「転売するために買った建物なのだから、その消費税は全部控除できるはずだ」。買取再販を行う不動産会社では、長くこの考え方で申告が行われてきました。この前提が裁判で争われたのが、ムゲンエステート事件です。
最高裁判所は令和5年3月6日、同じ日に2つの判決を言い渡しました。1つがこのムゲンエステート事件、もう1つがエー・ディー・ワークス事件です。この記事では、裁判所ウェブサイトで公開されている判決原文と、同社が公表した開示資料をもとに、事案の流れ、争点、判断、実務への影響を、不動産投資家の方にもわかるように整理します。
- 転売目的でも、買ったときに住宅として賃貸中の建物は、売却(課税)と家賃(非課税)の両方に対応するため、共通対応に区分された(第一審・控訴審で確定)
- 最高裁が判断したのは過少申告加算税の「正当な理由」。当局の見解は一般の納税者も知り得たとして、これを否定した
- 古い部内資料や非公表の照会回答があっても、それだけでは「正当な理由」にならない
- 令和2年10月以後は、建物部分が税抜1,000万円以上なら居住用賃貸建物として原則控除できない。ルールは当時よりさらに厳しくなっている
- 税務の結論と、決算書の表示(特別損失など)、銀行の見え方は分けて考える
事件の概要:何が問題になったのか
消費税の「用途区分」の基本
課税売上高が5億円を超えるか、課税売上割合が95%未満の事業者は、仕入れの消費税を全額は控除できません。個別対応方式では、仕入れを次の3つに分けて計算します(消費税法30条2項1号)。
| 区分 | 意味 | 控除できる額 |
|---|---|---|
| 課税対応 | 課税売上(建物の売却など)にのみ要する仕入れ | 全額 |
| 非課税対応 | 非課税売上(住宅家賃など)にのみ要する仕入れ | 控除できない |
| 共通対応 | 両方に共通して要する仕入れ | 課税売上割合を掛けた額 |
買取再販の会社は課税売上が大きくても、住宅家賃のほかに土地の売却代金(非課税)が売上に入るため、課税売上割合が95%を下回ることがよくあります。共通対応になれば、控除できる額は大きく減ります。
事案の流れ
判決によれば、ムゲンエステート(判決上は被上告人)は、不動産の買取再販売などを行う株式会社です。2013年から2015年の各課税期間に、転売目的で、全部または一部が住宅として賃貸されている建物合計344物件を購入しました。そして個別対応方式で、これらの購入をすべて課税対応として、消費税額の全額を控除して申告しました。
これに対し日本橋税務署長は、住宅の貸付けにも要する仕入れなので共通対応に区分すべきだとして、更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行いました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2016年9月頃 | 税務調査が始まり、共通対応ではないかと指摘を受ける(同社開示) |
| 2017年1月31日 | 2016年12月期に過年度消費税を特別損失として見積り計上する旨を開示 |
| 2017年7月31日 | 更正処分・過少申告加算税の賦課決定処分 |
| 2017年12月27日 | 東京地方裁判所に取消訴訟を提起 |
| 2019年10月11日 | 東京地裁判決:会社の請求をいずれも棄却 |
| 2021年4月21日 | 東京高裁判決(令和元年(行コ)第281号):更正処分は適法、加算税の賦課決定は取消し |
| 2021年5月6日 | 同社、敗訴部分について上告しないことを決定(同社開示) |
| 2023年3月6日 | 最高裁第一小法廷判決:国の上告を受けて控訴審の加算税取消し部分を破棄、会社の控訴を棄却 |
同社の開示によれば、追加納付が必要とされた税額は約6億3,900万円で、すでに納付済みです。控訴審で取り消された過少申告加算税は合計約8,300万円で、最高裁判決により、これも同社の負担として確定しました。
争点①:課税対応か、共通対応か
会社の主張と当局の主張
会社側は「販売用建物の仕入れは、建物を売るためだけに必要なものだ」と主張しました。最終目的が売却である以上、課税対応だという考え方です。
当局側は「転売までの間、住宅として貸して非課税の家賃を得ている。売却だけでなく住宅の貸付けにも要する仕入れだから共通対応だ」と主張しました。
原審の判断
最高裁判決の記載によれば、原審(東京高裁)は、本件各建物は転売まで住宅として賃貸されることが見込まれていたから、本件各課税仕入れは共通対応に区分されるべきであり、更正処分は適法だと判断しました。第一審も同じ結論です。会社はこの部分を上告しなかったため、用途区分の結論はここで確定しています。
最高裁は同じ日の別事件で解釈を示した
用途区分そのものについての最高裁の解釈は、同じ日のエー・ディー・ワークス事件判決で示されました。課税資産の譲渡等と非課税の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、事業に関する事情等を問うことなく共通対応に当たる、という判断です。2つの判決を合わせて読むと、「転売目的」という意図だけで課税対応にすることはできない、という結論になります。
争点②:過少申告加算税の「正当な理由」
最高裁で争われたのは、この点です。
控訴審はなぜ加算税を取り消したのか
判決の記載によると、税務当局の過去の資料には、会社の主張に沿うようにも読めるものがありました。
- 平成元年に作成された部内資料などに、最終的に課税売上のコストに入る仕入れは課税対応だとする趣旨の記載がある
- 平成7年頃・平成9年頃に、関係機関からの照会に対し、転売目的の住宅購入を課税対応として扱ってよい旨の回答をしている
一方で、平成17年以降は、当局職員が執筆した公刊物に「転売までに家賃が発生するなら共通対応」という見解が示され、国税不服審判所の裁決例や下級審の裁判例でもこの見解が採用されていました。
控訴審は、当局が見解を変えたのに納税者へ周知する措置を講じていないとして、国税通則法65条4項の「正当な理由」があると判断しました。
最高裁の判断
最高裁は、まず「正当な理由」の意味について、最高裁平成18年4月20日判決を引用し、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお賦課することが不当または酷になる場合をいう、としました。
そのうえで、次の点を挙げて「正当な理由」を否定しました。
- 当局は遅くとも平成17年以降、共通対応とする見解を採っており、それは公刊物、公表裁決例、下級審裁判例を通じて一般の納税者も知り得た
- それ以前の部内資料などは、本件と同様の仕入れに直接言及するものではなく、必ずしも上記の見解と矛盾しない
- 平成9年頃の照会回答は、それをもって当局が一般にそう扱っていたとはいえず、公表された事情もうかがわれない
- 共通対応とする扱いは消費税法30条2項1号の文理に照らして自然であり、目的に着目して課税対応とした裁判例も当時なかった
その結果、当局が積極的に周知していなくても、事業者は共通対応とされる可能性を認識してしかるべきだったとして、控訴審判決のうち国が敗訴した部分を破棄し、加算税の取消請求を棄却した第一審判決を正当としました(裁判官全員一致)。
最高裁判所第一小法廷 令和5年3月6日判決・令和3年(行ヒ)第260号 消費税更正処分等取消請求事件(集民第270号25頁)。裁判所ウェブサイトの判決原文(PDF)
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令和2年10月以後は「居住用賃貸建物」の制限が先にかかる
この事件の対象は2013〜2015年の取引です。その後、令和2年10月1日以後に行う課税仕入れから、居住用賃貸建物の仕入税額控除の制限が始まりました(消費税法30条10項。令和2年3月31日までに締結した契約には経過措置あり)。
住宅の貸付けに使わないことが明らかな建物以外で、税抜1,000万円以上の高額特定資産に当たる建物は、販売用(棚卸資産)であっても原則として控除できません。ただし、棚卸資産として取得した建物で、所有している間、住宅の貸付けに使わないことが明らかなものは対象外です(消費税法基本通達11-7-1)。入居者付きで買う以上、通常はこの例外には当たりません。
一方、控除できなかった居住用賃貸建物を第3年度の課税期間の末日までに売却した場合は、控除できなかった税額の一部を売却した課税期間に加算する調整があります(消費税法35条の2)。買取再販は、この調整と組み合わせて資金計画を立てることになります。詳しくは居住用賃貸建物の判定実務で解説します。
建物部分が1,000万円未満の物件(区分マンション1戸など)は居住用賃貸建物の制限を受けないため、いまでもこの事件と同じ用途区分の問題になります。
法人と個人の違い
| 項目 | 法人 | 個人(個人事業者) |
|---|---|---|
| 用途区分の考え方 | 同じ(共通対応) | 同じ(共通対応) |
| 課税期間 | 事業年度 | 暦年(1〜12月) |
| 控除できなかった消費税(税抜経理) | 棚卸資産に係るものは損金経理した額を損金算入 | 棚卸資産に係るものは全額をその年の必要経費 |
| 税込経理の場合 | 取得価額に含まれ、売却時に売上原価になる | 取得価額に含まれ、売却時に売上原価になる |
| 過少申告加算税 | 損金に算入されない | 必要経費に算入されない |
控除できなかった消費税(控除対象外消費税額等)の処理は、国税庁タックスアンサーNo.6921に整理されています。個人が不動産を反復して売買している場合は、事業所得か雑所得か、譲渡所得かの区分も別途問題になります。
会計上の扱いと決算書の表示
税務上の結論と、決算書のどの区分に表示するかは別の問題です。
同社は開示資料で、2016年12月期に過年度消費税として7億9,100万円を特別損失に見積り計上したと公表しています(その後、確定額との差額は特別利益に計上する予定と開示)。過去の期間の税額が一度に発生した、臨時的で金額の大きい損失として、そう判断したものと考えられます。
ただし、追徴税額や加算税をどの区分に表示するかは、金額の重要性や内容に応じて、企業会計の基準(GAAP:一般に公正妥当と認められる会計基準)に沿って判断する必要があります。「追徴されたものは何でも特別損失」とはなりません。また、当期以降の取引で控除できない消費税は、税込経理なら棚卸資産の取得価額に入り、売れたときに売上原価として売上総利益を押し下げます。こちらは毎期の事業のコストです。
税務上は損金になるかが論点になる一方、決算書の表示区分は取引の実態次第です。顧問税理士・会計の専門家と検討してください。
銀行からの見え方
買取再販や賃貸事業で銀行が重視するのは、営業利益・経常利益、償却前利益、債務償還年数です。
- 控除できない消費税が原価に入ると、粗利率が下がり営業利益が薄くなる。仕入れ価格の判断に消費税コストを入れておかないと、計画と実績がずれる
- 過年度分の追徴は、表示区分によって営業利益・経常利益への影響が変わる。銀行は一過性の損失かどうかを説明できるかを見る
- 追徴税額と加算税の資金流出は現預金を減らし、債務償還年数を悪化させる
著書のモデルでは、債務償還年数を「(借入金−現預金)÷(経常利益+減価償却費−法人税等)」で計算し、10年以内を健全の目安としています。税務リスクを抱えた申告は、こうした指標を一度に崩す要因になります。決算書を銀行にどう説明するかは、銀行格付けの考え方もあわせてご覧ください。
実務への示唆とチェックポイント
この判決から読み取れることは、次のとおりです。
- 用途区分は「目的」だけでなく、買ったときにどの売上に対応するかで判断される
- 税務当局と見解が違う申告をするときは、加算税までかかる前提でリスクを見積もる。古い資料や非公表の回答は「正当な理由」の根拠になりにくい
- 争う場合も、予備的な手当てを考える。同社は訴訟と並行して課税売上割合に準ずる割合の承認を申請し、2016年の申請は却下されたものの、2018年に別の算定方法で承認を受けたと開示しています
- 建物部分は税抜1,000万円以上か(居住用賃貸建物に当たるか)
- 1,000万円未満なら、用途区分は共通対応を前提に試算しているか
- 課税売上割合はどの程度か。土地の売却代金が割合を下げていないか
- 課税売上割合に準ずる割合の承認を検討する余地はあるか(承認は課税期間の末日までの申請が必要)
- 控除できない消費税を、仕入れ価格と資金繰りに織り込んだか
- 第3年度までに売却したときの調整(35条の2)を見込んでいるか
個別対応方式と一括比例配分方式の選び方は、個別対応方式と一括比例配分方式で整理しています。居住用賃貸建物の基本は居住用賃貸建物の消費税もご覧ください。
まとめ
- ムゲンエステート事件では、転売目的で買った賃貸中の建物344物件の消費税について、共通対応とする更正処分が適法とされた(第一審・控訴審で確定)
- 最高裁(令和5年3月6日)は、過少申告加算税の「正当な理由」を否定し、加算税の取消しを認めた控訴審判決を破棄した
- 当局の見解が公刊物・公表裁決・裁判例で知り得たこと、条文の文理に照らして自然であることが重視された
- 現在は、建物部分が税抜1,000万円以上なら居住用賃貸建物として原則控除できず、売却時の調整を含めた計画が必要
- 税務の結論と、決算書の表示区分、銀行への説明は分けて検討する
消費税の判断は、物件を買う前でなければ打てる手がほとんどありません。クレフティでは不動産投資家向けサポートの中で、取得時の消費税の試算から、銀行に説明しやすい決算書づくりまでご相談をお受けしています。
