最高裁判所第一小法廷は、令和5年3月6日、転売目的で購入した賃貸中の建物の消費税をめぐる2つの判決を言い渡しました。1つがムゲンエステート事件、もう1つが、当事者である不動産会社の名からエー・ディー・ワークス事件と呼ばれる事件です。
2つの事件は事案がよく似ていますが、最高裁が判断した内容は同じではありません。用途区分(課税対応か共通対応か)の基準を最高裁が正面から示したのは、エー・ディー・ワークス事件です。この記事では、裁判所ウェブサイトで公開されている判決原文と、国税庁の税務訴訟資料に収録された控訴審判決をもとに、事案、判断、ムゲンエステート事件との違いと共通点、実務への影響を整理します。
- 最高裁は、課税売上げと非課税売上げの双方に対応する課税仕入れは、事業に関する事情等を問うことなく共通対応に当たると判断した
- 転売目的のマンションでも、購入時から賃貸され、転売まで家賃を受け取っていれば、事業上の位置付けや意図にかかわらず共通対応
- 第一審は会社の全面勝訴、控訴審で逆転、最高裁で確定。過少申告加算税の「正当な理由」も否定された
- ムゲンエステート事件との違いは、最高裁の判断対象(用途区分まで判断したか)と第一審の結論。加算税の判断枠組みは共通
- 最高裁は、課税売上割合が実態に合わない場合は課税売上割合に準ずる割合で是正を図る道を示した
事件の概要
当事者と取引
判決によれば、上告人(会社)は不動産の売買等を目的とする株式会社です。平成26年4月1日から平成29年3月31日までの3つの課税期間に、転売目的で、全部または一部が住宅として賃貸されているマンション合計84棟を購入しました。会社は転売までの間、これらを棚卸資産に計上し、賃料を受け取っていました。
会社は個別対応方式で、これらの購入をすべて課税対応(課税資産の譲渡等にのみ要するもの)として、消費税額の全額を控除して申告しました。これに対し麹町税務署長は、平成30年7月30日付で、建物の転売だけでなく住宅の貸付け(非課税)にも要する仕入れだから共通対応だとして、更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。
控訴審判決には、会社の売上の規模も記載されています。平成30年3月期の建物売上高は約54億9,443万円、賃料収入のうち課税売上げに当たるものが約2億8,591万円、非課税売上げに当たるものが約5億3,091万円でした。転売が主な事業でも、非課税の家賃収入が相当の規模で発生していたことがわかります。
裁判の経緯
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成30年7月30日 | 麹町税務署長が更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分 |
| 令和2年9月3日 | 東京地裁判決:課税対応に区分するのが相当として、会社の請求を全部認容 |
| 令和3年7月29日 | 東京高裁判決(令和2年(行コ)第190号):原判決を取り消し、会社の請求をいずれも棄却 |
| 令和5年3月6日 | 最高裁第一小法廷判決(令和4年(行ヒ)第10号):会社の上告を棄却(裁判官全員一致) |
第一審で会社が全面勝訴している点は、ムゲンエステート事件と大きく異なります。転売目的の仕入れをどう区分するかについて、下級審でも判断が分かれ得る問題だったことがうかがえます。
最高裁の判断:用途区分と過少申告加算税
会社の主張
会社は、本件の仕入れは販売を主眼として行われたもので、賃貸は販売のための手段(バリューアップ)にすぎないと主張しました。また、「販売をしないのであればそもそも購入しなかった」という条件関係があれば課税対応に当たる、という考え方も主張していました。控訴審はこの解釈を、法文の文言と異なるとして退けています。
用途区分についての最高裁の論理
最高裁は、次の順で判断しました。
- 消費税法は、税負担の累積を防ぐため仕入税額控除を認めている。しかし同時に、用途区分が明らかでない場合は課税売上割合で按分し、帳簿等の保存がなければ控除を認めないなど、課税の明確性や適正な徴税といった他の目的との調和のため、税負担の累積が生じても控除されない場合があることを予定している
- 課税売上げと非課税売上げの双方に対応する課税仕入れに一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の観点から一般に合理的である
- 課税売上割合が事業の状況に照らして合理的でない場合は、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることで個別に是正を図ることが予定されている
- したがって、双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応に当たると解するのが法の趣旨に沿う。これは、「にのみ」「に共通して」という条文の文言にも沿う
そのうえで、本件の建物は購入時から全部または一部が住宅として賃貸され、会社は転売まで賃料を受け取っていたのだから、本件の仕入れは建物の転売だけでなく住宅としての賃貸にも対応するとして、会社の事業における位置付けや意図にかかわらず共通対応に当たると結論づけました。
この判断の要点は、「何のために買ったか」という主観的な目的ではなく、「その仕入れが実際にどの売上げに対応しているか」で区分する、という点です。
最高裁判所第一小法廷 令和5年3月6日判決・令和4年(行ヒ)第10号 消費税及び地方消費税更正処分等取消請求事件(民集77巻3号440頁)。裁判所ウェブサイトの判決原文(PDF)
過少申告加算税の「正当な理由」
会社は、税務当局が平成7年頃・平成9年頃の照会回答で、転売目的の住宅の購入を課税対応として扱ってよいとしていたことなどを挙げ、過少申告加算税を課されない「正当な理由」があると主張しました。
最高裁は、最高裁平成18年4月20日判決を引用して「正当な理由」の意義を確認したうえで、当局は遅くとも平成17年以降、共通対応とする見解を採っており、それは職員が執筆した公刊物、公表裁決例や下級審の裁判例を通じて一般の納税者も知り得たと指摘しました。平成7年頃の回答は前提となる事実関係が明らかでなく必ずしも当局の見解と矛盾しないとし、平成9年頃の回答も、当局が一般に目的に着目して課税対応とする扱いをしていたことを示すものではなく、公表された事情もうかがわれないとしました。そして、共通対応とする扱いは条文の文理に照らして自然だとして、「正当な理由」を否定しました。
この判断の枠組みは、同じ日のムゲンエステート事件とほぼ共通です。最高裁がいう公表裁決例の1つかどうかは判決からはわかりませんが、たとえば国税不服審判所 平成22年11月8日裁決(裁決事例集No.81)は、個人が「販売目的」で取得した店舗・事務所・住宅併用の賃貸中建物について、取得時の状況からみて共通対応に区分されると判断しています。
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不動産投資家向け税務・融資支援を見るムゲンエステート事件との違いと共通点
2つの事件は、内容が重なる部分と、はっきり違う部分があります。
| 比較項目 | エー・ディー・ワークス事件 | ムゲンエステート事件 |
|---|---|---|
| 事件番号 | 令和4年(行ヒ)第10号 | 令和3年(行ヒ)第260号 |
| 対象 | 賃貸中のマンション84棟(平成26年4月〜平成29年3月の課税期間) | 賃貸中の建物344物件(2013〜2015年の課税期間) |
| 処分庁 | 麹町税務署長 | 日本橋税務署長 |
| 第一審 | 会社の請求を全部認容(会社勝訴) | 会社の請求を棄却 |
| 控訴審 | 原判決取消し、会社の請求を棄却 | 更正処分は適法、加算税の賦課決定は取消し |
| 最高裁の判断対象 | 用途区分+加算税の正当な理由 | 加算税の正当な理由のみ(用途区分は上告せず確定) |
| 最高裁の結論 | 上告棄却(国の勝訴が確定) | 控訴審の加算税取消し部分を破棄(国の勝訴) |
| 用途区分の結論 | 共通対応 | 共通対応(第一審・控訴審で確定) |
| 加算税の正当な理由 | 否定 | 否定 |
共通点は、①転売目的でも、購入時に住宅として賃貸中で転売まで家賃を受け取る建物は共通対応になること、②当局の見解は平成17年以降、公刊物・公表裁決・裁判例で知り得たとして加算税の「正当な理由」が否定されたこと、の2つです。
違いは、最高裁が用途区分の基準そのものを判示したのがエー・ディー・ワークス事件だという点です。判例としての重みは、用途区分についてはこちらの判決にあります。ムゲンエステート事件の詳しい経緯と、同社の開示に基づく会計処理は、ムゲンエステート事件の解説をご覧ください。
課税売上割合に準ずる割合という出口
最高裁が判決の中で、課税売上割合に準ずる割合による是正に触れていることは、実務上重要です。
控訴審判決によれば、会社は訴訟を提起した後の平成31年2月27日、麹町税務署長に準ずる割合の適用承認を申請しました。算定方法は、建物売上高と課税の賃料収入の合計を、それに非課税の賃料収入を加えた額で割るもので、平成30年3月期の数値で91.58%でした。税務署長は平成31年3月28日、適用開始日を平成30年4月1日として承認しています。
つまり、共通対応になること自体は避けられなくても、事業の実態に合った割合を承認してもらえれば、控除できる額が大きく変わる可能性があります。準ずる割合は、所轄税務署長の承認が必要で、適用を受けたい課税期間の末日までに申請し、その翌日から1か月以内に承認を受ければ、その課税期間から適用できます(タックスアンサーNo.6417)。事後にさかのぼって使うことはできません。
税務上の扱い:いま同じ取引をしたら
居住用賃貸建物の制限が先にかかる
令和2年10月1日以後の課税仕入れからは、建物部分が税抜1,000万円以上の居住用賃貸建物は、販売用であっても原則として仕入税額控除ができません(消費税法30条10項)。棚卸資産として取得した建物で、所有している間住宅の貸付けに使わないことが明らかなものは対象外ですが(消費税法基本通達11-7-1)、入居者付きで買う場合は通常当たりません。
建物部分が税抜1,000万円未満の物件(区分マンション1戸など)は、居住用賃貸建物の制限を受けないため、いまでも本判決の用途区分の基準がそのまま当てはまります。居住用賃貸建物の判定は居住用賃貸建物の判定実務で解説します。
法人と個人
| 項目 | 法人 | 個人(個人事業者) |
|---|---|---|
| 用途区分の基準 | 本判決どおり共通対応 | 同じ(平成22年11月8日裁決も個人の事案) |
| 控除できなかった消費税(税抜経理・棚卸資産) | 損金経理した額を損金算入 | その年の必要経費 |
| 税込経理の場合 | 取得価額に含まれ、売却時に売上原価 | 同じ |
| 過少申告加算税 | 損金不算入 | 必要経費不算入 |
会計上の扱いと銀行からの見え方
決算書の表示
当期の取引で控除できない消費税は、税込経理なら棚卸資産の取得価額に含まれ、売れたときに売上原価になります。買取再販の粗利を毎期押し下げる、事業のコストです。
一方、過去の課税期間の追徴税額や加算税をどの区分に表示するかは、金額の重要性や内容に応じて判断します。税務上は損金になるかが論点になる一方、決算書の表示区分(売上原価か、販管費か、特別損失か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行の見方
- 粗利率:控除できない消費税を仕入れ価格の判断に織り込んでいないと、計画と実績がずれ、営業利益が想定より薄くなる
- 一過性の損失の説明:過年度分の追徴があった場合、銀行は一過性かどうか、再発防止策があるかを見る
- 資金流出:追徴税額と加算税の納付は現預金を減らし、債務償還年数を悪化させる
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。用途区分の判断を誤ると、この指標を一度に崩しかねません。銀行への説明の仕方は銀行格付けの考え方もご覧ください。
実務のチェックポイント
- 建物部分は税抜1,000万円以上か(居住用賃貸建物に当たるか)
- 1,000万円未満なら、共通対応を前提に控除額を試算しているか
- 自社の課税売上割合は実態に合っているか。土地の売却代金や家賃で割合が下がっていないか
- 課税売上割合に準ずる割合の承認を検討したか(課税期間の末日までに申請)
- 控除できない消費税を、仕入れ価格と資金計画に織り込んだか
- 当局と見解が分かれる処理をするなら、加算税まで含めたリスクを見積もったか
個別対応方式と一括比例配分方式の選び方は、個別対応方式と一括比例配分方式で整理しています。
まとめ
- エー・ディー・ワークス事件の最高裁判決(令和5年3月6日、令和4年(行ヒ)第10号)は、双方に対応する課税仕入れは事業に関する事情等を問うことなく共通対応とした
- 転売目的のマンションでも、購入時から賃貸され家賃を受け取っていれば共通対応。判断の基準は意図ではなく、実際に対応する売上げ
- 第一審の会社全面勝訴から逆転し、過少申告加算税の「正当な理由」も否定された
- ムゲンエステート事件とは、最高裁の判断対象と第一審の結論が違い、用途区分の結論と加算税の判断枠組みが共通する
- 実態に合わない場合は課税売上割合に準ずる割合の承認を、期限内に検討する
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