消費税の仕入税額控除は、資産を取得した課税期間に一度に行います。建物のように長く使う資産でも、取得した期の課税売上割合で控除額が決まり、その後の使い方は原則として反映されません。
ただ、それでは取得した年だけ割合が高い(または低い)場合に、実態とかけ離れた結果になります。そこで消費税法は、調整対象固定資産について、取得後3年間の状況を見て仕入控除税額を調整する仕組みを設けています。この記事では、課税売上割合が著しく変動したときの調整と、用途を転用したときの調整を、不動産の例で整理します。
- 調整対象固定資産は、建物・附属設備・構築物などで税抜100万円以上のもの(土地は対象外)
- 取得時の課税売上割合と、3年間の通算課税売上割合を比べ、変動率50%以上かつ変動差5%以上なら第3年度の課税期間で調整(消費税法33条)
- 調整は、第3年度の課税期間の末日に保有している場合だけ。手放していれば不要
- 課税対応⇔非課税業務の転用は、3年以内なら時期に応じて全額・3分の2・3分の1を調整(34条・35条)
- 課税事業者の選択や新設法人の「3年縛り」は、この調整を確実に行うための仕組みでもある
なぜ調整が必要なのか
仕入税額控除は、資産を使い終わるまで待たずに、課税仕入れを行った課税期間で行います。国税不服審判所の平成13年4月27日裁決(裁決事例集No.61・671頁)も、消費税法30条1項は会計上の「費用収益対応の原則」によらず、課税仕入れに係る消費税額の全額をその課税期間で控除するものと解するのが相当だとしています(裁決の全文)。
この考え方を前提にすると、たとえば次のようなことが起こります。
- 取得した期は土地の売却があって課税売上割合が低く、建物の消費税をほとんど控除できなかった。翌期以降は店舗家賃が中心で割合が高い
- 取得した期は店舗家賃だけで割合が高く全額控除した。翌期以降は住宅の賃貸が増えて割合が下がった
こうしたずれを、第3年度でならすのが課税売上割合が著しく変動した場合の調整です。
調整対象固定資産とは
調整対象固定資産は、棚卸資産以外の資産で、建物とその附属設備、構築物、機械装置、船舶、航空機、車両運搬具、工具器具備品、鉱業権などのうち、一の取引単位の税抜価額が100万円以上のものです(タックスアンサーNo.6421)。不動産事業では、建物、給排水・空調などの附属設備、駐車場の舗装やフェンスなどの構築物が代表例です。資本的支出も、要件を満たせば対象になります。土地は非課税なので関係しません。
関係する3つの調整を一覧にすると、次のとおりです。
| 調整 | 条件 | 調整の内容 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 課税売上割合の著しい変動 | 比例配分法で計算(全額控除の場合を含む)、第3年度末に保有、著しい増加・減少 | 第3年度の仕入控除税額に加算または減算 | 消費税法33条、施行令53条 |
| 課税業務用→非課税業務用への転用 | 個別対応方式で課税対応として計算、3年以内に転用 | 転用した課税期間の仕入控除税額から減算 | 消費税法34条 |
| 非課税業務用→課税業務用への転用 | 個別対応方式で非課税対応として控除なし、3年以内に転用 | 転用した課税期間の仕入控除税額に加算 | 消費税法35条 |
居住用賃貸建物として控除が制限された建物を課税賃貸用に転用・売却した場合は、これとは別の調整(35条の2)があります。こちらは居住用賃貸建物の判定実務で解説しています。
課税売上割合が著しく変動した場合の調整
判定の基準
「比例配分法」とは、個別対応方式で共通対応に課税売上割合を掛ける方法と、一括比例配分方式のことです。課税売上割合が95%以上などで全額控除した場合も含まれます(消費税法33条1項かっこ書き)。
第3年度の課税期間は、取得した課税期間の開始の日から3年を経過する日の属する課税期間です。通算課税売上割合は、取得した課税期間から第3年度の課税期間までの各課税期間を通算した課税売上割合です。
著しく減少した場合も、取得時の割合から通算課税売上割合を引いた差について、同じく変動率50%以上かつ変動差5%以上で判定します(同条2項)。取得時に課税売上割合に準ずる割合の承認を受けていた場合は、その割合を基に計算します。
計算のしかた
調整する金額は、第3年度の課税期間の末日に保有している調整対象固定資産の消費税額(調整対象基準税額)を使って、次の差額で求めます。
増加ならこの金額を第3年度の仕入控除税額に加算し、減少なら減算します。減算しきれない金額は、第3年度の課税標準額に対する消費税額に加算します(33条3項)。
不動産の計算例
例1:取得した期に土地を売っていた(増加)
店舗ビルの建物を取得し、消費税額は1,000万円。取得した期は土地の売却があり課税売上割合は30%で、個別対応方式の共通対応として300万円を控除しました。3年間の通算課税売上割合は80%です。
- 変動率:(80%−30%)÷30%=約167%(50%以上)
- 変動差:80%−30%=50%(5%以上)
- 加算額:1,000万円×80%−1,000万円×30%=500万円
例2:取得した期は全額控除、その後住宅の賃貸が増えた(減少)
建物の消費税額は1,000万円。取得した期は課税売上割合98%で全額控除しました。その後、住宅の賃貸が増え、通算課税売上割合は40%になりました。
- 変動率:(98%−40%)÷98%=約59%(50%以上)
- 変動差:98%−40%=58%(5%以上)
- 減算額:1,000万円×98%−1,000万円×40%=580万円
例2のように、取得した期に全額控除していても、後から大きく戻すことになる場合があります。なお、土地を売った年の割合の低下については、課税売上割合に準ずる割合の承認を受ける方法もあります。
転用した場合の調整
個別対応方式で課税対応として全額控除した調整対象固定資産を、課税仕入れの日から3年以内に非課税業務に転用した場合は、転用した日がどの期間に入るかに応じて、次の金額を転用した課税期間の仕入控除税額から控除します(消費税法34条)。
| 転用した日 | 控除する(または加算する)金額 |
|---|---|
| 課税仕入れの日から1年以内 | 調整対象税額の全額 |
| 1年超2年以内 | 調整対象税額の3分の2 |
| 2年超3年以内 | 調整対象税額の3分の1 |
反対に、非課税対応として控除しなかった調整対象固定資産を3年以内に課税業務に転用した場合は、同じ区分で加算します(35条)。
不動産では、たとえば店舗として貸すために課税対応で控除した内装設備を、1年以内に住宅の設備として使う場合などが考えられます。転用かどうかは事実で判断されるため、用途を変えるときは契約書や工事の記録を残しておくことが大切です。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見る「3年縛り」との関係
調整は第3年度の課税期間で行います。ところが、その課税期間に免税事業者や簡易課税になっていれば、調整を行う場面がありません。そこで消費税法は、次の場合に一定期間、免税事業者に戻ることも簡易課税を選ぶことも認めていません。
- 課税事業者を選択してから2年以内に開始した課税期間に、本則課税で調整対象固定資産を取得した場合(9条7項、37条3項1号)
- 新設法人などが基準期間のない課税期間に、本則課税で調整対象固定資産を取得した場合(12条の2第2項、37条3項2号)
国税庁の質疑応答事例「課税事業者選択の取りやめと簡易課税制度選択の制限」では、開業した年から課税事業者を選択した個人事業者が、その年に調整対象固定資産を取得して一般課税で申告した場合、取得した課税期間の初日から原則として3年間は免税事業者になれず、簡易課税も適用できないと回答しています。税抜1,000万円以上の資産なら、さらに高額特定資産の3年縛りもかかります。
公表裁決事例について
国税不服審判所の公表裁決事例要旨のうち「仕入税額控除の調整」の項目には、本稿執筆時点で、33条〜35条の調整を直接扱った事例は掲載されていませんでした(同項目にあるのは、金地金について免税事業者となる場合の棚卸資産の調整(36条5項)を扱った令和6年4月25日裁決です)。条文と国税庁の解説に沿って、事実関係を一つずつ確認していくことになります。
税務上の扱い:法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 調整の仕組み | 同じ | 同じ |
| 第3年度の数え方 | 事業年度で数える。1期目が短い法人は時期に注意 | 暦年で数える |
| 調整で納付税額が減った場合(税抜経理) | 仮受・仮払の差額と納付税額の差額を益金に算入 | 差額を総収入金額などに算入 |
| 調整で納付税額が増えた場合(税抜経理) | 差額を損金に算入 | 差額を必要経費などに算入 |
| 税込経理 | 納付税額は租税公課として損金、還付税額は益金 | 納付税額は必要経費、還付税額は総収入金額 |
取得した期に控除できなかった消費税を繰延消費税額等として処理している場合の扱いについて、国税庁は居住用賃貸建物の35条の2の調整に関し、調整は取得した課税期間の仕入控除税額を修正するものではなく、取得年度の控除対象外消費税額等を遡って修正する必要はないとしています(質疑応答事例「居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について」)。33条の調整でも同じように考えられますが、具体的な処理は顧問税理士と確認してください。
会計上の表示と銀行からの見え方
決算書の表示
第3年度の調整は、1期で数百万円単位の消費税の増減になることがあります。税抜経理なら、その差額は雑収入・雑損失などとして損益に出るのが一般的です。
著書では「収益は上に、費用は下に」という考え方を紹介しています。これは、同じ収益でも売上高に計上できないか、臨時・多額の費用は特別損失に当たらないか、という表示区分の話です。ただし、消費税の調整による差額は本業の売上ではありません。税務上は損金・益金になるかが論点になる一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。詳しくは「収益は上に、費用は下に」の解説をご覧ください。
銀行が見るポイント
- 第3年度に減算が出ると、納税額が増え、現預金が減る。資金繰り表に織り込んでおく
- 調整で生じた一時的な利益や損失は、銀行は経常的な収益力から除いて評価する。内容を説明できるようにしておく
- 取得後に住宅賃貸を増やす計画があるなら、取得時の控除額だけでなく第3年度の戻しまで見込んで、物件の収支を判断する
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。消費税の調整は分子の現預金にも分母の経常利益にも影響します。
実務のチェックポイント
- 取得した資産は調整対象固定資産(税抜100万円以上)か。資本的支出も含めて一覧にしているか
- 取得した課税期間の課税売上割合と、その後の見込みを記録しているか
- 第3年度の課税期間はどの期か。その末日に資産を保有しているか
- 3年以内に課税業務⇔非課税業務の転用がないか。あれば時期を記録したか
- 課税事業者選択・新設法人の3年縛りの期間中か
- 第3年度の調整による納税額の増減を資金計画に入れたか
まとめ
- 調整対象固定資産(税抜100万円以上)は、取得後3年間の課税売上割合を見て第3年度で調整することがある
- 判定は変動率50%以上かつ変動差5%以上。全額控除した場合も対象になる
- 第3年度の課税期間の末日に保有していなければ調整は不要
- 課税業務⇔非課税業務の転用は、3年以内なら全額・3分の2・3分の1を調整する
- 調整の差額は本業の売上ではない。表示区分と銀行への説明は、専門家と検討する
消費税の調整は、取得から3年後に効いてくるため、気づいたときには対応が難しいことがあります。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得時の消費税の試算から3年間の管理、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
