建物の取得で消費税の還付を受けたり、居住用賃貸建物として控除できなかったりした後、「来期は免税事業者に戻れると思っていたのに、課税事業者のままだった」というご相談があります。原因の多くが、高額特定資産の3年縛りです。
本則課税(一般課税)の課税期間に、税抜1,000万円以上の建物などを取得すると、その後しばらくは売上が少なくても免税事業者に戻れず、簡易課税も選べません。この記事では、3年縛りがかかる条件、期間の数え方、自己建設の場合の起点、似た制度との違いを、不動産投資の場面に沿って整理します。
- 本則課税の課税期間に税抜1,000万円以上の棚卸資産・調整対象固定資産を取得すると、3年縛りがかかる(消費税法12条の4)
- 縛られるのは「取得した課税期間の翌課税期間から、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで」
- 自己建設高額特定資産は、累計1,000万円に達した課税期間の翌課税期間から、建設が完了した課税期間の初日以後3年まで
- 同じ期間は簡易課税選択届出書を提出できない。提出していても「なかったもの」とみなされる
- 居住用賃貸建物で控除できなかった場合でも、3年縛りはかかる
3年縛りがかかる条件
高額特定資産とは
高額特定資産は、棚卸資産と調整対象固定資産のうち、一の取引の単位で課税仕入れに係る支払対価の額(税抜)が1,000万円以上のものです(消費税法施行令25条の5)。調整対象固定資産は、建物・附属設備・構築物・機械装置・車両・器具備品などの、税抜100万円以上の資産をいいます。土地はもともと非課税なので、判定には関係しません。
特例の内容
国税庁タックスアンサーNo.6502などで示されている特例を一覧にすると、次のとおりです。
| 区分 | 縛りがかかる条件 | 縛られる期間 |
|---|---|---|
| 高額特定資産の取得 | 課税事業者が、簡易課税・2割特例を適用しない課税期間に取得 | 取得した課税期間の翌課税期間から、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで |
| 自己建設高額特定資産 | 自ら建設等をした資産で、本則課税の期間に行った建設費用(税抜)の累計が1,000万円以上 | 累計1,000万円以上となった課税期間の翌課税期間から、建設等が完了した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで |
| 棚卸資産の調整措置 | 高額特定資産である棚卸資産などについて、免税から課税になった際の調整(36条)を受けた | 調整を受けた課税期間の翌課税期間から、その初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで |
| 金・白金の地金等 | 本則課税の課税期間に、地金等の仕入れの合計(税抜)が200万円以上 | 仕入れを行った課税期間の翌課税期間から、その初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで |
縛られる期間は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者になれません。また、取得した課税期間の初日から、3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日までは、簡易課税制度選択届出書を提出できず、すでに提出していても提出はなかったものとみなされます(消費税法37条3項・4項)。
期間の数え方
1年決算の法人・個人
国税庁の質疑応答事例「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」では、賃貸用マンションを2,000万円で購入し、一般課税で申告した法人について、購入した課税期間の初日から3年間は納税義務が免除されず、原則として一般課税で申告する必要があると回答しています。
12月決算の法人が2026年5月に賃貸マンションを取得した場合で数えてみます。
| 課税期間 | 扱い |
|---|---|
| 2026年12月期(取得した期) | 本則課税の課税事業者 |
| 2027年12月期 | 免税事業者になれない。簡易課税も不可 |
| 2028年12月期 | 同上(初日2026年1月1日以後3年を経過する日=2028年12月31日を含む期) |
| 2029年12月期 | 通常どおり基準期間の課税売上高などで判定 |
個人事業者は課税期間が暦年なので、同じように「取得した年を含めて3年」と考えます。
設立1期目が短い法人
注意が必要なのは、1期目が1年未満の法人です。たとえば2026年7月1日に設立した3月決算法人が、1期目(2026年7月1日〜2027年3月31日)に高額特定資産を取得したとします。
- 起点は1期目の初日の2026年7月1日
- 3年を経過する日は2029年6月30日
- その日を含む課税期間は2030年3月期(2029年4月1日〜2030年3月31日)
その結果、2028年3月期・2029年3月期・2030年3月期の3期が縛られます。1年決算の通常のケースより1期長くなる点は、設立直後に物件を取得する計画で見落としやすいところです。新設法人の消費税の全体像は法人設立前に知るべき消費税をご覧ください。
自己建設の場合は「完成した期」が起点
新築の賃貸物件を自ら建てる場合は、自己建設高額特定資産の扱いになります。建設費用の累計が1,000万円に達した課税期間の翌課税期間から縛りが始まり、完成した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで続きます。工期が長く期をまたぐ建築ほど、縛りの期間も長くなります。
似た制度との違い
3年縛りと呼ばれる制度は、高額特定資産のほかにもあります。
| 制度 | 対象 | 条件 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 高額特定資産 | 税抜1,000万円以上 | 本則課税の課税期間に取得 | 消費税法12条の4 |
| 課税事業者選択と調整対象固定資産 | 税抜100万円以上 | 課税事業者を選択してから2年以内に開始した課税期間に、本則課税で取得 | 消費税法9条7項 |
| 新設法人・特定新規設立法人 | 税抜100万円以上 | 基準期間がない課税期間に、本則課税で取得 | 消費税法12条の2第2項ほか |
国税庁の質疑応答事例「課税事業者選択の取りやめと簡易課税制度選択の制限」では、開業した年から課税事業者を選択した個人事業者が、その年に調整対象固定資産を取得し一般課税で申告した場合、取得した課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者になれず、簡易課税も適用できないと回答しています。還付を受けるために課税事業者を選択する場合は、こちらの縛りも同時に確認が必要です。
判例・裁決事例
令和6年4月25日裁決:金地金の取得と棚卸資産の調整
不動産管理・賃貸業などを目的とする合同会社が、課税事業者を選択していた最後の課税期間の末日に金地金を取得し、免税事業者となった翌課税期間の初めに売却した事例です。会社は取得代金を課税仕入れに含めて申告しましたが、原処分庁は、金地金は棚卸資産に当たり、翌課税期間に免税事業者となる場合の期末棚卸資産の調整(消費税法36条5項)により控除できないとして更正しました。
審判所は、金地金が消費税法36条5項の「棚卸資産」に該当するとして、審査請求を棄却しました(裁決の全文)。
その後の改正で、金・白金の地金等の仕入れ(合計税抜200万円以上)にも3年縛りが設けられています。課税事業者と免税事業者の切り替えを利用した還付の手法は、段階的に封じられてきた分野です。経緯は自販機スキーム・金地金スキームと改正の歴史で整理しています。
平成13年4月27日裁決(裁決事例集No.61・671頁):簡易課税の期間に取得した建物
簡易課税を適用していた課税期間に建物を取得し、その後、基準期間の課税売上高が基準を超えて本則課税となった課税期間に、その建物を譲渡した事例です。請求人は、取得時の消費税を控除していないのに売却時に課税されるのは二重課税だと主張しました。
審判所は、仕入税額控除は「費用収益対応の原則」によらず、課税仕入れを行った課税期間で行うもので、本則課税の課税期間より前に仕入れた建物の消費税をその課税期間で控除できないことは条文上明らかだとして、主張を退けました(裁決の全文)。
どの課税期間に取得し、その期間が本則か簡易かで、控除の有無も3年縛りの有無も決まります。取得の時期と課税方式の組み合わせは、物件ごとに事前に確認しておく必要があります。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務上の扱い:法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 3年縛りの仕組み | 同じ | 同じ |
| 課税期間 | 事業年度(1期目は1年未満のことが多い) | 暦年 |
| 基準期間 | 原則として前々事業年度 | 前々年 |
| 似た制度 | 新設法人の特例(資本金1,000万円以上など)にも注意 | 開業年から課税事業者を選択した場合の9条7項に注意 |
| 縛りの期間中の消費税(税込経理) | 納付税額は租税公課として損金 | 納付税額は必要経費 |
個人から法人に物件を移す場合は、個人側の売却の消費税と、法人側の取得による縛りの両方を見ます。個人から法人へ物件を移すときの税金もご覧ください。
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書への出方
3年縛りの期間中は、住宅家賃以外の課税売上(店舗家賃、駐車場、建物の売却など)があれば消費税の納付が続きます。
- 税抜経理なら、消費税は仮受・仮払で処理され、納付額は損益に直接は出ない。期末の納付予定額は未払消費税等として流動負債に計上される
- 税込経理なら、納付額は租税公課として販管費に入り、営業利益を押し下げる
同じ取引でも、経理方式によって営業利益の見え方が変わります。どの方式・区分で表示するかは、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行が見るポイント
- 縛りの期間中の納税資金が資金繰り表に入っているか。中間申告の負担も含めて見る
- 未払消費税等は流動負債を増やし、流動比率を下げる
- 還付を受けた年は現預金が一時的に増えるが、その後の納税で減る。銀行は複数年の推移で判断する
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。消費税の納付は分母に直接は出ませんが、現預金を通じて分子に効いてきます。中間申告の考え方は中間申告の仕組みも参考にしてください。
実務のチェックポイント
- 取得する課税期間は本則課税か、簡易課税か(2割特例・3割特例の適用期間か)
- 取得の日(引渡しの日)はどの課税期間に入るか
- その課税期間の初日から数えて、3年を経過する日はいつか。何期縛られるか
- 自己建設なら、累計1,000万円に達する期と完成する期はいつか
- 簡易課税選択届出書を出しているなら、なかったものとみなされる期間に当たらないか
- 居住用賃貸建物で控除できない場合も、縛りの期間の納税額を試算したか
まとめ
- 本則課税の課税期間に税抜1,000万円以上の資産を取得すると3年縛りがかかる
- 期間は、取得した課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで。1期目が短い法人は縛りが長くなることがある
- 自己建設は完成した課税期間が起点。工期が長いほど縛りも長い
- 縛りの期間は簡易課税選択届出書も無効。居住用賃貸建物で控除できなかった場合も同じ
- 経理方式で営業利益の見え方が変わる。納税資金を資金繰りと銀行説明に織り込む
3年縛りは、取得前なら時期や方式の組み合わせを検討できますが、取得後には変えられません。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得前の消費税の試算から、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
