費用はその年分の必要経費に算入されないとされており、考え方は同じです。
融資手数料:契約の中身で判断する
融資手数料(事務手数料、取扱手数料などの名称もあります)は、信用保証料ほど扱いがはっきりしていません。ポイントは、その手数料が何の対価かです。
- 融資の審査・実行という一時の事務に対する対価で、途中で返済しても返還されない → 支払った期の費用とする考え方が取りやすい
- 金利の一部を前払いする性格のもの、または期間の途中で完済すると未経過分が返還されるもの → 信用保証料と同じく期間按分を検討する
上の保証料の裁決でも、途中完済時に未経過期間に応じて返還される取扱いが、期間にわたる役務の対価と判断する事情の一つとされていました。融資手数料も、金銭消費貸借契約書や手数料の約定書で返還条項や計算方法を確認し、判断の根拠を残しておくことが大切です。一律に「手数料だから全額その期の経費」とするのは避けましょう。
抵当権設定費用と印紙税
抵当権設定登記の登録免許税と司法書士報酬は、物件を取得するためではなく、借入れを担保するための費用です。法人やすでに賃貸業を営んでいる個人は、通常その期の費用になります。所有権移転登記の費用との違いは司法書士報酬・登記費用の処理で解説しています。
金銭消費貸借契約書は、印紙税額一覧表の第1号文書(消費貸借に関する契約書)に当たります。主な税額は次のとおりです(国税庁タックスアンサーNo.7140、令和8年4月1日現在)。
| 記載された契約金額 | 印紙税額 |
|---|---|
| 1千万円を超え5千万円以下 | 2万円 |
| 5千万円を超え1億円以下 | 6万円 |
| 1億円を超え5億円以下 | 10万円 |
| 5億円を超え10億円以下 | 20万円 |
不動産売買契約書と建設工事の請負契約書には令和9年3月31日までの軽減措置がありますが、金銭消費貸借契約書は軽減の対象ではありません。
1棟目を買う個人の注意点(平成5年10月21日裁決)
勤務医が診療所を開設するに当たり、借入金で土地を取得して建物を建て、開業前の期間の利子と、借入れの際に支払った抵当権設定登記費用等を事業所得の必要経費に算入した事案です。審判所は、事業所得を生ずべき事業を開始したのは診療を開始した日であり、それまでの支払利子と登記費用等のうち必要経費とされていた部分は必要経費に算入できないとし、診療所の取得に充てた借入金に対応する利子は取得価額に加算すべきとしました(裁決事例集No.46・31頁、国税不服審判所)。
事業所得の事案ですが、通達は不動産所得も対象にしています。会社員が初めて賃貸物件を買う年は、決済時の借入関連費用をその年の経費にできるとは限りません。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る会計上の扱いと決算書の表示
企業会計原則は、一定の契約に従い継続して役務の提供を受ける場合に、まだ提供されていない役務に対して支払った対価を前払費用として当期の損益計算から除くこととしています。上の裁決も、法人税法22条4項を通じてこの考え方を示したうえで判断しています。税務と会計の考え方が一致する場面です。
表示では、1年以内に費用になる部分は流動資産の「前払費用」、1年を超える部分は固定資産(投資その他の資産)の「長期前払費用」とするのが一般的です。
税務上は損金算入が認められるか、いつ損金になるかが論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か営業外費用か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(一般に公正妥当と認められる会計基準=GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。保証料や融資手数料のような資金調達のための費用を、支払利息とあわせて営業外費用に表示することが考えられる場合もありますが、会社の会計方針として毎期継続することが前提です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
借入関連の費用は、ICR(営業利益÷支払利息)や債務償還年数の計算に関わります。
| 処理 | その期の利益への影響 | 銀行の見え方 |
|---|---|---|
| 保証料を全額その期の販管費に計上 | 営業利益・経常利益が大きく下がる | 税務上も認められないうえ、ICRが一時的に悪化する |
| 保証料を期間按分し、営業外費用に表示 | 経常利益は按分額だけ下がる | 営業利益とICRの分子は影響を受けない |
| 長期前払費用として資産に計上 | その期の利益は下がらない | 実態の純資産を見るとき、換金性のない資産として差し引いて見る銀行もある |
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算します。保証料の按分額は経常利益を毎期少しずつ押し下げますが、一度に落とすよりも数字のぶれは小さくなります。長期前払費用は資産として残りますが、銀行が実態純資産を計算する際には評価しないこともあるため、繰上返済で返戻を受ける予定があるかどうかなども含めて説明できるようにしておくとよいでしょう。ICRの考え方はICRと不動産融資、プロパー融資と保証付き融資の違いは信用保証付き融資とプロパー融資で解説しています。
実務のチェックポイント
- 決済明細の借入関連費用を、保証料・融資手数料・抵当権設定費用・印紙税・利息に分けたか
- 一括払いの保証料を、保証期間で按分しているか(全額を支払時の費用にしていないか)
- 1年を超える部分を長期前払費用として表示したか
- 融資手数料の契約書で、途中完済時の返還条項や計算方法を確認したか
- 繰上返済や借換えで保証料の返戻を受けたとき、未償却残高との差額を正しく処理したか(繰上返済の考え方)
- 個人で1棟目の場合、業務開始前の借入関連費用を取得価額に入れたか
- 費用の表示区分を毎期同じ方針で処理しているか
まとめ
- 銀行に払う費用は「借入れのための費用」。物件の取得費用とは分けて考える
- 一括払いの信用保証料は保証期間で按分する。全額を損金にした法人の請求を退けた裁決がある
- 融資手数料は、一時の事務の対価か期間の対価かを契約書で確認する
- 抵当権設定費用・印紙税は、法人や業務開始後の個人なら原則その期の費用。1棟目を買う個人は取得価額に算入
- 表示区分は会計基準と実態で判断し、ICRや債務償還年数への影響を踏まえて毎期継続する
取得時の諸費用全体は物件取得時の諸費用一覧にまとめています。融資を見据えた決算書づくりは、不動産投資家向けサービスでご相談ください。
