取得・建築

建築中の借入利息は取得価額か期間費用か|法人の選択、個人は業務開始前後で違う(裁決事例と銀行の見え方)

土地を買ってアパートやマンションを新築すると、竣工まで半年から1年以上、家賃収入のない期間が続きます。その間も、土地代金や建築代金の中間金に充てた借入金の利息は毎月かかります。この建築中の借入利息は、その期の費用にできるのか、それとも建物や土地の取得価額に入れるのか。

結論は、法人は選べる、個人は賃貸業を始める前か後かで変わるです。そして、どちらを選ぶかで、建築期間中の決算書と、竣工後の決算書の見え方が変わります。この記事では、税務上の扱い、公表裁決、会計上の処理、銀行からの見え方を順に整理します。

この記事の結論
  • 法人は、建築中の利息を損金にするか、取得価額に入れるか選べる(法人税基本通達7-3-1の2)。建設仮勘定に含めれば取得価額
  • 個人ですでに賃貸業を営んでいるなら、原則は必要経費。使用開始日までの分は取得価額に入れることもできる
  • 個人が賃貸業を始める前に取得するなら、使用開始日までの利息は取得価額に算入(開業費にはならない)
  • 土地部分の利息を取得価額に入れると、売却するまで費用にならない
  • 取得価額に入れると建築期間中の経常利益は残るが、納税は増える。竣工後は減価償却費として少しずつ費用になる

税務上の扱い:法人と個人で考え方が違う

区分建築中(使用開始前)の借入利息根拠
法人損金にするか取得価額に入れるかを選べる法人税基本通達7-3-1の2
個人(賃貸業をすでに営んでいる)原則は必要経費。使用開始日までの分は取得価額に入れることもできる所得税基本通達37-27
個人(賃貸業を始める前)使用開始日までの分は取得価額に算入所得税基本通達38-8、37-27の注

法人:経理の仕方で決まる

法人税基本通達7-3-1の2は、「固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子の額は、たとえ当該固定資産の使用開始前の期間に係るものであっても、これを当該固定資産の取得価額に算入しないことができる」としています。そして注で、利子の額を建設中の固定資産に係る建設仮勘定に含めたときは、取得価額に算入したことになると定めています。

つまり法人の場合、利息を支払利息として費用に計上すれば損金、建設仮勘定に含めれば取得価額です。どちらにするかは、決算の段階で会社が選ぶことになります。

また、法人税基本通達8-1-2の注は、固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子は、使用開始前の期間に係るものであっても繰延資産に該当しないとしています。「開業費として繰延資産に計上し、好きな時期に償却する」という処理はできません。

個人:業務を始める前か後か

個人の場合は、所得計算が「業務を始めた時」から始まるため、業務開始の前後で扱いが分かれます。

すでに賃貸業を営んでいる人が新しい物件を建てる場合、所得税基本通達37-27により、業務用資産の取得のために借り入れた資金の利子は必要経費に算入します。ただし、資産の使用開始の日までの期間に対応する部分は、取得価額に算入することもできます。

賃貸業を始める前に物件を取得する場合は、37-27の注により37-27は適用されず、38-8によって、借入れの日から使用開始の日までの期間に対応する利子は取得価額に算入します。抵当権設定登記費用など借入れのために通常必要な費用も同様です(銀行に払う費用の処理)。

「使用開始の日」はいつか

所得税基本通達38-8の2は、使用開始の日を次のように定めています。

  • 新たに建物の敷地にする土地:その建物を事業の用等に供した日
  • 建物:本来の目的のための使用を開始した日

土地の決済から建物の竣工・賃貸開始まで1年かかれば、その1年分の利子が対象になります。賃貸用の建物であれば、入居者募集を始めて貸付けの用に供した日がいつかを、記録で説明できるようにしておきましょう。

土地部分の利息は「売るまで費用にならない」

借入金のうち土地代金に充てた部分の利息を取得価額に入れると、その利息は土地の取得価額になります。土地は減価償却しないため、売却するまで費用になりません。建物代金に充てた部分の利息は、建物の取得価額として耐用年数にわたって減価償却されます。

個人の場合は、もう一つ論点があります。不動産所得が赤字のとき、土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は損益通算の対象から外されます(租税特別措置法41条の4、国税庁タックスアンサーNo.1391)。建築中は家賃収入がないため赤字になりやすく、土地部分の利子を必要経費にしても、給与所得などとの通算には使えない部分が出てきます。詳しくは借入金利子の処理と土地部分の利子の損益通算制限で扱います。

公表裁決:開業前の利息は「開業費」ではなく取得価額

平成11年6月28日裁決(裁決事例集No.57・138頁)

診療所を開業するに当たり、建物・建物附属設備・構築物を約7億4,000万円の工事請負契約で建築し、その工事代金に充てるために7億5,000万円を借り入れた個人の事案です。この人は、事業開始前に支払った借入金の利子約1,250万円などを、繰延資産である開業費として計上し、翌年に全額を償却費として必要経費に算入しました。

審判所は、開業費になるためには「資産の取得に要した金額とされるべき費用」でないことが要件であるところ、事業開始前に借入金で事業用資産を取得した場合の事業開始までの利子は、所得税法施行令126条の「当該資産の購入のために要した費用」に当たるとし、取得価額に算入すべきもので開業費には該当しないと判断しました。所得税基本通達38-8の取扱いも相当と認めています。法人との取扱いの違いを指摘した主張についても、法人は設立の時から所得計算が始まるのに対し個人は開業の時から始まる、として退けています(国税不服審判所)。

なお、この事案では、建築確認申請書と工事請負契約書の印紙代を建物等の取得価額に算入することについて、請求人は争っていません。

平成5年10月21日裁決(裁決事例集No.46・31頁)

開業前の利子と抵当権設定登記費用等を必要経費にした個人について、事業の開始は診療を開始した日であるとして必要経費算入を認めず、診療所の取得に充てた借入金に対応する利子は取得価額に加算すべきとした事例です(国税不服審判所)。

いずれも事業所得の事案ですが、通達は不動産所得も対象としています。初めての物件を新築する個人は、建築中の利息を必要経費にできない点に注意が必要です。

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会計上の処理と決算書の表示

企業会計では、固定資産の取得原価に借入利息を含めないのが原則的な考え方ですが、自家建設の固定資産については、建設に要する借入資本の利子で稼働前の期間に属するものを取得原価に算入できるとする考え方があります(企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書第三)。法人税の通達が「取得価額に算入しないことができる」と幅を持たせているのも、この選択と整合しています。

法人の場合、会計上どちらで処理するかが、そのまま税務上の扱いを決めます。

会計処理決算書の表示税務
支払利息として費用処理営業外費用(支払利息)損金
建設仮勘定に含め、竣工時に建物・土地へ振替固定資産(建設仮勘定→建物・土地)取得価額に算入
税務上の処理と表示は会計の方針として決める

税務上は損金算入が認められるかが論点です。一方、決算書の表示区分(営業外費用か、資産計上か)は、企業会計の基準(一般に公正妥当と認められる会計基準=GAAP)に沿って判断する必要があり、どちらにできるかは取引の実態と会社の会計方針次第です。物件ごとに都合よく使い分けるのではなく、どの範囲の利息を資産に含めるか(建築期間中の利息に限る、など)を会計方針として決め、継続することが前提です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

借入利息は営業外費用なので、どちらの処理でも営業利益は変わりません。変わるのは経常利益と、その後の減価償却費です。建築中の利息が年1,000万円(うち土地分400万円、建物分600万円)の例で比べます。

項目費用処理取得価額に算入
建築期間中の経常利益1,000万円下がる下がらない
建築期間中の法人税等減る減らない
純資産税引後の分だけ減る減らない
竣工後の減価償却費増えない建物分600万円が耐用年数にわたって上乗せ
土地分400万円その期に損金売却するまで損金にならない

著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算します。建築期間中に利息を費用処理すると、家賃収入がないところに支払利息だけが載るため、経常利益が赤字になりやすく、その期の債務償還年数の分母を小さくします。取得価額に入れれば経常利益は残りますが、その分の税金を払うことになります。

既存物件から十分な利益が出ている法人なら、費用処理で納税を抑える選択も合理的です。一方、新設法人で最初の物件を建てている場合や、決算の数字で次の融資を申し込む予定がある場合は、建築期間中の赤字が格付けにどう映るかを先に試算しておくべきです。なお、銀行がICRや返済能力を見るときに、資産に含めた利息も実際の支払利息として把握することがあります。資産計上したからといって負担が消えるわけではない点は、説明の際に意識しておきましょう。銀行の格付けの見方は不動産投資の銀行格付け、新設法人の融資は新設法人で物件を買うときの融資で解説しています。

実務のチェックポイント

  1. 借入金を土地代金分と建物代金分に区分し、利息も区分できるようにしているか
  2. 法人の場合、建築中の利息を費用にするか建設仮勘定に含めるか、会計方針として決めたか
  3. 個人の場合、すでに賃貸業を営んでいるか(業務開始前か後か)を確認したか
  4. 使用開始の日(賃貸開始日)を、募集開始や賃貸借契約の記録で説明できるか
  5. 個人で1棟目の場合、開業前の利息を開業費や必要経費にしていないか
  6. 土地部分の利息を取得価額に入れた場合、売却時の取得費に含められるよう記録を残したか
  7. 建築期間中の決算書が銀行にどう映るか、竣工前に試算したか

まとめ

  • 建築中の借入利息は、法人なら損金か取得価額かを選べる。建設仮勘定に含めれば取得価額
  • 個人は、賃貸業をすでに営んでいれば原則必要経費(取得価額に入れることも可)、始める前なら取得価額
  • 開業前の利子は開業費(繰延資産)にはならないとした裁決がある
  • 土地部分の利息は、取得価額に入れると売却まで費用にならない
  • どちらを選ぶかで建築期間中の経常利益と納税額が変わる。融資の予定とあわせて決める

新築の諸費用全体は新築の竣工前後に出る費用の扱いで整理しています。建築計画の段階から決算書の見え方まで、不動産投資家向けサービスでご相談ください。

よくある質問

法人が新築アパートの建築中に払った借入利息は、損金にできますか?
できます。法人税基本通達7-3-1の2は、固定資産を取得するために借り入れた借入金の利子は、使用開始前の期間に係るものであっても取得価額に算入しないことができるとしています。ただし、利子を建設仮勘定に含めて経理した場合は取得価額に算入したことになるため、どちらにするかは決算の経理で決まります。
個人で賃貸業を営んでいる人が、新しく建築する物件の建築中の利息を払った場合はどうなりますか?
すでに賃貸業を営んでいる人の場合、業務用資産の取得のための借入金の利子は必要経費に算入するのが原則で、使用開始の日までの期間に対応する部分は取得価額に算入することもできます(所得税基本通達37-27)。一方、賃貸業を始める前に取得する場合は、使用開始日までの利子は取得価額に算入します(同38-8)。
開業前の利息を開業費(繰延資産)にすることはできますか?
原則としてできません。平成11年6月28日裁決は、事業開始前に借入金で建物を取得した個人が、開業前の利子を開業費として償却したことについて、その利子は資産の取得価額に算入すべき費用であり開業費には当たらないと判断しました。法人についても、法人税基本通達8-1-2の注で、固定資産取得のための借入金の利子は繰延資産に該当しないとされています。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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