「1階は店舗だから、そこは控除できますよね」「まだ用途が決まっていないなら、居住用ではないのでは」。物件を取得する前のご相談で、よくいただく質問です。
令和2年10月1日以後、居住用賃貸建物の取得や建築にかかる消費税は、原則として仕入税額控除ができなくなりました。制度の概要は居住用賃貸建物の消費税で解説しています。この記事では一歩進めて、どんな建物が居住用賃貸建物に当たり、どこまでなら控除できるのかという判定の実務を、国税庁の通達と質疑応答事例をもとに整理します。
- 居住用賃貸建物は「住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外」の、税抜1,000万円以上の建物。住宅として貸せる建物は原則として該当する
- 判定は課税仕入れを行った日の状況で行う。取得した課税期間の末日までに住宅に使わないことが明らかにされれば、該当しないものとして差し支えない
- 店舗併用は、使用面積割合などで合理的に区分すれば、店舗部分の消費税は制限されない。共用部分も按分できる
- 有償の社宅・従業員寮は該当し、無償であることが取得時に明らかな社宅は該当しない
- 第3年度の課税期間の末日までに課税賃貸用に転用・売却すれば、控除できなかった税額の一部を加算できる
居住用賃貸建物の3つの要件
まず、条文が何を要件にしているかを確認します(消費税法30条10項)。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 建物であること | 附属設備を含む。土地はもともと非課税なので関係しない | 消費税法30条10項 |
| 高額特定資産などに当たること | 一の取引の単位で税抜1,000万円以上の棚卸資産・調整対象固定資産、または自ら建設等をした調整対象自己建設高額資産 | 消費税法12条の4、施行令25条の5 |
| 住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物「以外」であること | 構造・設備などから、住宅の貸付けに使わないことが客観的に明らかな建物は除かれる | 消費税法基本通達11-7-1 |
ポイントは3つ目の要件の書き方です。「住宅として貸す建物」が対象なのではなく、「住宅に使わないことが明らかな建物」以外が対象です。住宅として貸せる構造の建物は、原則として居住用賃貸建物に当たると考えておく必要があります。
「明らか」とされる例
基本通達11-7-1は、住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物の例として、次の3つを挙げています。
- 建物の全てが店舗などの事業用施設である建物など、設備等の状況から住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物
- 旅館・ホテルなど、旅館業法2条1項の旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
- 棚卸資産として取得した建物で、所有している間、住宅の貸付けに使わないことが明らかなもの
旅館業の建物の扱いは旅館業物件を取得したときの仕入税額控除、民泊は民泊物件を取得したときの仕入税額控除で詳しく整理しています。
ケース別の判定
実務でよく出てくるケースを一覧にしました。
| ケース | 判定 | 根拠・考え方 |
|---|---|---|
| 全部が店舗・事務所の構造のビル | 該当しない | 通達11-7-1(1) |
| 1階店舗・上階住宅のマンション | 住宅部分のみ制限(合理的区分が前提) | 施行令50条の2、通達11-7-3 |
| 住宅にも事務所にも使える間取りで用途未定 | 原則として該当 | 通達11-7-2(判定は課税仕入れの日の状況) |
| 使用料を取る社宅・従業員寮 | 該当 | 国税庁質疑応答事例「社宅に係る仕入税額控除」 |
| 無償で貸すことが取得時に明らかな社宅 | 該当しない | 同上 |
| 入居者付きで買う販売用の建物 | 原則として該当 | 通達11-7-1(3)の例外に当たらない |
| 建物1棟への税抜1,000万円以上の資本的支出 | 該当しうる | 通達11-7-5 |
店舗併用:合理的区分と共用部分
店舗と住宅が混在する建物は、構造・設備の状況などにより住宅に使わないことが明らかな部分とそれ以外の部分に合理的に区分していれば、住宅部分に対応する消費税だけが制限されます(施行令50条の2第1項)。「合理的に区分」とは、使用面積割合や使用面積に対する建設原価の割合など、建物の実態に応じた基準で区分することをいいます(通達11-7-3)。
エントランスや廊下のような共用部分について、国税庁は質疑応答事例「建物の一部が店舗用となっている居住用賃貸建物の取得に係る仕入税額控除の制限」で考え方を示しています。
- 店舗と住宅に共通して使う共用部分は、合理的な基準で按分し、住宅部分に区分された分だけが制限される
- 住宅部分だけが使う廊下やエントランスを、店舗と住宅の面積割合で按分するのは合理的な区分とはいえない
- 区分した結果、住宅部分の税抜価額が1,000万円未満になっても、住宅部分の制限はなくならない
同事例の数値(消費税額200万円、店舗200・住宅800、共用部分100)を面積割合で計算すると、住宅部分は800+100×800÷1,000=880で、200万円×880÷1,100=160万円が控除できない金額、残り40万円が控除の対象になります。
用途未定:判定は「課税仕入れを行った日」
判定のタイミングは、課税仕入れを行った日の状況です(通達11-7-2)。建物の購入なら、通常は引渡しを受けた日です。その日に住宅の貸付けに使わないことが明らかでなければ、居住用賃貸建物に該当します。
ただし通達は、課税仕入れを行った日の属する課税期間の末日までに住宅の貸付けに使わないことが明らかにされたときは、居住用賃貸建物に該当しないものとして差し支えない、としています。期末までに事業用テナントとの契約や用途変更の工事などで客観的な状況を整えられるかどうかが、実務上の分かれ目になります。期末を過ぎてからの用途変更は、次の「転用」の問題になります。
転用予定:第3年度までの調整
控除できなかった居住用賃貸建物でも、第3年度の課税期間の末日にその建物を持っていて、それまでの調整期間に課税賃貸用(住宅以外の貸付け)に使った場合は、控除できなかった税額に課税賃貸割合を掛けた金額を、第3年度の課税期間の仕入控除税額に加算します(消費税法35条の2)。調整期間中に売却した場合も、売却した課税期間で同様の加算があります。
国税庁の質疑応答事例「居住用賃貸建物を取得後一定期間内に民泊サービスの用に供した場合」では、アパートの1階で住宅宿泊事業を始めるケースについて、民泊サービスは住宅の貸付け以外の「施設の貸付け」に当たり、第3年度の課税期間の末日までに始めれば調整の対象になる、と回答しています。
判定の考え方に関する裁決事例
国税不服審判所の公表裁決事例要旨(消費税法関係)を確認した範囲では、本稿執筆時点で、居住用賃貸建物の制限そのものを直接扱った公表事例は見当たりませんでした。ただ、「いつの状況で判定するか」「どう区分するか」については、令和2年改正前の用途区分(個別対応方式)をめぐる公表裁決が参考になります。
平成22年12月8日裁決(裁決事例集No.81):判定は取得日の目的と内容で
医療業の請求人が取得した介護施設について、課税仕入れの用途区分が争われた事例です。審判所は、通達11-2-20の「課税仕入れを行った日の状況」とは、その課税仕入れの目的や、対応する資産の譲渡等がある場合はその内容を勘案して判断するのが相当であるとし、取得の時点の状況から、施設の取得は課税用ではなく共通用に当たると判断しました(裁決の全文)。
居住用賃貸建物の判定時期(通達11-7-2)も「課税仕入れを行った日の状況」です。取得の時点で、その建物を何に使う予定で、どんな契約や準備があったのかを、客観的な資料で説明できるようにしておく必要があります。
平成13年12月21日裁決(裁決事例集No.62・462頁):使用面積割合での区分
不動産賃貸を行う請求人が、建物の建築費の大部分を共通用と認識したうえで、建物の使用面積割合で課税用と非課税用に区分していた事例です。原処分庁は区分が明確でないとして一括比例配分方式で計算しましたが、審判所は、使用面積割合による区分は合理的な基準の一つであるとして、個別対応方式による計算を認めました(裁決の全文)。
いまの合理的区分(通達11-7-3)でも、使用面積割合は代表的な基準です。図面、契約書の内訳、帳簿の計上が互いに整合していることが前提になります。
なお、転売目的でも住宅として賃貸中の建物の取得は共通対応になるとした最高裁の考え方は、ムゲンエステート事件の解説で整理しています。
代表の相亰と髙橋が、自らの不動産投資と資金調達支援の経験から構築した独自の財務設計の手法「クレフティメソッド」で、決算書・法人化・次の融資まで設計します。初回のご相談は無料です。
不動産投資家向け税務・融資支援を見る税務上の扱い:控除できなかった消費税の処理(法人と個人)
居住用賃貸建物に当たって控除できなかった消費税は、法人税・所得税ではどう扱うのでしょうか。国税庁は質疑応答事例「居住用賃貸建物に係る控除対象外消費税額等について」で、税抜経理の場合、控除できない仮払消費税等は資産に係る控除対象外消費税額等に当たるとしています。
| 項目 | 法人 | 個人 |
|---|---|---|
| 税込経理 | 消費税込みの金額が建物の取得価額になり、減価償却で費用化 | 同じ |
| 税抜経理(原則) | 取得価額に算入するか、繰延消費税額等として60か月で損金算入(取得年度は2分の1)。損金経理が要件 | 取得価額に算入するか、繰延消費税額等として60か月で必要経費に算入(取得年は2分の1) |
| 一括で処理できる場合 | 課税売上割合80%以上、または一の資産に係る額が20万円未満なら、損金経理した額を損金算入 | 同じ条件で全額をその年の必要経費 |
| 第3年度に35条の2の調整で加算されたとき | 税抜経理では、仮受・仮払の差額と納付税額の差額を第3年度の益金に算入。取得年度の処理は遡って直さない | 調整があった年の処理になる。個別に確認が必要 |
| 課税期間 | 事業年度。第3年度は決算期で数える | 暦年。第3年度は年で数える |
控除対象外消費税額等の処理は国税庁タックスアンサーNo.6921にまとまっています。課税売上割合が低い賃貸業では「80%以上」の要件を満たさないことが多く、繰延消費税額等として資産計上するケースが中心になります。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上の処理と、決算書のどこにどう表示するかは別の問題です。
- 控除できない消費税を建物の取得価額に含めるか、繰延消費税額等として別に資産計上するかで、貸借対照表の科目と毎期の費用の出方が変わる
- 繰延消費税額等は、決算書では投資その他の資産(長期前払費用など)に表示されることが多い
- 35条の2の調整で戻ってきた税額は、本業の売上ではない。一般には雑収入などとして扱われる
税務上は損金算入が認められるかが論点になります。一方、決算書の表示区分(売上高か営業外収益か、販管費か特別損失か、資産計上か費用処理か)は、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があり、どの区分にできるかは取引の実態次第です。考え方は税務上の損金と企業会計の違いで解説しています。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
控除できない消費税は、そのまま物件の取得コストです。建物価格が税抜1億円なら1,000万円で、自己資金か借入れで負担することになります。
- 取得価額に含めると減価償却費が増え、営業利益・経常利益は下がる。ただし償却前利益(経常利益+減価償却費)への影響はない
- 繰延消費税額等で処理すると、60か月にわたって費用が出る。こちらも利益を押し下げる
- 店舗部分を合理的に区分して控除できれば、その分だけ自己資金と借入れが少なくて済み、債務償還年数の悪化を抑えられる
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。消費税の扱いは購入後に変えられないため、融資の資金計画を組む段階で、控除できる部分とできない部分を分けて試算しておくことが大切です。銀行の評価の考え方は銀行格付けの考え方もご覧ください。
実務のチェックポイント
- 建物(附属設備を含む)の税抜価額は1,000万円以上か。土地との按分は合理的か
- 引渡し日の時点で、住宅に使わないことが明らかといえる構造・設備・契約がそろっているか
- 店舗併用なら、図面・契約書の内訳・帳簿で用途ごとの区分が整合しているか。共用部分の按分基準を決めているか
- 用途未定なら、取得した課税期間の末日までに用途を確定させる段取りがあるか
- 転用・売却の予定があるなら、第3年度の課税期間の末日がいつかを把握しているか
- 取得した課税期間が本則課税なら、高額特定資産の3年縛りがかかることを織り込んだか
まとめ
- 居住用賃貸建物は「住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外」の税抜1,000万円以上の建物。住宅として貸せる建物は原則として該当する
- 判定は課税仕入れを行った日の状況。取得した課税期間の末日までに住宅に使わないことが明らかにされれば、該当しないものとして差し支えない
- 店舗併用は合理的区分で店舗部分の控除を確保できる。共用部分の按分と、図面・契約書・帳簿の整合がカギ
- 転用・売却は第3年度の課税期間の末日までなら35条の2の調整がある
- 控除できない消費税は物件のコスト。法人・個人の処理、決算書の表示、銀行の見え方まで含めて取得前に試算する
居住用賃貸建物の判定は、取得してからでは打てる手がほとんどありません。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得前の消費税の判定から、融資を見据えた決算書づくりまでご相談をお受けしています。
