取得・建築

新築の竣工前後に出る費用の扱い|取得価額・開業費(繰延資産)・前払費用の分け方と個人・法人の違い

新築の計画が動き出すと、竣工の前後に実にさまざまな費用が出てきます。設計料、地盤調査、建築確認の手数料、近隣対策費、表示登記・保存登記の費用、建築中の利息、竣工時の火災保険、入居者募集の広告費、新設法人なら会社の立ち上げ費用。家賃収入が入る前に、出ていく費用だけが積み上がるのが新築の特徴です。

これらを全部「その期の経費」にすると、竣工年度の決算書は赤字になりがちです。一方、本来は取得価額に入れるべき費用を経費にしていれば、税務調査で否認されます。この記事では、竣工前後の費用を「取得価額」「開業費(繰延資産)」「前払費用・期間費用」の3つに分け、個人と法人の違い、会計上の扱い、銀行からの見え方まで整理します。

この記事の結論
  • 建物を建てて使えるようにするための費用は、原則として建物の取得価額(法人税法施行令54条1項2号)
  • 当初から予定されていた近隣対策費は取得価額、竣工後の記念費用は取得価額に入れないことができる
  • 開業費は、法人の設立後(個人は事業開始前)、事業を始めるまでの開業準備費用。取得価額や前払費用になるものは含まれない
  • すでに賃貸業を営んでいる人・会社の新規物件では、開業費は通常使えない
  • 竣工年度の赤字は格付けに響く。費用の性格どおりに分けたうえで、表示区分と試算を事前に検討する

竣工前後の費用は3つの箱に分ける

箱考え方主な費用
① 建物・土地の取得価額建設のための費用、事業の用に供するために直接要した費用設計料、工事監理料、建築確認関連費用、地盤改良(建物のため)、当初から予定の近隣対策費、工事請負契約書の印紙税
② 開業費(繰延資産)事業開始前の開業準備のために特別に支出する費用(①と③を除く)新設法人・新規開業の個人の開業準備費用
③ 前払費用・期間費用期間に対応する費用、その期の役務の対価火災保険料(長期は按分)、管理委託料、入居者募集の広告費

さらに、法人には「取得価額に入れるか、損金にするかを選べる」費用があります。不動産取得税、登録免許税(保存登記など)、建築中の借入利息です。

① 取得価額に入るもの

自己が建設した減価償却資産の取得価額は、建設のために要した原材料費、労務費及び経費の額と、その資産を事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額です(法人税法施行令54条1項2号、個人は所得税法施行令126条1項2号)。請負で建てる場合は、工事代金に加え、設計料や工事監理料なども建設のための経費として取得価額を構成します。

通達には、新築で判断に迷いやすい費用の取扱いがいくつかあります。

費用取扱い根拠
建物の建設のための地質調査・地盤強化など土地ではなく建物の取得価額法人税基本通達7-3-4(注)、所得税基本通達38-10(注)
建設に伴う住民対策費・公害補償費で当初から予定されているもの建設後の支出でも取得価額法人税基本通達7-3-7
落成・操業開始に伴う記念費用など、取得後に生ずる付随費用取得価額に算入しないことができる法人税基本通達7-3-7
建設計画の変更で不要になった調査・測量・設計・基礎工事の費用取得価額に算入しないことができる法人税基本通達7-3-3の2(2)
不動産取得税、登録免許税その他登記費用法人は取得価額に入れるか損金か選択。個人は原則必要経費法人税基本通達7-3-3の2(1)、所得税基本通達37-5
建築中の借入利息法人は選択。個人は業務開始前なら取得価額法人税基本通達7-3-1の2、所得税基本通達37-27・38-8

建築中の借入利息は建築中の借入利息は取得価額か期間費用か、不動産取得税・登録免許税は不動産取得税・登録免許税は経費か取得価額かで詳しく解説しています。

なお、取得価額に入れた費用は、建物本体・建物附属設備・構築物のどれに対応するかでも分ける必要があります(建物と建物附属設備・構築物の区分)。

② 開業費(繰延資産)になるもの

定義:「事業を開始するまで」の「開業準備」の費用

開業費は、法人税法施行令14条1項2号で「法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」、所得税法施行令7条1項1号で「不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」とされています。どちらも、繰延資産の範囲から資産の取得に要した金額とされるべき費用と前払費用を除くと定めています。

つまり、建物の取得価額に入る費用や、火災保険の前払分は、開業前に払っても開業費にはなりません。

償却:法人は任意、個人は60か月均等か任意

区分償却の方法根拠
法人繰延資産の額の範囲内で任意(随時償却)法人税法施行令64条1項1号
個人60か月の均等償却か任意償却のいずれか所得税法施行令137条1項1号・3項

国税庁の質疑応答事例「償却期間経過後における開業費の任意償却」は、任意償却には下限がなく、60か月を経過した後でも未償却残高をいつでも償却費として必要経費に算入できるとしています。ただし、支出した開業費の内容と、過年分で必要経費に算入していないことを明らかにしておく必要があります。

すでに賃貸業を営んでいる場合は使えない

開業費は「事業を開始するまで」の費用です。すでに賃貸物件を持っている会社や個人が新しい物件を建てる場合、その準備の費用は開業費ではなく、①の取得価額か、③の期間費用として判断します。また、個人については、条文上「事業を開始するまで」とされていることから、小規模な貸付けの場合にどう考えるかなど、個別の検討が必要になることがあります。

③ 前払費用・期間費用になるもの

  • 火災保険・地震保険:竣工時に長期一括で払った保険料は、保険期間で按分します。支払日から1年以内の分を継続して支払時の費用とする短期前払費用の特例(法人税基本通達2-2-14、所得税基本通達37-30の2)は、1年を超える部分には使えません(火災保険・地震保険の長期一括払い)
  • 入居者募集の広告費・仲介手数料(AD):役務の提供を受けた期の費用が原則です。竣工前に先行して出る広告費をどう考えるかは新築時に先行する広告費は資産計上できるかで扱います
  • 管理委託料:前払いした場合は、対応する期間の費用です

公表裁決に見る線引き

平成11年6月28日裁決:開業前の利子は開業費ではなく取得価額

診療所の開業に当たり、事業開始前に借入金で建物等を建築・取得した個人が、開業前の借入金の利子などを開業費として計上し、全額を償却した事案です。審判所は、開業費となるための要件として、支出の効果が1年以上に及ぶこと、資産の取得に要した金額とされるべき費用や前払費用でないこと、事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用であることを挙げ、開業前の利子は建物等の取得価額に算入すべき費用であるから開業費には該当しないと判断しました。建築確認申請書と工事請負契約書の印紙代を建物等の取得価額に算入することについては、請求人も争っていません(裁決事例集No.57・138頁、国税不服審判所)。

平成28年3月3日裁決:工事の明細ごとに性格を分ける

相続で取得した土地を事業用定期借地として貸すため、建物の解体と造成などの工事を行った個人の事案です。審判所は、解体費用は家事費、掘削・整地などの造成費用は土地の取得費、乗入側溝の改修費用は繰延資産としてその償却費を必要経費に、土留め工事・雑工事の費用は必要経費にすべきとしました。土留め工事等については、工事完了時にはすでに不動産所得を生ずべき業務を行っていたことから、開業準備のために特別に支出する費用には当たらないとされています(国税不服審判所)。

一つの工事契約でも、明細ごとに「取得価額」「繰延資産」「その期の費用」に分かれることがわかる例です。

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会計上の扱いと決算書の表示

会計上、建設中の支出はいったん「建設仮勘定」に集め、竣工・引渡しの時点で建物・建物附属設備・構築物などに振り替えるのが一般的です。取得価額に入るべき費用を販管費に計上しないよう、建設仮勘定の内訳を工事ごとに管理しておきます。

開業費については、企業会計基準委員会の実務対応報告第19号「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」で、原則として支出時に費用処理し、繰延資産に計上することもできる(その場合は開業のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって償却する)という扱いが示されています。法人税法上の任意償却とは償却の考え方が異なるため、会計と税務で別管理になることがあります。適用する時点の基準を必ず確認してください。

費用の表示区分はGAAP(一般に公正妥当と認められる会計基準)と実態で決める

税務上は、取得価額に入るのか、繰延資産になるのか、損金になるのかが論点です。一方、決算書の表示区分(販管費か営業外費用か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。竣工年度に一度だけ出る費用であっても、毎年のように新築している会社にとっては経常的な費用であることが多く、臨時的な費用として扱えるとは限りません。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。

銀行からの見え方

竣工年度の決算書は、家賃収入が数か月分しかないのに、費用は一度に出ます。

処理竣工年度の営業利益・経常利益竣工後の決算書
取得価額に入る費用を正しく資産計上下がらない減価償却費として少しずつ費用に
取得価額に入る費用まで販管費に計上大きく下がる(税務上も否認リスク)―
開業費を繰延資産に計上下がらない任意の時期に償却できるが、銀行は資産として評価しないことが多い
開業費を支出時に費用処理下がる繰延資産が残らず、すっきりする

銀行の格付けでは営業利益・経常利益が重視され、ICRの分子も営業利益です。竣工年度が赤字になると、その期の格付けが下がり、次の融資の審査に影響することがあります。とくに新設法人で最初の物件を新築する場合は、決算期をいつにするか、竣工が決算期のどこに来るかによって、最初の決算書の見え方が大きく変わります。決算期の決め方は決算期の選び方、新設法人の融資は新設法人で物件を買うときの融資で解説しています。

また、繰延資産は換金できない資産のため、銀行が実態の純資産を計算するときに差し引いて見ることが一般的です。開業費を繰延資産に計上しても、銀行の目から見た純資産が増えるわけではない点は理解しておきましょう。消費税の面では、建築費が高額になると自己建設高額特定資産の論点が出てきます(高額特定資産・自己建設高額特定資産の3年縛り)。

実務のチェックポイント

  1. 建設仮勘定の内訳を、工事代金・設計監理料・調査費・近隣対策費などに分けて管理しているか
  2. 当初から予定されていた近隣対策費を、取得価額に入れたか
  3. 竣工記念の費用など、取得後の付随費用を取得価額に入れるか方針を決めたか
  4. 不動産取得税・登録免許税・建築中の利息の処理(取得価額か損金か)を、法人の方針として決めたか
  5. 開業費として計上した費用に、取得価額や前払費用に当たるものが混ざっていないか
  6. すでに賃貸業を営んでいるのに、新規物件の費用を開業費にしていないか
  7. 長期一括の火災保険料を按分しているか
  8. 竣工年度の決算書が銀行にどう映るか、竣工前に試算したか

まとめ

  • 竣工前後の費用は「取得価額」「開業費(繰延資産)」「前払費用・期間費用」に分ける
  • 建物を建てて使えるようにするための費用は取得価額。当初から予定の近隣対策費も含まれる
  • 開業費は事業開始前の開業準備費用で、取得価額や前払費用になるものは含まれない
  • すでに賃貸業を営んでいる場合、新規物件の費用は開業費にならない
  • 竣工年度の赤字は格付けに響く。性格どおりに処理したうえで、決算期と表示を事前に検討する

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よくある質問

新築アパートの近隣対策費は、その期の経費になりますか?
建設に伴って支出する住民対策費などで、当初から支出が予定されているものは、建設後に支払ったものであっても建物の取得価額に算入するとされています(法人税基本通達7-3-7)。一方、落成や操業開始に伴う記念費用のように取得後に生じる付随費用は、取得価額に算入しないことができます。
開業費とは何ですか?不動産投資で使えますか?
開業費は、法人なら設立後事業を開始するまでの間、個人なら不動産所得などを生ずべき事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用で、繰延資産になります(法人税法施行令14条、所得税法施行令7条)。資産の取得価額とされるべき費用や前払費用は含まれないため、建物の取得のための借入金の利子などは開業費になりません。償却は法人なら任意、個人なら60か月均等か任意です。
すでに賃貸物件を持っている会社が、新しい物件を新築する場合も開業費になりますか?
通常はなりません。法人の開業費は設立後事業を開始するまでの費用と定義されているため、すでに賃貸業を営んでいる会社の新規物件のための費用は、取得価額に入れるもの、前払費用、その期の費用のいずれかで判断します。個人も、すでに事業を営んでいる人の場合は同じ考え方です。

※本記事は2026年10月18日時点の法令・制度に基づく一般的な解説です。個別の状況により結論が異なるため、実行前に専門家へご相談ください。

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